7 / 21
Episode of Dinex
魔法訓練:応用編
しおりを挟む
二日目。昨日と同じ原っぱに来ていた。盛り上がった土に黒板を差し込んで、チョークを持ち、カレンはメガネをかちゃりとかけている。やはりメガネがよく似合う。
「さて、今日は応用編ってことで良いのかな?」
「そうね」
そう言ってチョークを黒板にカツッ!と突き立てたが、何も書かなかった。やっぱりやめよう。そういう感じが窺えた。
「サツキなら今さら絵を描いてイメージさせる必要はないかもしれないわね。では応用編を始めましょうか」
なら黒板いらねぇじゃねーか。二日目は俺の無駄な労力から始まった。
「サツキにやってもらうのは、これよ」
手に持つチョークを、俺の前に突きつけた。このチョークが何だというのだろうか?そう考えていると、スナップを効かせてチョークを揺らし始めた。そして最後に激しく揺れると、
「え、」
チョークが二つに増えていた。はぁ、と俺は呆れてため息を漏らしてしまった。
「まさかそれをしろってんじゃないだろうな?魔法の応用編だって?ただの手品じゃないか、動体視力があればそんなのすぐに見抜けるぜ、超スピードの誤魔化しに過ぎん」
「ふふ、その反応を見るためにしたのよ」
どういうことだろうか?ただの手品ではなさそうだ。
カレンは同じくチョークを俺の目の前に見せる。今度は手のひらに乗せて。すると、次は手首のスナップはなかった。そう、何もなかったのに。
「ジャーン、これなーんだ?」
「ううぉぉぉ!!何だそれ!?」
チョークが二つに増えた。手のひらにあったチョークの隣に、またチョークが増えたのだ。
「これが魔法応用編、物質創造よ!張り切っていきましょうか!」
──────────
物質創造。それは想像する、イメージする物質を創造する技術である。とても単純な話だった。単純な魔法だった。
だがそれには、細かな内部に至るまで詳細にイメージする必要があるとのこと。それがとても難しい。手のひらにはいまだに一本のチョークしか置いていなかった。いくら力もうが叫ぼうが、その本数が増えることはない。
「いや出るだろ!めっちゃイメージしてるし!」
「そうなのよねぇ、最初はマジでそんな感じなのよ、うんうん。でもそれは飽くまで『自分がちゃんとイメージ出来ている』と思い込んでいるだけなの。それを無意識的に意識することが第一歩よ」
なんか小難しいことを鼻高々に語るカレンだった。鼻高カレンさんだった。灰ぶっかけたら花が咲いてくれるだろうか。
だが、彼女も最初は苦労したに違いない。天才などいないのだ。努力の上澄みを見るとついその当人を特別視してしまう。それは良くないことだ。努力から目を背けてしまうから。
イメージする、イメージ出来ていると思い込んでいることを、無意識的に意識する。
アドバイスを反芻し、噛み砕く。すると、ある一つのことに気がついた。
細部、構成要素をイメージ、つまるところ設計が頭に入っていれば、作れるということか。
俺はイメージの邪魔になるため、あえてチョークを左手に持ち換えた。そして空っぽの右手のひらに意識を集中させる。
「いいの?本物があった方がイメージしやすいけど」
「いや、いい」
カレンのアドバイスをはねのけて、俺は考える。
チョークを構成する物質は、石灰がほとんどだったはず。貝殻を砕いて原料にしているとも言われる。かつてそれを聞いて、興味本意で作ったことがあった。固めるための粘着物質をどのような割合で合成するのかというのに無心に苦労した覚えがある。
内部は単純なのだ。原理は至って単純。ならばその工程を小難しく考えず、その構成要素を組み立てるイメージ。「原子」から考えるイメージで。
周囲のクリエイトエナジーが手に集まる感覚、それらがイメージ通り変換される感覚が、手のひらに感じられた。すると、何かが手のひらに乗っかっているのが分かった。
「えぇ!?出来ちゃった!私なんて半年かかったのに!!」
鼻高カレンさんの鼻がベキベキへし折れた瞬間だった。俺はそのチョークをペン回しの要領で回しながら説明する。
「だいたい分かった。物質創造の本質は、創造する物質を細部までイメージすること。つまり『物質の構成要素を理解する』ことが前提となる訳だ」
となると、たとえ机上の空論なモノだとしても、構成要素を頭でイメージ出来ていれば生成可能だということになる。これは確かに使えるぞ。
『物質の構成要素を理解する』という要点は、俺の異世界人生においてとても有益に作用することを、今の俺はまだ知らなかった。
「さて、今日は応用編ってことで良いのかな?」
「そうね」
そう言ってチョークを黒板にカツッ!と突き立てたが、何も書かなかった。やっぱりやめよう。そういう感じが窺えた。
「サツキなら今さら絵を描いてイメージさせる必要はないかもしれないわね。では応用編を始めましょうか」
なら黒板いらねぇじゃねーか。二日目は俺の無駄な労力から始まった。
「サツキにやってもらうのは、これよ」
手に持つチョークを、俺の前に突きつけた。このチョークが何だというのだろうか?そう考えていると、スナップを効かせてチョークを揺らし始めた。そして最後に激しく揺れると、
「え、」
チョークが二つに増えていた。はぁ、と俺は呆れてため息を漏らしてしまった。
「まさかそれをしろってんじゃないだろうな?魔法の応用編だって?ただの手品じゃないか、動体視力があればそんなのすぐに見抜けるぜ、超スピードの誤魔化しに過ぎん」
「ふふ、その反応を見るためにしたのよ」
どういうことだろうか?ただの手品ではなさそうだ。
カレンは同じくチョークを俺の目の前に見せる。今度は手のひらに乗せて。すると、次は手首のスナップはなかった。そう、何もなかったのに。
「ジャーン、これなーんだ?」
「ううぉぉぉ!!何だそれ!?」
チョークが二つに増えた。手のひらにあったチョークの隣に、またチョークが増えたのだ。
「これが魔法応用編、物質創造よ!張り切っていきましょうか!」
──────────
物質創造。それは想像する、イメージする物質を創造する技術である。とても単純な話だった。単純な魔法だった。
だがそれには、細かな内部に至るまで詳細にイメージする必要があるとのこと。それがとても難しい。手のひらにはいまだに一本のチョークしか置いていなかった。いくら力もうが叫ぼうが、その本数が増えることはない。
「いや出るだろ!めっちゃイメージしてるし!」
「そうなのよねぇ、最初はマジでそんな感じなのよ、うんうん。でもそれは飽くまで『自分がちゃんとイメージ出来ている』と思い込んでいるだけなの。それを無意識的に意識することが第一歩よ」
なんか小難しいことを鼻高々に語るカレンだった。鼻高カレンさんだった。灰ぶっかけたら花が咲いてくれるだろうか。
だが、彼女も最初は苦労したに違いない。天才などいないのだ。努力の上澄みを見るとついその当人を特別視してしまう。それは良くないことだ。努力から目を背けてしまうから。
イメージする、イメージ出来ていると思い込んでいることを、無意識的に意識する。
アドバイスを反芻し、噛み砕く。すると、ある一つのことに気がついた。
細部、構成要素をイメージ、つまるところ設計が頭に入っていれば、作れるということか。
俺はイメージの邪魔になるため、あえてチョークを左手に持ち換えた。そして空っぽの右手のひらに意識を集中させる。
「いいの?本物があった方がイメージしやすいけど」
「いや、いい」
カレンのアドバイスをはねのけて、俺は考える。
チョークを構成する物質は、石灰がほとんどだったはず。貝殻を砕いて原料にしているとも言われる。かつてそれを聞いて、興味本意で作ったことがあった。固めるための粘着物質をどのような割合で合成するのかというのに無心に苦労した覚えがある。
内部は単純なのだ。原理は至って単純。ならばその工程を小難しく考えず、その構成要素を組み立てるイメージ。「原子」から考えるイメージで。
周囲のクリエイトエナジーが手に集まる感覚、それらがイメージ通り変換される感覚が、手のひらに感じられた。すると、何かが手のひらに乗っかっているのが分かった。
「えぇ!?出来ちゃった!私なんて半年かかったのに!!」
鼻高カレンさんの鼻がベキベキへし折れた瞬間だった。俺はそのチョークをペン回しの要領で回しながら説明する。
「だいたい分かった。物質創造の本質は、創造する物質を細部までイメージすること。つまり『物質の構成要素を理解する』ことが前提となる訳だ」
となると、たとえ机上の空論なモノだとしても、構成要素を頭でイメージ出来ていれば生成可能だということになる。これは確かに使えるぞ。
『物質の構成要素を理解する』という要点は、俺の異世界人生においてとても有益に作用することを、今の俺はまだ知らなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる