異世界の歪曲者たち

こへへい

文字の大きさ
13 / 21
Episode of Dinex

ディネクスの秘密

しおりを挟む
「何だよ山田サツキか、つけてきたのか」

 目の前の若木のような細い男は、妖艶に笑い俺を見た。人が住む場所が全くないこの裏山は、人が一人や二人消えたとしても、誰にも気取られないだろう。奴はそういう場所に飼育員ちゃんを誘い込んだのだ。そして泥団子に閉じ込めた。

 木々の闇を背にして、カエルの被り物を頭に被る忍者のような男は、手の印を解きコロコロと、いやゲロゲロと笑った。

「ゲロゲロ!カエルで転移者が二人も釣れるとはな、願ってもねぇ」

 奥歯を力強く噛んでいた。こいつが、そうなのか?

「お前......お前がが転移者記憶喪失事件の犯人か?」

「当たらずとも遠からず。だな」

 カエル忍者は、どや顔で俺の問いに答えた。

「お前やカレンに俺のことも気取られてるとあっちゃ、早急に口を封じなくてはなぁ」

 やれやれと呆れるカエル忍者。忍者だからカレンのことも当然知っているということか。ってか俺の名前も知ってたもんな。ということは、俺の一挙手一投足を観察されていたということか。

「悪いことは言わねぇ、お前も大人しく捕まっておきな、そうすれば記憶ごと呪いを取り除けるからよぉ」

 呪い?記憶ごと?また何か異世界特有の新言語が出てきているのか?Google先生!翻訳おなしゃす!

 そんな便利な検索エンジンはこの世界にあるわけもないので、大人しく聞き返してみることにした。

「呪いって、何のことだよ」

「転移者はな、放っておくと死んでしまうのさ、己の魔力によってな。それが転移者の呪い、お前らの行き着く運命なんだ」

 指をピンとたてて、カエル忍者は得意気に答えた。その顔は人を人とも見ないような惨酷な表情。ではなかった。何か大切な使命を背負っているような雰囲気が感じられる。

 だが、死ぬとか運命とか、何を言ってるんだ?意味が分からない。俺は奴をキッと睨んだ。

「おいカエル忍者、脈絡が無さすぎるだろ、そんな嘘に騙されると思っているのか?」

「それがそうでもないんだぜ?イメージの力が常人よりも優れている転移者だからこそ、自らを傷つけるイメージが具現化しやすいのさ、詳細に自分が傷つくイメージを、な」

 自分が傷つく、イメージ?
 何だよそれ、まるで転移者が自分から進んで自分を傷つけているような言いぐさじゃないか。



 ──自分を、傷つける。

 人生が上手くいかなくて、誰も認めてくれなくて、誰も見てくれなくて、それでも誰かに認められたい。

 そんな自分が嫌で嫌で仕方がなくて、自己承認ができなくて、

 自らを傷つける。

 自傷行為。

 気づけば身体中から嫌な汗がにじみ出ている。呼吸も荒い。肩が激しく上下して、今にも食べたオムライスを戻したくなる。

 見かねたカエル忍者が、俺の返答を待たずして言葉を紡ぐ。

「言わずもがなかな?ゲロり。だが仕方がないのさ。この世界に転移してくる奴等は必ず前の世界で傷を負って来る。その傷があるからこそ、恨みが、怒りが、妬みがあるからこそ、その反骨精神がイメージを強くしてくれるのだから」

 だけど、とカエル忍者は続ける。夜よりも暗い、悲しい表情を浮かべて。

「そんな反骨精神を持てないやつもいるのさ。恨みを晴らしたいけれど、そんなことをしても時間の無駄だと諦める。だから胸の内に恨みのイメージが溜まりに溜まって、自分を傷つけちまうのさ」

 カエル忍者の声音には、少なからず慈悲の気持ちが窺えた。今にも涙を流しそうな、そんな表情。


「カゲロー、話しすぎだよ?さっさと捕らえて記憶を取り除かなければならないんだから」


 カエル忍者(カゲローというのか)は、慌てて振り向き、背後へと会釈する。

「お言葉ですが、彼には知る権利があるかと」

「だろうね、彼にも知る権利はあるだろう。だけど、信じることはできないよ。今までもそうだった」

 カゲローの顔は見えないが、遠目からだが、拳が強く握られているようにも見えた。

 木々の闇から、姿を表す。その男は肩賞をはめて赤いマントを羽織り、中には青い服を纏っている。

 赤いマントがヒラヒラと揺れる。片手には大きな本を携えており、カゲローの態度からして、この男が親玉であるということがわかった。それに大きな本、飼育員ちゃんが話してくれた記憶の中の犯人とも合致する。カゲローの『当たらずとも遠からず』とはこういうことだったのか。

 誘拐担当はカゲロー、そして記憶を取り除く担当が、

「初めまして山田サツキ君。余の名前はオウグ、ディネクス五代目の王にして、転移者を呪いから救う使命を継承する者だ」

 オウグは荘厳な顔に、ほんの少しの笑みを含ませていた。その出で立ちは、王様という肩書きを食うほどの器が見てとれた。

 一国の王。その男はそんな立場である筈なのに、国民の記憶を奪っているのだ。

「余は君達のような呪われた転移者達を救うために、記憶を奪っているんだ」

 ゆっくりと、しかし確実に歩みを進めていく。

 ザク。
 ザク。
 ザク。

 芝生が、豪華に装飾された靴に踏みしめられる。そして、オウグは気づけば俺の目の前に立っていた。いつの間にか、飼育員ちゃんを閉じ込めた巨大泥団子を通りすぎていた。

「信じろ、とは言わないよ。でも君たち転移者の死の運命を見過ごすことはできないんでね、大人しく受け入れてくれたまえ」

 動け、

 左手で本を開き、右手を俺の額に伸ばす。

 動け、

「さて、さっさと終わらせてしまおう。彼女の記憶を奪う時には邪魔者が入ってしまったからね」

「んんんぬぁぁ!!」

 指が、額に触れようとしたとき、やっとのことで体をのけ反らせることができた。

「はぁ、はぁ、」

 視線を決して反らさない。こいつに何をされたら記憶を奪われるのか分からないからだ。だから、警戒すべきなのだ。緊張すべきなのだ。

 仕方がない。と言わんばかりの残念な表情を露にし、オウグはこちらを見据えた。

「大丈夫だ、心配いらない。記憶を失っても生活できるシステムは出来ている。だから嫌なことは忘れて、幸せに生きてくれていいんだ」

 記憶を失っても、生活できるシステム。それはきっとこの国そのもののことを言っているのだろう。何故オムライスがそのまま異世界に存在するのか。何故黒板とチョークという文明があるのか。何故ギルドに酒場があるのか。

 何故転移者の記憶を奪われるのに、そういった文明が根付いているのか。

 それはこの王様が記憶を奪い、その記憶から文明を盗んでいることに他ならない。

 その上で疑問が残る。何故記憶を失わなくてはならないのか。何故記憶を失わないと、死ぬ呪いなんてのがあるのか。

 俺はその答えにたどり着くと、ムカついて怒号のように吐き捨てた。

「お前はそういう嘘をついて、文明を独り占めにしようとしてるんだろ!小ズルいな王様ぁ!」

 王は、それでも立ち退かなかった。残念そうな表情を浮かべ、やっぱりダメなのかという解りきった落胆の色がした。

「余はただ皆が幸せになって、健やかに生きてほしい。それだけなんだ。国は発展し、転移者達は死なずに済む。それに我が国の制度によって生活は保証される。これは君のためなんだ」

 王は至って真剣な眼差しだった。嘘偽りがない。そう確信できるほどの覚悟が窺える。だけど、信じられない。記憶を失わないと、死ぬなんて。あり得ない。

 信じてはいけない。何がなんでも。

「ふざけるな!お前が一方的に主導権握ってんじゃねぇかよ!そんな支配、俺は絶対に認めない!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます―― 金さえあれば人生はどうにでもなる―― そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。 交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。 しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。 だがその力は、本来存在してはいけないものだった。 知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。 その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在―― 「世界を束ねる管理者」 神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。 巻き込まれたくない。 戦いたくもない。 知里が望むのはただ一つ。 金を稼いで楽して生きること。 しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。 守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。 金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる 巻き込まれ系異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

処理中です...