「氷の華」と呼ばれる公爵令嬢は、ドSな王太子のお願いを断れない〜婚約者なのにキス一回につき命令を一つ聞けって、正気ですか?〜

佐倉涼

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「アマーリエ様、今日はなんだか嬉しそうですね」
「そうかしら?」
「ええ、何かあったのですか?」

 エリーが小首を傾げて問いかけてきたので、アマーリエは意味ありげな笑顔を浮かべて「ちょっとね」と言い、紅茶を啜った。
 本日は外にティーセットを用意して、二人きりの茶会を開いている。
 アマーリエが用意した、テーブルを彩る花も茶器も、目にも鮮やかな茶菓子とそれに見合う紅茶も、全てが一流のものだ。
 最初こそ恐れ多いと恐縮していたエリーであったが、「慣れておかないとこの先大変な目に合いますわよ」とアマーリエが脅した結果、ビクビクしながらも席について茶菓子を口にし、以来その美味しさに完全に胃袋を掴まれていた。
 アマーリエのいるオーヴェルニュ公爵家お抱えの職人が作った菓子たちが、不味いはずがない。 
 品の良い食べ方を指導しながらも茶会を楽しみ、エリーもここ数日でやっとくつろげるようになってきたようだった。
 アマーリエは今朝の出来事を思い返し、毅然と言い返したエリーの成長ぶりに感動したものの、ジルベールの婚約者再考のことまでも思い出して少しだけ落ち込む。

(ジルベール様、本当に婚約者を選び直すおつもりなのかしら……)

 もし事実ならば、アマーリエにはどうしようもない。ジルベールもアマーリエを憎からず思っていると考えていたが、全ては自分の勘違いだったということだ。

(わたくし、思い上がっていたのかしら……恥ずかしい。穴があったら入りたいくらいだわ)

 ティーカップを置き、思わず両手で自分の顔を覆うアマーリエ。
 ジルベールの気持ちを読み間違っていたかもしれないという羞恥心と、もしかしたら大好きな殿下に婚約破棄されるかもしれないという絶望感と恐怖。それらが混ざり合い、アマーリエはかつてないほどに混乱の最中にいた。

「アマーリエ様」

 そんなアマーリエを現実に引き戻すかのように、エリーの控えめながらも意志の強さを感じさせる声がした。

「アマーリエ様は誰よりも気高く、美しい心の持ち主だと私は思います。学園で味方が誰もいない、こんな私に良くしてくれたたった一人のお姉様……間違いなく、アマーリエ様はジルベール様の隣に並び立つにふさわしい、未来の王太子妃です」
「エリー様……ありがとう」

 あれほど自信なさそうにしていたエリーが、こうも堂々とアマーリエを励ます言葉を口にする。
 改めてエリーの変貌を目の当たりにし、アマーリエの落胆していた気持ちが少し上向いた。
 ジルベール殿下に言われてエリーに近づいたが、今となってはひたむきなエリーの人柄に惹かれていた。
 懸命に努力して自分に足りないものを補おうとする姿は、アマーリエにも通じる部分がある。
 仲良くなれてよかったわ、と心の底から感じていた。

「……本当は私が、聖なる魔法を使いこなせたなら、アマーリエ様の威光をもっと高めることができるんですけど……」

 と、アマーリエが感動していたのも束の間、エリーの眉がまたもや自信なさげにハの字に下がった。

「それに関しては焦っても仕方がありませんわ。魔法というのは、本来時間をかけてゆっくりと理解し使いこなせるようになるもの。エリー様は突然強すぎる力に目覚め、まだうまくコントロールできないだけですわ」
「そういうものでしょうか」
「ええ。魔法を学ぶのは、貴族の大切な教育の一環。学園で学んでいるうちに、きっと使えるようになります」

 エリーの使う癒しの魔法の他にも、様々な種類の魔法が存在している。

 魔法を使えるのはほぼ貴族に限られている。というのも魔法を使うための「魔力」を内に秘めているのが貴族だけだからだ。
 エリーは聖なる乙女としての力に目覚めるまで他の魔法が使えなかったらしく、魔法教育を受けてきていない。
 ならば癒しの魔法をうまく使えなくて当然だ。
 ゆっくりと勉強していき、使いこなせるようになればいいとアマーリエは思う。
 何せエリーの持つ銀の瞳は、歴史書に載っている「聖なる乙女」の証そのものだ。
 焦る必要は一つもない。
 にこりと微笑むアマーリエに、つられてエリーも紅茶のカップの影で笑みを漏らした。
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