戦闘員1411号と愛の無茶振り計画

醍醐兎乙

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第2話

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 現在、僕が担当している敵組織は、直近の作戦『こわいよシクシク、たすけてよアタック』の成果により半壊している。
 そこに追い打ちをかけるのが、今回の作戦『メロメロキュンキュンで仲間割れだぞ』だ。


 
「捕獲した黒の個体も私が使いたいんだけど!」

 僕は組織の規則を守る、優良戦闘員1411号。
 上司がなにか喚いているが、僕から発言の許可を取っていないので当然無視をする。
 
「無視しないで! 発言許可するから!」 

 組織の規則では、必ず格下のものから発言許可を申請しなければならない。
 僕は規則に従い、上司に視線すら向けずに無視を続ける。
 服にしがみついて抗議してくる上司を引きずり、僕は生体実験室に向かう廊下を突き進む。
 生体実験室には僕が捕獲した、黒色のヒーローがいるはずだ。



「てめえグリーンを殺しやがったガキじゃねえか!! 絶対許さねえ!! 殺してやる!!」

 生体実験室で拘束されている黒色のヒーローは、僕を認識すると大声で騒ぎ始めた。
 こいつらが扱うエネルギーは、討伐回収した個体を解析したおかげで、この部屋の中という条件はあるが無事に無力化できている。
 それにしても、この黒いのはとても元気が有り余っていて、様々な実験に使っても問題なさそうだ。
 わざわざ無傷で捕獲した甲斐があったと、僕は心のなかで自画自賛した。
 
「それで貴様は、この個体で何をするつもりなのだ?」

 僕の服にしがみついている上司が、少し真剣な声色で問いかけてくる。
 僕は少し考えてから上司に視線を向けて、渋々右手を少しだけ挙げた。
 真剣な表情をしている時の上司には、逆らう気にはなれない。



「つまり『恋する電気毛布』の詳しい使用条件と性能テストをしたいということか」
「せっかく適役な実験体がいるんだ、色々やっておいて損はないだろ?」

 発言の許可を取った僕は、騒ぎ続ける黒色ヒーローの怒声を背景に、自分の考えを上司に伝えた。
 
「特に知りたいことは3つある」

 僕は指を1本立てて、上司に向ける。

「疑問1つ目は、複数回『恋する電気毛布』を使用した場合、効果に変化はあるのかどうかだ」
「使用回数によって、植え付ける愛情に変化があるかということ?」
「それもあるが、感情を強制的に植え付けるんだ。複数回の使用で対象が発狂したり、廃人になったりしないかも知っておきたい」

 上司は僕の話に軽く頷き、目線で次を促す。
 僕は立てた指を2本にして、話を続けた。

「疑問2つ目は、複数人で『恋する電気毛布』を使用した場合、どの使用者に対して愛を向けるのかだ」
「最初に使った者か、最後に使った者か。確かに複数回『恋する電気毛布』が使用できるなら知っておいたほうがいいな!」

 僕は頷き、3本目の指を立てる。

「最後の疑問は、愛情を植え付けるということが、具体的にどういう状態なのかだ」
「どういう状態?」
「つまり、対象の記憶を書き換えて愛情を植え付けるのか。それとも記憶はそのままに無条件で根拠のない愛情を植え付けるのかだ」
「その疑問だったら私が答えられる! もちろん後者なのだ!」
「……この疑問以外答えられないのは、『恋する電気毛布』の開発者としてどうなんだよ」
「知らないし、聞こえないし、貴様に与えた発言の許可はここまで! 早速実験を開始して、我らの疑問を解決しようではないか!」
 
 僕たちは、いつの間にか黙って僕らの会話を聞いていた黒の実験体にゆったりと近寄っていく。
 
「何だお前ら! 愛情? 植え付ける? 何言ってんだよ!」

 実験体の疑問は聞き流し、僕は改めて『恋する電気毛布』を広げてみる。
 この大きさなら僕が3人いても余裕を持って包み込めそうだ。
 
「てめえら俺を無視するな! 大体何者だガキ! どう見ても小学生くらいの子供じゃねえか! なんでそんなやつがグリーンを殺せて、その上俺を捕まえれるんだ!!」

 上司も実験体からの疑問に答える気がないのか、淡々と実験の準備を進めている。 
 僕は暴れて抵抗する実験体を、抵抗する気がなくなるまで延々と殴り続け、動かなくなった実験体の全身を『恋する電気毛布』で悠々と包みこむ。
 
「ふひひひ、実験開始だ! ワクワクする!」
 
 上司が放った笑顔の宣言に押されるように、僕は『恋する電気毛布』に電源を入れた。
 
 上司の甘い香りと実験体の悲鳴が充満する生体実験室。
 その中で僕は呟いた。

「こっちは愛だ、勇気だ、友情だのといった理解不能なエネルギーを扱うバカ野郎共と敵対してるんだ。そんな組織の戦闘員が、見た目通りの年齢や身体能力なワケがないだろ」
 
  
 
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