上 下
109 / 242
東部連合編

枝分かれ

しおりを挟む
 枝流の先頭は、おもちゃ屋だ。
「玩具旅籠」の継ぎ接ぎ看板が店先に垂れ、展示硝子のおもちゃが照明に照らされている。ぬいぐるみやビックリ箱といった、おもちゃっぽいおもちゃがちびっ子を集め、もう一つの看板の役割を担っていた。

 店内真ん中では、色とりどりのバケツが一つの金字塔を作り、空間の格を二段も三段も押し上げている。その様は、まるで、西洋風の結婚披露宴で登場する入刀ケーキさながらだ。
 バケツは赤青黄銀と色様々で、ロボットの部品セット、お菓子の詰め合わせ、侍変装セット等の題字がその上で踊る。変なところを引き抜いて、塔を崩しさえしなければ、あとは選り取り見取りだった。

 バケツの塔の脇には「君の日頃の行いによっては、禍バケツになるよ。良い子にしようね」という注意書が立てかけられていた。

 バケツ以外にも、店内を覆うように、多種多様な物が置かれたり、掛かったりしている。

 噂で知っていたフラワープが、まず私の視線を奪った。全て二枚一組で、小さい子の手が届かない高さにある。
 そこに、跳ねる竹馬や猫耳カチューシャ、豚鼻マスクといった、はじめましての物が加わる。それぞれの商品のそばには、温泉みたいに、効能や成分の説明書きが表示されている。

 猫耳カチューシャ 「つけた方の聴力が都合良く上がります。百メートル遠くの人が、あなたのパーソナルゾーンで話しますし、かといって近くの方が、あなただけの騒音モンスターになる訳ではございません。誰の話を聞くかは、あなたの耳の見せどころです。ただし、壁での遮断に強いとは言い兼ねます。猫の毛八割使用。魔法虐待は行っておりませんので、動物愛護団体の方の苦情は受け付けません」

 次に大きめのティーパックを見つけたと思ったら、それが隠れる粉だった。紐を引いて投げると、煙幕が起こるらしい。いたずらの必需品も、馴染みのある外観のせいで、説明がなければ見落としていた。

 本来の目的はここにはない。私たちは、二校推薦のシールが貼ってある、訓練杖をハル君に買うと、外に出た。

 おもちゃ屋の斜向かいは本屋だ。川が枝別れしたばかりだから奥行きはあまりない。地上では、川に挟まれた鋭角の地面に相当する。
 広くない店内には、魔法呪文本、教科書、新書、物語、スポーツ誌、がジャンル毎に並んでいる。量の多さに、本棚は、今にもはち切れそうだ。

 魔法呪文本は、二校の授業みたいに細分化されていて「マスター・オブ・バノーソ ギノシー」という特定の呪文に絞った本まであった。
 用語集に載ってた北条飛鳥の「イツクンに見るニジョーナワテの功罪」や、マホージュ概説中地区編など自分の知っている本も見つけ嬉しくなった。

 一番の驚きは、魔法史やミズミア史に並んで、古代史や中世史、近世史の本があったことだ。
 魔法界は、二十世紀前半に産声を上げ、現在も発展途上だそうだ。分離する前の古い時代は、共通の世界だったということになる。

 私は古代史、ハル君は中世史の本を買って、それぞれ勉強する事にした。二人で協力して時代を順に追っていく作戦だ。歴史を勉強する事は、素人と玄人が分かり合う手掛かりになるかもしれない。私達は長い間、一緒に生きてきた。二つの世界の隔たりは、決して大きくない。

 目当ての箒屋はまだまだ先だ、とお母さんが言う。
 序盤で寄り道が過ぎて、三十分経っても、横丁の入口が見返せるほどしか進まなかった。楽しむのも悪くないが、箒屋も頭に入れながらなので、どこか気が落ち着かなかった。
 
 しばらくは、店内には入らず、通りから横丁を楽しむことにする。

 ペットショップ、アパレル店と目で触れるものだけでなく、石焼き芋屋や鯛焼き屋そして(このみの好きそうな)音楽屋と、鼻や耳までもてなす店まである。
 鼻だけもてなされても、お腹に悪いから、紅芋を一人一本持って歩く事にした。店主は、私の正体を特定すると、紅芋アイスのトッピングを無料サービスしてくれた。
しおりを挟む

処理中です...