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第一話 時戻しの秘薬
ワシは今年で百歳になる年寄りのなかの年寄りじゃ。
もう先は長くない。
それはそうじゃ。
歳も歳だが、ワシは不治の病に侵されているからの。
今ではほとんどの時間をベッドで過ごしている。
じゃが、悔いはない。
何故ならワシには弟子がおるからの。
弟子の名はマーガル。
百人が百人認める天才じゃ。
マーガルと初めて出会ったのは、ワシが八十五歳の時じゃった。
ワシは魔法使いなのじゃが、後継者がいなかった。
それはワシが頑なに弟子を取らなかったからじゃ。
教えるのが面倒くさかったのじゃ。教えることに時間を割くくらいなら、新しい魔法を開発することに時間を費やしたかった。
じゃが、歳を取りそれでは寂しいことに気が付いた。
せっかく得た新しい技術、知識を誰かに引き継ぎたい。
そうしてワシが生きた証を世に残したいと思うようになったのじゃ。
それで弟子を取るために孤児院に向かった。
そこで出会ったのが、マーガルなのじゃ。そのときのマーガルは五歳じゃった。
子供のくせに意思の強そうな瞳をしていて、この子は強くなると一目で分かった。
それから十五年。マーガルは二十歳の立派な青年に成長し、独り立ちをした。
風の噂で、マーガルは世界一の大魔法使いになったと聞く。
ワシはマーガルが活躍した新聞記事を切り抜き、スクラップブックにおさめるのが趣味となっていた。
じゃが、立ち上がるのが困難になってきたここ数日は、それも出来ていない。
そろそろお迎えが来そうじゃのう……。
それまで残された時間をゆっくり過ごそうと思っていたある日、久しぶりにマーガルが家に訪ねてきたのじゃった。
※※※※
「お師匠さまっ」
マーガルはベッドに横たわるワシを見て、涙を流した。
「こんなに痩せ細って……。食事はきちんと食べているのですか?」
「食べとるよ。じゃがのう、ワシはもうダメそうじゃ。最後にお前の顔が見れて良かった……」
マーガルはワシの手をギュッと握りしめて、ふるふると首を横に振った。
「そんな気弱なことを言わないでください」
「じゃがのう……」
「安心してください。お師匠さまを救うために研究に研究を重ね、やっと秘薬が完成しましたので」
「秘薬?」
そう言えば以前からそんなことを言っとったのぉ。
ワシの病気を治すため、魔法の秘薬を作っているとかなんとか……。
「そうなのか……? 本当にお前は賢いのぉ……」
ワシは孫を見守るような優しい瞳でマーガルを褒めた。
じゃが、マーガルには悪いが自分の病を治す薬を作ることなど不可能なのは分かっていた。
これは不治の病なのだ。どう頑張っても完治することはないだろう。それに、自分はもう百歳なのだ。
病が治ったとしても、棺桶に片足を突っ込んでいることには変わりない。
それでも、自分のためにマーガルが必死になってくれたのが嬉しかった。
「ありがとう、マーガル」
ワシが礼を言うと、マーガルがコートのポケットから小さな小瓶を取り出した。
アメジストのような液体が入っていて、綺麗じゃなと思った。
「さぁ、これを一気に飲んでください」
そう言ってワシの体を起こしてくれたので、小瓶を受け取った。
まぁ、効果は無いと思うが、それでマーガルの気が済むのなら……と一息に飲み干した。
すると、急速に眠くなってきた。
なんじゃ……? まさか安楽死する薬でも作ってくれたのか? と思いつつワシは深い眠りに落ちたのじゃった。
※※※※
目が覚めると、妙に体が軽い。
マーガルはずっとワシの看病をしてくれたようで、ベッドに突っ伏して眠っている。
なんじゃ……? もの凄く気分が良い。
おいっちにっと腕を振り、マーガルを起こさないようそうっとベッドから降りる。
本当に体が軽い。まるで若返ったようじゃ。
マーガルの秘薬が効いたのじゃろうか? だとしたら、本当にあの子は天才じゃなと思いながら顔を洗いに洗面所に行く。
それから自分の顔を見て『ひょっ!?』と奇声を上げた。
なんと! 本当に若返っているのだ。
みずみずしい肌に真っ黒な髪。まるで二十代だ。
ワシは若い頃童顔じゃったので、十代にも見える。
びっくりして急いでマーガルのいる寝室に向かう。
それからすうすう寝息を立てているマーガルの肩をガクガク揺さぶった。
「マーガル! どういうことじゃ!?」
マーガルは『うーん……』と寝ぼけた声を上げながら目を開いた。
それからワシの姿を見て破顔する。
「やった! 薬が効いた!」
「どういうことじゃ!?」
「ふふ……。驚かないでくださいね? 実は先程飲ませた薬は『時戻しの秘薬』なのです」
時戻しの秘薬とは、その名の通り飲んだ者の時を戻す魔法の薬らしい。ワシの場合、時戻しの秘薬のおかげで百歳から二十歳に若返った。
病にかかったのが四十代なので、今は健康体そのものじゃ。
驚いたのぉ。時を戻す薬など、ワシじゃ何百年費やしても作れなかった。
それをマーガルは数年で完成させたらしい。
「凄い! ワシの弟子は天才じゃ!」
「ふふ……。お師匠さまを助けたい一心で頑張りました」
本当に天才じゃ!
こんな優秀な弟子を持ち、ワシも鼻が高い。
エライ! スゴイ! と連呼していたら、マーガルがぽそりと不穏な言葉を口にした。
「……病も治ったし、歳の差も克服できた。これなら私とお師匠さまがセックスしても誰も批判しないな……」
「……?」
はて? 今ワシの弟子がとんでもないことを口走ったような気がするが……?
「マーガル……。今、なんと言ったのじゃ?」
「なんでもありません! お師匠さま大好きです!」
そう言ってマーガルはちょっと苦しいくらいの強い力でワシを抱きしめてきた。
「ふぉっふぉっふぉっ。お前はいつになっても子供のようじゃのう」
ワシは上機嫌でマーガルの背中をポンポンと撫でたのじゃった。
もう先は長くない。
それはそうじゃ。
歳も歳だが、ワシは不治の病に侵されているからの。
今ではほとんどの時間をベッドで過ごしている。
じゃが、悔いはない。
何故ならワシには弟子がおるからの。
弟子の名はマーガル。
百人が百人認める天才じゃ。
マーガルと初めて出会ったのは、ワシが八十五歳の時じゃった。
ワシは魔法使いなのじゃが、後継者がいなかった。
それはワシが頑なに弟子を取らなかったからじゃ。
教えるのが面倒くさかったのじゃ。教えることに時間を割くくらいなら、新しい魔法を開発することに時間を費やしたかった。
じゃが、歳を取りそれでは寂しいことに気が付いた。
せっかく得た新しい技術、知識を誰かに引き継ぎたい。
そうしてワシが生きた証を世に残したいと思うようになったのじゃ。
それで弟子を取るために孤児院に向かった。
そこで出会ったのが、マーガルなのじゃ。そのときのマーガルは五歳じゃった。
子供のくせに意思の強そうな瞳をしていて、この子は強くなると一目で分かった。
それから十五年。マーガルは二十歳の立派な青年に成長し、独り立ちをした。
風の噂で、マーガルは世界一の大魔法使いになったと聞く。
ワシはマーガルが活躍した新聞記事を切り抜き、スクラップブックにおさめるのが趣味となっていた。
じゃが、立ち上がるのが困難になってきたここ数日は、それも出来ていない。
そろそろお迎えが来そうじゃのう……。
それまで残された時間をゆっくり過ごそうと思っていたある日、久しぶりにマーガルが家に訪ねてきたのじゃった。
※※※※
「お師匠さまっ」
マーガルはベッドに横たわるワシを見て、涙を流した。
「こんなに痩せ細って……。食事はきちんと食べているのですか?」
「食べとるよ。じゃがのう、ワシはもうダメそうじゃ。最後にお前の顔が見れて良かった……」
マーガルはワシの手をギュッと握りしめて、ふるふると首を横に振った。
「そんな気弱なことを言わないでください」
「じゃがのう……」
「安心してください。お師匠さまを救うために研究に研究を重ね、やっと秘薬が完成しましたので」
「秘薬?」
そう言えば以前からそんなことを言っとったのぉ。
ワシの病気を治すため、魔法の秘薬を作っているとかなんとか……。
「そうなのか……? 本当にお前は賢いのぉ……」
ワシは孫を見守るような優しい瞳でマーガルを褒めた。
じゃが、マーガルには悪いが自分の病を治す薬を作ることなど不可能なのは分かっていた。
これは不治の病なのだ。どう頑張っても完治することはないだろう。それに、自分はもう百歳なのだ。
病が治ったとしても、棺桶に片足を突っ込んでいることには変わりない。
それでも、自分のためにマーガルが必死になってくれたのが嬉しかった。
「ありがとう、マーガル」
ワシが礼を言うと、マーガルがコートのポケットから小さな小瓶を取り出した。
アメジストのような液体が入っていて、綺麗じゃなと思った。
「さぁ、これを一気に飲んでください」
そう言ってワシの体を起こしてくれたので、小瓶を受け取った。
まぁ、効果は無いと思うが、それでマーガルの気が済むのなら……と一息に飲み干した。
すると、急速に眠くなってきた。
なんじゃ……? まさか安楽死する薬でも作ってくれたのか? と思いつつワシは深い眠りに落ちたのじゃった。
※※※※
目が覚めると、妙に体が軽い。
マーガルはずっとワシの看病をしてくれたようで、ベッドに突っ伏して眠っている。
なんじゃ……? もの凄く気分が良い。
おいっちにっと腕を振り、マーガルを起こさないようそうっとベッドから降りる。
本当に体が軽い。まるで若返ったようじゃ。
マーガルの秘薬が効いたのじゃろうか? だとしたら、本当にあの子は天才じゃなと思いながら顔を洗いに洗面所に行く。
それから自分の顔を見て『ひょっ!?』と奇声を上げた。
なんと! 本当に若返っているのだ。
みずみずしい肌に真っ黒な髪。まるで二十代だ。
ワシは若い頃童顔じゃったので、十代にも見える。
びっくりして急いでマーガルのいる寝室に向かう。
それからすうすう寝息を立てているマーガルの肩をガクガク揺さぶった。
「マーガル! どういうことじゃ!?」
マーガルは『うーん……』と寝ぼけた声を上げながら目を開いた。
それからワシの姿を見て破顔する。
「やった! 薬が効いた!」
「どういうことじゃ!?」
「ふふ……。驚かないでくださいね? 実は先程飲ませた薬は『時戻しの秘薬』なのです」
時戻しの秘薬とは、その名の通り飲んだ者の時を戻す魔法の薬らしい。ワシの場合、時戻しの秘薬のおかげで百歳から二十歳に若返った。
病にかかったのが四十代なので、今は健康体そのものじゃ。
驚いたのぉ。時を戻す薬など、ワシじゃ何百年費やしても作れなかった。
それをマーガルは数年で完成させたらしい。
「凄い! ワシの弟子は天才じゃ!」
「ふふ……。お師匠さまを助けたい一心で頑張りました」
本当に天才じゃ!
こんな優秀な弟子を持ち、ワシも鼻が高い。
エライ! スゴイ! と連呼していたら、マーガルがぽそりと不穏な言葉を口にした。
「……病も治ったし、歳の差も克服できた。これなら私とお師匠さまがセックスしても誰も批判しないな……」
「……?」
はて? 今ワシの弟子がとんでもないことを口走ったような気がするが……?
「マーガル……。今、なんと言ったのじゃ?」
「なんでもありません! お師匠さま大好きです!」
そう言ってマーガルはちょっと苦しいくらいの強い力でワシを抱きしめてきた。
「ふぉっふぉっふぉっ。お前はいつになっても子供のようじゃのう」
ワシは上機嫌でマーガルの背中をポンポンと撫でたのじゃった。
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