異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

宮野愛理

文字の大きさ
45 / 80
チビの正体と自分の役割

しおりを挟む
 
 チビと同じ緑の髪とべっ甲色の瞳に色を変えた美中年バイラムに肩を抱かれ、それだけで鳥肌が立ってしまった俺に与えられたミッションは「何も喋るな」である。

 俺だって向こうでは面倒な社長の接待や、商会長との飲み比べをしてきた。
 その中で〈肩を組む〉や〈抱擁〉なんてこともやってきた。

 だが、バイラムは違う。

 初めてだが「これがエスコート!」と納得してしまうような見事なフィット感だ。
 しかも役になりきっているのか、俺に向かって異様に笑顔を振りまいている。……役者だと賞賛すれば良いのだろうが、若干怖い。

 俺の家は村の外れで、近くの井戸から中心部、村長宅までは距離がある。裏道を使えば多少は近いのに、今回はわざわざ大回りする道を歩くことにしたようだ。
 徐々に村人が増えていく。しかも話し合いが長かったせいで「今日は出てこないねぇ」と噂されていたらしい。
 そんな中を知らない魔族に肩を抱かれながら歩けば、擦れ違う全員から「え! オンラ、どういうこと?」と声を掛けられる。

 その度に挙動不審になる俺を見かねて、抱き上げているチビから「大丈夫」「俯いて」「笑って」と小声でフォローが入った。
 どっちが年上だかわかりゃしない。


「オンラ……って、その人、誰……?」
「あ、ユアン。これは――……」
「チビと仲良くしてくれていた子かな? 今までありがとう」

 わざわざ俺の耳元へ口を近づけて「良い子だね」と言うバイラムが、何を考えているのか本気でわからない。
 そこでチビから「頷いて」と指示が飛んだので、コクコクと無言で首を振った。
 ごめん、ユアン。何も言えない俺を許してくれ。

 あまりにも異様な光景だったのか声は掛けられても引き止められることはなく、スムーズに村長の家までは歩いて来れた。
 何故か俺たちの後ろに村の人間がゾロゾロと並んでいて、小さく「ほら」とか「やっぱり」と言う声が届く。何がやっぱりなのか。……まさかチビの目論んでいた新たな誤解話が加速しているのか?

「ヒサシ様、大丈夫ですから落ち着いてください。……――すまない、この村の長にお会いしたいのだが」

「なんじゃい。この行列は……――ほぉ? これはこれは」

「初めまして。オンラーシとチビが大変お世話になったようで……」
「ふむ。お前さん、魔族かい。――それで?」
「……五年もの歳月を掛けてしまいましたが、ようやく二人にと巡りあうことが出来ました。これも見守り導いて下さった皆様のお陰と聞いております。その……大変に急な話ではあるのですが、二人を連れて国に戻る許可を頂きたいのです」

 とりあえず全てをボカしたまま引っ越ししたいと宣言してみたが、ラウ爺の探るような笑顔は変わらなかった。
 これはアレだ、たまに商人とやり合う時の表情だ。それを真正面に受けながら同じくニコニコしているバイラムが凄い。
 後ろからは「やっぱりチビの……」「あら。じゃああの二人は振られることになるのね」「シギは粘ってたのになぁ」と、相変わらず緊張感のない意見が飛び交っていた。

「お恥ずかしい話ですが……――私の不徳の致すところでオンラーシに誤解をされまして。結果として、愛する二人と長く離れることになってしまいました」

 そこで肩を抱いていた手を離し、俺の右手に絡め――って、止めてくれ。ゾワゾワする。チビは左手で抱いているから落とす心配はないが、かなり精神的に追い詰められているんだ。
 俯いているから見えないが、多分バイラムはこっちを熱の籠もった視線を向けていると思われる。
 女性陣からは「熱烈ねぇ」「うわぁ羨ましい」「子供は見ちゃいけません!」なんて言われているし……恥ずかしさに顔から火が出そうで、気付いたらバイラムの肩に顔を隠していた。

「――もう、離れたくないのです。二人を必ず幸せにしてみせます」


 なんだこれ!?

 どこのドラマだ恥ずかしい!!
 隠した顔が更に隠されるように、バイラムから抱きしめられている!!
 勿論、俺やチビには必要以上に触れていない!!
 それも凄い!!

 すまない、チビ――俺……このまま気絶しそう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!

ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。 らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。 なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。

処理中です...