女王候補になりまして

くじら

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脱・引きこもり姫

暇潰し

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 今日も私は部屋に閉じこもっていた。
 相変わらずレイアは忙しそうで、私は邪魔にならないよう、彼女には話し掛けていない。

 私は皇宮のふかふかのキングサイズベッドに寝転んで天井をぼーっ、と眺めていた。
 天井の小さなシャンデリアがとても綺麗だ。

 大きな窓から見える外の天気は晴天でお出かけ日和そのものだ。
 おそらく、久々の日光を浴びたら気持ちいいのだろうが、それには大きなリスクが伴ってしまう。

 (こんな晴れた日じゃ主人公達も外に出ているだろうなぁ……)

 外出している主人公に出会ってしまえば、必ずストーリーに巻き込まれる。そうすれば私の命が危ない。

 私はもう何度目かも分からない溜息を吐いた。
  
 (何か抜け穴的なものがあれば、城内の庭ぐらいは行けたのに……………………ん?)

  "抜け穴"という言葉に既視感を覚え、私はほとんど無意識的に部屋の扉を開けて外に出た。









「本当にあった……!」

 私が見つけたのは茂みの中に隠された人一人が入れる程の壁に掘られた小さな穴だった。

 これはゲームで皇宮の人達にバレないように外出するための隠し通路だった。
 確か、攻略対象の一人がこの通路の存在を知っていて、主人公に教えていたのだが………。

  やはり、誰がこの通路を知って主人公に教えたのかまでは思い出せなかった。

  まあ、思い出せなくともこれで外出するためのルートが確保出来た。 
  
  私は早速穴をくぐり抜けた。

「おぉ………!」

  穴から抜け出すと、城の中とは思えない程の広い草原があった。肌を撫でる風が日光と相まって、とても気持ちがいい。
  これも庭の一部なのだろうか。
  だとしたら庭師はかなり大変な仕事をしているな。

  そのままさくさく歩いていくと、草地が広がっていた地面はいつの間にか砂利道に変わっていた。

  すると、遠くの方から動物の鳴き声と地面を力強く駆ける足音が聞こえた。

 (何……?)

  私は興味本意で音のする方へと歩みを進めた。








「!あれは………」

  音のする方へと近くと、見えてきたのは乗馬訓練場だった。
  近くには馬小屋らしき小さな建物があり、そこから複数の馬の鳴き声が聞こえてくる。

  こんな場所に乗馬が出来る所があるなんて知らなかった。

  先程の抜け穴ともそれほど遠くないし、暇潰し程度にやってみても良いかもしれない。

  実際、騎士団にも所属していない私が乗馬が出来るか分からないが、一か八かで頼んでみよう。

  私は再び、今度は小屋へと歩みを進めた。







  小屋へ入ると案の定そこは馬小屋だった。
  奥に馬達が飼育されており、手前はカウンターやちょっとしたテーブルなんかもあった。

  テーブルにはがっしりとした体格の男性やら、騎士団の制服を着た人達が座っていた。

  私はカウンターに向かい、つなぎを着ていた飼育員に話しかけた。

「あの、すみません。乗馬をやりたいのですが……」

「新規の方ですか?」

「あ、はい。新規の登録出来ますか?」

「少々お待ち下さい」

  そう言って飼育員は去っていく。
  どうやらここは店員の代わりに飼育員が馬と店員を兼用して行っているようだ。

  私は近くにあったテーブルに座ってしばらくそのまま待機した。

  そのまま待機して数分経った頃、再び先程の飼育員がやってきた。

「お待たせしました。乗馬をお望みですね?ではこちらの契約書に目を通して、サインをお書き下さい」

  飼育員から数枚の紙を渡され、全てに目を通す。

「……結構お金がかかるんですね」

「そうですね……ですが、新規の方限定で一頭目の馬は他よりも安くしますよ。レンタルするという手もありますね」

  ふむ。安くなるのは悪くない。いくら私が侯爵令嬢だとしても私のポケットマネーはそこまである訳では無い。
  皇宮から払わせる訳にはいけないし、私は今女王候補という立場にある。

  女王候補としての役目を放り出して乗馬に専念しているなんて知られたら、後ろ指を指される事は間違い無いだろう。

  まあ、それを承知でここにいる訳だし、もう過ぎた事だ。

  私は契約書にサインし、馬の購入を選んだ。
  これから長い間お世話になるのだ。レンタル期間を過ぎてまたお金を上乗せして払うより、安く買えるうちに買ってしまった方がお得だろう。

「ありがとうございます。では早速、馬選びに移りましょうか」

  飼育員と共に奥へと進んでいく。
  地面は木の床から土に変わり、敷き藁が所々に散らばっていた。

  すると、先に中へ入っていたのか、前から男性が歩いてきた。
  眉間に皺を寄せ、服は土や藁で大分汚れている。
  よく見ると服が所々縺れていた。
  そして男性は通りすがる瞬間に

「くそっ…!何なんだよあの暴れ馬!あの見た目に騙されてこんな事になっちまった…!クソっ!!」

  と言って苛立たし気に去っていく。

 (暴れ馬……?あの見た目って……?)

  私は不安になりつつ、飼育員に着いて行った。

  「お好きな馬をお選び下さい」

  飼育員によって通された飼育部屋は馬が何十頭も並んでおり、どれも大きい。

  そんな中でも一際綺麗な毛並みをもった白馬がいた。

 (まさか、さっきの男性が言っていた"あの馬"ってあの白馬のこと?)

  暴れ馬などと言っていたが、特にそんな気配は無い。
  今も静かに、餌であるりんごを食べていた。

「あの、あそこの白馬って……」

  私は思い切って尋ねてみた。
  すると、飼育員はああ、と声を出して苦笑を浮かべた。

「あの馬、とても綺麗な見た目でしょう?なのであの馬を購入される方が多数いるのですが、皆、僅か一週間で返却されるんですよ。皆様口々に暴れ馬だと仰られていて……」

「それは大変ですね……」

「はい、そうなんです。なので買取手が見つからずにもう三年が経ってしまって……このままだとあの白馬は殺処分になってしまうんですよ」

「はあ……」

  飼育員の話は何がトリガーになったのか、どんどんヒートアップしていく。

「流石に殺処分になってしまうのも可哀想ですし、もし、あの子の買取手がいたら、他の馬よりも安い値段にするのですが……」

「…………」

  飼育員は困ったように眉を下げ、私を見てくる。
  私は似非笑いを作りつつも内心戸惑っていた。
  他の馬より安く……その言葉だけが私の心を支配していた。

「あぁ、すみません長々と。お客様、お気に入りの馬は見つかりましたか?」

「あの白馬は……今の値段より安く買えるんですよね?」

「えぇ。そうですよ」

「…………………」

  安く、買える。
  今の私にとってこれ以上ない良い話だ。このチャンスを逃してはならない気もする。

  しかし、私は乗馬初心者。最初から暴れ馬なんて乗れる訳が無い。

  でも、安い───!

  「あの、お客様?どうなさいますか?」

  私は意を決して、飼育員に告げた。

「あの白馬、買います」

  侯爵令嬢はお金が無かったのだった。









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