19 / 26
第三章
006 残り十分
しおりを挟む魔法陣の反動で動けないでいるライム。遠くで何かやり取りをしているトトとセラルフィを見て、何もできない自分が情けなくなった。
元来ライムは戦闘向きの部類ではない。どちらかと言えば情報収集として暗躍する側の人間だ。
直剣を立て、立ち上がろうとする。すぐに力が抜け、無様に倒れた。
倒れたところで、顔を上げた瞬間。目の前の光景に愕然とした。
「なんだ……あれ」
セラルフィの体が大きく燃え上がり、大槌に取り込まれる。更に大槌が姿を変え、装甲のような外郭を押し広げた。
激しく火を噴く大槌。その火炎はトトの体を覆い、肉体と同化させた。
「やってしまいましたね、トレイル。そのまま殺せば良かったものを」
狂ったように笑うシルヴァリー。自身の描いた魔法陣に手を着いた。
直後。蛇のように魔法陣の術式が腕を伝い、眼球へと集約される。壮絶な痛みが襲っているのか、シルヴァリーは呻きながら、上着を破り捨てた。
「もはや、お互い人のまま戦うことはできそうにありませんねぇえへへへへへ!」
あらわになった上半身。禍々しく刻まれた術式。焼けるように煙を上げ、流血していたその瞳には激しい炎のような光が紫に灯っていた。
「邪魔者を先に始末しておきまショウカ」
「ッ!」
ライムの方を向くことなく呟くシルヴァリー。それでも自分のことを言っているのだと悟ったのは、右腕に空間の歪みを感じた後だった。
「ぐ、あッ」
右腕が歪み、ねじ切ろうとする。嫌な音を立て、腕があらぬ方向に――
「下がって」
鈍い音が虚空を穿った。遥か先にいたはずのトトがすぐ目の前にいる。
その声と同時に右腕の歪みが消失。トトがその大槌で防いだのだろうか。隣にいると、炎と化したトトの体の熱がより伝わった。
「ライム」
何かを言おうとするトトをライムは遮った。
「……いい。分かってる。ぶっ倒せ」
今更言われなくても良い。言いたいことはお互い同じだと自然分かっていた。
「悪かった」
「バカ言うな。お互い様だ」
一歩ずつ、右腕を庇いながら後退する。ライムが安全な位置まで下がったことを確認すると、トトの柔和な表情は一瞬にして厳しいものに変わった。
「時間が惜しい。三分で殺す」
「三分? クフフ……! 仮にも組織の《マヨイビト》を専門としていた人間を相手にデスカ? ……付け上がるのも大概にしろよ」
苛立ちにも似た声音。
地面に落ちている、シルヴァリーがずっと携帯していた懐中時計を見て、トトは悟った。
トトの大槌と同じように、彼にとってはあの懐中時計が魔術行使の代価を担っていたはず。湖に聳える女神像も、懐中時計を破壊しておきながら存在を維持している。
それを放棄した上で、ライムを襲えた意味。
「シルヴァリー、お前まさか」
「……や、やっと分かりましたか。けけ、契約したんですよ。うふふふふ! マヨイビトを殺すことでねぇ! あはははは! で、でなければ。でなければでなければでなければッ。 国レベルの人口、全ての時を止めるなど! いくら寿命があっても足りない! もっとも、再生の臓器は消えてしまいましたがねええええ! アハハハハハハハハ!」
シルヴァリーは狂ったように笑った。楽しそうに。悲しそうに。
――心臓爆発まで、残り十分。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~
とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。
先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。
龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。
魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。
バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる