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東部連合編

帰還

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 八丁幌のお宮から故郷を経て、南路、そして昨日の闇の塔。有葵さんや直美さんとは、長く濃密な時間を過ごして来た。それが今日で区切りを迎える。望んだ結末があると言うのに、もう会えないかもしれない、と思うと胸にくるものがあった。彼女達がいなければ私はこんなに強くなれなかった。お姉さん方には、感謝と共に「私も、お二人のようになれるよう頑張ります」と本心を言葉にした。できるかは疑問だが、私もこの恩を誰かに返したいと思った。

「私達になったら、また旅に出る羽目になるわ」直美さんが笑う。
「そうよ。もっと良いお手本を見つけなさい。二校の先生が横にいらっしゃるでしょ」有葵さんは、志筑を見て言った。
「光操魔法だけは任せなさい。今回の旅で課題も出たし、新しいキャンパスで教えられることもあるだろう」
「はい、お願いします」
「玲禾の成長した姿が楽しみね。また、アーヤカスに遊びにいらっしゃい」今回は、私達が離脱する番だった。井上と彩粕の姉君達は、東の空に旅立っていった。

「またここか地下で会おう」と約束を交わし、志筑とも別れた。今まで考えもしなかったが、地下校の存続にホッと胸を撫で下ろす。私とマリアの友情の結晶は、これからも母なる大地に息づいていく。

 アイスクリーム小屋、汐留姉弟が遊んでいた川辺を過ぎ、老木へ向かった。当たり前の景色がとても輝いて見える。記憶にあるのは数ヶ月だけど、幼い頃の自分が我が街に帰ってきた時のように懐かしかった。一緒に帰るべきだった人はいないが、私は確かにここにいる。

 老木の中から笑い声がした。やけに賑やかだから、もしやと思った。我が家なのに改まって、二度扉を叩く。

「ただいま」
「レイカ、おかえりなさい!」マリアとこのみも待っていてくれた。もちろん、母やハル君の姿もある。過ごした日々の現れか、皆んなの顔は引き締まって見える。久しぶりに見つめ合うのは、なんだか照れ臭い。
「いつ来てもおかしくないように、居候してたのよ」お母さんは、誰ともなしに言った。
「最初は家族だけの時間を過ごした方が良いとも思ったんだけどね」このみはツンツンして言う。「どっちみち朝比奈君がいるから、私達もアリかなって」
「俺が悪いみたいに言わないでよ」
「それでも、心の友なの?」マリアの問いに、このみはめいいっぱい頷いた。

 笑みがさざめいた後、ようやくお母さんと向き合えた。

「私、やったわよ」
「知ってるわ。羊皮紙で散々放送されてるんだから」幼馴染やハル君がいる手前、平然を装ってはいるが、瞳は潤んでいる。結果はともかく、心配をかけたことに変わりはない。そばに行き、授かった体を預けることで、その恩に報いようと思った。
 だけど、全身は母親だと告げられた日を覚えており、私の方が感極まってしまった。


 以上
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