竜人王子の魔女っ子リスタート〜優しすぎた竜人王子、裏切りを受けて暴君魔女に回帰する〜

炭酸吸い

文字の大きさ
19 / 25
魔女の里編

19話 できるぞ。俺となら

しおりを挟む



 人気の少ない今のうちに下へ降りることになり、女子寮裏まで来た。

「魔女ってのはダンジョンに潜るだけでチームを組むのか? パートナーがいるんだろ?」

 イヴァは不思議そうに小首をかしげた。

「文明的な人間はソロで潜るほど逞しくない」俺は肩をすくめて答えた。
「アマゾネス族ほど強ければソロでもダンジョン攻略は余裕そうだな」
「アタシはポチがいるからさ。強いんだぜ。この里に来るまでだって、一週間かかる距離もポチに乗れば三日で着くんだ」

 胸を張って自慢げに言う。よほど相棒が誇らしいのだろう。

「そういえば銀狼シルバーファングはどこに居るんだ?」

 自分で話題に出したくせに、俺が聞いてみるとイヴァは表情を暗くした。

「意地悪なこと聞くんだな。見てただろ? 里の魔術士が入れてくれないんだよ。マジックアイテムをつけてない魔獣は危ないんだってさ」

 そういえばいじめっ子のビリアンがそんな事を言っていたな。
 だいたいイヴァもイヴァだ。貧弱な人間の言う事に口だけで逆らうなんて甘すぎる。気に入らなければぶっ飛ばせばいいだろうに。

「そんなに危ないもんか? 粗相したら叱ってやれば済む話だろう」
「な、そう思うだろ? あーあ。アンタみたいな魔女がいっぱいだったら良かったのにな」

 イヴァは組んだ手で後頭部を支えつつ地面に寝転がった。ため息を着いて口を尖らせている。

「魔女とアマゾネスで親睦を深めるなんて言ってるくせに、こんなんじゃ来た意味なんて全然ないよな」
「気になっていたんだが、なんで今更人間同士で親睦なんか深めるんだ? 食うに困ってるとか?」
「いやアタシ達かよ! そっちの偉いヤツが言い出したんだぜ? 『魔獣の動きが変だから同盟を組もう』って」

 初耳だった。
 アマゾネスの一族だって野性的な側面が強すぎるだけで、魔女の一族と同じ人間だ。
 利害関係をはっきりさせる必要があることも驚きだが、それより想定外なことがある。
 ――魔界大戦を予期しているやつがこの里にいるのか?

(俺と同じ前世の記憶を持った回帰転生者か……? いや。偉いヤツというならあいつしか居ない)

 学園長の皮を被った初代魔王。
 シモーネ学園長もとい、エズモニアス・エルドレッド卿。
 確かに俺が前世で打倒したのは初代ではなく現代魔王だ。そいつが魔獣をけしかけてクレアを襲ったのだから、ぶち殺して当然である。
 初代魔王に戦いを挑んだのは魔王軍を根絶やしにしたかったからだ。クレアに危険が及ぶ可能性の芽を摘むことができればそれで良かった。
 結果としてあの魔王には前回逃げられたが、以降何事もなかったから気にも留めていなかった。

「言われてみれば――」
「あ、やべ。魔獣のことは内緒にするように族長から言われてたんだった。今の忘れてくれよ」

 危ない危ない。知ったかぶりをするところだった。
 下手に調子を合わせすぎてもボロが出るな。次から気をつけよう。

「ああ、確かに竜が来たりで色々大騒ぎだったからな。下手すると竜を狩ろうなんて言い出しそうで怖いよな。……ハハハッ。竜なんて本当は善良な生き物なのに。なあ?」
「そうかあ……? まあ下手に刺激しないほうが良いとは思うぜ。またあんなの来られたら、スミレも丸呑みされるだろ」

 貧弱な魔女だからか、イヴァは俺を小馬鹿にするように冗談めかして笑った。
 よかった。やはりこの時代では俺を殺そうと思ってはいなさそうだ。

「もしスミレが竜に食われそうになったら、アタシがあの牙をへし折ってやるよ」

 だめだこいつ、立ち向かう気満々だ。

「少し脱線したな。で、親睦を深めるといっても銀狼が一緒じゃないから困ってるんだよな?」
「そうさ。魔術も教えてもらったけど、文字ばっかで頭痛くなりそうだし。狩りをするにも許可証ライセンスがないと外出できないし困っちゃうよな」
「結局一緒に生活して文化を学びたいんだろ?」
「ポチと一緒にな」
「できるぞ。俺となら」

 流れが変わったことを感じたのか、イヴァが軽快に身を捻って跳ね起きた。

「できんのか!?」

 ラッキーのスキンシップくらい興奮気味に近づいてくる。
 俺は指を立ててイヴァを制止した。

「ダンジョンに潜るんだ。俺は中等部に上がってツテもあるから、ダンジョン攻略の名目でわりと簡単に外出できる。記憶だとほとんどのダンジョンは里の管理下らしいが、攻略のためならペットを連れても平気だろ。それで実績残していけば、里にも入れてもらえるんじゃないか?」 
「それを先に言えよ! ははっ。最高じゃねえかスミレ! 気に入ったぜ! 早く行こう!」

 結局肩を掴まれて思いっきり前後に揺すられた。
 アマゾネスの一族は加減を知らない。いや、加減しているのだろうが、頭が取れそうだ。

「まだだめだ。イヴァを俺の攻略パーティに登録しないといかん」
「そうなのか?」
「ああ。だからこの証書に掌印を押してくれ。魔力液が染み込んでるから、ただ押し当てるだけでいいぞ――ぐはぁああああ!?」

 ピッと広げた証書越しにもの凄い衝撃が襲ってきた。
 なんのことはない。イヴァが豪快に掌を押し当ててきたのだ。ほとんど掌底の要領で俺の胸にスタンプする。そのまま後ろの壁に激突した。

「きさまっ……加減しろよ脳筋!」
「わるい! 嬉しくてつい……」

 照れ笑いしながら頭を掻いているイヴァはとてもじゃないが可愛げがない。
 俺が反射的に防御魔法を使っていなかったら内臓がぐちゃぐちゃになっていたところだ。
 それにしてもこの証書、くっきりと掌の形が浮き上がっているくせに破けるどころか皺もつかないとは驚いた。あれだけの衝撃に耐えうるなら、これを作った魔女はかなり優秀だ。

「……もういい。俺はパーティ申請を出してくる。三日後の始業時間に正門集合だ」
「ああ! わかったぜぃ!」

 たぶん全く反省していないであろうイヴァは、上機嫌で出口に向かって走った。多分ポチっていう銀狼に会いに行くんだろう。
 俺も受付に向かおうとした時、後ろからイヴァの大声がした。

「スミレ!」
「ああ?」
「お前良いやつだな!」

 ブンブン手を振ってニコニコしているイヴァは、今度こそどこかへ行ってしまった。
 まったく嵐のような女だ。



     ◆



「クレイバスタ家の委任状をお返しします。パーティ登録は以上です」

 学園受付窓口に行くと、ノトムが言った通りダンジョン攻略ライセンスが割と簡単に手に入った。
 ブラッカ・クレイバスタの特別待遇らしい。本来中等部の生徒でも、必修科目を飛ばしてのダンジョン攻略はご法度だ。ただし、クレイバスタ家の同伴であればこれをすり抜けられる。
 俺のペットにしてよかった。

「ダンジョン攻略ガイドと安全ガイドラインはこの赤本にあります。パーティの皆様でご一読ください」
「ああ、了解した」

 受付を済ませて重い書物を抱えていると、通路の曲がり角で嫌な奴と鉢合わせした。
 おそらく、待ち伏せされていた。

「ごきげんよう。スミレさん」

 黒薔薇の魔女候補。クラリス・べルノワール。
 魔女には珍しい白いジャケットを着ているから嫌でも目に入る。
 雪色の瞳が不機嫌そうな瞼で隠れる。俺はそのまま横を素通りしようとしたが、到底許す気はないらしい。そのまま続けた。

「昨日はどうしていたのかしら?」

 ――そうくるだろうと思った。
 昨夜女子寮に来るように言っていたから、俺がバカ正直に来るものだと思っていたらしい。
 まさか竜族の妖精リネリットと談議していましたなどと言えるわけもなく、嘘をつくことにした。

「……はあ。ラッキーの世話をしてたんだ」
「私との約束より、あんな下僕を優先したの?」

 約束? 一方的に耳打ちして返答も待たなかったくせに、約束を取り付けられたと思っているのか? なんて図々しい女だ。

「お前が俺のペットを下僕呼ばわりするな。曲がりなりにも高貴な竜種だぞ」
「ちょっと強い魔獣を従えられたからって浮かれてるのね」

 ふとクラリスは俺の手元に視線を落とした。

「それ、ダンジョン攻略ガイド?」
「そうだが」
「気が早いんじゃない? 中等部で必修科目を受けないと攻略ライセンスもらえないのよ」
「ブラッカの顔を貸してもらったから問題ない」

 クラリスが目を見開いた。意外だったのだろう。
 銀色の髪を雑に弄り、クラリスは呆れたように聞いた。

「パーティは? 最低四人必要よ。クレイバスタさんにスミレさん。で、せいぜい妹さんかしら? あと一人は? 他にあなたと一緒に行ってくれる人なんているの?」
「カエデはダンジョンに潜らないし、ちゃんとパーティ申請はしたぞ。忙しいんだからもう行っていいか?」
「そうよね。仕方ないから私があなたのパーティに……ってええ!?」

 何を言おうとしたのか、クラリスは俺を二度見すると詰め寄ってきた。

「あなたパーティ申請できちゃったの!?」

 とんでもない驚きようだ。
 〝ホウキ売り〟と一緒にダンジョンへ行くヤツなんて居ないと馬鹿にしたかったのだろうか。

「さっきからそう言ってるだろう。じゃあもう行くな」
「待って」

 凛とした声に若干の不服さが混ざっている。
 こいつと過ごすと長いんだろうなと、なんとなく思った。

「いつ行くの?」

 俺が答えてやる義理は無いのだが、変にごねると時間を無駄にしかねない。
 こいつのことだから、俺より難しいダンジョンに潜ってまた張り合いたいだけだろう。

「三日後だが……そんなこと知ってどうするんだ? ちょうど余っていた応募だったから、大したことないダンジョンだぞ」

 俺が行くダンジョンは、前世で千年前に巡ったダンジョンの一つだ。
 将来を担う若い竜人が早く竜魔法を使うため、俺特製の遺物を隠した迷宮――の経由地点。
 魔女の連中がこのダンジョンも管理していたとは思っていなかったが、考えることはどの生き物も同じなのだろうと思った。

「気が早いのね、まあいいわ。せいぜい仲間の足を引っ張らないように頑張りなさい」

 嫌味を一つ言うと、クラリスはろくにコチラを見ず手を振って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...