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第十二話 沈む気持ち
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いつまでも道の真ん中で抱き合っているわけにもいかないので、私たちはユートの家に帰ることにした。
居酒屋に行くのは、中止した。こんな沈んだ気持ちでお酒を飲んでも美味しくないからだ。
ユートの後ろをトボトボ歩いていたら、ユートが立ち止まった。どうしたのかと思ったら、私のところまで引き返し、手を握ってくれた。ユートのぬくもりが心地よい。普段の私なら大喜びだろう。だが、今は反応できない。
結局、私たちは手を繋ぎながら無言で家に向かったのだった。
※※※※
アパートの部屋に入ると、すぐさまトイレに向かった。
トイレの扉の向こうが、住み慣れた魔界なのだ。扉の取手を掴み、私は力無く笑った。
「じゃあ、ユート。さようなら」
「……。待ってよ。まだエッチしてないじゃん。エッチしないと獣型に戻っちゃうんでしょ?」
「……」
確かにそうだ。
……でも、なんだかもうどうでも良くなってきた。そもそも最近は、ユートに可愛いと思ってもらいたかったから人型になっていたのだ。だが、ユートからしたら、私が獣型でいようか人型でいようかどうでもいいのかもしれない。
だって私との性行為は仕事で、あの女との性行為こそが求めているものなのだから。
そんなことを考えたら、またポロポロ涙があふれてきた。
悔しいなぁ。私もあの女のように美しければ良かったのに。いや、せめてユートに会うときは女に化ければ良かった……。私はインキュバスなので、性別を変えることなど朝飯前なのだ。あぁ……今更後悔しても遅い。私の男の身体では、ユートを繋ぎ止めておくことができなかった……。そんなことを考え鼻をすすっていたら、ユートが慰めるようにそっと抱き締めてくれた。
「泣かないで。アレルヤ」
「す、すまない……」
「アレルヤ。一応言っておくけど、メイコとエッチしてたのは、アレルヤに出会う前だからね。アレルヤに出会ってからは、一度もメイコを抱いていないよ」
「……」
そうなのか……。私を抱きつつあの女とも関係を続けているのかと思っていた。
私と出会ってからは私だけ……。その言葉は私に少しの希望を与えた。泣くのをやめて、不安そうな表情でユートを見上げる。
「本当に、私だけ……?」
「うん」
ユートは困ったように笑うと、私の背中を優しくさすってくれた。
「俺、今はアレルヤに夢中だからさ」
「!」
私はボンっと音が出そうなほど赤面した。
なんという嬉しい言葉を言ってくれるのだ、ユートは。さすが、モテる男は私を喜ばせるのが上手い。
私はゴシゴシ涙をぬぐうと、ニコリとユートに笑いかけた。
すると、ユートも優しく笑い返してくれる。
「ふふ……。泣き止んでくれて良かった」
「うむ。もう大丈夫だ」
「そう? じゃあ言っちゃうけどさぁ」
「?」
「俺、アレルヤが泣いたとき、実はすげー嬉しかったんだよね」
私はユートの胸から顔を上げ、じっと顔を覗き込んだ。
「……嬉しかったのか?」
「そう。俺って性格悪いでしょ? でも、アレルヤが泣いてくれて嬉しかった。泣いた理由ってヤキモチだろ? 可哀想だけど可愛いなぁってグッときちゃったんだよね」
私の心に一筋の光が差し込まれた。
私が嫉妬して嬉しいとはどういう心境だ?
ま、まさかユートは――!
「なぜ嬉しいのだ? それはどういう意味だ!?」
胸が高鳴り、つい早口で問いただしてしまう。
そんな私に、ユートは含み笑いを浮かべて答えた。
「さぁ? どういう意味だろうね?」
くぅーー! はぐらかされた! これは、モテる男のモテテクニックだ。いつもこうやって女をドキドキさせているのだな!? さすがはユートだ!
恋愛初心者の私では、太刀打ちできない。
だが、ユートの言葉で気分が浮上した。
嬉しくて、ギュウギュウ抱き締めてしまう。
「ユート……。やっぱり抱いてほしい……」
恥を忍んで言うと、ユートはニコニコ笑いながらチュッと私のオデコにキスをしてくれた。
「俺もアレルヤを抱きたくてたまらなかったんだ。だってアレルヤ、可愛すぎるんだもん」
嫉妬に狂う醜い私を、可愛いと言ってくれるなんて、ユートは本当に大物だ。
ユートは上機嫌で私を抱き上げた。横抱きにされ、スタスタとベッドに向かう。まるで恋する騎士と初夜を迎える姫になった気分だ。
私はユートの首筋に腕を回し、うっとりしながら身体をあずけた。
ベッドに着くと、壊れものを扱うようにそっと下ろされる。それからすぐに私の上にのし掛かってきた。
「すげー優しくしたい気持ちもあるけど、めちゃくちゃにしたい衝動もある。アレルヤは、どっちがいい?」
私はキュンキュン胸を高鳴らせながら、「どっちでもいいっ」と言ってユートに抱き付いたのだった。
居酒屋に行くのは、中止した。こんな沈んだ気持ちでお酒を飲んでも美味しくないからだ。
ユートの後ろをトボトボ歩いていたら、ユートが立ち止まった。どうしたのかと思ったら、私のところまで引き返し、手を握ってくれた。ユートのぬくもりが心地よい。普段の私なら大喜びだろう。だが、今は反応できない。
結局、私たちは手を繋ぎながら無言で家に向かったのだった。
※※※※
アパートの部屋に入ると、すぐさまトイレに向かった。
トイレの扉の向こうが、住み慣れた魔界なのだ。扉の取手を掴み、私は力無く笑った。
「じゃあ、ユート。さようなら」
「……。待ってよ。まだエッチしてないじゃん。エッチしないと獣型に戻っちゃうんでしょ?」
「……」
確かにそうだ。
……でも、なんだかもうどうでも良くなってきた。そもそも最近は、ユートに可愛いと思ってもらいたかったから人型になっていたのだ。だが、ユートからしたら、私が獣型でいようか人型でいようかどうでもいいのかもしれない。
だって私との性行為は仕事で、あの女との性行為こそが求めているものなのだから。
そんなことを考えたら、またポロポロ涙があふれてきた。
悔しいなぁ。私もあの女のように美しければ良かったのに。いや、せめてユートに会うときは女に化ければ良かった……。私はインキュバスなので、性別を変えることなど朝飯前なのだ。あぁ……今更後悔しても遅い。私の男の身体では、ユートを繋ぎ止めておくことができなかった……。そんなことを考え鼻をすすっていたら、ユートが慰めるようにそっと抱き締めてくれた。
「泣かないで。アレルヤ」
「す、すまない……」
「アレルヤ。一応言っておくけど、メイコとエッチしてたのは、アレルヤに出会う前だからね。アレルヤに出会ってからは、一度もメイコを抱いていないよ」
「……」
そうなのか……。私を抱きつつあの女とも関係を続けているのかと思っていた。
私と出会ってからは私だけ……。その言葉は私に少しの希望を与えた。泣くのをやめて、不安そうな表情でユートを見上げる。
「本当に、私だけ……?」
「うん」
ユートは困ったように笑うと、私の背中を優しくさすってくれた。
「俺、今はアレルヤに夢中だからさ」
「!」
私はボンっと音が出そうなほど赤面した。
なんという嬉しい言葉を言ってくれるのだ、ユートは。さすが、モテる男は私を喜ばせるのが上手い。
私はゴシゴシ涙をぬぐうと、ニコリとユートに笑いかけた。
すると、ユートも優しく笑い返してくれる。
「ふふ……。泣き止んでくれて良かった」
「うむ。もう大丈夫だ」
「そう? じゃあ言っちゃうけどさぁ」
「?」
「俺、アレルヤが泣いたとき、実はすげー嬉しかったんだよね」
私はユートの胸から顔を上げ、じっと顔を覗き込んだ。
「……嬉しかったのか?」
「そう。俺って性格悪いでしょ? でも、アレルヤが泣いてくれて嬉しかった。泣いた理由ってヤキモチだろ? 可哀想だけど可愛いなぁってグッときちゃったんだよね」
私の心に一筋の光が差し込まれた。
私が嫉妬して嬉しいとはどういう心境だ?
ま、まさかユートは――!
「なぜ嬉しいのだ? それはどういう意味だ!?」
胸が高鳴り、つい早口で問いただしてしまう。
そんな私に、ユートは含み笑いを浮かべて答えた。
「さぁ? どういう意味だろうね?」
くぅーー! はぐらかされた! これは、モテる男のモテテクニックだ。いつもこうやって女をドキドキさせているのだな!? さすがはユートだ!
恋愛初心者の私では、太刀打ちできない。
だが、ユートの言葉で気分が浮上した。
嬉しくて、ギュウギュウ抱き締めてしまう。
「ユート……。やっぱり抱いてほしい……」
恥を忍んで言うと、ユートはニコニコ笑いながらチュッと私のオデコにキスをしてくれた。
「俺もアレルヤを抱きたくてたまらなかったんだ。だってアレルヤ、可愛すぎるんだもん」
嫉妬に狂う醜い私を、可愛いと言ってくれるなんて、ユートは本当に大物だ。
ユートは上機嫌で私を抱き上げた。横抱きにされ、スタスタとベッドに向かう。まるで恋する騎士と初夜を迎える姫になった気分だ。
私はユートの首筋に腕を回し、うっとりしながら身体をあずけた。
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