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第1話
しおりを挟む肩書が人を育てると、誰かに言われたことがある。
意味としては、与えられた肩書に見合う責任感や実績を求めて精進し、研鑽を積んでいくことで、人は成長していくということらしい。
だとしたら、僕に与えられた肩書は僕をどんな人間に成長させてくれるのだろうか。
「戦闘員1411号。貴様を『メロメロキュンキュンで仲間割れだぞ』作戦の実行隊長に任命する!」
上司にこの部屋呼び出され、上司の甘ったるい香水の香りが漂う2人だけの空間。
その中で膝をついて頭を下げる僕に、上司は命令を下した。
12歳でこの組織で働き始めて早10年。
たった今、僕の肩書は『メロメロキュンキュンで仲間割れだぞ作戦実行隊長兼戦闘員1411号』になったようだ。
「正義の味方を気取る愚か者共を、愛憎の末に醜く滅ぼしてこい!」
何が面白いのか高笑いを上げながら部屋を出ていく上司。
僕は顔を伏せたまま、与えられた肩書を反芻した。
(……メロメロキュンキュンってなんだ?)
説明の足りない上司の笑い声が遠ざかり小さくなっていく。
甘ったるい空気が残る部屋に1人残され、誰も僕の疑問に答えてくれない。
「戦闘員1411号。これが『メロメロキュンキュンで仲間割れだぞ』作戦で使用する、その名も『恋する電気毛布』だ!」
高笑いを上げながら部屋を出ていった上司を追いかけ、詳しい説明を求めるためしがみつき、黙って引きずられること数分。
兵器開発室まで高笑いを続けながら小柄な僕を引きずりまわした上司は、大人1人を余裕を持って包み込める大きさの、コードが生えている緑色の毛布を掲げ、小さな胸を張っている。
「この『恋する電気毛布』で包み、『恋する電気毛布』に電源を入れると、『恋する電気毛布』に包まれた者に、偽りの愛が植え付けられるのだ!」
メロメロキュンキュンなのだ!と上司は更に胸を反らせた。
再び高笑いを始めようとする上司に僕は手を上げ、発言の許可を待つ。
この組織はどれだけ付き合いが長くても、部下は許可なく上司に発言ができない。
僕の手をチラチラと視界に入れているはずの上司は、わざとらしく視線を泳がせ、下手な口笛を吹いて、僕に発言の許可を出してくれない。
小柄な僕は存在をアピールするように両手を大きく振り、上司の顔に素早く貫手をかすめさせ、髪を数本弾いた。
規則により、発言を求める際の交渉は肉体言語推奨なので、この程度のやり取りは何も問題にならない。
「そ、そんなことをしても私は貴様に発言の許可は出さないからな! 貴様の性格の悪さに何度泣かされてきたと思っている!」
黙って私に従え、と上司は肩まで伸びている黒髪を両手で抑え、僕の肉体言語に抵抗してくる。
ここに来るまで数分間引きずられた恨みもあり、僕は上司に見せつけるように右の拳を掲げ、大きく振りかぶった。
「つまりこのヘンテコ毛布でヒーロー共を洗脳して仲間割れさせるってことか」
「はい……そうです……」
「あとさっき言っていた偽りの愛を植え付けるってのはどういう意味だ」
「それは……『恋する電気毛布』を使用した人に強烈な愛情を抱かせるって意味です……はい」
「……」
「……」
「僕たちが今、敵対しているヒーローは野郎ばかりだ」
「はい……そうですね」
「そして背は低いが僕は男だ」
「へへへ……そうだね……へへ」
「…………」
「へへへ……へへ……」
「……もしかして前回の作戦結果が関係してるのか?」
「も、もちろん……目標個体5人に対して負傷1、討伐回収1、捕獲1だったね……ふへへ」
「………………」
「ふひひひ……ふふっ……」
「笑うな殺すぞ若作りクソババア」
「ババアじゃない! まだ20代!」
頭を押さえ、涙目になっている上司に、もう1発げんこつを落とす。
わざとらしく悲鳴を上げ、床でのたうち回る上司を尻目に、僕は上司が投げ捨てた『恋する電気毛布』を拾い上げた。
どうやら、僕はこれからイカれた愛憎劇の主役になるみたいだ。
あとこの毛布、無駄にいい匂いなのが上司と同じで腹が立つ。
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