魔王様は意地悪

チョロケロ

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第一話 ノリアス

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 メイリーは俺の幼馴染だ。
 幼い頃のメイリーはクリクリした瞳とおさげ髪が可愛い女の子だった。
 俺たちのガキの頃の目標は、『打倒魔王!』だ。
 魔王はここから遠く離れた地に居住を構える悪しき存在だ。
 どういうところが『悪』なんだ? って聞かれたら、正直難しい。俺が産まれた時から魔王は悪い奴だって聞かされていたし、学校の授業でも『悪』だって習った。
 魔王は魔族らしいから、それが『悪』だと言われる原因なのかもしれない。でも、俺たちは魔族になにかされたわけでもないんだけどな。
 なにが本当の悪なのか、考えるのが面倒くさい。本当は、魔族と言うだけで悪者扱いする人間の方が悪なのかもしれない。
 いや、悪について考え出すとキリがない。とにかく人間が悪とみなしたのなら、倒すべきなんだよ!
 俺とメイリーはそう結論づけて今日まで必死に修行してきた。

 十七歳になり、メイリーは賢者、俺は戦士となった。
自画自賛だけど、俺たちは結構強い方だと思う。
 なぜかと言うと、王都で行われる武闘大会で優勝したからだ。自信が付いた俺たちは、そろそろいい頃だろうと判断して村を出た。目的はもちろん、魔王討伐だ。
 半年ほど二人で旅をして、ついに目標である魔王城に辿り着いた。
 緊張しながら魔王のいる最上階まで歩いてゆき、思い切り扉を開けた。

「魔王!! お前の悪行もここまでだ! 今こそ正義の力で滅ぶべし!」

 やったぜ。散々練習した口上も決まったなと思いながら、キリリと部屋の中を見つめる。
 部屋の中には細工の施された高級そうな椅子が置いてあり、そこにデーンと魔王らしき男が座っていた。
 俺は男の顔を見て、内心ギョッとした。
 なぜかと言うと、もの凄い美形だったからだ。
 腰まである黒髪に赤い瞳。彫りが深く、鼻筋はスッと通っている。正直、こんな美形は見たことない。あまりの美形っぷりにビビっていたら、隣に立つメイリーがポツリとつぶやいた。

「綺麗……」

 メイリーは取り憑かれたようにフラフラと魔王の元に歩いて行った。
 なんだか分からないけど急いで俺も後を追いかける。
 ついでに腰に下げていた剣を引き抜いた。

「滅ぶべし! 魔王!」

 フラフラと歩くメイリーを追い越して、魔王に斬りかかろうとしたその時だった。
 魔王が、バカにしたようにフッと笑ったのだ。
 魔王は形の良い唇を弧にして、静かに口を開いた。

「また勘違いしたバカが来おった」

 バカと言われてカチンときた俺は、脚に力を入れてその場に踏みとどまった。

「誰がバカだ!!!」
「なんだ? バカなのを気にしているのか? 気に障ったのならすまんな」

 ムカつくな……コイツ。
 本当に小馬鹿にされているような気になった俺は、イライラと剣を構えた。
 すると、俺の後ろを歩いていたメイリーが追い付いてきた。メイリーは俺の隣で立ち止まると、その場にぺしゃりとひざまずいた。

「愛しき魔王様! 貴方に忠誠を捧げます!」
「!?」

 メイリーの言葉に俺は度肝を抜かれた。なに言ってるんだ!? メイリー……。
 慌ててメイリーに駆け寄る。

「メイリー!? どうしたんだ!?」
「魔王様、私を貴方のしもべにしてください!」
「なに言ってるんだよ!」

 ヤバい……。魔王のやろう、魅了魔法でも使ったのかな? メイリーがおかしくなってしまった。
 メイリーは、まるで恋する乙女のようにうっすら頬を染め、うっとりと魔王を見つめている。
 なんだよ……。そんな表情で魔王を見るなよ……。

 メイリーの表情を見て、俺は焦りと悔しさがごちゃ混ぜになった。
 
 俺はメイリーに惚れているのだ。ガキの頃からメイリーにしか興味がない。そんなメイリーが、他の男にこんな表情を見せているのだ。
 冷静でいられるわけがなかった。
 俺はメイリーの肩を掴み、正気にさせようとガクガクと揺さぶった。

「メイリー! しっかりしろよ! 魅了魔法なんかに負けるな!」

 それを聞いていた魔王がふふっと笑った。

「悪いが、私は魅了魔法なんて使っていないぞ? その女が勝手に私を見て股を濡らしているのだ」
「テメェ……!」

 メイリーを侮辱された俺はカッとなった。
 魔王の向かって思い切り剣を振り上げる。
 頭上から真っ二つに切り裂かれる姿が脳裏に浮かんだが、実際は違った。
 魔王の頭に剣が触れた瞬間、バキンッと音を立てて折れたのだ。

「なにをする。痛いではないか」

 ニヤニヤ笑っていることから、痛いわけがないのは一目瞭然だった。
 コイツ……何という強度だ。剣が届かない。硬すぎる……。
 剣が効かないのなら、魔法で戦うしかない。だが、魔法が使えるメイリーはこんな状態だ。
 正直、打つ手がなかった。ダメだ……勝てない……。
 俺はこの瞬間、敗北を悟った。
 悔しいが、いつまでもここに留まっているわけにはいかない。ここにいたら魔王に殺されてしまう。
 すぐに逃げようとメイリーの腕を引っ張ったのだが、メイリーはテコでも動かなかった。

「なにやってるんだよ! メイリー! 逃げるぞ!」
「あぁ……魔王様。抱いてください……!」

 俺は悔しさのあまり顔を歪めた。
 嫌だ。そんなこと言わないでくれ!
 メイリーはそんなこと言う子じゃない!
 知的で優しくて、芯の強い女の子なんだ!
 俺が修行が辛くて逃げ出そうとした時、『根性無し!』と言ってほおを引っ叩いてくれた。
 頭の悪い俺に、嫌な顔一つせずに勉強を教えてくれた。
 俺が風邪を引いた時は、付きっきりで看病してくれた!
 メイリーは素晴らしい女の子なんだ!
 魔王になんてひざまずかない。しもべにして欲しいなんて言わない。抱いてくださいなんて言わない!

 俺はそんなことを言うメイリーが哀れで、じわっと目頭が熱くなった。

「メイリー! そんなこと言っちゃダメだ……! 頼むから、言わないでくれ……!」

 ガクガクとメイリーの肩を揺らしながら、必死に叫ぶ。
 魔王はそんな俺たちを興味深そうに眺め、ポツリとつぶやいた。

「お前、面白いなぁ」

 面白いと言われて腹が立った俺は、必死の形相で魔王を睨む。すると、魔王と目が合った。
 魔王は心の底から楽しそうに俺に笑いかけたのだった。
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