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脱・引きこもり姫
引きこもり姫の噂
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それは、いつもの何気ない早朝のことだった。
エマを起こしに行くため、レイアは朝早くから支度をし、洗面用具を持って皇宮の廊下を歩いていた。
すると、突き当たりの角を右に曲がろうとして、足を動かした途端、メイドたちの囁き声が聞こえてきた。
それはこんな内容のものだった。
「エマ様はまた昨日も女王候補の任務に参加せず、外へ出掛けていたらしいわよ。なんでも、平民街へ出向いたとか」
「聞いた聞いた。しかも、異性と共に行動していたそうよ。女王候補ともあろうお方が、異性交遊だなんて……聞いて呆れてしまうわね」
「ほんとにねぇ……。ベルジーナ様やエイメン様を見習って欲しいわ。全く、ここは宿屋じゃないんだから、余計な仕事を増やして欲しくないわ」
自分の主の名前が聞こえたため、不意に立ち止まってしまったレイアはとても渋い顔をしていた。
耳を塞ぎ込んでしまいたい程にエマを罵倒する言葉の数々。
次第にそれは、一人…二人…と、どんどん増えていき、今では把握しきれないほどに増加してしまっていた。
初めこそ、悪口のみで済んだことなのに、それはどんどん過激になって、エマの食べる朝食に泥を入れようと提案している者もいた。
幸い、あまり使われていない調理室でエマの朝食をレイアが作ったお陰で、泥が入ることは無かった。
だが、時々物が盗まれたり、その盗まれたものが廊下に無造作に転がっていたりなど、嫌がらせは続いていた。
それに耐えきれなくなったレイアはこの状況を打破するために、主犯となってエマをいじめようとしていたメイド達を説得してみることにした。
もちろん、それはエマには伝えなかった。
この程度のこと、自分一人で解決出来ると思ったのと、自分の大切な人をこんなことで傷つかせたく無かったからだ。
しかし、事は既に重大さを帯びていた。
メイド達の説得が失敗に終わったのだ。
しかも、日々のエマに対する鬱憤を晴らすためにレイアをいじめの対象としてきた。
正直、エマが助かるなら自分が犠牲になっても構わないと思っていたレイアは、しばらくの間、いじめに耐え続けていた。
しかし、レイアが何もしないのを良いことにメイドたちは身体に暴力を振るうようになった。
一人では到底片付かないくらいの仕事を押し付けられたり、食事を抜かされたこともしばしばあった。
「……──そして、昨日メイドの一人に説教をされていた時に偶然にもエマ様に出会ってしまった──という訳です……あの、エマ様、大丈夫ですか?ご気分を害しておりませんか?」
レイアは慌てた様子で顔を覗き込んできた。
私はそれにこくりと頷くも、気分はあまり良いものでは無かった。
「………レイア………ごめん、本当にごめんなさい。私のせいで……貴女がこんな酷い暴行を受けて……!本当にごめんなさい……っ!」
レイアの話を聞いて、改めて確信した。
──この状況の元凶は私だということに。
「エマ様!決してエマ様のせいではありません!!私が一人で解決しようとしたからこうなったのです。貴女様のせいでは絶対にありません」
レイアの優しさに私は胸が締め付けられる。こんなにも酷い主なのに。レイアはいつも私を優先して考えてくれる。
でも、ここで頷いてしまってはダメだ。
このままでは私のせいで大切な人が傷ついてしまう。
それは絶対にあってはならないのだ。
私は瞼を閉じて息をすぅっと吸い込んでからゆっくりとそれを吐く。
心を落ち着かせて、またもう一度瞼を開いた。
「………レイア、私、レイアを守ることの出来ない主にはなりたくないんだ。だから私、やり方を変えようと思う」
「え……それはつまり──……」
私はスっと立ち上がって、机の上に置かれていた女王候補のパーティの招待状に参加を希望する節を書いた。
そして、扉の前に仕えさせていた執事の一人にこの手紙をレジックに渡してと伝えて、レイアに向き直った。
「私、今日から女王候補の任務に全て参加することにしたわ。だからレイア、こんなダメな主でも、支えてくれるかしら……?」
レイアは目を見開くと涙を流しながら、こくりこくりと何度も頷いた。
「はい……!はい!貴女様にどこへでもお供いたします……!!」
「……ありがとう、レイア。そう言ってもらえてすごく嬉しい」
──この時から私の運命は少しずつ、変化を見せていった。
まず、朝はレイアに起こされるのでは無く、自分から起きようと思った。この世界には目覚まし時計が無いため、自分で体内時計を設定しなければならなかった。
そして昼は公務に関しての勉強をすることにした。
しかし、馬の世話もしなければならないので、そこそこ勉強したら馬小屋へ向かった。
乗馬大会で優勝したお陰か、私に話しかける人が多くなった。もちろん身分は隠したが、みんな優しくて友好的だった。
夕方になると社交の為にも廊下を徘徊するようになった。度々すれ違うメイドたちにモヤモヤしながらも決して表情には出さず、ニッコリと挨拶をしていった。
夜は早めに晩餐とお風呂を済ませ、身体をゆっくりと解した。
夜更かしはせずに早めに眠る。
これをルーティーンにしていくことにした。
そして、最初は大変だったその生活も体に馴染んで来た頃、先日書いたパーティの正式な招待状が配布された。
場所指定や開催時間などが記載されている。
私は息を吸い込み、覚悟を決めた。
エマを起こしに行くため、レイアは朝早くから支度をし、洗面用具を持って皇宮の廊下を歩いていた。
すると、突き当たりの角を右に曲がろうとして、足を動かした途端、メイドたちの囁き声が聞こえてきた。
それはこんな内容のものだった。
「エマ様はまた昨日も女王候補の任務に参加せず、外へ出掛けていたらしいわよ。なんでも、平民街へ出向いたとか」
「聞いた聞いた。しかも、異性と共に行動していたそうよ。女王候補ともあろうお方が、異性交遊だなんて……聞いて呆れてしまうわね」
「ほんとにねぇ……。ベルジーナ様やエイメン様を見習って欲しいわ。全く、ここは宿屋じゃないんだから、余計な仕事を増やして欲しくないわ」
自分の主の名前が聞こえたため、不意に立ち止まってしまったレイアはとても渋い顔をしていた。
耳を塞ぎ込んでしまいたい程にエマを罵倒する言葉の数々。
次第にそれは、一人…二人…と、どんどん増えていき、今では把握しきれないほどに増加してしまっていた。
初めこそ、悪口のみで済んだことなのに、それはどんどん過激になって、エマの食べる朝食に泥を入れようと提案している者もいた。
幸い、あまり使われていない調理室でエマの朝食をレイアが作ったお陰で、泥が入ることは無かった。
だが、時々物が盗まれたり、その盗まれたものが廊下に無造作に転がっていたりなど、嫌がらせは続いていた。
それに耐えきれなくなったレイアはこの状況を打破するために、主犯となってエマをいじめようとしていたメイド達を説得してみることにした。
もちろん、それはエマには伝えなかった。
この程度のこと、自分一人で解決出来ると思ったのと、自分の大切な人をこんなことで傷つかせたく無かったからだ。
しかし、事は既に重大さを帯びていた。
メイド達の説得が失敗に終わったのだ。
しかも、日々のエマに対する鬱憤を晴らすためにレイアをいじめの対象としてきた。
正直、エマが助かるなら自分が犠牲になっても構わないと思っていたレイアは、しばらくの間、いじめに耐え続けていた。
しかし、レイアが何もしないのを良いことにメイドたちは身体に暴力を振るうようになった。
一人では到底片付かないくらいの仕事を押し付けられたり、食事を抜かされたこともしばしばあった。
「……──そして、昨日メイドの一人に説教をされていた時に偶然にもエマ様に出会ってしまった──という訳です……あの、エマ様、大丈夫ですか?ご気分を害しておりませんか?」
レイアは慌てた様子で顔を覗き込んできた。
私はそれにこくりと頷くも、気分はあまり良いものでは無かった。
「………レイア………ごめん、本当にごめんなさい。私のせいで……貴女がこんな酷い暴行を受けて……!本当にごめんなさい……っ!」
レイアの話を聞いて、改めて確信した。
──この状況の元凶は私だということに。
「エマ様!決してエマ様のせいではありません!!私が一人で解決しようとしたからこうなったのです。貴女様のせいでは絶対にありません」
レイアの優しさに私は胸が締め付けられる。こんなにも酷い主なのに。レイアはいつも私を優先して考えてくれる。
でも、ここで頷いてしまってはダメだ。
このままでは私のせいで大切な人が傷ついてしまう。
それは絶対にあってはならないのだ。
私は瞼を閉じて息をすぅっと吸い込んでからゆっくりとそれを吐く。
心を落ち着かせて、またもう一度瞼を開いた。
「………レイア、私、レイアを守ることの出来ない主にはなりたくないんだ。だから私、やり方を変えようと思う」
「え……それはつまり──……」
私はスっと立ち上がって、机の上に置かれていた女王候補のパーティの招待状に参加を希望する節を書いた。
そして、扉の前に仕えさせていた執事の一人にこの手紙をレジックに渡してと伝えて、レイアに向き直った。
「私、今日から女王候補の任務に全て参加することにしたわ。だからレイア、こんなダメな主でも、支えてくれるかしら……?」
レイアは目を見開くと涙を流しながら、こくりこくりと何度も頷いた。
「はい……!はい!貴女様にどこへでもお供いたします……!!」
「……ありがとう、レイア。そう言ってもらえてすごく嬉しい」
──この時から私の運命は少しずつ、変化を見せていった。
まず、朝はレイアに起こされるのでは無く、自分から起きようと思った。この世界には目覚まし時計が無いため、自分で体内時計を設定しなければならなかった。
そして昼は公務に関しての勉強をすることにした。
しかし、馬の世話もしなければならないので、そこそこ勉強したら馬小屋へ向かった。
乗馬大会で優勝したお陰か、私に話しかける人が多くなった。もちろん身分は隠したが、みんな優しくて友好的だった。
夕方になると社交の為にも廊下を徘徊するようになった。度々すれ違うメイドたちにモヤモヤしながらも決して表情には出さず、ニッコリと挨拶をしていった。
夜は早めに晩餐とお風呂を済ませ、身体をゆっくりと解した。
夜更かしはせずに早めに眠る。
これをルーティーンにしていくことにした。
そして、最初は大変だったその生活も体に馴染んで来た頃、先日書いたパーティの正式な招待状が配布された。
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