あるある設定な異世界に転移しましたが、俺は普通に生きようと思います。

宮野愛理

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不穏な動き

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 ちょびっとだけ感傷的になった山登り(もちろん帰りはおぶってもらいました)の翌日から、にわかに周りがバタバタし始めた。
 話に出ていたスリダニアが不穏な動きをしていると手紙が届いたんだ。アデラールさんのように他国へ散らばった兵士さんが、スリダニアに潜入していた人から伝言を受け取ったんだって。実際には伝言の伝言の伝言の……って感じらしいけど。その段階で第一報を伝書鳩? みたいな鳥に託して、それが届いたのがその日。流石に潜入中の人を迎えには行けないから、次に詳しい人を兵士さんが迎えに行ってる。そこで合流して、スリダニアから離れたところで飛竜に乗って帰ってくる予定。
 スリダニアまで飛竜でひとっ飛び出来れば良いんだけど、ほら、国のトップが人至上主義だから……飛竜に対しても推して知るべし。飛竜もそれがわかるのか、あんまり行きたがらないんだって。ヤーミルくんは飛んでたけど、カーライルさんがスリダニア国内にいたのか厳密にはわからないし、もっと言えばヤーミルくんが何も気にしていない可能性もある……貰ったイヤーカフで聞いても片言だから、ちゃんとした意思疎通は出来ないんだ。

(このバタバタが落ち着くの、いつになるんだろう。兵士の人はそろそろ着く頃らしいんだけど……)

 兄貴の部屋でやっていた勉強会も、自室(厳密には俺の部屋じゃないから客室?)になっちゃった。ダミアンさんやセルトさんは相変わらず付きっきりで教えてくれるし、たまに「休憩だ休憩!!」って兄貴も乱入してくる。それでも、なんとなくピリピリしてるんだよね。言葉は徐々にでも覚えられてるから、少しずつでも進めているんだけどさ。むしろ勉強を始めて四日でダミアンさんと会話っぽいことが出来てるんだから、結構凄いんだけどさ!!

「本日は学習に身が入らないようですね。お茶にいたしましょうか?」
「ん、そする。おちゃ、なに?」
「本日はベネのジャムを入れましょうか。甘くて美味しいですよ」

  ベネって向こうで言うとイチゴかな? ざっくりと言うならベリー系。俺はこれをパンケーキみたいなデザートに載っけて食べるのが大好き。多分、俺が少し落ち込んでるのがダミアンさんにバレてるんだろうな。好物食べて、元気を出しなさいってことだと思う。

「おいし」
「それはようございました。……あまり根を詰めないように」

 どうしても考えちゃうことだから、それには頷くだけにしておいた。
 不穏な情報が届いたのが三日前、一昨日の内に飛竜が飛んで、早ければ今日あたりに続報か兵士の人が帰ってくる。俺でこうなんだから、兄貴や周りの人はもっとキツいだろう。そして、セルトさんも……

「しぽ。いい?」

 俺がそう言うと、ダミアンさんは「では私は陛下のところへ。セルト、自重するように」と言いながら出て行ってくれた。申し訳ない。でも二人きりになれたので、セルトさんに向けてトントンと唇を叩いて見せた。合図をきちんと理解してくれたセルトさんの手が、俺の頬に触れる。

『ん……ふ…………ん、ん』

 こんな状況でも、セルトさんとのキスは変わらない。むしろ甘さが増した気がする。キスが、こんなに〝愛しさ〟を送ってくるだなんて知らなかった。頬に添えられた長い指は俺の耳後ろまで届いてしまう。そこをワンちゃんにするような感じで撫でられると、鼻から空気が抜けるような音がするんだ。

『ふぁ、あ……はぁ…………セルトさん、尻尾撫でて良いですか?』

 返事の代わりにセルトさんがソファに座ってくれたけど、そのまま抱き上げられて膝の上に横抱きにされてしまった。

「寝ても良いぞ。夜、眠れていないだろう?」

 ついでに尻尾も抱き枕の位置に回してくれて、「隈が出来ている」と目の下を撫でられてしまう。バレバレでしたね。

『……俺のいたところだと、争いって遠い世界の話なんですよ。戦争とかクーデターって、少なくとも俺とは全くの無関係っていうか……だからなんか、なんか……』
「怖いか?」
『……』
「俺も怖い。でも、ケントがいるから立っていられる」

 そう言い切れるって凄いなぁと思うんだけど、俺なんにもしてないんだよね。それでも、セルトさんの顔はいつも通りだった。だから多分、嘘偽りはないんだろう。俺もそう言い切れれば良いんだけど、どうにもこうにも無理だよねぇ……
 はぁ、と溜息を吐いて腕の中の尻尾を思う存分モフモフする。落ち着く。旅の間のようなゆっくりした時間を感じて、もう一回キスしちゃおうかなとセルトさんの唇に顔を寄せたところでドアがバーンっと開かれた。

「お前ら……いや、良い。俺が忙しい時に何してんだって言いたいけど、言わないでおいてやる」
『いや、言ってるし。……兄貴どうしたの? 休憩?』

 一応ね、顔は離しましたよ。まだ膝抱っこのまんまだけど。尻尾も抱きしめたまんまだけど。

「お邪魔しちゃってごめんなさいね。でもちょっと急ぎだったのよ」
『レフカさん?』
「色々と大きく動きそうだからな。お前ら二人、ちょっと顔貸せや」

 こっちの反応なんて待たない兄貴がズカズカと部屋に入ってきた。その後ろからレフカさんも。二人の前でこの体勢は続けられないので、そっと降りてソファに座り直した。
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