異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

宮野愛理

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現在過去未来、それぞれの後悔

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 お茶を啜りつつ俺のほうも自己紹介をすると、「あぁ、やっぱり。音の響きが近いから、支倉はせくらくんと同郷?」と鋭い指摘が入った。

「支倉って、確か……」
「うん。ベイニットの前のヴェルクトリの王様。僕、彼の手伝いをしていたんだよね」

 ベイニットが、チビの前の王様の名前。その前が支倉はせくら優一ゆういちさんという、この異世界で和食を作り上げた人だ。
 といっても支倉って名字はこの世界であまり浸透していない。チビの名前がクロムディオ・クニヒ・ヴェルクトリとなっている通り、王様の姓が〝ヴェルクトリ〟となるからだ。そのため〝ユウイチ・クニヒ・ヴェルクトリ〟として史実には残っている。
 支倉って名字を知っているのは優一さんと近しい人のみと聞いたから、ファディールさんの言っていることに間違いはなさそうだ。

「支倉くんの手伝いをしてて、ベルグリッタやバイラムと出会ったんだよね。バイラムの駆け落ちを助けたりもして、楽しかったなぁ」

 バイラム、駆け落ちだったのか。

「奥方となった人は人族だったからね。寿命の差はいかんともしがたい……それで戻ってきて、今度は僕らの駆け落ちを助けてもらったんだよねぇ」

 まさかの駆け落ち第二弾。
 ベルグリッタ様と一緒に支倉さんの手伝いをしてる内に、恋が芽生えたそうだ。とはいえベルグリッタ様の生家は魔族血統主義。ファディーノさんとの結婚は反対されたと。
 それで駆け落ちをしてイルリオナちゃんが生まれ――……

「イルが十二の時かな? ベルグリッタの両親に嗅ぎつけられて、ひとまずってことで一時的な別れの筈だったんだけど……」

 支倉さん逝去の後に立ったベイニット王が、最初に願ったのはお嫁さん。
 なんというか……うん。馬鹿なのかなと思うが、実際馬鹿なんだろうな。しかしそれで沸き立ったのが魔族血統主義の家々だ。ベルグリッタ様のご両親もそれで娘を探し出した。そして、ベルグリッタ様は見初められなければ今の生活を続けても良いと言質を取ってからお見合いパーティーに参加した。なのに残念なことに見初められてしまい、ちょっとの里帰りのつもりがこうなったとのこと。

「だからイルは反発してるんだ。未だに自分が捨てられたと思ってるみたいで……仕方の無いことと諦めてる僕のことも許せないみたい。長く生きてても、人の気持ちを汲むのは難しいね」

 そう言いながら、ファディーノさんは力なく笑った。
 これ、俺が聞いても良かったのだろうか。良いと思ったからお遣いを頼まれたんだろう、とは思うけれど中々にヘビーな話題が辛い。
 こういう生活をしてても色々と情勢は聞こえてくるんだよって、つまりベイニット王が死んだこともファディーノさんは知ってるわけだ。それでここに帰ってきてないとか、何を考えているんですかベルグリッタ様。
 
「手紙とかも……?」
「うん、ない。だから今日は本当にビックリしたよ。あの布を渡すってことは、ベルグリッタもイルの幸せを考えてくれてるんだなぁって……あれはね、相手の幸せを願う文様なんだ。大体は嫁入りする娘に持たせることが多かったね」

 ファディーノさんとイルリオナちゃんは、色々と事情があってこのあたりから出ることは難しいらしい。手紙を出すことは出来るけど、ベイニット王が生きてる頃はそれも届かない可能性が高かった。
 それもあって、今の今までズルズルと。

「まぁでも、きみのお陰で噂じゃわからないことも色々とわかってきたよ。ベルグリッタが帰って来れない理由もね」
「え?」
「まさかベイニットのせいで、次期王が分離するなんてね……多分、前代未聞じゃないかな。人の妄執ってのは恐ろしいねぇ。現ヴェルクトリ国王も色々と危なそうだけど」

 一応、俺の素性というか転移のあれこれやチビのことも説明はしてある。「だから歪なんだ!」と言われてしまったが、その理由は教えてくれなかった。チビが教えていないならとかなんとか……自分のことなのに、隠されていることがあるのはなんとなく落ち着かない。
 落ち着かないと言えば、チビの今後も心配だ。
 ファディーノさん曰く「魔王は色々な方向に吹っ切ったのがなりやすい」んだそうな……有能でも無能でも、色々と突出するらしい。支倉さんのように有能なのに和食に心血を注ぐとか、前王のようにあれもこれも無能とか。
 チビが前者になることを、親としては祈るのみ。寿命の関係で、俺のほうが真っ先に死ぬだろうからな。

「新しいヴェルクトリ国王も見てみたいし、聞いた限りだときみがいなくなって大変なことになってそうだし……行くかな」
「でもさっき、外には出られないって…………そういえば禁足地って俺は大丈夫なんですか?」
「あー……それね、一部は正しくて一部は正しくないんだ。イルはそうやって覚えちゃってるんだけど……それもちゃんと説明しなきゃなぁ……――、僕たちが外に出たら真っ先に気付くだろうからなぁ……いやでも、うーん」

 漏れ聞こえてくる内容からすると、この人……イルちゃんにも色々と隠してるらしい。
 そういうところが反発される原因だと思うんだが。
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