夏の記憶

ナナシ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

水の記憶

しおりを挟む
青い空、緑葉の香り、セミの鳴き声、体全体にあたる何か……この話は今はもう存在しない私の幼少期、私の大事な気持ち、「思い出の詰まった場所」のお話


そこは私の家から1分もかからない公園にあった。とても広くて静かで時間を選べば貸切状態でとても好きだった。夏の暑さを忘れられ、車の音も遠くなり、聞こえるのは風の吹く音と揺れる波の音。自分のいる場所が東京だとは思えないくらい素晴らしい場所になるのだ。今でもとても不思議だと思う。だって私は東京生まれの東京育ち。今も東京に住んでいる。なのにそこに行けば東京にいるとは思えなくなってしまっていたからだ。
その頃の自分は小学生だったから1時間20円だった。だから毎日のように通っていた。浅い所と深い所があり普段は浅い所で遊んでいた。ここまでいえば気付くだろう。そう、プールの話だ。
さて、話を戻そう。


ある日、ふと深い方に入ってみようと思った。なんてことない、子供の好奇心だった。入ってみるとそこは浅い子供用では知ることの無い世界だった。光を反射し幻想的に光る世界。自分の手の動きに合わせ光が変わり、水が自分を包み込むのだ。


普通のプールではない。公園の中にあり、屋根などない屋外プールだ。しかも9時から午後の7時までやってるのだ!
私は一日で3回以上行ったこともあるくらい大好きだ。屋根のあるプールは部屋の温度が調節され、水の温度も変えられる。それに、人口の光で太陽の光が届くことは無いから嫌いだった。それに比べたらその公園のプールなんて!その時の気温、水温、全て違うのだ。
それに、深い方でしか見ることの出来ない世界もその日、そのときで全て違うのだ! 雲によって見え隠れする状態の時はキラキラと光る黄色い光とキラキラ光る白い光のふたつが織り成す静かで儚い世界となる。 快晴の日はどこを見てもキラキラ光る黄色い光があり、明るく楽しい世界となるのだ。この事を知っていたのは私と、私の兄弟だけだった。私達は誰にも言わなかった。 誰かに言って知られてしまったらもう自分達だけの特別ではなくなるからだ。今でもそう思ってはいるけど、たった1人大切な友達に話した時言われたとある一言だけは胸に残っている。 それは
「素敵な所だったんだね。そんな綺麗な所がなくなっちゃったなんて残念だね。」
だった。
私の話した内容はよく流されることが多い。 でも、この話をしたらきっと話を流さず
「なんで教えてくれなかったの」
なんて言われていただろう。 自分の都合のいいことだけ拾う人が大半だったろうに。
だけどその子は話を流さず聞いてくれて、話した言葉だけなのに想像してくれたのか無くなってしまったことにも悲しんでくれたのだ。 
小学校時代の友達には
「あそこのプール汚かったからなくなって良かった。」
なんて言われていたからとても嬉しかったのを今でも覚えている。 君に見せることは出来ないが、今私は水彩画を練習している。上手く描けるようになったら君に見せたいと思っている。
これで今はもう存在しない魔法のような世界、私の大事な気持ち、私の幼少期全て、私という人間を作り上げた特別な思い出の詰まった場所のお話を終わりとしよう。

君に見せるその日まで、思い出の扉に鍵をかけて閉まっておくから少し待ってて…
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...