盛り塩一丁! ~風紀委員長×霊感もち高校生~

猫村やなぎ

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第一章

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 放送を無視し屋上で本を読む。本は好きだ。見えない者の視点が分かる。幽霊が見える者の話なんてごく少数で。だからこそ俺にとって大抵の『他愛もない話』は新鮮なものに他ならなかった。

「意外だな。お前が本を読むなんて」
「は? いつも読んでるだろ」
「……そうか? 俺はお前がちゃんと喋ろうと思えばできるということさえ今知ったんだが」

 その言葉に声の主がマーサでないとようやく気づく。慌てて振り返るとそこにはセンパイがいた。マーサはといえば意地の悪い顔でこちらをニヤニヤと見ている。あんのクソ幽霊。わざと黙っていやがった。

「センパイ、どうしたんです? こんなところで。今授業中ですよねぇ」
「それはお前も同じだと思うんだがなぁ」
「俺はほら、時の流れに縛られない男だから」
「アホか。落単しろ」
「残念。俺、頭いいんです」

 ひらりと躱しながら先ほど吐いた自分の言葉を反芻する。何か。何かまずいことは言わなかっただろうか。

「ところで魚沼。お前、誰だと思って返事してたんだ」
「ゆーれい、とかですかね~」

 揶揄うような素振りを意識していつものように答える。どうせ信じやしない。本当のことを言ってやれ。センパイはふーんと嘆息し、やはりなと呟いた。

「お前、見えてるんだろう」
「……は?」
「そうだな、あれとか」

 先輩は宙を指さしながらこちらにニヤリと笑う。え、いや。えっと。

「センパイ、そっちじゃないです。あっちです」
「え、マジか。いる気がしたんだけど」
「いや~そっちには全然いないっすね。ばーか」
「おかしいな……っていうか悪口混ぜてくんな! 傷つくから!」

 わたわたとした後、センパイはこちらをハッと見つめ、「認めたな!」と叫ぶ。そうですよ、今更ですか。

「俺の言動なんてそうと気づけば明らかに見えてる者のそれですからね。気づいちゃった人に隠しても……って」
「……なるほど。気が付いたのなら消すまでと。そういうことだな」
「いや違います」

 なんだこの人。馬鹿なのか。実は馬鹿なのか。しかも心なしか少し残念そうだ。なんでだよ。

「……で、センパイは何でここまで俺を探しにきちゃったんですか。好きなんですか。屋上といえばマンガとかでよくある告白スポットですよね。残念ですがお受けできません、すみません。新しい恋を見つけてください。じゃ」
「違うわ!」

 ぐわし、とセンパイが俺の肩を掴んでくる。

「え、振られた腹いせに手を上げるんですか。それともこの体勢はキスですか。やめてください、ファーストキスもまだなのに」
「だから違うと、言ってるだろ!」

 センパイは言葉の間で一呼吸置き、俺の頭に頭突きをかます。俺と一緒になってもがき苦しむセンパイに、俺はようやく酷い事実を受け入れた。

 センパイは、思っていたよりも馬鹿であるらしい。




「で、何ですか。お願いって」

 センパイの前に正座をさせられた俺は努めて神妙な顔つきを意識して尋ねる。センパイは深々と頷き、ようやく用件を口にした。

「この学校、出るらしいんだ」
「はぁ、露出狂ですか。警察呼んだ方がいいんじゃねぇですか?」
「違う、幽霊がだ!」

 勢いよく俺の言葉をぶった切るセンパイ。少し俺の話し方に対する耐性ができたようだ。痺れ始めた足を僅かに尻の下からずらし、相槌を打つ。

「はぁ、それで俺ですか」
「そうだ。お前が本当に霊感があるのでは、というのは一部で噂になっていたからな!」

 マジか。全然秘密になってねぇじゃん。まぁそもそもそこまで隠してないけど。

「一つ分からないんですけど」
「なんだ」
「出ることの何が問題なんです? いつものことですよね?」

 センパイは何かを言い返そうとしてそのままもごもごと言葉を飲み込んだ。きっとそんな訳ねぇと言おうとしたのだろう。そのまま言ったところで傷つきなんてしないのに。それに俺だって本当は何が問題なのか分かっていた。

「すみません、意地の悪いことを言いました。要は怖がる生徒のいることが問題なんですよね?」
「……そうだ」
「じゃ、生徒を消しましょうよ」
「何でそうなる!?」

 何でと言われても。一応それなりの理由はあるが説明するのがめんどくさい。

「その方が現実的で楽だからですかね」
「現実的か……?」

 分からないだろうが、実際そうなのだ。

「……センパイ、俺にその幽霊を消してほしいんでしょう?」
「そうだ」
「見えない人には分からないと思うんで、今回は特別に出向きますけど。実際、幽霊を消すよりは人間を消す方がはるかに簡単で楽なんですよ」

 言ったところで分かりはしないだろうが。
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