魔王様は意地悪

チョロケロ

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第三話 メイリー

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 ノリアスは私の幼馴染。
 幼い頃のノリアスは声が大きくて溌剌はつらつとした男の子だった。
 私たちの子供の頃の目標は、『打倒魔王!』だった。

 魔王様になにかされた訳ではない。
 でも、人間には『悪者』が必要なのよ。誰かを悪者にしなければ、人間同士は争いを始めてしまう。悪者に怯えているうちは、悪者を倒そうと一致団結出来るでしょう? つまり、魔王様は人間に『悪者』と言う役割を押し付けられたのだ。
 私は幼い頃からなんとなくそのことに気付いていた。
 それでも魔王様を倒そうと思ったのは、ノリアスがキラキラした表情で魔王様を倒そうと語っていたから。
 ノリアスは私にとって弟のような存在だったのだ。
 弟が一生懸命夢を語る姿を見たら、応援してあげたくなるでしょう?
 私が魔王様に挑む理由なんて、その程度だったのだ。

 だけど、魔王様の姿を始めて拝見したとき、そんな優しい気持ちは吹っ飛んだ。

 魔王様……。美しい人……。
 今まで見たどんな人間よりも美しい。私は一瞬で心を奪われてしまった。
 ノリアスはそんな私を見て、魅了魔法にかかっていると言った。ふふ……。魅了魔法だったらどれほど良かったことか。魅了魔法ならいつかは効力を失う。
 だけど、私の魔王様に対する想いは日々大きくなってゆくばかり。魔王様のためなら死んでもいい。本気でそう思っているの。
 これが、恋と言うものなのね。魔王様のことを想うと胸が苦しくておかしくなってしまうけど、私はそんな自分のことが嫌いじゃない。ノリアスと過ごしていたときより、ずっと人間らしいと感じるから。

※※※※

 魔王様の配下にしていただいたその日から、私には一室が与えられた。
 正直、魔王様は私のことを気に入って下さったのかと思った。気に入って下さったから、配下にしていただいたのかと。
 だから私は毎日身体を清潔にして、魔王様がいらっしゃるのを心待ちにしていた。
 だけど、待てど暮らせど魔王様がやって来ることはなかった。
 魔王様が恋しいけど、自分から会いにゆくことなんて出来ない。流石にそこまで図々しくはなれないわ。
 だから私は悶々とした想いを胸に抱え、一日一日を過ごしていた。
 そんなときだった。
 突然魔王様が私の部屋にやって来たのだ。
 魔王様は私を連れて、最初に私たちが出逢った『魔王の間』に向かっていた。
 魔王様は美しい顔を綻ばせて、私を見つめた。

「おい、女。あいつが来たぞ」

 私はうっとりしながら答えた。

「あいつ?」
「お前に惚れているあの男だよ。名前はなんと言うのだ?」
「ノリアスのことですか?」

 私はノリアスに対して不快な気持ちになった。
 だってノリアスが私に恋をしていることが、魔王様にバレているんですもの。
 そう……。私はノリアスの気持ちをずっと前から知っていた。知っていたけどどうしても弟以上に見れないから、気付かないフリをしていたのだ。
 ノリアスが私のことを好きだと知って、魔王様はどう思われたのだろう? お似合いだななんて思われていたらどうしよう。今すぐ首を切りたい気分だわ。
 私は魔王様がなにか言う前に慌てて口を開いた。

「ノリアスは私に気があるようですが、私の心は魔王様のものです」
「そうか。お前の心はどうでも良い」

 私の心はすうっと冷たくなった。魔王様は私の心などどうでも良いの?
 そう言えば、ノリアスの名前は知りたがったくせに、私の名前など聞きもしない。
 魔王様にとって、私はその程度の存在なのかしら?
 失礼にあたると思ったが、モヤモヤした気持ちになった。そんな私の気持ちなどつゆ知らず、魔王様は再び口を開いた。

「ふふ……。アイツはノリアスと言うのか。名前も馬鹿そうだな。名はていを表すと言う。アイツにピッタリだな」

 そう言って楽しそうに笑ったのだ。
 魔王様の微笑みを見て、私の心が焼け付くように傷んだ。
 なぜって?
 それは魔王様は私を見て微笑んだのではなく、あの馬鹿……ノリアスを思い出して微笑んだからだ。
 魔王様に質問を投げかけるなど、失礼にあたる。
 だが、聞かずにはいられなかった。

「魔王様……。なぜノリアスを思い出して微笑むのですか?」

 魔王様は無邪気にニコニコと答えた。

「私はアレを気に入っているのだ。アレは可愛い。あのような馬鹿を見ると、でたくなってしまうのだ。いや、虐めたくなってしまうとも言うかな? とにかく気を引きたくなってしまうのだ。だから女、私に協力しろ。私の言ったことに口裏を合わせるのだぞ? 良いな?」

 魔王様の言葉を聞いた瞬間、ノリアスに対して激しい殺意を覚えた。
 あんな馬鹿にどうして……!?
 魔王様は賢いお方だから、バカを見ると可愛くなってしまうのかしら……? いいえ、そんな馬鹿な……!
 ノリアスが憎い……! 魔王様に気に入られたノリアスが憎い……! 憎すぎて、私はノリアスを滅多刺しにする想像をした。それでも気が済まなくて、悔しくて、涙がにじんだ。
 魔王様はそんな私を無視して楽しそうにノリアスについて語っている。
 ノリアスが泣いたときは、大喜びしたくせに……。

 この気持ちの名前は知っている。
『嫉妬』と言うのだ。
 認めたくないけど、私はノリアスに嫉妬している。
 魔王様……どうか目を覚ましてください。
 あのバカは、本当にただのバカなのです。
 私の方がずっと魔王様を愛しているのです。
 だから魔王様……どうか……どうか……ノリアスのことなんて殺してください。

 私は一筋の涙をこぼしながら、必死に願ったのだった。
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