女王候補になりまして

くじら

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ゲームスタート

女王候補達

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  今回は登場人物が多数出てきます。
  ご考慮下さい。
 ────────────────────
 鈴の音が鳴った方へ向かうと、既にもう私以外の女王候補達が出揃っていた。
 皆ゲームで見たことのある顔だ。
  
 美少女ばかりである。彼女達の周りだけキラキラしている。

  (あれは…)

 特にキラキラしていたのはやはり主人公だった。
 ゲーム通り、とても戸惑った表情をしていた。

 主人公である彼女の名前はリル・キャロメ。

 金髪の明るい髪色は肩まで伸びており、よく目立つ。
 穏やかなアザーブルーの瞳は戸惑い気に歪んでいた。
 いるだけで、周囲を明るくする主人公。
 彼女の笑顔で攻略対象達は皆救われていた。
 守ってあげたい、そんな衝動に駆られる。
 女の私でもそう思うのだ。男性の人なんて、それ以上に思うだろう。
  
「女王候補様方全員が集合されましたので、お披露目をした後、パレードに移りたいと思います。よろしいですか?」

 使用人の言葉に全員が頷く。

 女王候補全員は壇上に並び、来賓の客に手を振って挨拶をする。
 その場で拍手が沸き起こる。
 出来るだけ営業スマイルをしていると、隣にいた女王候補の一人である、ベルジーナ・リ・メイビーン様に話しかけられた。

「女王候補試験というのはとても面白い行事ですね」

  「え、あ、はい。そうですね」

 彼女はセインティア帝国と最も良好な関係にある帝国、メイビーン帝国の皇女様だ。
  葵色の落ち着いた髪に金のイヤリングやネックレスを身につけている。

 異国の服装なのか、アラジンパンツの様なものを履いて、胸元のみ服を着ている。
 その為、お腹が出ているという事なのだが、白いし括れているしで、全くもって目に毒にはならない。むしろ目の保養だ。

  「フロンティア様はどう思われます?女王候補試験というのは」

「え」 

 突然質問を投げられ、一瞬言葉に詰まる。
 こんな人前でそんな地雷にもなりそうな話をするのか。……人が多すぎるから聞こえはしないと思うが。

 そして私は暫し考え、こう答えた。

「・・・ひとつの越えなければいけない壁、でしょうか」

「まあ。壁ですか?」

「はい。私にとってこれは人生においての一つの関門なので」

 ベルジーナ様はなるほど、と言って微笑む。
 まさしくそれは花笑みだった。

「フロンティア様、エマ様とお呼びしてもよろしいですか?」

「もちろん構いませんよ」

「ふふ、嬉しいわ。エマ様も私の事をどうかベルジーナと呼んで欲しいわ」

「分かりました。ベルジーナ様」

 そう返事をするとベルジーナ様は嬉しそうにこれからよろしくね、と微笑んだ。








「女王候補様ー!!どうかこちらに花束をお投げ下さいませー!」

「女王候補様に万歳!我らが帝国に万歳!」
  
 パレードは多いに盛り上がっていた。
 皇宮への道中で見かけた民衆が持っていた籠はどうやら女王候補達が持つ、花束を受け取る為だった。

 女王候補達が持つ花束を受け取ると、幸せが訪れるという言い伝えがあるからだそう。
 なので女王候補達は沢山の花束をパレードの道が渡り終わるまで、民衆に投げなければいけない。
 勘弁してほしい。こんな山積みの花束、配り終わる訳が無いだろう。

 数が少ないからこそ、レア度が増すものでは無いのか。

 悪態をつきながらも、私は営業スマイルをしながら無心で花束を投げ続けた。









 地獄のパレードが終わると、女王候補は各自、皇宮の自室に案内された。
 部屋で少し休んだ後、また女王候補達に一階の第一ホールへと集合の合図を出すとレジックに通達された。

  「ここが、女王候補様方のお部屋にございます。家具などの欲しい物がございましたら、こちらで用意させていただきます。ですので、一年半の間、どうぞ快適にお過ごし下さいませ」

 そう言って案内人は去っていく。
 その場に残ったのは私を含めた女王候補達だった。

「流石皇宮ね。廊下までも美しいわ」

「はい!そのようです。ですが、エイメン様の美しさには敵いませんわ!」

 そんな会話をしている二人は正に貴族という見た目をしている美女、エイメン・ガレッジ公爵令嬢とその取り巻きのフラビル・ハーネット伯爵令嬢だ。

 二人はよくゲームに登場していたライバルキャラだ。
 王子と恋に落ちた主人公をイジメにイジメ抜く生粋の悪役令嬢様が彼女達の役目。

 女王候補の中で最も地位の低い人間が女王になるのが許せないというプライドで主人公をいじめる。
 正しく悪役令嬢そのものだ。
 ゲームであれば、ルートによってエマもあちら側のキャラになっていた事もあるが、あくまでエマは当て馬だ。
  
 悪役令嬢という立場であっても最期はゲームを盛り上げる為に悲惨な目に遭う。
 悪役令嬢以外にも、殺人事件の被害者にされたり、意中の王子を主人公によって攻略され、悲劇のヒロインみたいになったり…

 とにかく私の将来は全て酷いのだ。
 想像しただけで震えが……。

「ねぇ、貴方達?私たちはこれから生活を共にしていくのでしょう?だったらこの辺りでそれぞれ自己紹介をなさらない?」

 すると突然、エイメン様がこちらに振り向いた。
 エイメン様は名案とばかりに私たちに向かって提案をだす。
 彼女は長い青紫の髪を高い位置でポニーテールにし、女性の魅力をふんだんに出した露出の多いドレスを着ていた。あんなに胸元を出しては女の私でも目のやり場に困る。

 すると、隣にいたフラビル様がエイメン様に向かって、

「素晴らしい考えですわエイメン様!わたくしもエイメン様の提案に同意致します!」

 と、なんとも取り巻きらしい言葉を言った。
  
  「じゃ、そういう事で自己紹介を始めましょう」

 私や他の女王候補達はまだ何も言っていないが、返事を返す前に確定されてしまった。

  「ではまず私から。私の名前はエイメン・ガッレッジ。公爵令嬢よ。好きなのことは裁縫。特技はヴァイオリンを奏でることよ」

 エイメン様はそう言って高々に私たちに紹介した。勿論、私はこの情報を全て知っている。

 なんてったって、今この状況はゲームのオープニングの内容の一つだからだ。

 その名の通り、ライバルキャラの自己紹介シーンだ。

 ここで全員の女王候補達が自己紹介を済ませ、主人公と若干の亀裂が入るきっかけが生まれるのだか…。

  「さっすがエイメン様!素晴らしい自己紹介でしたわ!」

「ふふふ、当たり前じゃない」

 エイメン様とフラビル様は楽しそうに会話をする。 
 すると、今度はフラビル様が自己紹介をした。

「わたくしはフラビル・ハーネットです。伯爵家の人間ですの。好きなことは……エイメン様のあの素晴らしい自己紹介の後では恥ずかしくて口に出せませんわ。また後日ということで」

「あら、全くフラビルったら。ちょっと私を高くし過ぎよ?」

  全くもってその通りである。

「ですが、エイメン様が素晴らしいのは事実でありますから!」

 フラビル様は元気にエイメン様に返答する。
 取り巻き、というのを今世で初めて見たが、実際に目にすると何とも面倒な存在だと思った。

 フラビル様は芝翫茶のふわりとした柔らかい色合いをした髪を背中まで下ろしてウェーブにし、少しピンクがかった赤にくりりとした瞳をしている。

 エイメン様とはまた違い、桃色の華やかなで愛らしい柄のドレスを着ていた。

 まるで小動物を連想させるかのような美少女だ。可愛い。

 しかし、見た目は十分素敵なのにエイメン様の取り巻きという残念な肩書きを持っている。

 実に惜しいと思う。

 あれほど可愛いらしい見た目をしているのに、とても勿体ない。

 私がもんもんと考えている間に今度はベルジーナ様が自己紹介をしていた。

「皆様初めまして。私はベルジーナ・リ・メイビーンです。メイビーン帝国の皇女を務めておりますわ。どうぞ、よろしくお願いします」

 朗らかな優しい笑みでニコリと笑う彼女は正に女神のようだった。

「私、貴女様に出会えてとても光栄ですわ。メイビーン帝国の皇女の素晴らしいお話はよく耳にしますから。共に頑張りましょう?」

「ええ、お互いに」

 エイメン様は嬉々としてベルジーナ様に話しかけた。
 この中で最も地位が高いのはベルジーナ様だろう。だから、今のうちに仲良くなって懐に入り込もうとしているのかもしれない。

 次に自己紹介するのは今までずっと影を潜めていた小柄な可愛いらしい少女だった。

「私の名前はアリス・リシャス……。侯爵家、です…。よろしく、お願いします...。」

 何故か口調がたどたどしい。彼女の個性の一つなのだろうか。

 アリス様は他の女王候補達とは違う雰囲気を持っていた。
 真っ赤なルビーの様な瞳に流れるような美しい白髪で、陶器のような滑らかで白い肌。

 どこか神秘的なその容姿はまるでおとぎ話の登場人物の様だった。

 しかし、瞳はどこかぼんやりとしており、少々眠たげに見えた。

 そんな彼女に対してエイメン様は値踏みをするかのようにジロジロ見る。

 アリス様は見られていることに気が付いていないのか、はたまた気付いているも気にしていないだけなのか、よく分からないまま、俯きがちに視線を落としていた。

  「さあ、次は貴女の番ですわ」

 エイメン様に代わってフラビル様が私に対して話を振る。
 私はそれに出来るだけ角が立たないように答えた。

「エマ・フロンティアです。侯爵家の一人娘です。よろしくお願いします」


 私はぺこりと頭を下げる。すると、エイメン様がこちらを見て嘲笑するように笑った。

「貴女が会場に最後に来た方?貴女のおかげで待ちくたびれてしまったのよ?今度からはもっと早くきて欲しいわ」

「あぁ………それに関しては申し訳ございません」

 私はエイメン様に謝ったはずなのに顔を顰められてしまった。なんで?

「……まあ、いいわ。さ、今度は貴女の番よ?」

 エイメン様が示したのは勿論主人公こと、リルただ一人だった。

 リルはとても困惑した表情ではい、と小さな声で答えた。

「わ、私の名前はリル・キャロメです。伯爵家の娘です………えっと、どうぞよろしくお願い致します……!」

 まるで怯えた小動物の様にプルプル震えながら、リルは話した。
 守ってあげたい系ヒロイン、やはり流石だ。

 しかし、こんな愛らしい姿のリルにエイメン様はあまりお気に召さなかったらしく、少し怒気をはらんだ声でリルに話した。

「ちょっと、貴女。もっと背筋を伸ばしてしゃんとしていなさいよ。そんなに怯えて、私が怖いとでも言いたいのかしら?」

 十分怖いと思う。

「い、いえ決してそんなつもりは!私はただ、少し戸惑っていただけで……怖いなんて、全然………!」

 リルのそんな曖昧な返答にエイメン様は更に顔を強ばらす。
 周囲の女王候補達はそれを感じとったのか、取り巻きのフラビル様でさえ、じっと黙っていた。

 唯一この雰囲気を止めようとしていたのは優しいベルジーナ様だけだったが、言うタイミングが分からないらしく、口を開閉していた。

 ここまで、順調にゲーム通りに進んでいる。
 そして更にここからエイメン様とリルの仲は険悪になり、イジメに発展するのだが、今回は仲裁人が入る筋書きだ。

  (そろそろ来る頃かな)

 私はリルとエイメン様の行く末を見守りつつ、少し遠くの廊下から聞こえてくる足音に耳を澄ませた。

 そして、その足音はどんどん近づいて──。

  「──そなた達、そこで何をしている?」

 聞こえたのは誰よりも冷ややかで落ち着いた声だった。

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