あの夏の日を忘れない ~風紀委員長×過去あり総長~

猫村やなぎ

文字の大きさ
154 / 214
第五章

11

しおりを挟む
 靴を履き替えようと下駄箱の扉に手を伸ばす。ふと、何かに気付いた顔をした青は俺に下がるよう合図した。言われるままに一歩下がると、青は固い表情で扉を開ける。

 ぼろ、と丸めた紙が溢れ出る。拾って目を通すと、罵詈雑言の嵐。俺が見ない可能性を考えてか、先程の写真もクリップで留められていた。上履きは紙の山に埋もれている。かき分けると、水に浸されたのか、濡れた上履きが登場した。周囲の紙のインクを吸い、一部が黒く滲んでいる。濡れたまま放置されたためだろう、蒸れた匂いもしていた。

「なあ青、スリッパ借りる場所って職員室だったか?」

 眉を寄せつつ青に問う。ああと低く肯定した青は、黙って自分の上履きを差し出した。

「これ履いて。職員室にスリッパ借りに行こうか」
「え? でも青も上履きないと困るだろ」
「……、そうだな」

 青は分からず屋を見るような目を俺に向けると、渋々と上履きを履きなおす。

「じゃあ、両者困らない方向で行こうか」

 唐突な提案を皮切りに体が浮き上がる。所謂お姫様だっこだと気付いた俺は、一瞬言葉を失った。

「さっ、職員室までこれでいくぞー」
「おまッ、はぁ?! 重いだろッ、下ろせよ!」

 んでもって恥ずかしい。どちらかというと恥ずかしいから下ろしてほしいというのが本音だが、それを訴えることも気恥ずかしくて躊躇われる。

「ほらッ、肩とか痛めるぞ?! な、下ろせって!」

 一秀にもされたことがあったが、桁違いに恥ずかしい。緊急事態とは言いがたいからか、それとも同い年だからか。暴れて迷惑をかけるのも忍びなく、言葉でばかり抵抗しているうちに、青はひょいひょいと廊下を小走りで進んでいく。本当に止めてほしい。

 青が俺の顔を覗き込む。何かが脳裏を掠め、ひゅっと息を呑む。思わず目を逸らした。

「赤、着いたよ」
「おー……って下ろせよ」
「スリッパもらってないし」

 鬼か。鬼なのか。このまま先生方の前で抱きかかえられていろと? スリッパ貸してくださいとかいうやり取りを俺の頭上でやると? その間どんな顔してろっていうんだよ。

 想像しただけで居たたまれない。俺は身じろぎをし青の腕に足を置くと、バク転の要領でひらりと床に着地した。

「わ、よく降りたな」
「なんでそんな残念そうなんだよ。お前楽しんでただろ」
「まぁ少しは。最近橙に出し抜かれ気味だし」

 青と橙がよく小競り合いをしているのは重々承知だが、なにも俺を巻き込むことはないと思う。そもそも二人とも得意分野が異なるのだから、わざわざぶつかる必要はないだろうに。お互い能力を認め合っているにも関わらず、何が二人をそうさせるのか。疑問だ。

 職員室の扉を開き、近くにいた先生に声をかける。

「すみません。スリッパ貸してください」
「ん? はいはい、ちょっと待ってね」

 軽いノリで請け負ってくれた先生は、職員用休憩室へと引っ込む。すぐに出てくるかと思われたが、存外探すのに時間がかかっているのか休憩室への扉はなかなか開かなかった。きぃ、と扉がゆっくりと開かれ、代わりに出てきたのは田上先生だ。手にはスリッパ……ではなく、箱が抱えられている。

「おー……おはよう、椎名。夏目」
「おはようございます」

 青は目を眇め、軽く顎を引く。疑うような眼差しを向けられた先生は「あー」と困った声で唸った。

「一先ず夏目は置いておくとして。椎名、今朝は災難だったな。写真のことを聞いてちょっと慌てた。無理はするなよ」

 先生はくしゃりと俺の頭を撫でる。よくよく見ると先生の格好はいつもに増してくたびれている。そもそも、いつもであれば朝のこんな時間に職員室にいない筈だ。俺のことを聞いてすぐ、職員用の宿舎から出て来てくれたのだろう。
 右頬に赤く痕が付いていることから察するに、休憩室で二度寝してしまったようだが。

 青の視線はいつの間にやらすっかり厳しいものに変わっている。耐えかねてか、先生はそうだと話を変えた。

「上履きがやられたって聞いた。これは職員室で余ってた上履きなんだが……、よかったら持って行くといい。どうせ余ってたやつだ。遠慮はするな」
「ありがとうございます。……じゃあ、お言葉に甘えて」

 安心したように口元を緩めた先生は、何かに気付いたようにぎくりと固まる。青から視線を外した先生は、ガリガリと頭を掻くと苦々しい溜息を吐いた。

「じゃあ、そろそろ職員朝礼の時間だ。生徒は出ていくように」

 何年ぶりの朝礼だったか、と独りごち先生は背を向ける。職員室を出てちらりと隣の青を窺うと、顔に渋面が張り付いている。ピーマン食べた子供ってこんな顔するよなぁ、と幼少期の円を思い出した。今はもう食べられるようになったのだろうか。学園の王様がピーマン苦手って格好付かないよなぁ。

 クスと笑うと、青は微妙そうな顔で眉を垂らす。

「……取りあえず、貰ったやつ履いてみようか」
「おー」

 促され、箱から取り出す。中身を見た青は「なにが余ってただよ」と不満げに呟く。先生はそんな格好つけた風に言っていなかったと思うが。青には先生がどう見えているんだか。

 内心呆れつつ上履きに足を入れる。うん、ぴったりだ。

「サイズも合ってるとか……。健康診断の結果でも確認したのか?」

 露骨に先生を不審がる青。いやだからお前の目に先生はどう映ってるんだよ。
  
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

不幸連続コンボからの、猫と隣人に拾われてます

まと
BL
気付けば「不幸」が当たり前になっていた。 貴重な休みの日には、ベランダにふてぶてしい猫が。 ブラック企業気味の職場では、罪を押し付けられクビになり。 住んでいたアパートは火事になり。 本気で人生詰みました。 ……けれど。 手を差し伸べてくれたのは、美しい隣人だった。 導かれるように始まった同居生活。 孤独で不器用なオレの人生は、拾われ、甘やかされ、そして――?? 感想、コメントなどとても励みになります。いつもありがとうございます。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐
BL
いつか必ず返り咲く。それだけを目標に、俺はこの学園に戻ってきた。過去に、破壊と使役の魔法を研究したとして、退学になったこの学園に。 今こそ、復活の時だ。俺を切り捨てた者たちに目に物見せ、研究所を再興する。 そのために、王子と伯爵の息子を利用することを考えた俺は、長く温めた策を決行し、学園に潜り込んだ。 これから俺を陥れた連中を、騙して嵌めて蹂躙するっ! ……はず、だった……のに?? 王子は跪き、俺に向かって言った。 「あなたの破壊の魔法をどうか教えてください。教えるまでこの部屋から出しません」と。 そして、伯爵の息子は俺の手をとって言った。 「ずっと好きだった」と。 …………どうなってるんだ?

お飾りは花だけにしとけ

イケのタコ
BL
王道学園で風紀委員長×生徒会長です 普通の性格なのに俺様と偽る会長に少しの出来事が起きる 平凡な性格で見た目もどこにでもいるような生徒の桃谷。 ある日、学園で一二を争うほどの人気である生徒会ほぼ全員が風紀委員会によって辞めさせられる事態に 次の生徒会は誰になるんだろうかと、生徒全員が考えている中、桃谷の元に理事長の部下と名乗る者が現れ『生徒会長になりませんか』と言われる 当然、桃谷は役者不足だと断るが…… 生徒会長になった桃谷が様々な事に巻き込まれていくお話です

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

流れる星は海に還る

藤間留彦
BL
若頭兄×現組長の実子の弟の血の繋がらない兄弟BL。 組長の命で弟・流星をカタギとして育てた兄・一海。組長が倒れ、跡目争いが勃発。実子の存在が知れ、流星がその渦中に巻き込まれることになり──。 <登場人物> 辻倉一海(つじくらかずみ) 37歳。身長188cm。 若い頃は垂れ目で優しい印象を持たれがちだったため、長年サングラスを掛けている。 組内では硬派で厳しいが、弟の流星には甘々のブラコン。 中村流星(なかむらりゅうせい) 23歳。身長177cm。 ストリートロックファッション、両耳ピアス。育ててくれた兄には甘えん坊だが、兄以外の前では──。 表紙イラストは座頭狂様に描いて頂きました✨ ありがとうございます☺️

処理中です...