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この世界は皆噂好き

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 じゃれ合っているつもりはこれっぽっちもないが、話しているうちに時間は過ぎる。
 着替えを俺の部屋に置いていないため、チビは渋々自分の部屋へと帰って行った。
 いや、朝飯は一緒に食べてるから、すぐまた会うんだけどな……。

「もう陛下のお召し物をこちらに置いてしまいましょうよ」
「そしたら入り浸るだろ、却下だ却下」

 そう言ったのに、エルメーアは「今だって入り浸ってるから変わりません。むしろ手間が掛かってます」と呆れている。
 確かにそれはそうなんだが、だからと言って許して良い問題でもない。
 早いところ――……

「嫁さんを貰おう」
「陛下は要らないと公言しています」
「いや、俺に。チビにとっては義理の母親……になるのか?」
「それこそ要らないでしょう。この国が潰れます。――ほら、早く着替えてください。陛下をお待たせする訳にはいきません」

 嫁さん貰って国が潰れるとか、どういう話なんだ? と思うが、これ以上話していても怒られるだけなのでさっさとシャワーへと向かう。
 俺用に調整された風呂場は、魔族からすると大変に面倒な代物だ。
 本来なら蛇口を捻れば魔力で反応して水やお湯が出る。でも俺にはその魔力がない。
 なので、毎回エルメーアがシャワー上部に設置された盥へお湯を溜めておいてくれる。
 湯船も同様。
 この城に来た当初「側仕えなんて必要ない」と言ったが、魔力ありきの生活は俺には出来ないことだった。そのため彼女が日常のサポート役として採用されたのだ。
 バイラムの娘だから身元は問題なし。
 長く付き合っている恋人もいて〝過ち〟の心配もなし。
 ついでに俺の性格を理解してくれて融通が効く。本来だと入浴や着替えもフルサポートらしいので、そんなことをされていたら羞恥心が振り切れて死んでいたと思う。


「出ましたね。はい、ではこれをどうぞ」

 パンツとスラックスだけ穿いた状態で出てきた俺に、ポイッと渡してきたのはブラジャー……いや、エルメーア曰く〈大胸筋矯正サポーター〉と言う物。

 このエルメーアと言う女性、少々〝下着〟へのこだわりが激しい。
 初めての顔合わせで「ちょっとお待ちなさい! スラックスから下着のラインが見えているではないですか!! しかも、なんですこのさらしは! みっともない!!」と叫び、それから滔々とうとうと下着の重要性を説いてくれた。

『男女ともに下着は重要です。正しい下着を身につけると姿勢が美しくなりますからね。まずこのパンツ、お尻を持ち上げる効果がない。キュッと上がったヒップは下半身を綺麗に見せるんです。そしてこの晒……何故このような物で胸を押さえるのですか。――え? 乳首が見えてしまう? ……ふむ。それなら男性用ブラ……コホン、大胸筋矯正サポーターはどうですか? 適度に締め付けるので乳首のぽっちりは見えなくなりますし、左右からグッと持ち上げてセクシーに見えます。そしてこの後ろのクロスベルトが背筋を伸ばしてくれるのです。ヒサシ様は少々猫背気味ですので、こういった補正をした方が良いですね。せっかく立派な体躯をしているのに勿体無い!』……――とかなんとか。


 今穿いているのもエルメーアの一押しパンツだ。
 前は隠れているが、後ろは……これは割れ目が剥き出しだからオーバックと言うのだろうか、尻の肉を下から押し上げるようになっている。
 村にはなかったゴム製品で、伸縮性もフィット感も抜群。更にムレないように布地から拘った一品。

 魔族の技術って凄い。
 そう素直に思っていたら、この下着はエルメーアが並々ならぬ情熱でもって新規開発した物だった。
 実験台としてバイラムも着用している。

 父親がこんなエロ下着を穿いていても気にしない娘って怖い。
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