10 / 19
9
しおりを挟む
「アマーリエ様、今日はなんだか嬉しそうですね」
「そうかしら?」
「ええ、何かあったのですか?」
エリーが小首を傾げて問いかけてきたので、アマーリエは意味ありげな笑顔を浮かべて「ちょっとね」と言い、紅茶を啜った。
本日は外にティーセットを用意して、二人きりの茶会を開いている。
アマーリエが用意した、テーブルを彩る花も茶器も、目にも鮮やかな茶菓子とそれに見合う紅茶も、全てが一流のものだ。
最初こそ恐れ多いと恐縮していたエリーであったが、「慣れておかないとこの先大変な目に合いますわよ」とアマーリエが脅した結果、ビクビクしながらも席について茶菓子を口にし、以来その美味しさに完全に胃袋を掴まれていた。
アマーリエのいるオーヴェルニュ公爵家お抱えの職人が作った菓子たちが、不味いはずがない。
品の良い食べ方を指導しながらも茶会を楽しみ、エリーもここ数日でやっとくつろげるようになってきたようだった。
アマーリエは今朝の出来事を思い返し、毅然と言い返したエリーの成長ぶりに感動したものの、ジルベールの婚約者再考のことまでも思い出して少しだけ落ち込む。
(ジルベール様、本当に婚約者を選び直すおつもりなのかしら……)
もし事実ならば、アマーリエにはどうしようもない。ジルベールもアマーリエを憎からず思っていると考えていたが、全ては自分の勘違いだったということだ。
(わたくし、思い上がっていたのかしら……恥ずかしい。穴があったら入りたいくらいだわ)
ティーカップを置き、思わず両手で自分の顔を覆うアマーリエ。
ジルベールの気持ちを読み間違っていたかもしれないという羞恥心と、もしかしたら大好きな殿下に婚約破棄されるかもしれないという絶望感と恐怖。それらが混ざり合い、アマーリエはかつてないほどに混乱の最中にいた。
「アマーリエ様」
そんなアマーリエを現実に引き戻すかのように、エリーの控えめながらも意志の強さを感じさせる声がした。
「アマーリエ様は誰よりも気高く、美しい心の持ち主だと私は思います。学園で味方が誰もいない、こんな私に良くしてくれたたった一人のお姉様……間違いなく、アマーリエ様はジルベール様の隣に並び立つにふさわしい、未来の王太子妃です」
「エリー様……ありがとう」
あれほど自信なさそうにしていたエリーが、こうも堂々とアマーリエを励ます言葉を口にする。
改めてエリーの変貌を目の当たりにし、アマーリエの落胆していた気持ちが少し上向いた。
ジルベール殿下に言われてエリーに近づいたが、今となってはひたむきなエリーの人柄に惹かれていた。
懸命に努力して自分に足りないものを補おうとする姿は、アマーリエにも通じる部分がある。
仲良くなれてよかったわ、と心の底から感じていた。
「……本当は私が、聖なる魔法を使いこなせたなら、アマーリエ様の威光をもっと高めることができるんですけど……」
と、アマーリエが感動していたのも束の間、エリーの眉がまたもや自信なさげにハの字に下がった。
「それに関しては焦っても仕方がありませんわ。魔法というのは、本来時間をかけてゆっくりと理解し使いこなせるようになるもの。エリー様は突然強すぎる力に目覚め、まだうまくコントロールできないだけですわ」
「そういうものでしょうか」
「ええ。魔法を学ぶのは、貴族の大切な教育の一環。学園で学んでいるうちに、きっと使えるようになります」
エリーの使う癒しの魔法の他にも、様々な種類の魔法が存在している。
魔法を使えるのはほぼ貴族に限られている。というのも魔法を使うための「魔力」を内に秘めているのが貴族だけだからだ。
エリーは聖なる乙女としての力に目覚めるまで他の魔法が使えなかったらしく、魔法教育を受けてきていない。
ならば癒しの魔法をうまく使えなくて当然だ。
ゆっくりと勉強していき、使いこなせるようになればいいとアマーリエは思う。
何せエリーの持つ銀の瞳は、歴史書に載っている「聖なる乙女」の証そのものだ。
焦る必要は一つもない。
にこりと微笑むアマーリエに、つられてエリーも紅茶のカップの影で笑みを漏らした。
「そうかしら?」
「ええ、何かあったのですか?」
エリーが小首を傾げて問いかけてきたので、アマーリエは意味ありげな笑顔を浮かべて「ちょっとね」と言い、紅茶を啜った。
本日は外にティーセットを用意して、二人きりの茶会を開いている。
アマーリエが用意した、テーブルを彩る花も茶器も、目にも鮮やかな茶菓子とそれに見合う紅茶も、全てが一流のものだ。
最初こそ恐れ多いと恐縮していたエリーであったが、「慣れておかないとこの先大変な目に合いますわよ」とアマーリエが脅した結果、ビクビクしながらも席について茶菓子を口にし、以来その美味しさに完全に胃袋を掴まれていた。
アマーリエのいるオーヴェルニュ公爵家お抱えの職人が作った菓子たちが、不味いはずがない。
品の良い食べ方を指導しながらも茶会を楽しみ、エリーもここ数日でやっとくつろげるようになってきたようだった。
アマーリエは今朝の出来事を思い返し、毅然と言い返したエリーの成長ぶりに感動したものの、ジルベールの婚約者再考のことまでも思い出して少しだけ落ち込む。
(ジルベール様、本当に婚約者を選び直すおつもりなのかしら……)
もし事実ならば、アマーリエにはどうしようもない。ジルベールもアマーリエを憎からず思っていると考えていたが、全ては自分の勘違いだったということだ。
(わたくし、思い上がっていたのかしら……恥ずかしい。穴があったら入りたいくらいだわ)
ティーカップを置き、思わず両手で自分の顔を覆うアマーリエ。
ジルベールの気持ちを読み間違っていたかもしれないという羞恥心と、もしかしたら大好きな殿下に婚約破棄されるかもしれないという絶望感と恐怖。それらが混ざり合い、アマーリエはかつてないほどに混乱の最中にいた。
「アマーリエ様」
そんなアマーリエを現実に引き戻すかのように、エリーの控えめながらも意志の強さを感じさせる声がした。
「アマーリエ様は誰よりも気高く、美しい心の持ち主だと私は思います。学園で味方が誰もいない、こんな私に良くしてくれたたった一人のお姉様……間違いなく、アマーリエ様はジルベール様の隣に並び立つにふさわしい、未来の王太子妃です」
「エリー様……ありがとう」
あれほど自信なさそうにしていたエリーが、こうも堂々とアマーリエを励ます言葉を口にする。
改めてエリーの変貌を目の当たりにし、アマーリエの落胆していた気持ちが少し上向いた。
ジルベール殿下に言われてエリーに近づいたが、今となってはひたむきなエリーの人柄に惹かれていた。
懸命に努力して自分に足りないものを補おうとする姿は、アマーリエにも通じる部分がある。
仲良くなれてよかったわ、と心の底から感じていた。
「……本当は私が、聖なる魔法を使いこなせたなら、アマーリエ様の威光をもっと高めることができるんですけど……」
と、アマーリエが感動していたのも束の間、エリーの眉がまたもや自信なさげにハの字に下がった。
「それに関しては焦っても仕方がありませんわ。魔法というのは、本来時間をかけてゆっくりと理解し使いこなせるようになるもの。エリー様は突然強すぎる力に目覚め、まだうまくコントロールできないだけですわ」
「そういうものでしょうか」
「ええ。魔法を学ぶのは、貴族の大切な教育の一環。学園で学んでいるうちに、きっと使えるようになります」
エリーの使う癒しの魔法の他にも、様々な種類の魔法が存在している。
魔法を使えるのはほぼ貴族に限られている。というのも魔法を使うための「魔力」を内に秘めているのが貴族だけだからだ。
エリーは聖なる乙女としての力に目覚めるまで他の魔法が使えなかったらしく、魔法教育を受けてきていない。
ならば癒しの魔法をうまく使えなくて当然だ。
ゆっくりと勉強していき、使いこなせるようになればいいとアマーリエは思う。
何せエリーの持つ銀の瞳は、歴史書に載っている「聖なる乙女」の証そのものだ。
焦る必要は一つもない。
にこりと微笑むアマーリエに、つられてエリーも紅茶のカップの影で笑みを漏らした。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。
梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。
16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。
卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。
破り捨てられた婚約証書。
破られたことで切れてしまった絆。
それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。
痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。
フェンリエッタの行方は…
王道ざまぁ予定です
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです
志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑!
10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。
もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。
(頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
【完結】捨てられた聖女は王子の愛鳥を無自覚な聖なる力で助けました〜ごはんを貰ったら聖なる力が覚醒。私を捨てた方は聖女の仕組みを知らないようで
よどら文鳥
恋愛
ルリナは物心からついたころから公爵邸の庭、主にゴミ捨て場で生活させられていた。
ルリナを産んだと同時に公爵夫人は息絶えてしまったため、公爵は別の女と再婚した。
再婚相手との間に産まれたシャインを公爵令嬢の長女にしたかったがため、公爵はルリナのことが邪魔で追放させたかったのだ。
そのために姑息な手段を使ってルリナをハメていた。
だが、ルリナには聖女としての力が眠っている可能性があった。
その可能性のためにかろうじて生かしていたが、十四歳になっても聖女の力を確認できず。
ついに公爵家から追放させる最終段階に入った。
それは交流会でルリナが大恥をかいて貴族界からもルリナは貴族として人としてダメ人間だと思わせること。
公爵の思惑通りに進んだかのように見えたが、ルリナは交流会の途中で庭にある森の中へ逃げてから自体が変わる。
気絶していた白文鳥を発見。
ルリナが白文鳥を心配していたところにニルワーム第三王子がやってきて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる