13 / 20
第十三話 イワルゴス再訪
しおりを挟む
執務室でミストに監視されながら、私は仕事に励んでいた。だが、気を抜くとデレデレと締まりのない顔になってしまう。そんな私を、ミストは不気味なものを見るような目で見ていた。
「魔王様……。一体どうなされたのですか? 人間界に行ってからというもの、気が付くとニヤニヤ笑っておられる……。ハッキリ言って、気味が悪いですよ?」
「おぉ、すまんすまん。気を付ける」
だって思い出すだけでニヤけてしまうのだ。
あの日……、ユートとニッポンデートをした日。
色々あったが、最後にユートは私を抱いてくれた。
めちゃくちゃにしたいなんて言っていたけど、ユートはとても優しく、丁寧に私を抱いてくれた。
溶けてしまうんじゃないかと思うほど熱心に私の身体を拓いてくれたし、数え切れないほどのキスをしてくれた。あまりに気持ちが良かったので、ひっきりなしに喘いでいたら、「ここ、壁薄いからちょっと静かにね」と笑いながら注意されてしまったくらいだ。
とにかく、デートもそのあとの性行為も最高だった。
あぁ! ユートが次に来てくれるのは四日後か。待ち切れないぞ。早くユートに会いたいな。
そんなことを思いながら、再びデレデレと締まりのない表情をしてしまった。
ミストは若干引いている。それからハァーっとため息をついた。
「とにかく、仕事はちゃんとやって下さいね」
「あぁ、もちろんだ」
私は書類の一枚を手に取り、ニコニコと内容を確認したのだった。
※※※※
昼になり、そろそろ昼ごはんを食べようかと思ったところで、その者は突然現れた。
「魔王! 久しぶりじゃのう!」
勢いよく扉を開けて、筋肉隆々の男が入って来たのだ。
私は一瞬驚いたが、その者を確認して、すぐに顔を顰めた。
龍国の王、イワルゴスだ。
イワルゴスが、また約束もなしに突然私の部屋にやって来たのだ。しかも、今日は一人じゃない。イワルゴスの後ろには、一人の女が立っていた。
知っている顔だ。腰まである父親譲りの赤い髪。人形のように美しい顔立ち。庇護欲をそそられる華奢な身体。
レイナだ……。
イワルゴスの一人娘のレイナまでいる。
そこで私はハッとした。
そう言えば、この前イワルゴスが訪ねて来たとき、レイナと夫婦になれとか言っていたな。
一度顔合わせがしたいから、魔王城に連れてくるとも言っていた。
驚いた……。本当に連れてくるとは思わなかったぞ。
ま、まさか……! 本気で私とレイナを夫婦にしようとしているのか!?
私が顔を引きつらせ、タラリと冷や汗をかいていたら、二人が近付いてきた。
「魔王!! 約束通り、レイナを連れて来たぞ!」
「約束なんかしてないだろ……」
「照れるな照れるな! さぁ、レイナと一緒に街に出掛けろ! それで距離を縮め、ゆくゆくは夫婦になるんじゃ!」
「無茶苦茶なことを言うなよ……。それに今、私は仕事中だ」
「仕事なんかどうでもいい!――なぁ? ミストよ?」
いきなり名前を呼ばれたミストは、ビクッと身体を震わせた。
「え……えーっと。そうですねぇ。仕事はあとに回してもいいかもしれませんね……」
この裏切り者! ミストなら「ダメです!」とビシッと言ってくれると思ったのに。
ミストは声の大きい者が苦手なのだ。
イワルゴスはバカみたいに大声で話すので、たじろいでしまったのだろう。
私はじとーっとミストを睨んでから、イワルゴスに視線を戻す。
「大体、いきなりすぎるぞ。私とレイナは二、三回しか顔を合わせたことがないのだぞ? それで突然結婚などと言われたら、レイナも困るだろう。レイナが可哀想だ。レイナは私など眼中にないのだ。――な? レイナ」
私がイワルゴスの後ろにたたずむレイナに会話を振ると、レイナはモジモジと身体を揺らした。
どうやら緊張しているようだ。イワルゴスとはエライ違いだな。本当に、大人しい娘だ。
レイナはほんのり頰を朱に染めながら、ポソポソと小さな声で話し始めた。
「わ、私は嫌ではありません」
「え?」
「魔王様の妻になることは、名誉なことだと思います……。もし、魔王様がお嫌でなかったら、少し私と話をしませんか……?」
「!!」
内気なレイナがこんなことを言うなんて……。
私は仰天した。
イワルゴスは、がはは!! と大きな声で笑い始めた。
「どうじゃ魔王!? レイナは乗り気じゃぞ? お前も照れてぐちぐち言い訳する暇があるのなら、レイナを見習え!!」
まさかレイナにその気があるとは……。
ま、まずい……。このままではイワルゴスに押し切られてしまうかもしれない。
私は今更ながら焦り始めたのだった。
「魔王様……。一体どうなされたのですか? 人間界に行ってからというもの、気が付くとニヤニヤ笑っておられる……。ハッキリ言って、気味が悪いですよ?」
「おぉ、すまんすまん。気を付ける」
だって思い出すだけでニヤけてしまうのだ。
あの日……、ユートとニッポンデートをした日。
色々あったが、最後にユートは私を抱いてくれた。
めちゃくちゃにしたいなんて言っていたけど、ユートはとても優しく、丁寧に私を抱いてくれた。
溶けてしまうんじゃないかと思うほど熱心に私の身体を拓いてくれたし、数え切れないほどのキスをしてくれた。あまりに気持ちが良かったので、ひっきりなしに喘いでいたら、「ここ、壁薄いからちょっと静かにね」と笑いながら注意されてしまったくらいだ。
とにかく、デートもそのあとの性行為も最高だった。
あぁ! ユートが次に来てくれるのは四日後か。待ち切れないぞ。早くユートに会いたいな。
そんなことを思いながら、再びデレデレと締まりのない表情をしてしまった。
ミストは若干引いている。それからハァーっとため息をついた。
「とにかく、仕事はちゃんとやって下さいね」
「あぁ、もちろんだ」
私は書類の一枚を手に取り、ニコニコと内容を確認したのだった。
※※※※
昼になり、そろそろ昼ごはんを食べようかと思ったところで、その者は突然現れた。
「魔王! 久しぶりじゃのう!」
勢いよく扉を開けて、筋肉隆々の男が入って来たのだ。
私は一瞬驚いたが、その者を確認して、すぐに顔を顰めた。
龍国の王、イワルゴスだ。
イワルゴスが、また約束もなしに突然私の部屋にやって来たのだ。しかも、今日は一人じゃない。イワルゴスの後ろには、一人の女が立っていた。
知っている顔だ。腰まである父親譲りの赤い髪。人形のように美しい顔立ち。庇護欲をそそられる華奢な身体。
レイナだ……。
イワルゴスの一人娘のレイナまでいる。
そこで私はハッとした。
そう言えば、この前イワルゴスが訪ねて来たとき、レイナと夫婦になれとか言っていたな。
一度顔合わせがしたいから、魔王城に連れてくるとも言っていた。
驚いた……。本当に連れてくるとは思わなかったぞ。
ま、まさか……! 本気で私とレイナを夫婦にしようとしているのか!?
私が顔を引きつらせ、タラリと冷や汗をかいていたら、二人が近付いてきた。
「魔王!! 約束通り、レイナを連れて来たぞ!」
「約束なんかしてないだろ……」
「照れるな照れるな! さぁ、レイナと一緒に街に出掛けろ! それで距離を縮め、ゆくゆくは夫婦になるんじゃ!」
「無茶苦茶なことを言うなよ……。それに今、私は仕事中だ」
「仕事なんかどうでもいい!――なぁ? ミストよ?」
いきなり名前を呼ばれたミストは、ビクッと身体を震わせた。
「え……えーっと。そうですねぇ。仕事はあとに回してもいいかもしれませんね……」
この裏切り者! ミストなら「ダメです!」とビシッと言ってくれると思ったのに。
ミストは声の大きい者が苦手なのだ。
イワルゴスはバカみたいに大声で話すので、たじろいでしまったのだろう。
私はじとーっとミストを睨んでから、イワルゴスに視線を戻す。
「大体、いきなりすぎるぞ。私とレイナは二、三回しか顔を合わせたことがないのだぞ? それで突然結婚などと言われたら、レイナも困るだろう。レイナが可哀想だ。レイナは私など眼中にないのだ。――な? レイナ」
私がイワルゴスの後ろにたたずむレイナに会話を振ると、レイナはモジモジと身体を揺らした。
どうやら緊張しているようだ。イワルゴスとはエライ違いだな。本当に、大人しい娘だ。
レイナはほんのり頰を朱に染めながら、ポソポソと小さな声で話し始めた。
「わ、私は嫌ではありません」
「え?」
「魔王様の妻になることは、名誉なことだと思います……。もし、魔王様がお嫌でなかったら、少し私と話をしませんか……?」
「!!」
内気なレイナがこんなことを言うなんて……。
私は仰天した。
イワルゴスは、がはは!! と大きな声で笑い始めた。
「どうじゃ魔王!? レイナは乗り気じゃぞ? お前も照れてぐちぐち言い訳する暇があるのなら、レイナを見習え!!」
まさかレイナにその気があるとは……。
ま、まずい……。このままではイワルゴスに押し切られてしまうかもしれない。
私は今更ながら焦り始めたのだった。
3
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました
志麻友紀
BL
「聖女アンジェラよ。お前との婚約は破棄だ!」
そう叫んだとたん、白豚王子ことリシェリード・オ・ルラ・ラルランドの前世の記憶とそして聖女の仮面を被った“魔女”によって破滅する未来が視えた。
その三ヶ月後、民の怒声のなか、リシェリードは処刑台に引き出されていた。
罪人をあらわす顔を覆うずた袋が取り払われたとき、人々は大きくどよめいた。
無様に太っていた白豚王子は、ほっそりとした白鳥のような美少年になっていたのだ。
そして、リシェリードは宣言する。
「この死刑執行は中止だ!」
その瞬間、空に雷鳴がとどろき、処刑台は粉々となった。
白豚王子様が前世の記憶を思い出した上に、白鳥王子へと転身して無双するお話です。ざまぁエンドはなしよwハッピーエンドです。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる