怪異に襲われる

醍醐兎乙

文字の大きさ
14 / 17
ズレる配役 全六話

ズレる配役 五話

しおりを挟む
 神経を削られる痛みで、女の意識は浮上した。
 
 まぶたを開ける。
 視界は白黒に明暗し、瞳はなにも映さない。

 耳を澄ませる。
 頭蓋に血流音が響き渡り、鼓膜に音が届かない。

 口を開く。
 空気は喉を素通りし、声帯は助けを伝えられない。

 もがき苦しみ、女の意識は再び底へと沈んでいった。

 

 次に女が目を覚ましたのは、消毒液の匂いに包まれた静かなベットの上だった。
 女の左腕には点滴が刺さっている。
 点滴を打たれた動かしづらい体で、女はナースコールを押した。
 
 すぐに看護師がやってきて、女の個室は騒がしくなっていく。
 医者も現れ、その時初めてこの病院が、女がひき逃げ事故に遭ってから通院している病院だとわかった。


 問診が始まり、担当医の質問にかすれた声で答えていく。
 その中で、女は自分が階段転落事故に巻き込まれたわけではないと知った。
 女は事故現場で気を失っており、念の為病院に運ばれたそうだ。

 外傷はなく、すぐに目を覚ますと思われたが、今日で三日経った、と担当医から教えられた。

 原因不明の頭痛で検査に来て、その帰りに倒れ、目を覚まさない女。
 追加の検査をしても、異常は見つからない。
 女の家族に、心の準備が必要かもしれないと、知らせたようだ。

「目覚めて良かった」と担当医は微笑を浮かべる。
 しかし、すぐに表情を引き締め「念の為、しばらく入院をしてもらい様子を見る」と女に伝えた。
 
 女が目覚めたことは、すでに女の家族に連絡済みで、今、入院の準備をして病院に向かっているそうだ。
 
 一通りの問診も終わり、担当医や看護師たちも一度退室する。
 女は個室に一人になった。
 点滴も変わらず左腕に刺さったままで、身動きが取れない。
 大人しく、家族が到着するまで物思いにふけることにした。


 女が考えていたのは、階段から落ちた二人の男について。

 一人は夢の中で落ちたサラリーマン。
 もう一人は現実で落ちた男子学生。
 どちらも同じタイミングで、階段から転落した。

(つまり、夢で見た階段転落事故は、被害者を変えて、現実に起こった、と言うことかしら)

 夢で見た『出来事』は変わらず、被害者『役』が変わった。
 
(そういえば、大学で旅行の話を切り出したのも、夢と現実で違う人だったわ)
 
 旅行の話題を出したのが、夢では『隣にいた』友人で、現実では『前にいた』友人だった。
 ちょっとした『ズレ』だったので、女は今になるまで気にしていなかった。

(そうなると……『夢の世界』は現実と『少しだけ人の役割がズレた世界』なのかもしれないわね)

 大きくは違わない。
 夢の出来事は実際に起こった。
 しかし、少しだけ配役がズレている。
 
 そこまで考え、ふと女に疑問が生まれた。
 
(私が夢で見ていた光景は、本当に私の視点なのかしら?)

 生まれた疑問が女の足元に広がっていく。

(それとも、夢の世界で私の『役』をしている『誰か』の視点?)

 もしそうなら……とゆっくりと疑問の沼に浸かっていく。

「夢の世界で私は、どんな役割を与えられているの?」

 答えの出せない疑問の沼に、女は沈んでいった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ
ホラー
それは、あなたの『隣』にも潜んでいるのかもしれない。 日常風景が歪む瞬間、すぐそばに現れる異様な気配。 襖の隙間、スマートフォンの画面、アパートの天井裏、曰く付きの達磨…。 身近な場所を舞台にした怪異譚が、これから続々と語られていきます。 じわりと心を侵食する恐怖の記録、短編集『隣の怪異』。 今宵もまた、新たな怪異の扉が開かれる──。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

残酷喜劇 短編集

ドルドレオン
ホラー
残酷喜劇、開幕。 短編集。人間の闇。 おぞましさ。 笑いが見えるか、悲惨さが見えるか。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...