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マクデーヴァ
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外回りから戻ってきたリューセントさんが迎えに来た時、俺は思う存分に頭を使い切ってぐったりとソファーに横たわっていた。
いやもうほんとに、リコさんの苦労が偲ばれる。だってそのくらい、ほぼほぼ計算が間違っていたからね。ただ計算が間違っているだけじゃなく、文字が汚すぎての読み間違いもあった。
「アシャン、大丈夫?」
「リューセントさん……せめて、文字をていねいに書くことを徹底させてください」
「え?」
この人の書類は見やすかった。あと、リコさんのも。それ以外の人は駄目だ……せめて文字をていねいに書いてくれれば、ケアレスミスが減ると思うのに。
「ジルフィスさんの字は豪快すぎて嫌い」
「嫌い!?」
俺に嫌いと言われたジルフィスさんが慌てているけど、これからは読む相手のことまで考えて欲しい。
「ジル、事務局でも怒られてるからね。それで僕やリューセントが代筆しているし」
そういう手間が積もり積もって業務を圧迫するんだよ。
俺とリコさんが二人がかりでゲンナリしているからか、ジルフィスさんが「これからは気を付ける」とこぼしていた。うん、そうしてください。
「おかえりなさい、リューセントさん」
「ただいま、アシャン。ここまで来たってことは、なにか用事があったのかい? クレインからもそう聞いたけど」
「用事……」
なんだっけ? と思い返しているとジルフィスさんが「そうそう!」と声を上げた。
「リュー、お前イーアのことを説明したか? たぶんだけど、こいつ誤解してるぞ?」
「誤解……?」
俺に向かって聞き返されたけど、それになんと答えれば良いのか。目を泳がせていると、リューセントさんに抱き起こされて強引に顔を合わせられた。
「いや、あの……イーアさんのことは、大事な方だとわかってますので! 俺がその代わりっていうのもおこがましいというか、えっと……」
こんな卑屈なことは言いたくない。言いたくないけど、考えがまとまらなくてそんな言葉しか出てこない。
さっき引っ込んだ涙がまた出そうになって慌てると「イーアはそういう存在じゃないよ?」とリューセントさんに訂正された。
「えぇっとね……アシャンはマクデーヴァって知ってるかな?」
新たな名称に困惑する俺を尻目に、リコさんが「わかる!」と手を叩いている。その横でジルフィスさんも「だよなぁ」と頷いていた。
「そっかそっか、だから見覚えがあったんだ。アシャンくん似てるもんね! もしかしてコッレルモ村にはマクデーヴァっていないのかな?」
「あれ、貴族向けの愛玩動物だからなぁ……どっかに図鑑なかったか?」
貴族向けの愛玩動物。まさかの単語が出てきた。「ちょっと待ってて」と言ってリコさんが部屋から出ていったから、その図鑑を探しに行ったんだろう。
「つまりだな……お前はリューが可愛がってたペットに似てるんだ」
「ペット……リコさんがファチクスに似てるみたいな感じですか?」
「それ、あいつに言うなよ? 童顔なのもだけど、昔から気にしてるんだ」
言った相手によっては鉄拳制裁も辞さないらしい。ほんとに? と思ってリューセントさんを見ると真顔で頷かれた。
つまり、イーアさんというのはリューセントさんのペットで……それはつまり、リューセントさんはペットに劣情を抱くという特殊性癖ってこと??
「アシャン、それはないから。私にそういう趣味はないから」
思わず疑いの目でリューセントさんを見てしまうけど、それはジルフィスさんからも否定された。
「ウォルズ家でリューが産まれる前から可愛がられてたペットでな、こいつとは姉弟のように過ごしてたんだ。ただまぁあっちのほうが寿命は短いから……リューが二十歳の時に死んじまった。そしたらまさかのインポテンツだ」
「私としても最初はまさかって思ったよ。それで病院にも行ったけど、原因は心因性と言われて……ただ決してイーアをそういう目で見たことはないし、それはルクウストも証言してくれると思う」
心因性として考えられるのが愛するペットとの死別。それは確かに「嘘だぁ」と言い切ってしまうことは出来ない。人間が些細なことで身体的にも精神的にも不調を起こしてしまうのは、現代日本でも言われていたことだ。
「原因までは公言してないけどね」
そりゃまぁ、そうだよね。
「それがアシャン、お前と出会ってから改善されたって聞いて俺としても安心したんだ。その割には前以上に仕事人間になりやがって、夜もご無沙汰たぁどういうこった」
ごめんなさい、毎晩健やかに寝てることをジルフィスさんに言ってしまいました。
「アシャンが、そういうことは好き合ってからしたいって言うから……」
「え?」
「ヒルダたちにそう話しているのをたまたま聞いてしまったんだ。なし崩しで体の関係を持ってしまって、そこから籠絡するのも一つの手だとは思ったんだけどね」
それを続けて俺に嫌われるよりかは、あれこれ我慢して自分のことを憎からず思ってもらえるようにイメージアップを図っていたとのこと。ハグとかほっぺにチューとかは軽めのスキンシップだし、そういうレベルから自分とのふれ合いに慣れてもらおうってことだったらしい。
「お前、それで仕事詰め込んでたのか」
家で過ごす時間が短ければ、もう寝ることくらいしかやることがないからって理由だった。
いやもうほんとに、リコさんの苦労が偲ばれる。だってそのくらい、ほぼほぼ計算が間違っていたからね。ただ計算が間違っているだけじゃなく、文字が汚すぎての読み間違いもあった。
「アシャン、大丈夫?」
「リューセントさん……せめて、文字をていねいに書くことを徹底させてください」
「え?」
この人の書類は見やすかった。あと、リコさんのも。それ以外の人は駄目だ……せめて文字をていねいに書いてくれれば、ケアレスミスが減ると思うのに。
「ジルフィスさんの字は豪快すぎて嫌い」
「嫌い!?」
俺に嫌いと言われたジルフィスさんが慌てているけど、これからは読む相手のことまで考えて欲しい。
「ジル、事務局でも怒られてるからね。それで僕やリューセントが代筆しているし」
そういう手間が積もり積もって業務を圧迫するんだよ。
俺とリコさんが二人がかりでゲンナリしているからか、ジルフィスさんが「これからは気を付ける」とこぼしていた。うん、そうしてください。
「おかえりなさい、リューセントさん」
「ただいま、アシャン。ここまで来たってことは、なにか用事があったのかい? クレインからもそう聞いたけど」
「用事……」
なんだっけ? と思い返しているとジルフィスさんが「そうそう!」と声を上げた。
「リュー、お前イーアのことを説明したか? たぶんだけど、こいつ誤解してるぞ?」
「誤解……?」
俺に向かって聞き返されたけど、それになんと答えれば良いのか。目を泳がせていると、リューセントさんに抱き起こされて強引に顔を合わせられた。
「いや、あの……イーアさんのことは、大事な方だとわかってますので! 俺がその代わりっていうのもおこがましいというか、えっと……」
こんな卑屈なことは言いたくない。言いたくないけど、考えがまとまらなくてそんな言葉しか出てこない。
さっき引っ込んだ涙がまた出そうになって慌てると「イーアはそういう存在じゃないよ?」とリューセントさんに訂正された。
「えぇっとね……アシャンはマクデーヴァって知ってるかな?」
新たな名称に困惑する俺を尻目に、リコさんが「わかる!」と手を叩いている。その横でジルフィスさんも「だよなぁ」と頷いていた。
「そっかそっか、だから見覚えがあったんだ。アシャンくん似てるもんね! もしかしてコッレルモ村にはマクデーヴァっていないのかな?」
「あれ、貴族向けの愛玩動物だからなぁ……どっかに図鑑なかったか?」
貴族向けの愛玩動物。まさかの単語が出てきた。「ちょっと待ってて」と言ってリコさんが部屋から出ていったから、その図鑑を探しに行ったんだろう。
「つまりだな……お前はリューが可愛がってたペットに似てるんだ」
「ペット……リコさんがファチクスに似てるみたいな感じですか?」
「それ、あいつに言うなよ? 童顔なのもだけど、昔から気にしてるんだ」
言った相手によっては鉄拳制裁も辞さないらしい。ほんとに? と思ってリューセントさんを見ると真顔で頷かれた。
つまり、イーアさんというのはリューセントさんのペットで……それはつまり、リューセントさんはペットに劣情を抱くという特殊性癖ってこと??
「アシャン、それはないから。私にそういう趣味はないから」
思わず疑いの目でリューセントさんを見てしまうけど、それはジルフィスさんからも否定された。
「ウォルズ家でリューが産まれる前から可愛がられてたペットでな、こいつとは姉弟のように過ごしてたんだ。ただまぁあっちのほうが寿命は短いから……リューが二十歳の時に死んじまった。そしたらまさかのインポテンツだ」
「私としても最初はまさかって思ったよ。それで病院にも行ったけど、原因は心因性と言われて……ただ決してイーアをそういう目で見たことはないし、それはルクウストも証言してくれると思う」
心因性として考えられるのが愛するペットとの死別。それは確かに「嘘だぁ」と言い切ってしまうことは出来ない。人間が些細なことで身体的にも精神的にも不調を起こしてしまうのは、現代日本でも言われていたことだ。
「原因までは公言してないけどね」
そりゃまぁ、そうだよね。
「それがアシャン、お前と出会ってから改善されたって聞いて俺としても安心したんだ。その割には前以上に仕事人間になりやがって、夜もご無沙汰たぁどういうこった」
ごめんなさい、毎晩健やかに寝てることをジルフィスさんに言ってしまいました。
「アシャンが、そういうことは好き合ってからしたいって言うから……」
「え?」
「ヒルダたちにそう話しているのをたまたま聞いてしまったんだ。なし崩しで体の関係を持ってしまって、そこから籠絡するのも一つの手だとは思ったんだけどね」
それを続けて俺に嫌われるよりかは、あれこれ我慢して自分のことを憎からず思ってもらえるようにイメージアップを図っていたとのこと。ハグとかほっぺにチューとかは軽めのスキンシップだし、そういうレベルから自分とのふれ合いに慣れてもらおうってことだったらしい。
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