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次期国王の俺が伴侶の故郷に行ってみたら秒で重婚宣言されたんだが

第4話:嵐の前の嵐

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 午前十一時、ウォルズ王室の飛行船発着地には、極々少人数のVIPとセイジュとクロイゼンが揃っていた。
 その中には、擬態の魔法でいかつい姿に変装しているオルディン国王(本当の姿は幼女)、美しいエルフの女性に化けている王妃(本当の姿は赤ん坊)もあった。
「クロイゼン、言うまでもないことだが、穏便に、セイジュくんの身の安全を第一に行動せよ。人間の国・フレニアは我々にとって未知の地、一瞬たりとも気を緩めるでないぞ」
「承知しております、父上」
「セイジュさんと外国に行くって、ちょっとしたハネムーン、いえ、里帰りね。ちょっと危険かもしれないけど、楽しんできて欲しいわ」
「ありがとうございます、母上」

 クロイゼンが両親と話している間、セイジュはきょろきょろと辺りを見渡していた。
「セイジュくん、どしたの?」
 そう声を掛けてきたのは、クロイゼンの幼馴染みにして近衛兵長、超絶混血児のアヴィリードだった。バサバサの黒髪は獣のようで、一見人間に見えるが、半分はゴーレム、四分の一は凄まじい数の両生類や爬虫類で成っている、ほぼ不死身の男だ。
「いえ、アヴィさん、クロイゼンが俺にもひとり護衛をつけるって言ってたんですけど、ぱっと見兵士の方がいらっしゃらないので——」
「え?! セイジュくん知らないの?!」
 アヴィが大声で言ったのでセイジュは面食らった。が、アヴィはすぐに『納得』、といった表情を顔に浮かべた。
「あいつ、サプライズ好きだからなぁ。俺も一応乗ってみるか」
 セイジュが目をぱちくりさせていると、アヴィはこう切り出した。
「このウォルズ王国は、過去に何度か『大戦』って呼ばれる戦争を経験してるけど、セイジュくんは知ってる?」
「えっと、俺はここに来てまだ六年なんで体験してませんが、確か二十万年前だっけ? それくらいの時に、どっかの国の連合軍が攻めてきて、でもウォルズ側が返り討ちにしたっていう話は聞いたことがあります」
「それは一番最近のやつだね。一番古いものだと二百万年前に天界とやりあったこともある。あとは八十万年前にも、天界とウォルズ含む連合軍で大戦争があった」
「天界……?」
 あまりの規模の大きさにセイジュはぽかんとしていたが、アヴィは無視して続けた。
「セイジュくんが知ってる二十万年前の大戦、それから八十年万年前の大戦、この二つは両方オルディン様が国王になってからのものだ。その二度の大戦の時、一番強かったのは誰だと思う?」
「おい、アヴィ」
 セイジュが考え始める前に、クロイゼンが寄ってきた。
「ネタばらしくらい俺にやらせろ」

——ネタばらし?

 セイジュは極めて不吉な予感を覚えた。
 クロイゼンが何かを企んでいる時は、大抵サプライズだし、愛情表現だとしても方向性が若干ねじれていることが多いからだ。

——しゅ、出発前から動悸が……
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