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「まあ、では、エリー様はデビュタント以来、社交界に顔を出しておりませんの?」
「はい。領地が遠いのと、ドレスが用意できないのとで……この通り、言葉遣いも全然なっていないし……本当、あたしが『聖なる乙女』だなんて、何かの間違いに決まってます」
「ですが、エリー様はきちんと癒しの魔法を行使したと聞き及んでおりますわよ」
「偶然なんです。昨年の冬にうちの領地で病が流行って……どんどんと領民たちが倒れていって。『お願い治って』って願ったら、魔法が発動したんですけど。その後から瞳の色が変わって、よくわからないうちに『聖なる乙女』って騒がれてお城に連れて来られたんですけど、でも聖なる魔法を使ってみろと言われても全然出来なくて……この学園で学べばきっと能力を使いこなせるようになるだろうって言われたんですけど、ダメダメで……」

 喋れば喋るほどに自信を失っていくエリーは、ついにはしょんぼりと下を向いてしまった。彼女が手にしているハムとチーズが挟まったサンドイッチも、しなびてしおしおになっている。

「あたし、領地ではほとんど貴族らしい振る舞いなんてしていなかったんです。馬に乗ったり駆け回ったり領民と一緒になって畑耕したりしていたから。だから『聖なる乙女』なんて柄じゃ全然ないし、きっと何かの間違いなんですよ」
「ダメですわ、エリー様。そんな弱気なことをおっしゃっては!」

 自分で自分を卑下しまくるエリーにアマーリエは叱咤激励を飛ばした。

「良いですか? 振る舞いなどこれからいくらでも身につければ良いのです。大切なのは、心持ち! やる気になれば大抵のことはどうにかなるものですわ。まず、一人称から変えていきましょう。『あたし』ではなく『わたくし』もしくは『わたし』とおっしゃるのです! はい、早速おっしゃってみて!」
「あ……わ、わたし?」
「もう一度!」
「わたし!」
「そう、その調子です。それから、何を言われてもおどおどしてはいけません。エリー様は国で唯一の希少な『聖なる乙女』なのですから、堂々としていればいいのですわ」
「でも、聖なる魔法もろくに使えないくせに偉そうって思われたりしませんか……?」
「そう言う時は、こう言い返せば良いのです。『聖なる魔法は神聖なもの。気軽に人に見せていいものではありません。そんなこともわからないのですか?』と」
「おおー」

 エリーはアマーリエの見事な切り返しのセリフに感激し、パチパチと拍手を送った。
 アマーリエは胸を逸らし、自信たっぷりに言う。

「堂々としていれば、大抵の人は言い返せはしません。エリー様に足りないのは自信ですわ。これからエリー様が自信を持てるよう、わたくしがみっちり指導いたします。……あら、残念。もう昼休みが終わってしまいますわね」

 ちょうど予鈴が鳴り響いたところで、アマーリエによるちょっとした講義が終わりを告げる。二人は急いで昼食を終えると、立ち上がった。

「アマーリエ様、ありがとうございます。あた……わ、わたし、がんばります」
「ええ。微力ながらお手伝いいたしますので、共にがんばりましょう。では、ごきげんよう」

 アマーリエは二年生の教室に。
 エリーは一年生の教室に。
 二人はそれぞれ別の場所へと行く。
 この日からアマーリエとエリーの二人による、特訓が始まった。
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