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5章 冬休み。
170.繰り返す
しおりを挟むそれからの生活は地獄だった。
「っひ、っひぅ、やだぁ……お外で遊びたい」
「渚……お願いだから静かにしてて」
食事だって十分に貰ってるし、生活に不自由はない。
ただ、外に出られないだけ。
学校に行けない分家で勉強をしながら妹達の面倒を見た。
両親が仕事に行ってる間、ご飯や家事は俺の仕事。
家の窓から学校に行っている子供を見た。
(いいな……俺も行きたい)
でも、外に出ちゃ行けない。
その分必死に、必死に家で勉強した。
ーーー
「お母さん、学校行きたい」
駄目元でお願いしてみた。
「………その時が来ればね」
その度に母は疲れ切った顔でそう言ってて、
その意味は最後まで分からなかった。
ーーー
「今日は休み……?」
その日は珍しく母の仕事が休みだった。
しかも………
「学校に行っていいの……!?」
外に出ていい、学校に行っていいと言われた。
嬉しくて、久しぶりにランドセルを背負って学校に向かった。
「………さよなら」
その時の母はもう、クマもひどくて痩せていて、
とても………正気ではなかったらしい。
そしてそれが、俺が最後に見た母の姿。
ーーー
学校が終わってもまだ帰りたくなくて、図書室で本を読んだり公園で時間を潰したりして過ごした。
そんなことをしていたら帰るのはすっかり遅くなっていて……6時、父が帰ってくる1時間前に帰宅した。
「ただいま…!渚、実梨、おかあさ………」
玄関を開けた瞬間、
嗅いだことの無い程の異臭がした。
「……?!」
何かが腐ったような臭い、奥の部屋からだった。
それにどこか……家は冷たくて、
「母…さん……?」
ゆっくりとゆっくりと、奥の部屋まで足を進めた。
奥の部屋に行く度に臭いが強くなっていく。
奥の部屋は扉が閉まっていて、その前の部屋には妹達がいた。
「……!渚、実梨」
毛布にくるまってかなり深い寝息を立てて眠っていた。
(こんなに臭いがするのに寝てるなんて………何か、おかしい)
………奥の部屋に行ってもいいのか、
(怖い…怖い、怖い怖い怖い)
奥の部屋は暗くて狭い。
俺が嫌いな部屋。
けど、どこにもいない母、この異臭。
(俺が行かなきゃ……)
意を決して、扉を開けた。
ーーー
立て付けの悪い古い木の扉が鈍いを音を立ててゆっくりと開く。
異臭の原因が分かった。
「あ……ぁ"、あ"、
あ"ぁ"あ"あぁ"あぁ"ぁ"………………ッッッ!!!!」
電気もついていない暗くて狭い部屋。
天井にかかった縄。
部屋の真ん中に足を浮かせて真っ直ぐに立つ、母の姿。
「お母さん!!…ッおがぁ"さん"!!!」
足は真っ直ぐに伸びて、地についていない。
その下に蹴られたような椅子があって、
縄が、母の首を持ち上げるように吊り下げられている。
既に、息はなかった。
「………ひ、っは、…ッひゅ、
はぁ"……、ハァ、ひ、ふ…、…はッ、はぁ"、ぁ"………」
息が出来ない。
呼吸困難になって、汗が止まらなくて、吐いた。
「う"…うぇ"、お"ぇ"………」
腰が抜けて動けなくて、
でも気が付けば、渚と実梨の所へ向かっていた。
(もし2人が起きたら……こんなの………見せられるわけない)
まだ2才の妹達がこんなもの見てしまったら、そう考えるだけで怖くて、
扉を閉めて、2人を順番に奥の部屋から一番遠い場所へ運んだ。
(どうしよう……そうだ、お父さん)
父に電話………そう思ってすぐに電話をかけた。
『お父さん!お母さんが………』
『え……優馬、何言って』
初めは信じてくれなかったけど、それが本当だと知った途端、
尋常じゃないくらい取り乱した。
実際に現場を見た、俺以上に………
それから数十分して、父が帰ってきた。
俺達のことなんか気にもせず電話で伝えた奥の部屋の扉を開けて、
ソレを見て、その場に座り込んだ。
「嘘……だろ」
ソレはもう硬直が始まっていて、
俺もまた、吐きそうになった。
ーーー
それからの父の落胆ぶりは酷かった。
仕事に行っても早退が多くて、有給を取っては家で酒に溺れる。
半年もそれが続いたある日、
父が仕事に行った夕方、病院から電話が来た。
『あのね、お父さんが今車に………』
今度は、嫌にあっさりしていた。
(あぁ………死んだんだ)
それ程もう、感情は冷め切っていて、
それに………あの父の精神状態を見ていたら、近々こうなるのは分かっていた。
もうすぐ5年生になる頃の、小学4年生の冬終わり。
葬儀が終わって遺産を貰って、
そんな時、従兄弟の人に声をかけられた。
「私は優馬君達のお母さんの姉、貴方達の叔母さんよ。良かったら私達の家で一緒に暮らしましょう」
その家はお金持ちで、遺産目当てじゃないことが分かって、素直に住ませてもらうことにした。
流石に小さい妹もいて、一番年上が小学生じゃ生きていけない。
でもその選択は間違いだったのか良かったのか、
少なくともあの時は間違いだったと思う。
ーーー
「花咲優妃です、よろしくね?お兄さん」
黒髪に銀色の目。
その日からまた、絶望的な日々が始まった。
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