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第二話 ノリアス
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気さくに笑いかけてきた魔王が腹立たしくて、俺はキレた。
「なに笑ってんだよ!! メイリーを元に戻せよ!!」
「ふふ……。だから私はなにもしていないと言っているだろう? その女に直接聞いてみろよ」
「メイリーに聞いたって分かるわけないだろ! 魅了魔法は、かけられた本人は自覚ねーんだから!」
俺の言葉を聞いて、今までうっとりと魔王を眺めていたメイリーが、『いいえ』とハッキリ反論した。
「ノリアス。私、本当に魅了魔法になんてかかってないわよ。ただ、魔王様の美しさに心の底から痺れただけ」
「嘘だ!」
魅了魔法にかかってないのにこの状態ならなお悪い。
まだかかっていた方がマシだ!
俺は泣きたくなるのをこらえて、もう一度ガクガクとメイリーの肩を揺さぶった。
「メイリー。しっかりしてくれ! 一緒に魔王を倒そうって約束しただろう!?」
「ごめんなさい。でも、貴方との約束なんて、もうどうでも良くなっちゃった。私、魔王様と一緒にいたい。下品だけど、抱いて欲しいって言ったのも本音よ」
メイリーはしっかり俺の目を見据えてそんなことを言った。その瞳は、とても正気を失ったものには見えなかった。
俺は確信した。
メイリーは、本気で言っている。
本気で魔王に惚れちゃったんだ。本気で俺のことなんてどうでも良くなっちゃったんだ。
あの清廉なメイリーが、どうして……!?
メイリーを魔王に盗られたような気持ちになった俺は、情け無いがボロボロと男泣きした。
「ぞんなごと言うなよぉ……。魔王をだおずって約束しだだろう……?」
メイリーは軽蔑したように顔をしかめた。
「泣かないでよ。ノリアス、ちょっと気持ち悪いわ。――そう思いますよね? 魔王様?」
そう言ってメイリーはもう一度キラキラした表情で魔王を見つめた。今は魔王なんて見たくなかったけど、メイリーの視線に釣られて、つい俺もそちらへ顔を向けてしまった。
魔王は口元を手で隠し、笑いを押し殺していた。
「いや……。実はちょっと可愛いと思ったぞ?」
「!!」
メイリーは『え?』と不思議そうな声を上げたが、俺は馬鹿にされたと思って猿のように真っ赤になった。
「テメェ……!!」
さっき思い切り敗北したくせに、また魔王に向かって走って行った。一発ぶん殴れたら死んでもいいと思ったのだ。だが、俺の拳はやすやすとかわされてしまう。
「やめろ。そう言う馬鹿っぽいところもちょっと可愛いと思ってしまうのだ」
「~~~!!!」
あまりの怒りで声すら出なかった。
本当に、馬鹿にされている!
悔しい悔しい悔しい!!
悔しくて死にそうになった俺は、その場でダンダンと地団駄を踏んだ。
すると、それを見ていたメイリーが冷たい視線を向けた。
「ノリアス。いい加減になさい。魔王様に手を上げるなんて万死に値する。これ以上失礼な行動を取るのなら、私が相手をするわ」
「メ、メイリー……」
動揺する俺の横で、魔王が大笑いを始めた。
「なんなのだお前らは! 私を笑わせたいのか!? 勝手に喧嘩をするな!」
「はっ! 申し訳ございません! 魔王様!」
メイリーがひざまずくのを見て訳が分からなくなってきた。メイリー……本当どうしちゃったんだ?
メイリーになんと声をかけていいのか分からない。
いや……分からないじゃダメだ。メイリーが本気で魔王に惚れてるんだとしても、ここは連れ帰るべきだ。それが、仲間ってもんだ。
俺は泣きながらメイリーに懇願した。
「メイリー……。もう帰ろう?」
「嫌よ。一人で帰って。――魔王様、どうかご慈悲を。魔王様と共に生きる権利を私に与えてください……」
魔王はふむ……と口に手を当てた。
「そうだなぁ……。――お前はどう思う? 私にこの女を盗られて悔しいか? 奪い返したいと思うか?」
いきなり俺に話を振られてビビった。なぜ俺に聞くんだよ。困惑したがそんな素振りは見せず、俺は信念を持って叫んだ。
「あぁ!! メイリーを取り戻すまで、俺は諦めない! 何度だってここに来て、メイリーを説得してやる!!」
俺の言葉に、魔王はニコリと微笑んだ。
小馬鹿にしたような笑いではなく、本当に嬉しそうな笑みだったのでちょっと戸惑った。
「そうか。――では女、仲間にしてやる」
メイリーの表情がパァッと明るくなった。
「有り難き幸せ!!」
そう言ってひざまずくのを、俺は涙を流しながら見ていることしかできなかった。
畜生……。メイリーが魔王の仲間になっちまった。
俺が不甲斐ないばかりに……。畜生畜生!!
メイリーは嬉しそうに魔王の右手を取ると、忠誠の証としてうやうやしく口付けている。
それが済むと、冷たい表情で俺を睨んだ。
「じゃあノリアス。もう帰ってくれない? 悪いけど、貴方邪魔よ」
魔王が再び笑い出したので、耐えられなくなった俺は、惨めに敗走したのだった。
「なに笑ってんだよ!! メイリーを元に戻せよ!!」
「ふふ……。だから私はなにもしていないと言っているだろう? その女に直接聞いてみろよ」
「メイリーに聞いたって分かるわけないだろ! 魅了魔法は、かけられた本人は自覚ねーんだから!」
俺の言葉を聞いて、今までうっとりと魔王を眺めていたメイリーが、『いいえ』とハッキリ反論した。
「ノリアス。私、本当に魅了魔法になんてかかってないわよ。ただ、魔王様の美しさに心の底から痺れただけ」
「嘘だ!」
魅了魔法にかかってないのにこの状態ならなお悪い。
まだかかっていた方がマシだ!
俺は泣きたくなるのをこらえて、もう一度ガクガクとメイリーの肩を揺さぶった。
「メイリー。しっかりしてくれ! 一緒に魔王を倒そうって約束しただろう!?」
「ごめんなさい。でも、貴方との約束なんて、もうどうでも良くなっちゃった。私、魔王様と一緒にいたい。下品だけど、抱いて欲しいって言ったのも本音よ」
メイリーはしっかり俺の目を見据えてそんなことを言った。その瞳は、とても正気を失ったものには見えなかった。
俺は確信した。
メイリーは、本気で言っている。
本気で魔王に惚れちゃったんだ。本気で俺のことなんてどうでも良くなっちゃったんだ。
あの清廉なメイリーが、どうして……!?
メイリーを魔王に盗られたような気持ちになった俺は、情け無いがボロボロと男泣きした。
「ぞんなごと言うなよぉ……。魔王をだおずって約束しだだろう……?」
メイリーは軽蔑したように顔をしかめた。
「泣かないでよ。ノリアス、ちょっと気持ち悪いわ。――そう思いますよね? 魔王様?」
そう言ってメイリーはもう一度キラキラした表情で魔王を見つめた。今は魔王なんて見たくなかったけど、メイリーの視線に釣られて、つい俺もそちらへ顔を向けてしまった。
魔王は口元を手で隠し、笑いを押し殺していた。
「いや……。実はちょっと可愛いと思ったぞ?」
「!!」
メイリーは『え?』と不思議そうな声を上げたが、俺は馬鹿にされたと思って猿のように真っ赤になった。
「テメェ……!!」
さっき思い切り敗北したくせに、また魔王に向かって走って行った。一発ぶん殴れたら死んでもいいと思ったのだ。だが、俺の拳はやすやすとかわされてしまう。
「やめろ。そう言う馬鹿っぽいところもちょっと可愛いと思ってしまうのだ」
「~~~!!!」
あまりの怒りで声すら出なかった。
本当に、馬鹿にされている!
悔しい悔しい悔しい!!
悔しくて死にそうになった俺は、その場でダンダンと地団駄を踏んだ。
すると、それを見ていたメイリーが冷たい視線を向けた。
「ノリアス。いい加減になさい。魔王様に手を上げるなんて万死に値する。これ以上失礼な行動を取るのなら、私が相手をするわ」
「メ、メイリー……」
動揺する俺の横で、魔王が大笑いを始めた。
「なんなのだお前らは! 私を笑わせたいのか!? 勝手に喧嘩をするな!」
「はっ! 申し訳ございません! 魔王様!」
メイリーがひざまずくのを見て訳が分からなくなってきた。メイリー……本当どうしちゃったんだ?
メイリーになんと声をかけていいのか分からない。
いや……分からないじゃダメだ。メイリーが本気で魔王に惚れてるんだとしても、ここは連れ帰るべきだ。それが、仲間ってもんだ。
俺は泣きながらメイリーに懇願した。
「メイリー……。もう帰ろう?」
「嫌よ。一人で帰って。――魔王様、どうかご慈悲を。魔王様と共に生きる権利を私に与えてください……」
魔王はふむ……と口に手を当てた。
「そうだなぁ……。――お前はどう思う? 私にこの女を盗られて悔しいか? 奪い返したいと思うか?」
いきなり俺に話を振られてビビった。なぜ俺に聞くんだよ。困惑したがそんな素振りは見せず、俺は信念を持って叫んだ。
「あぁ!! メイリーを取り戻すまで、俺は諦めない! 何度だってここに来て、メイリーを説得してやる!!」
俺の言葉に、魔王はニコリと微笑んだ。
小馬鹿にしたような笑いではなく、本当に嬉しそうな笑みだったのでちょっと戸惑った。
「そうか。――では女、仲間にしてやる」
メイリーの表情がパァッと明るくなった。
「有り難き幸せ!!」
そう言ってひざまずくのを、俺は涙を流しながら見ていることしかできなかった。
畜生……。メイリーが魔王の仲間になっちまった。
俺が不甲斐ないばかりに……。畜生畜生!!
メイリーは嬉しそうに魔王の右手を取ると、忠誠の証としてうやうやしく口付けている。
それが済むと、冷たい表情で俺を睨んだ。
「じゃあノリアス。もう帰ってくれない? 悪いけど、貴方邪魔よ」
魔王が再び笑い出したので、耐えられなくなった俺は、惨めに敗走したのだった。
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