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カザンナ王国

誕生日のパーティー

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 ジーンとユーリの誕生日のお祝いは、少し早めの夕食から始まった。
 ルークの旅の仲間である、アオ、ガーディ、ジェス、カズキがそれぞれ、服やオモチャを持ってきて祝い、騎士見習いの訓練生も、慣れない正装姿でお祝いに花を持ってきて、角の方に固まって、珍しい料理を忙しそうに食べている。
 こんな時ぐらいしか、心置きなく珍しい料理を食べれないしな…。
 料理はセルフサービスになっていて、皿に色々と盛り付け、席に戻り、食べ終わるとまた、取りに行って…。
 何度も往復している訓練生達の為に、セルフサービスにしたのかもしれない。
 ルークの膝の上に座ったジーンと、リーンの膝の上に座ったユーリに食事をさせながら、自分たちも食事をする。
 私たちの分は、テーブルに準備されていて、取りに行かなくてもいいから楽だ。
 その辺の配慮はしているのだろう。
 ジーンとユーリのお腹が満腹になって、うとうとと、し始めたので、乳母と一緒に部屋に寝かせに行って、戻ってくると、お酒が振る舞われていた。
 子供たちが眠ったら、解禁みたいだな。
 ルークもアオ達にお酒を注がれて、飲んでいる。
 側にカズキがやって来て、リーンにお酒の入ったグラスを渡してくる。
「飲みやすい果汁酒です」
 リーンは仕方なく受け取り、一口飲む。
 さっぱりとした炭酸のリンゴ味、これなら飲みやすい。
「子供が産まれたときに、お祝いしてなかったから、皆、嬉しいんですよ」
 カズキがそう言ってくる。
「私みたいなのが産んだとしても?」
「ルーク様が、リーンを大切にしているのは分かります。だから、良いんですよ。ルーク様が幸せなら。笑顔でいれるなら」
「…。」
 ルークの側近達は、相手がどんな者であろうと、ルークがそれを望むなら、祝福してくれる。
 手来た人材達だ。
「だから、時間がある時は、ルーク様と子供達の側にいてあげて下さい。…俺達が望むのはそれだけです」
 カズキはそう言って笑う。
 お酒の力を借りて、言いたくても言えなかった事を、伝えているのだろう。
「ああ。なるべく側にいる」
 そう約束すると、カズキは手元に持っていたグラスを飲み干し、その場に座り込んだ。
「…約束ですよ」
 そう言って、目を閉じる。
 …眠ったのか?
 おろおろしていると、ジェスが近付いて来て、カズキの身体を揺らす。
「酒が弱いのに、一気に飲むから…。ほら、起きろよ」
「んっ…」
 反応はするが、起きる気配はない。
「仕方ないな…」
 ジェスはカズキの持っていたグラスを取り上げ、部屋の角に置かれていた毛布を持ってきて、身体にかける。
 リーンは呆然とそれを見ていた。
「…いつもの事ですから」
 ジェスはそう言って笑う。
「リーンが来る前は、良く五人でも部屋で飲んでいて、カズキはお酒が弱くて、真っ先に眠ってましたから」
「そうなんだ」
 私が来てからは、『人魚の湖』や、ギザ王国の事で、なかなか飲む機会が無かったのだとジェスは言う。
「ルーク様も、それほど強くないので、程よいところで部屋へ連れていってください」
「そうなのか?」
 お酒はあまり飲まないので、加減が分からないが…。
「久しぶりの逢瀬おうせが、出来なくなりますよ」
 そう言われて、リーンは真っ赤になる。
「ジェス…」
「ルーク様の体調が悪かったし、子供達の事もあって、してないんでしょう?今日は良く遊んではしゃいでいたから、起きないと思いますよ」
 何でそんな事まで知っている!?
 ほとんど別行動で、一緒にいた時間は短いが、情報通の『風霊』達にでも聞いているのか?
「そんな怖い顔をしないで下さい。『風霊』達がささやくんですよ。…今日は何して遊んだ。とか、夜中に起きて、散歩してた。とか…」
「…。」
 『風霊』達がジェスを気に入っているのは、知っている。
 まさか、そんな事を話に行っているとは思いもしない。
「緊急時以外、言わないように、言っといた方が良いですよ。駄々だだもれです」
「…。」
 恥ずかしい…。
 全部筒抜けだと言うのは…。
「…そろそろ、ルーク様を部屋に誘って下さい。喜んで付いていきますから」
 からかうようにジェスに言われて、リーンはグラスの残りを飲み干すと、ルークのもとに向かった。
 ルークは、ほろ酔い姿で、アオと一緒にソファーでグラスを傾けている。
「…リーン」
 ルークに呼ばれて近付くと、腕を引っ張られ、ルークの腕の中に収まった。
 さっきジェスに言われたことを思い出し、リーンの耳が赤く染まり、ドキドキしてしまう。
 今更だが、大勢の人前で、ルークの膝の上に乗って、抱きしめられているのが恥ずかしくなってきて、ルークの首筋に顔を埋める。
 この状況から脱出するには…。
「…ルーク、そろそろ…部屋に…戻るよ…」
 部屋に逃げ込むしかない。
 リーンがルークの膝の上から降りると、ルークも立ち上がって、リーンの手を握って来た。
「ルーク?」
「…部屋に…戻ろう…」
 そう言ってルークが歩き出す。
「えっ?」
 リーンはルークに引っ張られるように部屋の扉に向かう。
「ごゆっくり」
 ジェスにそう言われて、再び思い出して、リーンは真っ赤になってうつ向いたまま、ルークの後を付いていった。


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