ラブ・ウォッチ

ファンタジスタ

文字の大きさ
3 / 9

3

しおりを挟む
愛莉は失恋した日から食欲がなくなり、なにもやる気がおきなくなった。
会社で仕事中にぼんやりすることが多くなり、上司にしかられたりした。
会社の同じ部署の先輩、倉田江茉くらたえまが心配して声をかけてくれて、いっしょにランチをすることになった。
江茉は28歳の愛莉よりも一回り年齢が上で、さっぱりした性格の、世話焼きタイプの女性だ。

江茉がランチのスープを一口すすってから言った。

「嘉川さん、なにかあった? 最近、やせたでしょう」

愛莉がサンドウィッチを口に運ぶ手をとめてこたえた。

「失恋しちゃって、あんまり食べられなくて」

「それはたいへんね。仕事も集中できてないんじゃない?」

「運命の人だと思ってた人に、ふられちゃったから、気が動転していて」

「でも、むりしてでも食べなきゃ。やってけないわよ」

愛莉はサンドウィッチを目の前の皿に戻してうつむいた。

「今回はもう、一生立ち直れないような気がするんですよね」

江茉は少し考えてから前かがみになって小声で言った。

「大きな声じゃ言えないけど、それだったら、おすすめのものがあるわよ」

「なんですか、おすすめのものって」

愛莉は顔をあげた。

「運命の人を発見できる腕時計があるの。通称、ラブ・ウォッチって言ってね、その腕時計をして運命の人に会うと、腕時計のアラームが鳴るの」

愛莉は驚いたような顔をした。

「初めて聞きました」

「わたしもなかなか結婚できなくて、悩んでいた時期があって、おばにおしえてもらったの。銀座の〈Y‘s shop〉っていうお店で売ってるわよって」

「倉田さん、買ったんですか」

「うん。買ったわよ」

「それで鳴ったんですか、そのラブ・ウオッチ。運命の人に出逢ったときに」

「鳴ったの。それがきっかけで、その男性とつきあうようになって。その男性が今のだんなよ」

「すごーい」

愛莉は大きく目を見開いた。

胡散うさん臭いって思われるから誰にも言ったことがなかったんだけど、嘉川さん、ほんとに辛そうだから、言っちゃった。ねぇ、試すだけでも、使ってみたら」

愛莉の暗闇だった心に一筋の光が見えてきた。

「ラブ・ウォッチ、売ってる店、教えてもらえますか!」

愛莉は力強く言った。
愛莉はもう失恋するのはごめんだった。
江茉の言うように試すだけでも使ってみたい。いえ、絶対に運命の相手に今度こそ出逢いたい。
運命の人だと思っていた人にふられた直後に、「近いうちに運命の人に会える」と未華に言われ、今こうして「運命の人を発見できるラブ・ウォッチ」の話しがタイミングよく出てきた。
ということは、愛莉は未華の占いを信じてもよいような気がしてきた。
愛莉は祈る気持ちで、江茉がおしえてくれたラブ・ウォッチを売っている店〈Y‘s shop〉へ仕事が休みの日、さっそく赴いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おしどり夫婦の茶番

Rj
恋愛
夫がまた口紅をつけて帰ってきた。お互い初恋の相手でおしどり夫婦として知られるナタリアとブライアン。 おしどり夫婦にも人にはいえない事情がある。 一話完結。『一番でなくとも』に登場したナタリアの話です。未読でも問題なく読んでいただけます。

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平
恋愛
 アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。  が、二人の心の内はそうでもなく……。 ※他サイトでも掲載しています

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

泣きたいくらい幸せよ アインリヒside

仏白目
恋愛
泣きたいくらい幸せよ アインリヒside 婚約者の妹、彼女に初めて会った日は季節外れの雪の降る寒い日だった  国と国の繋がりを作る為に、前王の私の父が結んだ婚約、その父が2年前に崩御して今では私が国王になっている その婚約者が、私に会いに我が国にやってくる  *作者ご都合主義の世界観でのフィクションです

さようなら、初恋

芙月みひろ
恋愛
彼が選んだのは姉だった *表紙写真はガーリードロップ様からお借りしています

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

処理中です...