【完結】うーむ……。ワシの弟子が天才過ぎて困る

チョロケロ

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最終話 恋の道……。極めてみるのも面白そうじゃの

 マーガルはびくびくとワシの顔色を窺っておる。
 そんな反応をされると許しそうになってしまうが、心を鬼にせねばならん。
 ワシは冷たい声色で弟子に問いかけた。

「なんでこんなことをしたんじゃ?」
「お師匠さまが大好きだからです」
「ワシもお前が大好きじゃ。じゃが――」

『好きだからってなにをしても許される訳ではない』と言おうとしたら、途中でさえぎられた。
 
「お師匠さまの好きと、私の好きは違います!」
「ほぉ。なにが違うんじゃ?」
「お師匠さまの好きは、慈愛です。ですが私の好きは、体を繋げたくなるほどの激しい愛です」
「!?」

 マーガルの熱のこもった告白を聞き、ワシに衝撃が走る。
 え!? マーガルってワシのことそんな風に思っとったの!? ワシジジイなんですけど……。
 なんでジジイなんかに惚れとるんですか!? いつからですか!? などと色々問い詰めたいことはあったが、今はそれどころではない。
 ワシは動揺を悟られぬよう、表情を引き締めながら口を開いた。

「じゃ、じゃが……、相手の了承も取らずに行為に及ぶのは、悪いことじゃ」
「だって了承を取ったら、絶対に嫌だと言われるじゃ無いですか……」
「ま、まぁの……」

 悪びれもせずに言うな! と怒鳴りつけたかったが、事実なので怒るに怒れない……。
 なにか言わねばと考えていたら、マーガルが先に口を開いた。
 
「でも私は、お師匠さまと一線を越えたかったんです!」

 マーガルは反発するようにワシの顔を睨むと、訥々とつとつと語り始めた。

「幼い頃より私はずっとお師匠さまが大好きだった。だが、年が経つにつれその気持ちに情欲が混ざり始めた。でも、お師匠さまはご高齢だったから、諦めていたんです……」
 
 えぇ……!? ワシ、こやつに初めて会ったとき、八十五歳じゃぞ……?
 それから情欲が混ざり始めたって……ジジイ趣味にも程があるじゃろう……。
 呆れるワシを尻目に、マーガルは拳を握りしめて熱弁した。
 
「ですが! 今回私の秘薬により、お師匠さまは若返った! きゃわわなお師匠さまを見て、私の下半身が制御不能になっても仕方のないことなんです! だって私は……! 十数年もお師匠さまに片想いをしていたのですから……」

 そう言ってマーガルはしょんぼりとうなだれた。
 いや……制御せいよ、いい大人なんじゃから……と言いたかったが、それよりも十数年も片想いをしていたことに胸が痛む。
 こんなジジイに恋をしたばかりに、ずっと気持ちをひた隠しにしとったんじゃな……。

「……そ、そうか。それは辛い思いをさせてすまんかったのぉ」
「本当ですよ」

 マーガルは確実に開き直っている。じゃが、なぜかそんなマーガルに押され気味になってしまった。
 だってワシ……男に犯されそうになったのは何回もあるが、告白されたのとか初めてなんじゃもん。胸が高鳴ってしまい、いつもの調子が出ないのじゃ。
 
「じゃ、じゃが……歳の差があり過ぎる。それに、ワシらは師弟関係じゃろう?」
「歳の差は問題ありません! 今のお師匠さまは私と同世代です! それに、師弟関係でも恋人同士になっている方々はたくさんおります!」
「じゃが……じゃが……」

 ダメじゃと諭そうとすると反論され、ワシは言葉に詰まってしまった。
 マーガルは天才なので、頭も切れるのじゃ。マーガルと言い合いをしても勝てそうにない……。
 ワシが弱気になりかけていることに気付いたのか、マーガルが一気に畳み掛ける。

「お師匠さま! せっかく新しい人生をスタートしたのですから、今度は魔導の道だけでなく、恋の道を極めてみては!? お師匠さま、私とセックスする前は童貞処女だったでしょう!?」
 
 な、なんでワシが童貞処女であることを知っとるんじゃ!? 調べたのか!? 恐ろしい弟子じゃのう……。
 
 じゃが……マーガルの言うことも一理ある。
 
 確かにワシは若い頃から魔導に夢中で、恋愛には全く興味を示さなかったのじゃ。
 それを恥ずかしいと思ったときはもうジジイで、今更恋愛などと諦めていた。
 じゃが、こうして若返り、マーガルにチャンスをもらったのならば、これからは青春を謳歌おうかしてもいいんじゃないか……?
 ワシは、目の前の景色が明るく色付いていくような気がした。

「さすがはマーガルじゃ! マーガルは、ワシに新しい人生の生き方を教えてくれた!」
 
 ワシの言葉に、マーガルは目を輝かせてうんうんうなずいた。
 
「そうでしょう!? では、手始めにまずは私と恋人同士になってみましょう!」
 
 そう言ってマーガルは立ち上がると、ワシに手を差し伸べた。
 
「……」

 マーガルと恋をする……? 出来るじゃろうか? 歳の差は問題無いとしても、師弟関係じゃぞ……?
 かなり悩んだが、恋をしてみたい欲求には逆らえない。それに、こんなワシを好きだと言ってくれるマーガルの気持ちに応えたいと思ったのじゃ。
 
「では……宜しく頼む……」
 
 結局ワシは、マーガルの手を取った。
 マーガルはそれはもう嬉しそうに『はいっ』とうなずいたのじゃった。

※※※※

 そのときのワシは、マーガルがどれだけワシに執着しているのか分からなかった。
 そのうち飽きて、ワシのことなど手放すと思っていたのじゃ。
 じゃが、予想に反してマーガルはいつまで経ってもワシを手放さなかった。
 四六時中愛を囁かれ、ドロドロに抱かれる日々を繰り返すうちに、十年の歳月が経過していた。

 今夜も二人で遅くまで愛し合い、疲れてうとうとしかけた頃、マーガルがワシに問いかけてきた。
 
「どうです? 恋の道を極めるのも、結構楽しいでしょう?」

 得意げなマーガルに心の中で苦笑しつつ、ワシは素っ気なく返した。
 
「まだ極めたとは言えん。なんせワシはマーガルしか愛したことがないからの。これからもたくさんの恋をして、恋の道がどんなものか模索して行こうと思うのじゃ」
 
 ワシの言葉に、マーガルはギョッとした。
 それから捨てられた子犬のようにしょんぼりとうなだれた。
 
「そ、それは……浮気宣言でしょうか?」
 
 ワシはクスリと笑い、マーガルの頭をよしよしと撫でてやった。
 
「嘘じゃ! ワシはもうお前以外愛せない。お前が最初で最後の男じゃよ!」

 ワシの言葉が本当に嬉しかったようで、マーガルは
『えへ……えへ……』と独特な笑い方をした。

 こやつは本当に昔から変わらんのうと微笑ましい気持ちになり、ワシはクスクスと笑ったのじゃった。
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