歳上公爵さまは、子供っぽい僕には興味がないようです

チョロケロ

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第五話 そこ気にする!?

 え? モーリス様、今僕のことを愛しているって言ったの?
 僕の脳内で天使たちが飛び回る。天使たちは楽器を吹き鳴らし、『オメデトーオメデトー』と僕を祝福した。
 い、いや……! まだ喜ぶのは早いぞ! 僕の勘違いの可能性もある。脳内天使たちよ、落ち着け!
 僕はブルブル頭を振ってから、脳内天使たちを追い出した。

「嘘だ! モーリス様は僕のことなんか嫌いなんだ。だから抱いてくれないし、寝室を別にしようなんて言ったんだ!」
「あぁ……、セルビット。ごめんよ。それらのことについて言い訳をさせてほしい」

 言い訳? なにか事情があったのかな? だったら聞いてみたい。
 でも、ちょっと聞くの怖いなぁ……。貧乏貴族の身体など、汚らしくて抱く気にならなかったのだ。とか言われたらどうしよう……。
 い、いや! モーリス様はそんなこと言わない! 僕はちょっと被害妄想が激しいのだ。あれやこれや妄想して悩むより、事実だけを受け入れるべきだ。
 そうだそうだ。よし! 理由を聞いてみよう!

 僕は心を落ち着けるために一つ深呼吸をすると、真剣な表情でモーリス様を見つめた。

「分かりました。理由を教えてください」

 モーリス様はコクンとうなずくと、言いづらそうに僕から目を逸らした。

「私が君を抱かなかった理由……。それはね……」

 僕はごくりと喉を鳴らした。

「私が……、中年だから……」
「……え?」
「だから、私が中年だから……」
「……?」

 え? 中年……。つまり、おじさんってこと……?
 僕はモーリス様の答えを聞いても意味が分からなかった。

「おじさんだから、モーリス様は僕を抱いてくれなかったんですか?」

 僕の言葉に、モーリス様はガックリとうなだれた。
 ハッ! おじさんと言う言葉にショックを受けている! 確かに公爵様に面と向かっておじさんは失礼だったかな……。

「も、申し訳ございません。モーリス様」
「いや、いいのだよ……。そうだ、私はおじさんなのだ。そんなおじさんが、若く美しいセルビットに触れるのは申し訳ないと思ってね……」
「モ、モーリス様ったらぁ……!」

 僕はあまりにもくだらない(って言ったら失礼かな)理由に脱力した。
 だってそうだろう?
 貴族社会では年の差婚なんてごまんとあるのだ。
 僕が聞いた話では、十代の娘が六十代の男性に嫁いだなんてのもある。
 それに比べたらモーリス様なんかまだまだお若い。全然気にすることなんて無かったのに……!
 ……まぁ、僕もモーリス様に会う前はおじさんなんて嫌だとか思ってたから、あまり責められないけどね……。
 でもでも! 僕はモーリス様が例え六十代でも大好きなのだ。
 ニコニコ笑ってくれるところとか、僕のくだらない話を真剣に聞いてくれるところとか、優しいところとか大好きなのだ。
 おじさんかどうかなんて関係ない! 僕はモーリス様の全てが好きなのだ!

「モーリス様ぁ。僕は年齢なんて気にしません! モーリス様の全部が大好きなんです。だからモーリス様も、気になさらず僕を好きにしてください!」
「だ、だが……。私はセルビットの父上と同じくらいの年齢じゃないか? 父と子ほど歳の離れたセルビットを抱くなど、許されることではない……」

 確かに僕のお父様は四十歳だ。三十七歳のモーリス様とそんなに変わらない。

「それでもモーリス様のことが大好きなんです。モーリス様ー、もう年齢のことなんて気にしないで?」
「セルビット……」

 感極まったのか、モーリス様の瞳が潤んだ。
 ひ、瞳が潤むほど思い詰めていたのか……。
 僕にとっては年齢差など些細なことだけど、モーリス様にとっては大問題だったんだろうな。
 くだらない理由なんて思ってごめんなさい、モーリス様。
 僕はなぐさめるようにモーリス様を抱き締め、ポンポンと背中を撫でてあげた。
 モーリス様も、僕に応えるようにそっと抱き返してくれる。

「セルビット……。ありがとう、ありがとう……」

 モーリス様は何度も僕に感謝の言葉を述べた。
 そんな感謝されるほどのことは言ってないんだけどな。
 でも、モーリス様が抱き締めてくれるのはすごく嬉しい。頭がフワフワしちゃうよ。

 僕は嬉しさのあまり、ここぞばかりにモーリス様に抱き付き、そのぬくもりを堪能したのだった。

※※※※

 しばらく幸せな気持ちでモーリス様に抱き付いていた僕だが、あることを思い出しハッとした。
 そう言えば寝室を別にしたいと言った理由については聞いてなかった。
 それも年齢差が関係あるのかな? とりあえず、気になったことは全部聞いてみよう。

「モーリス様。そう言えば、なんで寝室を別にしようなんて言ったんですか?」
「あぁ……それはね、今日の君の態度だ」
「態度?」
「君、ピクニックのときかなり無理していただろう? 楽しくもないのに無理に笑って……。それを見て、本当は私とピクニックになど行きたくなかったのだなと思ったのだよ。しかもそのあとの夕食は無言だった。あぁ……つまらないピクニックに誘ったことを怒っているのだな。きっとセルビットは、もう私の顔など見たくないだろう。おじさんの私など好きではないのだ。ならば、寝室を別にしてあげるのがセルビットのためだと思ってね」
「!?」

 モーリス様ってさといなぁ。僕のちょっとした態度の違いに気付いていたんだ。
 無理して笑っていたのは、前の奥様の話を聞いたからだ。それに夕食で無言だったのは、大人っぽい紳士を演出するため。
 あぁ……! 僕の一連の行動が寝室問題の原因だったのか。
 僕は慌ててモーリス様に全てを白状した。
 誤解の解けたモーリス様は、クスクスと笑った。

「そうだったのか。なぜさっき前の妻の話が出たのか不思議だったんだ」
「だって……、モーリス様奥様のこと愛してたんでしょう?」
「まぁ、愛していたが、浮気されたことで気持ちが冷めたよ。今はセルビットに夢中だよ?」

 そう言っていつもの優しい笑みを浮かべたので、僕は有頂天になった。

「じゃあ! じゃあ、僕が子供っぽくても嫌いにならない?」
「もちろんさ! と言うか、そういう幼いところが可愛くてたまらないのだよ。セルビットには、ずっとそのままでいて欲しいと思っているよ?」

 子供っぽくても良いと言われた僕は、嬉しさのあまり『やったー!!』と叫んだ。
 こ、子供っぽいな……。
 でも、モーリス様はそんな僕のことが好きらしいから、これでいいんだ!

「モーリス様、大好き!」

 僕がぎゅうぎゅう抱き付くと、モーリス様はニコニコ微笑み、『私もだよ、可愛いセルビット……』とつぶやき、そっと僕の唇に口付けたのだった。
 
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