魔女はいまわの際に夢をみる

砂田透

文字の大きさ
16 / 29

第15話 可愛さは殺人級

しおりを挟む
「ニンジンとサラダと……チーズハンバーグ定食をお願いします」

 残りのモンスターを解体・変換した後、役場に報告に行った。未達成だと不安にさせてしまうかと思い、倒したことと魔石を持ち帰れなかったことだけを伝えたのだが、ギルド長お墨付きの身分は信用度が高く、報酬の八割を支払ってくれた。
 一度宿に帰りご夫婦に報告したところ、美味しいお店がまだ開いてるよ、とここを教えてくれた。
 夕飯は手持ちの保存食でいいかと思っていたので、温かいご飯に間に合うなら嬉しい。

「美味しそう……いただきます!」
「ぴ!」

 運ばれてきたのはボリュームたっぷりの定食。
 アツアツのハンバーグの上でとろけているたっぷりのチーズが、視覚・嗅覚を盛大に刺激する。付属のサラダはみずみずしいし、ポタージュは野菜がたっぷり溶け込んでいて濃厚だ。
 おかみさんの和風ハンバーグも最高だけど、洋食店のこってり料理は討伐後に食べると格別に美味しい。
 先輩もニンジンとサラダを美味しそうに食べている。一応モンスターということで何でも食べられるらしいけど、好きなのはやっぱり野菜で一番はニンジンらしい。
 
 ガタン
 残すところ数口というところで、突然目の前に人が座った。
 閉店が近い店内はガラガラで、他の席が選び放題な中での相席。マントのフードを深くかぶっていて顔は見えづらいが、若い男であることは分かった。

「こ、こんばんは」

 空いている時に相席してはいけないルールはないし、一人のご飯が寂しいのかもしれない。とりあえず挨拶をしてみるが……

「……」

 無視である。
 食べ終えて机の上でうとうとしていた先輩も、僕の肩へと移動した。
 メニュー表を見る様子でも注文する様子でもなく、黙って座っている。不気味に思いつつも、残り少ない料理を口に掻き込んでいく。

「ごちそうさまでした」

 両手を合わせて食事の終了を宣言するが、どうにも立ち上がりにくい。目の前の男はずっとこちらを見ているのだ。
 フードから覗く緑色の瞳はどことなく濁って見えた。

「あの……何か?」
「……」

 用事があるのかと聞いてみるが、無反応である。

「じゃぁ、僕はこれで……」
「待て」

 席を立とうとした時、ようやく男は口を開いた。かなり低い声で少し聞き取りづらい。

「お前は本当にノームなのか?」
 やっと口を開いたと思ったら、不躾な質問である。口調と声のトーンからは敵意を感じる。

「ノームの亜種です」

 身分証を男の前に差し出した。男は手に取るでもなく、身分証と僕の顔を交互に睨みつける。

「何を持って亜種と言っている? どう見ても違うだろう」
「違うから亜種なんですよ。僕は他のノームと共に精霊の間(ま)で目覚めましたが、色以外の見た目や能力は別のものでした。生まれるために必要だった精霊の力が不十分だったことが原因でしょう。そんな僕でも、ギルド長はノームと認めてくれています。だからこうして身分証も発行してくださっているんです」

 これは最初に決めた設定。偉大なる精霊・ノームの長が認めたことに異論だてる人間はほとんどいないが、それでも疑り深い……魔王とその仲間を心から憎んでいる人間はいる。
 精霊以外の象徴ナシはモンスターか魔族か異世界人だ。

「……」

 納得できていないのか、黙り込んだままピリピリした空気が流れる。これまで、誰にも疑われたことが無いので調子に乗っていた。自分は討伐対象なのだと、改めて肝に銘じなければ。

「その」

 どうしたものかと冷や汗をかいていたら、男が先輩を指さして言った。

「その兎は本当にブラックプーカなのか」
「本当ですよ。先輩」

 先輩に対する視線は僕に対するそれとは違い、敵意ではなく興味であった。
 危険はないと判断し、先輩に男の前へと出てもらう。嫌がらないので先輩も大丈夫だと思ったのだろう。
 モンスターを前にすれば種族や名前を確認することができる。男は空中を見て驚いた後、先輩を食い入るように見つめた。

「こんなに小さいんだな……記録では山ほどの大きさだと……」

 いろんな角度から見つめながらぶつぶつ言っている。サイズが自在なのは知っているが、まさか山サイズにもなれるのだろうか……。
 巨大化した先輩に乗れば移動も早いのでは……と思ったところで首を振った。サイズと共に質量も増すのだ。山ほどとはいかなくても、大きくなればスピードも落ちるし足元は壊滅してしまう。

「ぴっぴっ」

 見られすぎて恥ずかしかったのか、もじもじしながら小さな手で顔を隠した。

「うっ……!!」

 男は胸元を抑えて机に突っ伏す。分かる、分かるよ。先輩の可愛さは殺人級だよね。

「あの、もう良いですか? お会計をして帰りたいので……」

 奥で店員さんが時計を気にしているのが見える。気が付けば閉店五分前だ。

「……」

 ガタン
 男は無言で立ち上がり、最後に僕を一睨みして去っていった。結局注文もしないし、一体何だったんだろうか。
 もやもやを抱えつつ、急いでお会計をして店を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...