14 / 26
第三章
001 素直な人間
しおりを挟む「ここは?」
目を開けると、まず視界に飛び込んできたのは不規則に並べられたレンガであった。
セラルフィはそれが天井だと悟る。橙色に包まれる人工的な土塊。
トトに助けられた初日のことを思い出した。確か自分は気絶して、そこをトトに助けられ、今のように屋内で休ませられていた。
「起きたか」
ただ一つ、違う点があるとするならば。ここがどこかの地下牢獄であるということだけである。聞き覚えのある声の主を捜そうと、床の上で仰向になっていた体を起こし、鉄柵に近づこうとした。
両腕の違和感。
背中に回された両手が手錠で拘束されていた。ご丁寧に手錠からは大きな鉄球が伸びている。牢屋から出ても走って逃げることは不可能なようだ。
先ほどから力が入らない。魔術でどうにかしようにも、思うように力を使えない。今の自分では何もできなさそうだった。
「《マヨイビト》のあんたでも捕まったってことは、トトもどっかに閉じ込められてんだろうな」
「ライム、無事だったのですか」
問うと、「始めから知ってたみたいな口ぶりだな」とばつが悪そうに笑った。
「シルヴァリーの奴この国の住人ほとんどを暗示にかけてやがった。まだ殺されることは無かったが、それも今だけだ。いずれにしても俺たちは殺される」
「トトは?」
「さっき言っただろ? どっかに閉じ込められてるんじゃねえの。いや、そもそもなんであんたが知らないんだよ。一緒に行ったんじゃないのか」
「いや、私は――」
言葉が止まる。
「わた、しは……」
「どした」
疑わしそうにこちらを見るライム。
「思い出せない」
「あ?」
記憶が無くなっていた。数分前なのか、数時間前なのか分からないが、ライムと別れた後の記憶が無くなっていた。まるでずっと眠っていたのに、起きたら違う場所だったと言わんばかりである。と言うよりセラルフィにとってはソレでしかなかった。
「気付いたらここに居たとしか答えられません」
「使えねーな」
憎たらしい口の利き方はそのままに、ライムはこれからどうしようか考えることに没頭し始めたようだ。
「ライム」
「考え事してんの。今」
「じゃあ今時間を少し頂けますか?」
「やだね」
「私の残り時間を見てほしいのですが」
「人の話を聞けよ。ってお前自分で見れねえのか」
「前はトトに鏡を見せてもらって確認できたのですけど、ちょうど自分からじゃ死角になってて」
申し訳ない風にそう答えると、ライムはやれやれと壁に預けた頭を起こした。
「どこ見りゃいいの」
「胸の辺りです」
「ふざけろ露出狂め」
「大真面目です」
真顔で即答すると、ライムは小さく舌打ちを零して鉄格子に顔を押し付けた。片目をつむり「どこ」と不機嫌そうに訊く。
「喉と胸の間あたりに光った数字が見えませんか」
「えー……」
一応読むことは出来たのだろう。数字を確認すると、ライムは少し眉根を寄せた。決して見えなかったからではなく、残された時間に対して複雑な顔をしていたのだ。
言うべきか言わざるべきかを考えている。
「あと一日無い」
ほとんどため息で教えるような答え方だった。
「そうですか」
心なしか声のトーンが落ちているセラルフィに気づいたのだろう。ライムはこちらに背を向け、壁に向かって口を開いた。
「あん時は悪かったな」
「はい?」
「《マヨイビト》って理由であんたに八つ当たりしてた。あんたが良い奴ってのはリラを守ってくれたの見りゃ分かる。そりゃあ、あんたに親切にしてやる義理なんてないわけだが。もうじき死ぬ奴に冷たく当たってたらこっちの寝覚めが悪いんでな。一応謝ったからな。変に恨むなよ」
「ライム」
「なんだ」
「あなたは素直な人間ではありませんね」
「うっせえよ」
強く吐き捨てるとふてくされたように横になってしまった。もうこれ以上声を掛けても返る言葉は無いだろう。そう思った矢先、
「……時間は無いが、諦めるなよ。人間生きようとしてりゃなんとかなるもんだ」
寝言のつもりなのだろうか。そこまで気を使ってもらうつもりは無かったのだが、結局はっきり喋ることにしたらしい。
「あと少ししたら俺たちの処刑が始まるらしい。シルヴァリーが一番近くに出て来るタイミングだ。そっちもそっちでどうするか決めとけよ」
牢獄に閉じ込められたまま、いたずらに時間だけが過ぎていった。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる