竜人王子の魔女っ子リスタート〜優しすぎた竜人王子、裏切りを受けて暴君魔女に回帰する〜

炭酸吸い

文字の大きさ
19 / 36
魔女の里編

19話 できるぞ。俺となら

しおりを挟む



 人気の少ない今のうちに下へ降りることになり、女子寮裏まで来た。

「魔女ってのはダンジョンに潜るだけでチームを組むのか? パートナーがいるんだろ?」

 イヴァは不思議そうに小首をかしげた。

「文明的な人間はソロで潜るほど逞しくない」俺は肩をすくめて答えた。
「アマゾネス族ほど強ければソロでもダンジョン攻略は余裕そうだな」
「アタシはポチがいるからさ。強いんだぜ。この里に来るまでだって、一週間かかる距離もポチに乗れば三日で着くんだ」

 胸を張って自慢げに言う。よほど相棒が誇らしいのだろう。

「そういえば銀狼シルバーファングはどこに居るんだ?」

 自分で話題に出したくせに、俺が聞いてみるとイヴァは表情を暗くした。

「意地悪なこと聞くんだな。見てただろ? 里の魔術士が入れてくれないんだよ。マジックアイテムをつけてない魔獣は危ないんだってさ」

 そういえばいじめっ子のビリアンがそんな事を言っていたな。
 だいたいイヴァもイヴァだ。貧弱な人間の言う事に口だけで逆らうなんて甘すぎる。気に入らなければぶっ飛ばせばいいだろうに。

「そんなに危ないもんか? 粗相したら叱ってやれば済む話だろう」
「な、そう思うだろ? あーあ。アンタみたいな魔女がいっぱいだったら良かったのにな」

 イヴァは組んだ手で後頭部を支えつつ地面に寝転がった。ため息を着いて口を尖らせている。

「魔女とアマゾネスで親睦を深めるなんて言ってるくせに、こんなんじゃ来た意味なんて全然ないよな」
「気になっていたんだが、なんで今更人間同士で親睦なんか深めるんだ? 食うに困ってるとか?」
「いやアタシ達かよ! そっちの偉いヤツが言い出したんだぜ? 『魔獣の動きが変だから同盟を組もう』って」

 初耳だった。
 アマゾネスの一族だって野性的な側面が強すぎるだけで、魔女の一族と同じ人間だ。
 利害関係をはっきりさせる必要があることも驚きだが、それより想定外なことがある。
 ――魔界大戦を予期しているやつがこの里にいるのか?

(俺と同じ前世の記憶を持った回帰転生者か……? いや。偉いヤツというならあいつしか居ない)

 学園長の皮を被った初代魔王。
 シモーネ学園長もとい、エズモニアス・エルドレッド卿。
 確かに俺が前世で打倒したのは初代ではなく現代魔王だ。そいつが魔獣をけしかけてクレアを襲ったのだから、ぶち殺して当然である。
 初代魔王に戦いを挑んだのは魔王軍を根絶やしにしたかったからだ。クレアに危険が及ぶ可能性の芽を摘むことができればそれで良かった。
 結果としてあの魔王には前回逃げられたが、以降何事もなかったから気にも留めていなかった。

「言われてみれば――」
「あ、やべ。魔獣のことは内緒にするように族長から言われてたんだった。今の忘れてくれよ」

 危ない危ない。知ったかぶりをするところだった。
 下手に調子を合わせすぎてもボロが出るな。次から気をつけよう。

「ああ、確かに竜が来たりで色々大騒ぎだったからな。下手すると竜を狩ろうなんて言い出しそうで怖いよな。……ハハハッ。竜なんて本当は善良な生き物なのに。なあ?」
「そうかあ……? まあ下手に刺激しないほうが良いとは思うぜ。またあんなの来られたら、スミレも丸呑みされるだろ」

 貧弱な魔女だからか、イヴァは俺を小馬鹿にするように冗談めかして笑った。
 よかった。やはりこの時代では俺を殺そうと思ってはいなさそうだ。

「もしスミレが竜に食われそうになったら、アタシがあの牙をへし折ってやるよ」

 だめだこいつ、立ち向かう気満々だ。

「少し脱線したな。で、親睦を深めるといっても銀狼が一緒じゃないから困ってるんだよな?」
「そうさ。魔術も教えてもらったけど、文字ばっかで頭痛くなりそうだし。狩りをするにも許可証ライセンスがないと外出できないし困っちゃうよな」
「結局一緒に生活して文化を学びたいんだろ?」
「ポチと一緒にな」
「できるぞ。俺となら」

 流れが変わったことを感じたのか、イヴァが軽快に身を捻って跳ね起きた。

「できんのか!?」

 ラッキーのスキンシップくらい興奮気味に近づいてくる。
 俺は指を立ててイヴァを制止した。

「ダンジョンに潜るんだ。俺は中等部に上がってツテもあるから、ダンジョン攻略の名目でわりと簡単に外出できる。記憶だとほとんどのダンジョンは里の管理下らしいが、攻略のためならペットを連れても平気だろ。それで実績残していけば、里にも入れてもらえるんじゃないか?」 
「それを先に言えよ! ははっ。最高じゃねえかスミレ! 気に入ったぜ! 早く行こう!」

 結局肩を掴まれて思いっきり前後に揺すられた。
 アマゾネスの一族は加減を知らない。いや、加減しているのだろうが、頭が取れそうだ。

「まだだめだ。イヴァを俺の攻略パーティに登録しないといかん」
「そうなのか?」
「ああ。だからこの証書に掌印を押してくれ。魔力液が染み込んでるから、ただ押し当てるだけでいいぞ――ぐはぁああああ!?」

 ピッと広げた証書越しにもの凄い衝撃が襲ってきた。
 なんのことはない。イヴァが豪快に掌を押し当ててきたのだ。ほとんど掌底の要領で俺の胸にスタンプする。そのまま後ろの壁に激突した。

「きさまっ……加減しろよ脳筋!」
「わるい! 嬉しくてつい……」

 照れ笑いしながら頭を掻いているイヴァはとてもじゃないが可愛げがない。
 俺が反射的に防御魔法を使っていなかったら内臓がぐちゃぐちゃになっていたところだ。
 それにしてもこの証書、くっきりと掌の形が浮き上がっているくせに破けるどころか皺もつかないとは驚いた。あれだけの衝撃に耐えうるなら、これを作った魔女はかなり優秀だ。

「……もういい。俺はパーティ申請を出してくる。三日後の始業時間に正門集合だ」
「ああ! わかったぜぃ!」

 たぶん全く反省していないであろうイヴァは、上機嫌で出口に向かって走った。多分ポチっていう銀狼に会いに行くんだろう。
 俺も受付に向かおうとした時、後ろからイヴァの大声がした。

「スミレ!」
「ああ?」
「お前良いやつだな!」

 ブンブン手を振ってニコニコしているイヴァは、今度こそどこかへ行ってしまった。
 まったく嵐のような女だ。



     ◆



「クレイバスタ家の委任状をお返しします。パーティ登録は以上です」

 学園受付窓口に行くと、ノトムが言った通りダンジョン攻略ライセンスが割と簡単に手に入った。
 ブラッカ・クレイバスタの特別待遇らしい。本来中等部の生徒でも、必修科目を飛ばしてのダンジョン攻略はご法度だ。ただし、クレイバスタ家の同伴であればこれをすり抜けられる。
 俺のペットにしてよかった。

「ダンジョン攻略ガイドと安全ガイドラインはこの赤本にあります。パーティの皆様でご一読ください」
「ああ、了解した」

 受付を済ませて重い書物を抱えていると、通路の曲がり角で嫌な奴と鉢合わせした。
 おそらく、待ち伏せされていた。

「ごきげんよう。スミレさん」

 黒薔薇の魔女候補。クラリス・べルノワール。
 魔女には珍しい白いジャケットを着ているから嫌でも目に入る。
 雪色の瞳が不機嫌そうな瞼で隠れる。俺はそのまま横を素通りしようとしたが、到底許す気はないらしい。そのまま続けた。

「昨日はどうしていたのかしら?」

 ――そうくるだろうと思った。
 昨夜女子寮に来るように言っていたから、俺がバカ正直に来るものだと思っていたらしい。
 まさか竜族の妖精リネリットと談議していましたなどと言えるわけもなく、嘘をつくことにした。

「……はあ。ラッキーの世話をしてたんだ」
「私との約束より、あんな下僕を優先したの?」

 約束? 一方的に耳打ちして返答も待たなかったくせに、約束を取り付けられたと思っているのか? なんて図々しい女だ。

「お前が俺のペットを下僕呼ばわりするな。曲がりなりにも高貴な竜種だぞ」
「ちょっと強い魔獣を従えられたからって浮かれてるのね」

 ふとクラリスは俺の手元に視線を落とした。

「それ、ダンジョン攻略ガイド?」
「そうだが」
「気が早いんじゃない? 中等部で必修科目を受けないと攻略ライセンスもらえないのよ」
「ブラッカの顔を貸してもらったから問題ない」

 クラリスが目を見開いた。意外だったのだろう。
 銀色の髪を雑に弄り、クラリスは呆れたように聞いた。

「パーティは? 最低四人必要よ。クレイバスタさんにスミレさん。で、せいぜい妹さんかしら? あと一人は? 他にあなたと一緒に行ってくれる人なんているの?」
「カエデはダンジョンに潜らないし、ちゃんとパーティ申請はしたぞ。忙しいんだからもう行っていいか?」
「そうよね。仕方ないから私があなたのパーティに……ってええ!?」

 何を言おうとしたのか、クラリスは俺を二度見すると詰め寄ってきた。

「あなたパーティ申請できちゃったの!?」

 とんでもない驚きようだ。
 〝ホウキ売り〟と一緒にダンジョンへ行くヤツなんて居ないと馬鹿にしたかったのだろうか。

「さっきからそう言ってるだろう。じゃあもう行くな」
「待って」

 凛とした声に若干の不服さが混ざっている。
 こいつと過ごすと長いんだろうなと、なんとなく思った。

「いつ行くの?」

 俺が答えてやる義理は無いのだが、変にごねると時間を無駄にしかねない。
 こいつのことだから、俺より難しいダンジョンに潜ってまた張り合いたいだけだろう。

「三日後だが……そんなこと知ってどうするんだ? ちょうど余っていた応募だったから、大したことないダンジョンだぞ」

 俺が行くダンジョンは、前世で千年前に巡ったダンジョンの一つだ。
 将来を担う若い竜人が早く竜魔法を使うため、俺特製の遺物を隠した迷宮――の経由地点。
 魔女の連中がこのダンジョンも管理していたとは思っていなかったが、考えることはどの生き物も同じなのだろうと思った。

「気が早いのね、まあいいわ。せいぜい仲間の足を引っ張らないように頑張りなさい」

 嫌味を一つ言うと、クラリスはろくにコチラを見ず手を振って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...