戦闘員1411号と愛の無茶振り計画

醍醐兎乙

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第3話

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 1通りの実験を終え、上司は満足そうに高笑いを上げながら生体実験室を出ていった。
 部屋に残った僕は、床に崩れ落ちている実験体の髪を掴み、そのまま同じ目線になるまで頭を持ち上げ、改めて観察する。

「な、なんだよ……そんな見つめんなよ……」

 黒の実験体は頬を赤く染め、僕から目を逸らす。
 そして、なにかに耐えるかのように体をくねらせ、ご褒美を期待して僕の言葉を待っているようだ。

「……お前が元仲間の情報を、知っている限り全て話したら、優しく頭を撫でてやる約束だったな」
「そ、そうだ!! 約束だからな!! 俺の頭を撫でさせてやる!!」
「……」
「は、はやくしろよ」
「…………」
「や、やくそくしただろ……」
「………………」
「……ぜんぶ……はなしたのに……」
 
 実験体は僕に媚びた視線を向けながら、ほろほろと涙を流し始める。
 僕は気味が悪くなり、思わず実験体の髪から手を離し、うずくまろうとする元ヒーローを思わず蹴り飛ばした。

 こんなおかしな振る舞いをする男が、数分前まで僕に殺意を向けてきた男と同じ存在だとは到底思えない。
 しかし、それを可能にしたのが『恋する電気毛布』で、こんな気持ち悪い存在を増やしていくのが今回の作戦『メロメロキュンキュンで仲間割れだぞ』になるわけか。

 あのクソ馬鹿上司をもう数発殴り飛ばしても、僕は許されると思う。
 まだ近くの廊下で高笑いを上げて歩いていた上司を追いかけ、泣きわめく上司を無言でぶん殴りながら、僕は次の計画を考え始めた。



 僕が次の標的に選んだのは青色のヒーロー。
 黒色が言うには、こいつは出世欲の強い個人主義者らしい。
 それでいて実力はそれほどでもないという。

 確かに戦場で苦戦したのは赤色と緑色ぐらいで、他の3色は僕よりも弱かった。
 僕が手強い緑色を始末できたのは、能力が低い上に思い込みの激しい黄色が、僕の仕掛けた『こわいよシクシク、たすけてよアタック』に見事に引っかかり、緑色の足を引っ張ったことが原因だ。
 瀕死の黄色を庇って戦う緑色を始末するのは、戦闘向きでない僕にでもできる、比較的簡単な作業だった。
 ただ、緑色にとどめを刺す瞬間の隙をつかれ、青色と赤色に瀕死の黄色を回収されてしまったのは僕のミス。

 僕が今回の作戦『メロメロキュンキュンで仲間割れだぞ』に文句をつけながらも真面目に計画を進めているのは、瀕死の黄色を取り逃したミスを挽回する必要があるからだ。



 意外と気合を入れて、この作戦『メロメロキュンキュンで仲間割れだぞ』に挑んでいた僕は、目の前に広がる予想外の光景に頭を悩ませていた。

 きっかけは、青色を追い詰めるための計画を詰めているときに、気持ちの悪い黒の実験体が僕の生活圏に居ることが嫌で出した、頼みという名の命令。

「次の標的、青色ヒーローを無力化して連れてこい。それができるまで帰って来るな。もしも達成できたら力いっぱい抱きしめてやる」

 そして、その結果がこれだ。

「だ、だ、だ、抱きしめてくれ!!!!」

 片腕を失った状態で返ってきた黒色は、かろうじて生きているであろう肉塊を、僕の前に転がした。
 
「これは……何だ?」
「ブ、ブ、ブ、ブ、ブルーだ!!!!」

 瞳孔が開ききり、焦点のズレた瞳で僕を凝視しながら、黒色は元仲間を差し出してきた。
 その報酬は僕からの抱擁。

 とりあえず死なない程度に黒色を蹴り飛ばしておいたが、何故か黒色は悶え喜んでいる。
 愛情ってなんだよ、狂ってやがるな。
 こんな狂った愛情をぶつけられた不快感。
 そんなものを僕に味わわせた恨みは、簡単には晴らすことはできない。
 イカれゴミ上司、覚悟しておけ。
 


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