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Episode of Dinex
魔法訓練:実践編
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三日目。いつもの原っぱである。ひゅるるる~と、風が気持ちよかった。ザワザワ、と雑草が噂をしているようだった。その静けさは、嵐が来る前触れのようにも思えた。
「ぶっちゃけ転移者でも、魔法訓練の応用編に行くまでには最短でも一週間はかかるものよ。それでも馬鹿みたいに早いのよ?元々想像することが得意だったこともあるからね」
どうやら誉められているようだった。だが雑草を踏みしめる力が強いのは気のせいだろうか?
「いやね、私は嬉しいのよ。貴方なら記憶を消されることなく、仮にその時が訪れようとも、抵抗する力を得られるかもって」
そうだ。カレンは自分の転移者の友達の記憶を奪われている。そしてその繋がりを絶たれた経験を持っている。その友達に力があれば、あるいは、その友達の記憶が奪われる直前、側にいてやれたら防ぐことができたはずなのに。そんなもどかしい気持ちをずっと抱いていたのだ。
その緊張感からか、俺は唾を飲み込んだ。
「だからこんなに早く実践編に行けることが嬉しい」
カレンは笑っていた、だがただの笑顔ではない。高揚感が溢れるといった表情だった。
「魔法訓練:実践編は私と戦うこと。実際に敵と出会ったら戦闘は避けられないわ。覚悟は良いわね?」
戦う、か。異世界で良くある展開だが、カレンは確かに「訓練」と言った。ならば死ぬまでとかはないだろう。なら、
「決着はどうするんだ?」
戦闘。俺の人生では考えたことがない言葉だ。運動部に所属したことはない、むしろ帰宅部である俺の17年は、とても平穏だった。日本も戦争なんてしておらず、平和そのものだった。それは先人達が勝ち取った平和であることは分かっている。しかし、ラノベやゲームを嗜んでいると、どうしても、戦闘という緊張を感じたくなった。いたずらに憧れた。
どうやらカレンの高揚感が伝染しているらしい。どう戦闘するのか、気になって仕方がなかった。
「これよ」
カレンが出したのは、紙風船だった。
あ、これ読めたぞ。よくテレビで見たことあるやつだ。一気に高揚感が抜けていく。
「自分の体にこれを5個取り付けて、全部割られた方が負け。それまではどんな魔法もありよ。OK?」
「分かりやすいな、いいぜ」
何だよ、普通に平和的なんじゃないか。魔法をドンパチやりあって戦闘不能とか、そういう展開が来るのかとも思ったが、流石にそこまでは無いらしい。だがそれでも魔法が何でもありとなると、気を緩めるわけにはいかない。
「そして、これに負けたら勝った人の言うことを何でも聞かないといけません」
何かとんでもないルールぶっこんできやがった。
「え、ちょ、嫌だよそんなの」
生まれてこのかた、罰ゲームというのが嫌いだった。罰ゲームにルールを設けたとして、負けるのは当然嫌だし、勝ったとしても罰ゲームを与えたという罪悪感が嫌いなのだ。要するにそのルールに乗っかるだけで俺に何のメリットもない。
学校で他のやつらがそれしてるのを見るのも嫌。あれは悪魔の所業だ。
「飽くまでも緊張感を出すためのスパイスよ、本質はルールを意識した上での過程だから」
それは分かる。分かるのだが、うーん。
「あ、言っておくけど、私が勝ったらあんたは一生私の奴隷だから」
「スパイス辛すぎるだろ!」
笑顔で香辛料の箱をひっくり返すカレンだった。
本気なのだ。本気でやること。本気で過程に取り組むこと。それこそが一番重要なのだ。意識すべきは過程。そう言い聞かせて俺は叫ぶ。
「やったろーじゃねーかぁ!」
────────────────────
風船は両肩に二つ、両膝に二つ。そして頭上に一つ付ける。そしてその風船を一番早く割った者が、敗者に何でも命令することができるのだ。
空は少し雲がかかってきている。太陽がチラチラと出たり入ったりと忙しい。
「良いわね、次に太陽があの雲から出たとき、勝負開始よ」
返事はしなかった。心臓が一定のリズムで、ドクン、ドクンと震える。緊張しているとき、心臓のリズムは一定になると言われている。まさにそれだった。
再び光が大地を照らす。
「開始!」
カレンは以前夜の森で使っていた、シューティングスターを繰り出す。無数のいしつぶてが、俺の風船に的確に向かってくる!
このままだと、賭けに負けて、一生奴隷...!!緊張感、ではなく、負けたときの恐怖から、嫌な予感が発動する。
──ゾワッ!
俺は己の嫌な予感に従って、最低限の動作で体を捻らせる。辛うじてかわすことができる。たまに自分の体に当たることはあるけれど(超痛い)、それを回復するためにヒールを使えば、この緊張感が緩んで一気に風船を持っていかれる!
「避けてばかりじゃ勝てないわよ!」
「分かってるよ!」
その場でかわしても攻撃できない。俺はその場を離れ、カレンを中心に回りながら走る。
────ゾワッ!
突如、脈絡もなく嫌な予感が過る。全く想定外の攻撃に打ちのめされるイメージが頭に浮かんできた...ならば!
ただ走るだけではない。走りながら手の中で岩の筒を生成。そして中に、「さっきの嫌な予感対策の細工をした」石を装填する。
「これでも食らえ!」
風魔法で筒の中の黒い石をカレンにを放った!だがカレンが避けるまでもなく、足下に落ちた。
「動きながら当てられるわけないでしょ!」
続いてカレンは杖から炎を俺に差し向けてくる!視界にある灼熱の炎がみるみるうちに広がってくる!
目に見える炎よりも、その炎が熱した周囲の高温な空気がジリジリと肌を撫でる!なんて熱さだ!俺はこれ以上近寄られないよう、苦し紛れのロックショットを放つ。
避けるなんてもんじゃない!嫌な予感で予め後ずさったのだが、左肩の風船に火花が燃え移り割れてしまった。
「ふふ、まずは一個──」
パン!
晴れやかな大地に、激しい破裂音が響く。それは俺の風船ではなく、カレンの風船だった。
俺は放ったもう一つの石も細工がしてあった。それは強力な磁力を持つ磁石。そして最初に「わざと外して」撃っていた磁石と引かれ合い、カレンの右膝の風船を挟むように貫いた!
「なっ!」
「ふぅ、上手くいった」
作戦が決まって安心する。だがまだ落ち着け、後4つ割らないと一生奴隷だぞ、俺!
「流石ね、でもこれならどう!」
カレンは尖った杖を地面に突き刺す。すると地面が淡く光だした。
──ゾワッ!
足下からくる!嫌な予感がしたので、急いでその場を飛び退いた。
すると地面から針が生えてきた!体を貫かんとするいくつもの針、その針地帯は場所を広げ、俺の足場を奪っていく。これは、大地属性魔法か!?こんなこともできるのか。
俺はそれから逃げるしかなかったのだが、気づけば逃げ場を失った。しまった、囲まれた!
「かかったわね!はぁぁぁぁ!」
俺を針の密林に閉じ込めたカレンは、杖に力を込める。最初から針で囲うつもりだったようだ。すると針の先端がバチバチと電気を帯びて、針の先端同士が、空中で電気を行き交わせる。そのスピードが速すぎて、嫌な予感がしても追い付かない!
パン!パン!
二つの風船を失った。残すところ、あと頭と左膝の風船だけ。
「やられてたまるか!」
創造せよ、このばに対応できる策...ゴムのマント!
絶縁体のゴムならば電気を通さない。ピンク色のゴムマントを纏うことで、電流を受け流しながら、細長い針の山を蹴り壊して脱出した。
「はぁ、はぁ、ヤバイな、これは」
手札が多すぎる。カレンの魔法はどこまで多彩なのだ。イメージのストックが違いすぎる。考えろ、どうしたらあの多彩な攻撃を縫って風船を割れるのか。
...そういえば、カレンは最初に出会った時、あの暗い夜の森のなかで、何故攻撃を受けてしまったのだったか...。
「さて、どうする?」
引っこ抜いた杖を突きつけて、余裕の笑みを浮かべている。
そう、余裕なやつほど、「油断」が生まれるのだ。
「これならどうだ!」
俺は魔法を繰り出した。それも真っ暗闇にするための、煙幕を。一気に周囲の視界が黒一色となった。
「煙幕!?」
咳をしながらカレンは急な目眩ましにぎょっとするも、すぐに立ち直る。
「こんなの...吹き飛ばしたらお仕舞いでしょ!!」
右手に持った杖から風を巻き起こし、カレンは体を回してその風を外側に散らす!巻き上げられた煙幕は風に流されていく。
そしてその煙幕の影から、煙幕ではない黒い影が。カレンは杖を突き立てて光らせる!
だがそれは、俺が先ほど創造していた、ピンクのゴムのマントだった。
「甘い!」
カレンはそれを読み、真逆の方角にぐるっと回り、先ほどかざした杖を向け、鎖を放った。
しかしそこにあったのは、またしてもマント。今度は黒いマントだった。真っ黒の煙幕に目立たぬよう、黒いマントを仕込んでおいた。
「隙アリだ!」
カレンは、ゴムのマントと黒のマント、二つのダミーで意識が逸れているはず。杖は鎖を出していてすぐにはこっちに攻撃を回せないはず。
あのとき、真っ暗な森のなかでカレンは、燃えた木材に注意を引かれてしまったため、背後の敵に気づけなかった。
しかし、それをカレンが学ばない訳がない。注意を露骨に引くことで、逆方向に俺がくるであろうと、注意を引くことができた。
俺は魔法訓練の応用編で作成した、岩の筒から放つロックショットを複数構える。残り全ての風船に向けて、ここで全てを割ってやる!
狙いを定めるために、カレンを注視する。が、カレンは不敵な笑みを浮かべ、左手に持った銀色の杖を向けていた。
「まさか、二本目を使わせるなんてね」
左手は何も持っていなかったじゃないか、隠し持っていたとして、取り出す時間なんて無かった。......いや、そうか。
「こいつ!」
作ったんだ。物質創造で杖をもう一つ!鉄ならば構成要素も単純だから作りやすい。
鉄の杖が光る!
「これで終わりよ!」
嫌な予感通りだ。
カーーーーーン!
「────────え、」
突如、カレンの鉄の杖が跳ねた。空中でくるくると回転するその杖には黒い石が、黒い磁石がくっついていたのだ。
「ふっ、『油断を突いて攻撃するとき、それは一番の油断を招く。だからこそ、俺はカレンの二本目を予想することができなかった』そんな不幸を、俺が読めないわけがないだろう」
複数の岩筒の向きは、全てカレンの風船に向けられている。
「マルチロックショット!」
風魔法を放つことで、複数の筒に風が送られる。
パパパパン!
装填された石礫は、同時にカレンの4つの風船を貫いた。
「ぶっちゃけ転移者でも、魔法訓練の応用編に行くまでには最短でも一週間はかかるものよ。それでも馬鹿みたいに早いのよ?元々想像することが得意だったこともあるからね」
どうやら誉められているようだった。だが雑草を踏みしめる力が強いのは気のせいだろうか?
「いやね、私は嬉しいのよ。貴方なら記憶を消されることなく、仮にその時が訪れようとも、抵抗する力を得られるかもって」
そうだ。カレンは自分の転移者の友達の記憶を奪われている。そしてその繋がりを絶たれた経験を持っている。その友達に力があれば、あるいは、その友達の記憶が奪われる直前、側にいてやれたら防ぐことができたはずなのに。そんなもどかしい気持ちをずっと抱いていたのだ。
その緊張感からか、俺は唾を飲み込んだ。
「だからこんなに早く実践編に行けることが嬉しい」
カレンは笑っていた、だがただの笑顔ではない。高揚感が溢れるといった表情だった。
「魔法訓練:実践編は私と戦うこと。実際に敵と出会ったら戦闘は避けられないわ。覚悟は良いわね?」
戦う、か。異世界で良くある展開だが、カレンは確かに「訓練」と言った。ならば死ぬまでとかはないだろう。なら、
「決着はどうするんだ?」
戦闘。俺の人生では考えたことがない言葉だ。運動部に所属したことはない、むしろ帰宅部である俺の17年は、とても平穏だった。日本も戦争なんてしておらず、平和そのものだった。それは先人達が勝ち取った平和であることは分かっている。しかし、ラノベやゲームを嗜んでいると、どうしても、戦闘という緊張を感じたくなった。いたずらに憧れた。
どうやらカレンの高揚感が伝染しているらしい。どう戦闘するのか、気になって仕方がなかった。
「これよ」
カレンが出したのは、紙風船だった。
あ、これ読めたぞ。よくテレビで見たことあるやつだ。一気に高揚感が抜けていく。
「自分の体にこれを5個取り付けて、全部割られた方が負け。それまではどんな魔法もありよ。OK?」
「分かりやすいな、いいぜ」
何だよ、普通に平和的なんじゃないか。魔法をドンパチやりあって戦闘不能とか、そういう展開が来るのかとも思ったが、流石にそこまでは無いらしい。だがそれでも魔法が何でもありとなると、気を緩めるわけにはいかない。
「そして、これに負けたら勝った人の言うことを何でも聞かないといけません」
何かとんでもないルールぶっこんできやがった。
「え、ちょ、嫌だよそんなの」
生まれてこのかた、罰ゲームというのが嫌いだった。罰ゲームにルールを設けたとして、負けるのは当然嫌だし、勝ったとしても罰ゲームを与えたという罪悪感が嫌いなのだ。要するにそのルールに乗っかるだけで俺に何のメリットもない。
学校で他のやつらがそれしてるのを見るのも嫌。あれは悪魔の所業だ。
「飽くまでも緊張感を出すためのスパイスよ、本質はルールを意識した上での過程だから」
それは分かる。分かるのだが、うーん。
「あ、言っておくけど、私が勝ったらあんたは一生私の奴隷だから」
「スパイス辛すぎるだろ!」
笑顔で香辛料の箱をひっくり返すカレンだった。
本気なのだ。本気でやること。本気で過程に取り組むこと。それこそが一番重要なのだ。意識すべきは過程。そう言い聞かせて俺は叫ぶ。
「やったろーじゃねーかぁ!」
────────────────────
風船は両肩に二つ、両膝に二つ。そして頭上に一つ付ける。そしてその風船を一番早く割った者が、敗者に何でも命令することができるのだ。
空は少し雲がかかってきている。太陽がチラチラと出たり入ったりと忙しい。
「良いわね、次に太陽があの雲から出たとき、勝負開始よ」
返事はしなかった。心臓が一定のリズムで、ドクン、ドクンと震える。緊張しているとき、心臓のリズムは一定になると言われている。まさにそれだった。
再び光が大地を照らす。
「開始!」
カレンは以前夜の森で使っていた、シューティングスターを繰り出す。無数のいしつぶてが、俺の風船に的確に向かってくる!
このままだと、賭けに負けて、一生奴隷...!!緊張感、ではなく、負けたときの恐怖から、嫌な予感が発動する。
──ゾワッ!
俺は己の嫌な予感に従って、最低限の動作で体を捻らせる。辛うじてかわすことができる。たまに自分の体に当たることはあるけれど(超痛い)、それを回復するためにヒールを使えば、この緊張感が緩んで一気に風船を持っていかれる!
「避けてばかりじゃ勝てないわよ!」
「分かってるよ!」
その場でかわしても攻撃できない。俺はその場を離れ、カレンを中心に回りながら走る。
────ゾワッ!
突如、脈絡もなく嫌な予感が過る。全く想定外の攻撃に打ちのめされるイメージが頭に浮かんできた...ならば!
ただ走るだけではない。走りながら手の中で岩の筒を生成。そして中に、「さっきの嫌な予感対策の細工をした」石を装填する。
「これでも食らえ!」
風魔法で筒の中の黒い石をカレンにを放った!だがカレンが避けるまでもなく、足下に落ちた。
「動きながら当てられるわけないでしょ!」
続いてカレンは杖から炎を俺に差し向けてくる!視界にある灼熱の炎がみるみるうちに広がってくる!
目に見える炎よりも、その炎が熱した周囲の高温な空気がジリジリと肌を撫でる!なんて熱さだ!俺はこれ以上近寄られないよう、苦し紛れのロックショットを放つ。
避けるなんてもんじゃない!嫌な予感で予め後ずさったのだが、左肩の風船に火花が燃え移り割れてしまった。
「ふふ、まずは一個──」
パン!
晴れやかな大地に、激しい破裂音が響く。それは俺の風船ではなく、カレンの風船だった。
俺は放ったもう一つの石も細工がしてあった。それは強力な磁力を持つ磁石。そして最初に「わざと外して」撃っていた磁石と引かれ合い、カレンの右膝の風船を挟むように貫いた!
「なっ!」
「ふぅ、上手くいった」
作戦が決まって安心する。だがまだ落ち着け、後4つ割らないと一生奴隷だぞ、俺!
「流石ね、でもこれならどう!」
カレンは尖った杖を地面に突き刺す。すると地面が淡く光だした。
──ゾワッ!
足下からくる!嫌な予感がしたので、急いでその場を飛び退いた。
すると地面から針が生えてきた!体を貫かんとするいくつもの針、その針地帯は場所を広げ、俺の足場を奪っていく。これは、大地属性魔法か!?こんなこともできるのか。
俺はそれから逃げるしかなかったのだが、気づけば逃げ場を失った。しまった、囲まれた!
「かかったわね!はぁぁぁぁ!」
俺を針の密林に閉じ込めたカレンは、杖に力を込める。最初から針で囲うつもりだったようだ。すると針の先端がバチバチと電気を帯びて、針の先端同士が、空中で電気を行き交わせる。そのスピードが速すぎて、嫌な予感がしても追い付かない!
パン!パン!
二つの風船を失った。残すところ、あと頭と左膝の風船だけ。
「やられてたまるか!」
創造せよ、このばに対応できる策...ゴムのマント!
絶縁体のゴムならば電気を通さない。ピンク色のゴムマントを纏うことで、電流を受け流しながら、細長い針の山を蹴り壊して脱出した。
「はぁ、はぁ、ヤバイな、これは」
手札が多すぎる。カレンの魔法はどこまで多彩なのだ。イメージのストックが違いすぎる。考えろ、どうしたらあの多彩な攻撃を縫って風船を割れるのか。
...そういえば、カレンは最初に出会った時、あの暗い夜の森のなかで、何故攻撃を受けてしまったのだったか...。
「さて、どうする?」
引っこ抜いた杖を突きつけて、余裕の笑みを浮かべている。
そう、余裕なやつほど、「油断」が生まれるのだ。
「これならどうだ!」
俺は魔法を繰り出した。それも真っ暗闇にするための、煙幕を。一気に周囲の視界が黒一色となった。
「煙幕!?」
咳をしながらカレンは急な目眩ましにぎょっとするも、すぐに立ち直る。
「こんなの...吹き飛ばしたらお仕舞いでしょ!!」
右手に持った杖から風を巻き起こし、カレンは体を回してその風を外側に散らす!巻き上げられた煙幕は風に流されていく。
そしてその煙幕の影から、煙幕ではない黒い影が。カレンは杖を突き立てて光らせる!
だがそれは、俺が先ほど創造していた、ピンクのゴムのマントだった。
「甘い!」
カレンはそれを読み、真逆の方角にぐるっと回り、先ほどかざした杖を向け、鎖を放った。
しかしそこにあったのは、またしてもマント。今度は黒いマントだった。真っ黒の煙幕に目立たぬよう、黒いマントを仕込んでおいた。
「隙アリだ!」
カレンは、ゴムのマントと黒のマント、二つのダミーで意識が逸れているはず。杖は鎖を出していてすぐにはこっちに攻撃を回せないはず。
あのとき、真っ暗な森のなかでカレンは、燃えた木材に注意を引かれてしまったため、背後の敵に気づけなかった。
しかし、それをカレンが学ばない訳がない。注意を露骨に引くことで、逆方向に俺がくるであろうと、注意を引くことができた。
俺は魔法訓練の応用編で作成した、岩の筒から放つロックショットを複数構える。残り全ての風船に向けて、ここで全てを割ってやる!
狙いを定めるために、カレンを注視する。が、カレンは不敵な笑みを浮かべ、左手に持った銀色の杖を向けていた。
「まさか、二本目を使わせるなんてね」
左手は何も持っていなかったじゃないか、隠し持っていたとして、取り出す時間なんて無かった。......いや、そうか。
「こいつ!」
作ったんだ。物質創造で杖をもう一つ!鉄ならば構成要素も単純だから作りやすい。
鉄の杖が光る!
「これで終わりよ!」
嫌な予感通りだ。
カーーーーーン!
「────────え、」
突如、カレンの鉄の杖が跳ねた。空中でくるくると回転するその杖には黒い石が、黒い磁石がくっついていたのだ。
「ふっ、『油断を突いて攻撃するとき、それは一番の油断を招く。だからこそ、俺はカレンの二本目を予想することができなかった』そんな不幸を、俺が読めないわけがないだろう」
複数の岩筒の向きは、全てカレンの風船に向けられている。
「マルチロックショット!」
風魔法を放つことで、複数の筒に風が送られる。
パパパパン!
装填された石礫は、同時にカレンの4つの風船を貫いた。
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