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アリミネ火山~追憶のキース~

炎の竜の声

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 白狼のシロの『移動』の魔法によって、アリミネ火山の中腹で待機していた有翼族のシバの所まで戻ってきた。
 そしてそのままシバの『移動』で、ワイトデ自治区のイオの屋敷にまで戻って来ていた。
 戻ってくると白狼のシロはソファーにぐったりと倒れ込み、イオも風呂場に一旦手を冷やしに行って、キースもソファーに座り込んだ。
 しばしの休憩だ…。
「…炎の竜は生まれたばかりで、何も知らない…。ちゃんと教えてあげれば、アリミネ火山の守護竜になってくれる…」
 キースはそう感じて言った。
「話しは聞いてもらえそうか?」
 シバが聞いて来て、キースは首を振った。
「まだ、無理だ。熱と魔力を押さえてもらえないと、近付く事も出来ない…」
「…あれは…きっと…何故、熱や魔力を押さえなくてはいけないかが…分かっていない…」
 実際に見てきたシロが気だるそうに、そう言う。
 魔力をかなり消費したのだろう…。
「…小さい子供に…何故、ナイフを振り回してはダメなのかを言っても上手く伝わらないように…、自分が怪我をしたり、誰かが傷ついたのを見て、初めて危険なのだと感じるように…炎の竜はまだ、何も見ていないし、経験していない…」
 シロは実際に狼の獣人族の中で、子供達との接触が有り、そんな事態になったことを見ているのかもしれない。
 だったら、それを見せるしかない。
「イオが『圧縮』は見せた。…あとは、何故、近づく事が出来ないかを分かってもらえれば…」
 何か方法は…。
「…先に食事をしませんか?」
 そう言ってチハヤが、ワゴンに飲み物とサンドイッチを乗せて運んできた。
「そう言えば、お腹が空いている…」
 キースは苦笑いした。
 アリミネ火山の中腹には、数時間も居なかった筈なのだが、それだけ魔力を消費したのと、時間もかなり経過していた。
 チハヤがテーブルに食事を並べはじめると、イオが風呂場から戻ってきた。
「火傷は大丈夫?」
 キースが聞くと、チハヤは青い顔をして、イオの元に駆け寄る。
「また、無茶をしたんですか?!」
「…そこまで酷くない…」
 イオは苦笑いして、手を後ろに隠す。
 それを見たチハヤは、イオの背後に回り手首を掴む。
「…それでも、水膨れになってる…」
 チハヤはイオの右手を見て、痛々しいそうに顔を歪める。
「…すぐに直してやるから…心配するな」
 その様子を見ていたシバが苦笑いしてそう答えた。
 また苦痛が有るだろうが、シバなら治療してくれる。
「…それでも、痛いのには換わらない…」
 チハヤは優しい人だ。 
 他人の痛みも自分の痛みとして感じ取ってしまう…。 
「ほら、それより皆に飲み物配れよ」
 イオはチハヤにそう言って、チハヤの本来の仕事を思い出させる。
「そうだね。…僕の仕事だ…」
 チハヤは気を取り直してテーブルに戻ってくると、飲み物を配りはじめた。


「…もう一度、あの場所へ行ける?」
 食事が終わり、すっかり落ち着くとキースはそう言ってシバを見た。
 部屋には有翼族や熊族の元に『保冷石』を運んで行った者達も戻ってきている。
 交代で、アリミネ火山の偵察に行く為に待機していたり、町の状態を報告するために集まっていた。
「…行くことは出来るが、どうするつもりだ」
「『風霊』が、通訳してくれるらしい…」
「…。」
 キースがそう言うと、皆の視線が突き刺さる。
 …自分でもおかしな事を言っていると思う。
 …だが『風霊』が遠目に聞いたのだ。
 我々達が、炎の竜と向かい合っていた頃。
 『どこ』『なに』『だれ』と…。
 なので風のシールド内なら『風霊』も一緒に近付く事が出来、何を言っているのかが片言でも分かる筈。
「こちらの言っていることを『風霊』に伝えてもらう…事が出来ないかと思って…」
 種族が違うし、存在事態が別系列なのだから、伝わるか分からないが…協力してくれると言う…。
「…そこまで『風霊』に懐かれているのか…」
 シバがそう呟いたので、キースは苦笑いして答えた。
「ちょっと違うかな。…ここへ連れてきた責任…だそうだ。…『風使い』になる直前の子なのかも…」
 『風使い』は『風霊』よりも魔力が有り、もう少し意志疎通が出来るようになる。
「…取りあえず試してみよう。…悩んでばかりよりは、良いからな…」
 イオがそう言って微笑んだ。

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