異世界の歪曲者たち

こへへい

文字の大きさ
12 / 21
Episode of Dinex

夜道は一人じゃ危ないぜ?

しおりを挟む
サツキ、カレン。彼らはきっと悪い人間ではない。

彼らは私と一緒にいても、いじわるをしない。それにオムライスというとても美味しいご飯を出してくれた。熱かったけれど、カレンがふうふうしてくれた。だから良い人。

だけど、皆良い人をというわけではない。

例えば私を紐でぐるぐる巻きに、檻に閉じ込めた男。あいつは悪い人。見た感じ悪いやつだ。でも不覚にも美味しいなお肉があったから、つい食べてしまった。油断大敵だ。

だけど、カレン達はそんなことしてなかった。

魔法を教えてくれた。まだ全然できなくて、サツキにも手伝ってもらったけれどダメだった。

だけど、私にいじわるしなかった。だから、良い人。

それに、私の友達にもいじわるしなかった。だから、あの二人は、良い人だ。



──でも、あの男は

──でも、あのやつらは、私の家族を、住みかを壊そうとしている。

──私利私欲のために、私の友達の森を奪おうとしている。

──なんで、おじいさんはそれを許してしまったの?お仕事があいつらに邪魔されてできないから?

──なんで、私たちは皆と平和に暮らしたかっただけなのに。森で、皆と暮らしたかっただけなのに。

──壊されるくらいなら、壊し返さないと。

──やらなきゃ、やられるんだ。

──────────

「ダメ!」

布団から起き上がると、隣ではカレンがグースカグースカと寝息を立てていた。幸せそうによだれを垂らしている。そっと袖で拭ってあげた。

辺りはそんな嫌な気持ちを感じさせない。カレンの部屋。鏡とかメイク道具とか、女の子らしいようなものがいっぱいある。昔おじいさんが買ってくれたことがあったっけ。使い方分からなかったから全く使わなかったっけ。

あれ?昔?昔って何だろう?

嫌な気持ちだ。なんで、こんな気持ちになるんだろうか。
何故、こんな気持ちが奥底に眠っているのだろうか?

分からない。私に一体何があったんだろうか?

私の奪われた記憶って、何なんだろうか?

ペタペタ。

ペチペチ。

窓を叩く音が聞こえてくる。何だろうか?

星柄のカーテンに手をかけると、暗くてシルエットしか見えないけれど、そのシルエットには見覚えがあった。雨のなかでよく見る、大きさ的に指の関節ほどの、カエルだった。

ペチペチ。体を窓に打ち付けては重力で落ちる。それを繰り返している。

中に入りたいのだろうか?

私は窓の鍵を開けて、開いた。

だがしまった、窓はスライドする形式ではなく、回って開く感じの窓だった。そのため窓に押されて落ちてしまった。

ここは2階だけど、小さなカエルからしたら高さはとても高い。様子を見ないと、怪我をしていたら大変だ。

私はカレンが起きぬように、そおっと外に出た。

宿の出入口から出ると、出入口に整備された煉瓦の上で、そのカエルはまるで私を待っていたようにいた。よく見るとベチャッと地面に落ちた後が見える。だがゲコ、と鳴いて背を向ける。そしてピョンピョンと離れだした。どうやら元気そうだ。よかった。しばらくピョンピョン飛ぶと、こちらに振り向く。

ついてこいと、言っているのだろうか?

生き物の声が聞こえるとは言っても、ここまで小動物の声までは聞こえない。だから察することしかできない。察するに、彼は私を呼んでいるようだ。

ピョンピョン。彼はどんどんと歩みを進めていく。私はそれについていくことにした。彼は何かを私に伝えようとしている。ならばその真意とは何なのか。

背後で何か物音が聞こえた気がしたが、多分誰かが寝ぼけているのかもしれない。放っておこう。

ピョンピョンピョン。カエルはどんどん跳んでいく。
月明かりだけが頼りなこの静かな町並みを、彼と共に歩んでいく。

しばらく走り終えると、そこはすこし広めな裏山のような場所にたどり着いた。

レンガではない、雑草が生い茂る地面に、カエルがいた。そのカエルはピョンピョンピョン!とホップステップジャンプして、私の胸元に飛び込んだ。

「あれ、」

それはカエルではなかった。
カエルの形をした、泥の人形だった。

「やぁお嬢さん、夜道は一人では危ないぜ?いや、一人と一匹だったかな?ゲロり」

カエルのコスプレをした忍者が、そこにいた。
すらりとしたスタイルは、まるで若い枝のようにしなやかで、直立不動な見た目は本当に若木だと勘違いするようだった。

頭にはカエルの目玉のような、熊の耳のようなものが付けられている。

覚えがある。そうだ、私は、

こいつに誘拐されたのだ。

「まさか記憶を奪うタイミングで、オオカミやら鹿やらのワクワク動物園が襲ってくるとはなぁ、君の人徳、いや獣徳が救ってくれたというところなのだろうぜ、だがやっと見つけたよ」

カエルの忍者が不適な笑みを浮かべ、指を二本立てると、呪文のような言葉を、

「飼育員ちゃん!そのカエルを投げて!」

背後から聞こえる叫び声の意味を、私が理解する前に、唱えた。

「魔術忍法、ゲロドロック」

手元のカエルがググググッ!と大きく膨らみ、

「助けt──」

私は飲み込まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

処理中です...