【完結】みにくい魔王は恋をする〜パンツ一丁で召喚されたダメ男は、魔王の救世主だった〜

チョロケロ

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第十七話 幻の果実ナトゥフ

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 イワルゴスにレイナの花嫁姿を見せてやりたい。そのためには結婚しなければならない。
 だが、結婚したらユートが嫌がる。
 どうすればいいのだ? 八方塞がりだ。なにか良い案はないだろうか? 私がううむ……と唸り頭を抱えていたら、ミストが口を開いた。

「魔王様。とりあえず結婚した方がいいと思います。イワルゴス様が亡くなったら、結婚を解消すればいいのです。そうすればユート様も満足でしょう?」

 ミストの言葉に、ユートは目を丸くした。

「亡くなる……? どういうこと?」

 あぁ……。そう言えばユートは事情を知らなかったのだった。
 一応説明しておこう。

 私はイワルゴスが不治の病で、死ぬ前に娘の花嫁姿が見たいと言ったこと。その願いを叶えるために結婚することにしたこと。病気を治すためには幻の果物ナトゥフが必要だが、見つからなかったことなどを語った。
 話を聞き終えたユートは真剣な表情をして、うーん……と唸った。

「そっかぁ……。そんな理由があったのかぁ。それじゃあ結婚をやめろなんて言えないね」
「そうだろう? イワルゴスのために、私が結婚するしか道がないのだ」
「うーん……。そうだよね。でもなぁ……」

 ユートは歯切れが悪い。
 やっぱりちょっと嫌なのだろうか? 嬉しいような困るような複雑な心境だ。

「幻の果実は本当に無かったの?」

 幻の果実ナトゥフ。龍国に伝わる万病に効く果物だ。
 そう、それさえあれば私もレイナも結婚などしなくてすむのだ。
 レイナと話したあと、私もナトゥフを探してみた。魔王城の図書室に行き、ナトゥフについての本を読み漁ったのだ。だが、収穫はゼロ。
 結論から言うと、レイナの予想通り、ナトゥフは魔界には存在しない果物だということが分かっただけだ。

「残念だが、どこにも無かった……」
「ふーん。そうなんだ……。ナトゥフってさ、どんな果物なの?」
「うむ。色は黄色。細長い形状で四、五本のふさになっているそうだ。皮を剥くと、クリーム色の実が出てくる。味はとても濃厚で、甘いそうだ」
「そ、それって……」
「?」
「いや、まさかな。一応確認するけど、そのナトゥフって果物の図解とかある?」
「うむ。ナトゥフについて詳しく書かれた書籍があるのだ。今持って来させよう」

 私はミストに頼み、図書室からナトゥフに関することが書かれた書籍を持ってこさせた。
 ページをめくり、目的の図解を見せる。

「これだ。これがナトゥフだ」
「……」

 ユートは図解を見て叫んだ。

「これ、バナナじゃん!!」
「「!?」」

 バナナ? 何を言っているのだ? 訳が分からなくて、私とミストは顔を見合わせた。
 ユートは興奮したようにナトゥフの図解を指差す。

「これどう見てもバナナだよ! 魔界にはバナナってないの?」
「バナナ……? そんな食べ物は聞いたことがない」
「人間界のスーパーに普通に売ってるんだよ。値段もあまり高くない。栄養たっぷりで、庶民のお財布にも優しい人気の果物だ」
「「!!」」

 なんと……! 人間界ではナトゥフのことをバナナと呼んでいるのか? しかも、普通に買える果物だと!? 幻ではないのか!?

「俺! ちょっと人間界戻ってバナナ買ってくるよ!」
「おぉ、頼む!」

 こうしてユートはバナナを買いに、一度人間界に戻ったのだった。

※※※※

 しばらくすると、ユートが人間界から戻ってきた。
 手には黄色の果実を持っている。

「これがバナナだよ」
「「!!」」

 私とミストは驚きのあまりあんぐりと口を開けた。
 た、確かに書籍に記載されていた特徴と一致している!

「味も甘いんだよ。食べてみな」

 そう言ってユートはナトゥフの皮を剥き、私たちに食べさせた。

「ほ、本当だ! なんという甘さだ!」
「魔王様! 間違いありません! これがナトゥフです!」

 な、なんということだ!!
 灯台下暗しとはこのことだ。魔界にばかり目を向けていたが、まさか幻の果実が人間界にあったとは!

「ユート! そのナトゥフを私たちに譲ってくれないだろうか!? 報酬はいくらでも払うから!」
「いいよ払わなくて。さっきも言ったけど、本当にバナナはどこにでも売ってるし、値段もお手頃価格なんだ」

 そう言って、ユートは「はい」と言って私にナトゥフを渡してくれた。
 私とミストは感動のあまり、目を潤ませる。

「ミスト……。ついに、ついに幻の果物が手に入った! これでイワルゴスは助かるぞ!」
「そうですね魔王様! 良かった……。本当に良かった!」

 私たちのやり取りを見ながら、ユートが苦笑した。

「本当に良かったね。でも、バナナが魔界では幻の果実だなんてびっくりだよ。文化の違いって面白いね」
「そうだな。私もそれについては驚いている。例えばユートは宝石を欲しがるが、魔界では宝石など大した価値はないのだ。そこら辺の山や洞窟にゴロゴロ転がっている」
「えー!? そうなの!?」

 本当に、文化の違いとは面白いな……。
 私たち三人はしみじみと思ったのだった。
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