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第二章・馬鹿は死んでも治らない
あやめという医者
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眩しいくらい白いシーツ。薬品の匂い。救急箱。小さなサボテン。
誰かの血の跡。
それを、綺麗に、綺麗に、消したあと。
「それにしてもまーかわい子ちゃんだこと。怪我なら診るから言ってごらんなさい?どこが痛いの?」
「あ、いえ…私よりも、夜狐が」
「いーのよこいつ頑丈だから」
「そうだよ、僕なら平気。香澄ちゃんは…いや、違うな、カスミちゃんは大丈夫?具合悪いとかもなさそう?」
「発音変わらないんだから言い直さなくても…」
大したことない、とでも言っているように聞こえるけれど、その実絶対にそんなことはない。あの腕であれだけ暴れたんだ、もはや外傷名は骨折どころではなくなっているかもしれない。
目線を合わせるように、あやめさんが私を覗き込む。間近で見ると、本当に綺麗な顔をしていると思った。朧さんは凛とした美人、という印象が強かったけれど、あやめさんはどちらかというと近所の優しそうなお姉さん、みたいな感じがする。そんな人は近所にいなかったから、いまいちこの例えでいいのかどうかはわからないけれど。
金に近い茶色の髪を少し揺らして、小首を傾げてあやめさんは微笑んだ。
「…本当になんともない?大丈夫?外傷だけじゃなくていいのよ、気分が悪いなら少し横になってもいいし」
「あ、その、う…」
…いやだな。調子が狂う。
死んでから、みんなが優しい。罵声を浴びせられることも、手をあげられることも、誰かと居て息苦しいこともない。はっきり意思表示をしない私に、痺れを切らして呆れられることもない。
気分の悪くなる「優しさ」は、ここにはない。
こんな優しい世界を私は知らない。
もしかしたらやっぱりこれは、私の夢の中なんじゃないかと──
私はまだ疑っている。
名前までもらっておいてなんてザマだ。
──夜狐の服に滲んだ血と、目が合った。
「私は本当に、なんともないです。だから、早く、夜狐の怪我を」
しっかりしろ。夢な訳があるか。
少なくとも彼も、私も、痛みを被っている。
夜狐が少し、驚いたように切長の細い目を見開いた。
「…本当に平気なんだけどなぁ」
困ったように頭を掻いて笑って見せた。その腕に少し顔を埋めるようにして、ちょっとだけ照れたように「調子狂うなぁ」と言って目線で自分の左腕をなぞった。
「平気な訳ないでしょ、私も骨折したことあるけど、あれは一番痛かったもの。夜狐のはもっと痛いはず。痩せ我慢しないで」
「いや、僕は…」
「も~、女の子にここまで言わせてるんだからそろそろ大人しく治療受けなさいよ~…ねっ!」
軽快な音が響いた。夜狐の背中が太鼓のように叩かれた音だった。夜狐の肺に入っていた空気が、咳き込むことすら許されぬまま残らず吐き出される。
「……仮にも怪我人だぞ…」
一つ遅れて咳き込んだ夜狐が恨むようにあやめさんを見る。しかし口調だけ見るならばそれは男子学生同士のおふざけだった。
彼は諦めたように備え付けられていた回転式の椅子に座ると、患部をあやめさんに差し出す。完全に相手の医療技術を信じている様子だ。
「はーいはい、じゃあ診ていきますからね~。腕、まくるわよ」
慣れた手つきで、淡々と治療は進んでいく。夜狐の素肌は少し白くて、ひどい有様の患部を除けばやはり一つの傷もついていない。が、そんな全女性が憧れるような肌の持ち主とて男である。服の上からではわからなかったが、鍛えられたアスリートの腕をしている。昔、親が見ていたテレビに映っていたオリンピックの選手みたいな腕だ。
結局することもないので、私は治療の様子をただじっと見つめていた。あやめさんは黙々と、包帯のようなものを夜狐の腕に巻いている。それが骨折に対する適切な治療法なのかどうかは正直疑問なところではあるが、本職に私のような素人が口を挟むなど、生意気にも程がある。黙ってことの行く末を見守った。
包帯を二重ほどピンと巻いて、その包帯の続きを今度はあやめさんの腕に巻き始める。これは服の上からでもいいみたいだ。と、両者同じ部分に同じだけ包帯を巻いたところで、動きが静止する。
素人ながらに言わせて貰う。これは医療ではない。
これが正しい治療法でないことだけはわかるが、だとするとあやめさんは何を目的としてこんなことをしているのだろう。意味が無いとは思えなかったから。
「カスミちゃん、腕つんつんするのやめて…くすぐったい…」
「あらあら、まあ気になるわよね~。もうちょっと待ってててね、すぐにわかると思うわ」
すぐにわかる、と言っても、外見の変化は全く見受けられず、包帯を早く巻き取ってみたい衝動を抑える。そうしている間に、夜狐がそろそろいいだろと訴えるように腕を引いた。それに呼応するようにあやめさんも微笑んで自分の包帯の結び目を外す。そのまま流れるように包帯は外れ、夜狐の患部が露出した。
正確に言えば──患部だった部分が。
「………!」
腫れも血もすっかり引いて、そこにはただの青白くて形の整った腕があった。つい先程まで悲惨な状態になっていた腕とはすっかり見違えていて、もともと怪我なんてしていなかったかのようだ。
「驚いたでしょう?ふふ、実はね、この包帯は白墨ちゃん…店長が作ってくれた呪具の一つなのよ!まぁ医療用の呪具の中でも初期段階のものだし、治せる怪我の範囲も狭ければ効率もそんなに良くないんだけれど──一番経費かからないのよね~」
夜狐のあれは結構重症だったと思うのだが、一番コストの安いものであれだけの傷を治せるのも驚いたし、あれだけの傷に一番コストの安いものを何の躊躇いもなく使うのにも驚いた。もっと夜狐を大事にしてあげて。
「原理としては結構単純よ、結果だけ言えば、アタシの腕の記憶を夜狐の腕に上書きしただけ。幽体ってね、言ってしまえば魂の塊だから、結構簡単にいじれるのよ。肉体はただの肉の塊だもの、怪我が中々治らないのは当たり前。その分幽体──魂の塊は、記憶の塊と同義で、自分が「こうだ」と思い込めば身体の変化は可能なの。プラシーボ効果の究極版みたいな表現が一番わかりやすいのかしら?この包帯は例えるなら通信ケーブルの役目を果たしてるのね、こっちの魂の信号を相手側に送って、強制的に患部にプラシーボ効果を生み出して──」
「………なるほど」
きっといつか生活の中で理解できる日が来るだろう。うん。
「さーて、ま、こんなもんね。他に外傷は?」
「大丈夫、ここだけだから。ありがとう」
「どういたしまして。でも怪我してるなら本当に言いなさいよね、ちゃちゃっと治してあげるから」
ビシッと指を刺してあやめさんは口酸っぱくそう言った。発言から考える限り、幽体の傷はどんなものであれ適切な処置をすればものの数分で治るのだろう。それにしたって名人芸だろうけど。
……ん?
『まだ前のやつ治り切ってないでしょ──』
じゃあ前のやつって──何?
▽ ▲ ▽ ▲ ▽
兎にも角にもこれで治療は終わったと、医務室を夜狐と共に後にしようと腰を浮かした瞬間「おっと、カスミちゃんはまだダメよ」と有無を言わさぬ声が聞こえた。大人しく再び白いシーツの上に腰を下ろす。
が、夜狐は一瞬私とあやめさんを見比べたあと、自分だけ立ち上がって医務室から出て行ってしまった。思わず「えっ」と声を漏らすと、「いや、女の子の診察に僕がいちゃ駄目でしょ」と案外まともなことを言ってドアを閉めた。目視できる範囲にいるのがデフォルトだったせいか、どことなく不安な心地がする。
「心配しなくても大丈夫よ~、取って食ったりしないわ。ほんの少し身体検査するだけ」
とりあえず上着脱いでその辺に置いといてくれるかしら、とあやめさんが器具か何かを準備しながら辺りを適当に指さす。採血はしますかと聞くと「なぁに?注射いやなの?」と笑いながら濁されてしまった。注射は嫌いだ。こわい。
言われたとおりブレザーを脱ぐ。あやめさんはいくつかの器具を机の上に並べると回転椅子に座って、私に向かいの椅子に座るように促した。何となくシャツの袖をまくって控えめに腰掛ける。それからそんなに長くもない診察が始まったのだが、あやめさんは自身で書き留めたカルテを見ながら「嘘でしょ…思春期の女の子でこの体重は…生きてたら最悪速攻大型病院よ…」などとぶつぶつ呟いていたが、気を取り直したように咳払いをすると目をまっすぐむけて言った。
「さて、カスミちゃん、お疲れ様。診察はこれでおしまい!特に死者としての異常は見られなかったわ」
生きてたら問題大有りだったけどね…とこれまたボソリと呟いてあやめさんは苦笑いをした。確かに学校の身体測定でも良く保健の先生を不安にさせていた覚えがある。
それにしても「死者としての異常」とは、これまた珍妙な言葉である。
私もこう見えて、だんだんとあの世には慣れてきたつもりなのだが──この違和感は、アレだ、生きていた頃に「生者としての異常は見られませんでした」と言われたことがないからだ。
まくった袖を戻していると、あやめさんがふと口を開いた。
「ねぇ、カスミちゃん、いいかしら」
手を止めてあやめさんの方を見る。あやめさんはさっきまでと特に変わらない、柔らかい笑顔をしていた。だけれど、私は、何となく後ろめたい気持ちになった。
あのね──と一つ前置きをして、あやめさんは私の首筋を指さした。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽
医務室のドアを開けると、まず一番に羽海さんの横顔が視界に写った。それとほぼ同時に彼女はまぶしい笑顔を浮かべ、こちらに駆け寄ってくる。
「カスミ、お疲れ様!どこも悪いところ、なかった?まぁ、あったならとっくにあやめが治してるんでしょうけど…」
相変わらず距離感ゼロの状態で、気づいたらソファに誘導されていた。これは座れということかと思い腰掛けると、羽海さんも私の隣に腰を下ろす。
隣というか真横というか。
腰掛けてきたというか密着してきたというか。
当たり前のように私の肩に頭を乗せて。
「店長は今さっきカスミの制服を作りに行ったわ。多分五分か十分もすれば喜々揚々として戻ってくるわよ」
と、話しながら羽海さんは私の髪の毛を指に巻いて遊んでいる。
不快なわけでもないが、こうもいじられると自分の髪質に一抹の不安を覚えてくる。パサついてるとか思われないだろうか、指の通りは悪くないだろうか…。生きているとき、そこまで自分の髪に気を使えるほど余裕があったわけではないし、結構痛んでいるだろう。
あぁいや、でも、薫がヘアオイルを買ってきて押しつけられた──プレゼントして貰ったことはあった。母親に見つからないように戸棚の奥に隠したからあんまり引っ張り出すこともしなかったけれど。
もしかしたら今ごろ発見されて、たたき割られるか売り飛ばされるか、はたまた代わりに使われているかしているかもしれない。値段は知らないが質はとても良かった覚えがあるから、たたき割られている以外ならいいようになっているだろう。
なんてことを綺麗な羽海さんの髪を見ながら考えていた訳だが、ふと彼女は肩に乗せた頭をひょいと持ち上げて私と目を合わせた。
「カスミ、ちょっと髪の毛、いじらせてくれない?」
さっき散々いじっていたじゃないか。
が、すぐ思い直す、これはつまりヘアアレンジをさせてくれという意味の申し出だろう──今更そんなことに許可を求めるとは、彼女の中の基準がよくわからないが、私はとりあえず小さな肯定の返事と共に首を縦に振った。
羽海さんはこれまたぱぁっと笑うと、ソファを立って私の後ろに回る。ハーフアップを一旦ほどいて、毛先辺りをふわりと持ち上げた感触がした辺りで、ガチャリとドアの開く音がした。
医務室の方向じゃない。
「あれっ、二人とも何してんの?」
今日初めて知り合った声。同時にとっくに聞き慣れた声。
「今カスミの髪の毛かわいくしてるのよ~」
「夜狐、」
「カスミちゃん診察終わったんだ。今日はあと店長から色々支給されたら終わりだよ、お疲れ様」
言いながら後ろ手でドアを閉める夜狐は、黒いワイシャツにジーンズ姿、と服を着替えたせいかどこにでもいる青年のように見えた。…いいや、撤回しよう。こんな顔立ちの青年はどこにでもいない。
「…着替えたの?」
「ん、今日の僕の仕事はもうカスミちゃんの案内しか残ってないからね~。それに血で汚しちゃったし」
肩に提げたシンプルながらに大きめな黒いトートバッグは膨らんでいて、制服が乱雑に入れられていることがわかる。
そんな会話の間にも私の髪型の改築は進んでいた。軽く手ぐしで髪を整えたあと、羽海さんは思いきって私の髪を一気に上げる。
首筋が露出した。
「……」
夜狐は様子をうかがうようにして少し黙っている。
私は羽海さんを止めない。止める素振りも見せない。
「カスミちゃん、」
ソファの脇まで歩いてきた彼は、確認するようにそう言った。私は目線だけを動かして夜狐と目を合わせながら、彼の言わんとすることを先読みして口を開く。
「いいの」
袖を少しだけ捲って見せ、私は得意げに言った。
「傷跡、全部無くして貰ったから」
私の腕に煙草が押し当てられた形跡なんて、私の首筋に鋏が食い込んだ形跡なんて、もうどこにもなくなっていた。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽
「あのね」
そんな風に切り出したあやめさんの視線は明らかに私の首筋に向かっていた。あからさまに隠すわけにもいかず、ただふいと視線をそらした。
「その傷跡──」
後ろめたい。どこか、後ろめたい。
『その傷──何?』
決して、私が責められるわけではないとわかっているけれど──
「消しちゃう?」
あやめさんはさらりとそう言った。
け……消す…………?
あの世では何ができて何ができないんだ…。
「施術は簡単よ、痛くもないし時間もかからない。カスミちゃんが気になる部分に限らず、全部無くすことだってできちゃうわ」
うふふ、と得意げにあやめさんは微笑んだ。
対する私は期待に目を輝かせる。そんな申し出、ありがたいに決まっていた。傷跡を消せるなら、もう無理に長袖とタイツを着なくて良いし、髪型だって自由自在。周りの目を気にしなくても良くなる。
「お、おねがいしま──」
言いかけたところでふと口を閉じた。
あやめさんは言った。魂とは記憶の塊と同義だ、と。治療の際は、魂の記憶を書き換えて身体を形成するのだ、と。
じゃあこの傷跡がなくなったら──
私には一体、何が残る?
「…カスミちゃん、さっきアタシは、記憶を上書きする…って言ったわよね。でもそれは、脳の海馬に蓄えられた記憶を塗り替えるって意味じゃないわ。あくまで身体の方に刻まれた記憶を書き換えるの」
言うなれば身体に刻み込まれた記憶、髪の毛の一本から一つの細胞、それらに刻まれた記憶を書き換えてしまうということらしい。
たとえ意思を基準に形成されているとしても、あくまで魂とは、意思の塊ではなく、記憶の塊──なのだから。
夜狐だって、骨折を治したからその怪我の記憶がすっぽり抜け落ちた…という訳でもないだろう。
でも。
時間は誰にでも平等だ。生者にも、死者にも。
時が経つにつれて記憶は薄ぼんやりともやがかかっていき、やがて思いだせなくなって、次第にどうでも良くなる。
思いだすきっかけがないと、どうにもならない。
私にとって傷跡は、父と母に対する記憶のとっかかりだ。
だから。
恨めしい気持ちがなくなった今。
傷跡がなくなれば、私は──
いずれ彼らのことも──
「……」
覚えておいて得をするような記憶でないことはわかっている。さっさと忘れてしまった方が身のためなんじゃないかという意識も、ある。そして、なんだかんだで忘れられるような記憶でないことも、わかってはいる。
でも夜狐は、『自分の名前』を言わなかった。
本当に忘れたんだとすれば──私もいつかは、「真田」の苗字を忘れる。
たとえば私がもう、自身の黒髪の姿を思いだせないのと同じように。
「…カスミちゃん?」
「………」
この終わりの見えない自己問答を無理やりにでも終わらせるべく、私は深く考えることをやめようと思った。でも、最後に、悪あがきとして、あやめさんに一つ質問を投げかけた。
「傷跡を消したら、私は、どうなりますか」
言ってから気づく、こんなこと、聞かれたとして困ることしかできないだろう。あやめさんは私の過去も何も知らないのに。つい、夜狐がなんでも見透かしてくるから、見透かしてくれるから、いつの間にか絆されていたのかもしれない。
訂正しようと慌てて顔を上げた途端、あやめさんが先に口を開いた。
「そうねぇ…」
哲学的な答えがくるかと思って、少し身構える。
「お洒落ができるわ」
それだけ──と、あやめさんは笑った。
それだけとは言っても乙女にとっては重要なところよねと付け加えて、例えば──と羽海さんの綺麗な肌を褒め称える言葉が羅列された。
それを半分聞き流しながら、一つ深いため息をつく。
…さっきから私は、なにを偉そうに要らぬ心配ばかりしているんだ。
「あやめさん」
何も変わらないさ。
生前とて、良くも悪くも何も変わらなかったのだから。
「お願いします」
そう言って頭を下げると、彼は二つ返事で、任せてちょうだいと笑った。
誰かの血の跡。
それを、綺麗に、綺麗に、消したあと。
「それにしてもまーかわい子ちゃんだこと。怪我なら診るから言ってごらんなさい?どこが痛いの?」
「あ、いえ…私よりも、夜狐が」
「いーのよこいつ頑丈だから」
「そうだよ、僕なら平気。香澄ちゃんは…いや、違うな、カスミちゃんは大丈夫?具合悪いとかもなさそう?」
「発音変わらないんだから言い直さなくても…」
大したことない、とでも言っているように聞こえるけれど、その実絶対にそんなことはない。あの腕であれだけ暴れたんだ、もはや外傷名は骨折どころではなくなっているかもしれない。
目線を合わせるように、あやめさんが私を覗き込む。間近で見ると、本当に綺麗な顔をしていると思った。朧さんは凛とした美人、という印象が強かったけれど、あやめさんはどちらかというと近所の優しそうなお姉さん、みたいな感じがする。そんな人は近所にいなかったから、いまいちこの例えでいいのかどうかはわからないけれど。
金に近い茶色の髪を少し揺らして、小首を傾げてあやめさんは微笑んだ。
「…本当になんともない?大丈夫?外傷だけじゃなくていいのよ、気分が悪いなら少し横になってもいいし」
「あ、その、う…」
…いやだな。調子が狂う。
死んでから、みんなが優しい。罵声を浴びせられることも、手をあげられることも、誰かと居て息苦しいこともない。はっきり意思表示をしない私に、痺れを切らして呆れられることもない。
気分の悪くなる「優しさ」は、ここにはない。
こんな優しい世界を私は知らない。
もしかしたらやっぱりこれは、私の夢の中なんじゃないかと──
私はまだ疑っている。
名前までもらっておいてなんてザマだ。
──夜狐の服に滲んだ血と、目が合った。
「私は本当に、なんともないです。だから、早く、夜狐の怪我を」
しっかりしろ。夢な訳があるか。
少なくとも彼も、私も、痛みを被っている。
夜狐が少し、驚いたように切長の細い目を見開いた。
「…本当に平気なんだけどなぁ」
困ったように頭を掻いて笑って見せた。その腕に少し顔を埋めるようにして、ちょっとだけ照れたように「調子狂うなぁ」と言って目線で自分の左腕をなぞった。
「平気な訳ないでしょ、私も骨折したことあるけど、あれは一番痛かったもの。夜狐のはもっと痛いはず。痩せ我慢しないで」
「いや、僕は…」
「も~、女の子にここまで言わせてるんだからそろそろ大人しく治療受けなさいよ~…ねっ!」
軽快な音が響いた。夜狐の背中が太鼓のように叩かれた音だった。夜狐の肺に入っていた空気が、咳き込むことすら許されぬまま残らず吐き出される。
「……仮にも怪我人だぞ…」
一つ遅れて咳き込んだ夜狐が恨むようにあやめさんを見る。しかし口調だけ見るならばそれは男子学生同士のおふざけだった。
彼は諦めたように備え付けられていた回転式の椅子に座ると、患部をあやめさんに差し出す。完全に相手の医療技術を信じている様子だ。
「はーいはい、じゃあ診ていきますからね~。腕、まくるわよ」
慣れた手つきで、淡々と治療は進んでいく。夜狐の素肌は少し白くて、ひどい有様の患部を除けばやはり一つの傷もついていない。が、そんな全女性が憧れるような肌の持ち主とて男である。服の上からではわからなかったが、鍛えられたアスリートの腕をしている。昔、親が見ていたテレビに映っていたオリンピックの選手みたいな腕だ。
結局することもないので、私は治療の様子をただじっと見つめていた。あやめさんは黙々と、包帯のようなものを夜狐の腕に巻いている。それが骨折に対する適切な治療法なのかどうかは正直疑問なところではあるが、本職に私のような素人が口を挟むなど、生意気にも程がある。黙ってことの行く末を見守った。
包帯を二重ほどピンと巻いて、その包帯の続きを今度はあやめさんの腕に巻き始める。これは服の上からでもいいみたいだ。と、両者同じ部分に同じだけ包帯を巻いたところで、動きが静止する。
素人ながらに言わせて貰う。これは医療ではない。
これが正しい治療法でないことだけはわかるが、だとするとあやめさんは何を目的としてこんなことをしているのだろう。意味が無いとは思えなかったから。
「カスミちゃん、腕つんつんするのやめて…くすぐったい…」
「あらあら、まあ気になるわよね~。もうちょっと待ってててね、すぐにわかると思うわ」
すぐにわかる、と言っても、外見の変化は全く見受けられず、包帯を早く巻き取ってみたい衝動を抑える。そうしている間に、夜狐がそろそろいいだろと訴えるように腕を引いた。それに呼応するようにあやめさんも微笑んで自分の包帯の結び目を外す。そのまま流れるように包帯は外れ、夜狐の患部が露出した。
正確に言えば──患部だった部分が。
「………!」
腫れも血もすっかり引いて、そこにはただの青白くて形の整った腕があった。つい先程まで悲惨な状態になっていた腕とはすっかり見違えていて、もともと怪我なんてしていなかったかのようだ。
「驚いたでしょう?ふふ、実はね、この包帯は白墨ちゃん…店長が作ってくれた呪具の一つなのよ!まぁ医療用の呪具の中でも初期段階のものだし、治せる怪我の範囲も狭ければ効率もそんなに良くないんだけれど──一番経費かからないのよね~」
夜狐のあれは結構重症だったと思うのだが、一番コストの安いものであれだけの傷を治せるのも驚いたし、あれだけの傷に一番コストの安いものを何の躊躇いもなく使うのにも驚いた。もっと夜狐を大事にしてあげて。
「原理としては結構単純よ、結果だけ言えば、アタシの腕の記憶を夜狐の腕に上書きしただけ。幽体ってね、言ってしまえば魂の塊だから、結構簡単にいじれるのよ。肉体はただの肉の塊だもの、怪我が中々治らないのは当たり前。その分幽体──魂の塊は、記憶の塊と同義で、自分が「こうだ」と思い込めば身体の変化は可能なの。プラシーボ効果の究極版みたいな表現が一番わかりやすいのかしら?この包帯は例えるなら通信ケーブルの役目を果たしてるのね、こっちの魂の信号を相手側に送って、強制的に患部にプラシーボ効果を生み出して──」
「………なるほど」
きっといつか生活の中で理解できる日が来るだろう。うん。
「さーて、ま、こんなもんね。他に外傷は?」
「大丈夫、ここだけだから。ありがとう」
「どういたしまして。でも怪我してるなら本当に言いなさいよね、ちゃちゃっと治してあげるから」
ビシッと指を刺してあやめさんは口酸っぱくそう言った。発言から考える限り、幽体の傷はどんなものであれ適切な処置をすればものの数分で治るのだろう。それにしたって名人芸だろうけど。
……ん?
『まだ前のやつ治り切ってないでしょ──』
じゃあ前のやつって──何?
▽ ▲ ▽ ▲ ▽
兎にも角にもこれで治療は終わったと、医務室を夜狐と共に後にしようと腰を浮かした瞬間「おっと、カスミちゃんはまだダメよ」と有無を言わさぬ声が聞こえた。大人しく再び白いシーツの上に腰を下ろす。
が、夜狐は一瞬私とあやめさんを見比べたあと、自分だけ立ち上がって医務室から出て行ってしまった。思わず「えっ」と声を漏らすと、「いや、女の子の診察に僕がいちゃ駄目でしょ」と案外まともなことを言ってドアを閉めた。目視できる範囲にいるのがデフォルトだったせいか、どことなく不安な心地がする。
「心配しなくても大丈夫よ~、取って食ったりしないわ。ほんの少し身体検査するだけ」
とりあえず上着脱いでその辺に置いといてくれるかしら、とあやめさんが器具か何かを準備しながら辺りを適当に指さす。採血はしますかと聞くと「なぁに?注射いやなの?」と笑いながら濁されてしまった。注射は嫌いだ。こわい。
言われたとおりブレザーを脱ぐ。あやめさんはいくつかの器具を机の上に並べると回転椅子に座って、私に向かいの椅子に座るように促した。何となくシャツの袖をまくって控えめに腰掛ける。それからそんなに長くもない診察が始まったのだが、あやめさんは自身で書き留めたカルテを見ながら「嘘でしょ…思春期の女の子でこの体重は…生きてたら最悪速攻大型病院よ…」などとぶつぶつ呟いていたが、気を取り直したように咳払いをすると目をまっすぐむけて言った。
「さて、カスミちゃん、お疲れ様。診察はこれでおしまい!特に死者としての異常は見られなかったわ」
生きてたら問題大有りだったけどね…とこれまたボソリと呟いてあやめさんは苦笑いをした。確かに学校の身体測定でも良く保健の先生を不安にさせていた覚えがある。
それにしても「死者としての異常」とは、これまた珍妙な言葉である。
私もこう見えて、だんだんとあの世には慣れてきたつもりなのだが──この違和感は、アレだ、生きていた頃に「生者としての異常は見られませんでした」と言われたことがないからだ。
まくった袖を戻していると、あやめさんがふと口を開いた。
「ねぇ、カスミちゃん、いいかしら」
手を止めてあやめさんの方を見る。あやめさんはさっきまでと特に変わらない、柔らかい笑顔をしていた。だけれど、私は、何となく後ろめたい気持ちになった。
あのね──と一つ前置きをして、あやめさんは私の首筋を指さした。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽
医務室のドアを開けると、まず一番に羽海さんの横顔が視界に写った。それとほぼ同時に彼女はまぶしい笑顔を浮かべ、こちらに駆け寄ってくる。
「カスミ、お疲れ様!どこも悪いところ、なかった?まぁ、あったならとっくにあやめが治してるんでしょうけど…」
相変わらず距離感ゼロの状態で、気づいたらソファに誘導されていた。これは座れということかと思い腰掛けると、羽海さんも私の隣に腰を下ろす。
隣というか真横というか。
腰掛けてきたというか密着してきたというか。
当たり前のように私の肩に頭を乗せて。
「店長は今さっきカスミの制服を作りに行ったわ。多分五分か十分もすれば喜々揚々として戻ってくるわよ」
と、話しながら羽海さんは私の髪の毛を指に巻いて遊んでいる。
不快なわけでもないが、こうもいじられると自分の髪質に一抹の不安を覚えてくる。パサついてるとか思われないだろうか、指の通りは悪くないだろうか…。生きているとき、そこまで自分の髪に気を使えるほど余裕があったわけではないし、結構痛んでいるだろう。
あぁいや、でも、薫がヘアオイルを買ってきて押しつけられた──プレゼントして貰ったことはあった。母親に見つからないように戸棚の奥に隠したからあんまり引っ張り出すこともしなかったけれど。
もしかしたら今ごろ発見されて、たたき割られるか売り飛ばされるか、はたまた代わりに使われているかしているかもしれない。値段は知らないが質はとても良かった覚えがあるから、たたき割られている以外ならいいようになっているだろう。
なんてことを綺麗な羽海さんの髪を見ながら考えていた訳だが、ふと彼女は肩に乗せた頭をひょいと持ち上げて私と目を合わせた。
「カスミ、ちょっと髪の毛、いじらせてくれない?」
さっき散々いじっていたじゃないか。
が、すぐ思い直す、これはつまりヘアアレンジをさせてくれという意味の申し出だろう──今更そんなことに許可を求めるとは、彼女の中の基準がよくわからないが、私はとりあえず小さな肯定の返事と共に首を縦に振った。
羽海さんはこれまたぱぁっと笑うと、ソファを立って私の後ろに回る。ハーフアップを一旦ほどいて、毛先辺りをふわりと持ち上げた感触がした辺りで、ガチャリとドアの開く音がした。
医務室の方向じゃない。
「あれっ、二人とも何してんの?」
今日初めて知り合った声。同時にとっくに聞き慣れた声。
「今カスミの髪の毛かわいくしてるのよ~」
「夜狐、」
「カスミちゃん診察終わったんだ。今日はあと店長から色々支給されたら終わりだよ、お疲れ様」
言いながら後ろ手でドアを閉める夜狐は、黒いワイシャツにジーンズ姿、と服を着替えたせいかどこにでもいる青年のように見えた。…いいや、撤回しよう。こんな顔立ちの青年はどこにでもいない。
「…着替えたの?」
「ん、今日の僕の仕事はもうカスミちゃんの案内しか残ってないからね~。それに血で汚しちゃったし」
肩に提げたシンプルながらに大きめな黒いトートバッグは膨らんでいて、制服が乱雑に入れられていることがわかる。
そんな会話の間にも私の髪型の改築は進んでいた。軽く手ぐしで髪を整えたあと、羽海さんは思いきって私の髪を一気に上げる。
首筋が露出した。
「……」
夜狐は様子をうかがうようにして少し黙っている。
私は羽海さんを止めない。止める素振りも見せない。
「カスミちゃん、」
ソファの脇まで歩いてきた彼は、確認するようにそう言った。私は目線だけを動かして夜狐と目を合わせながら、彼の言わんとすることを先読みして口を開く。
「いいの」
袖を少しだけ捲って見せ、私は得意げに言った。
「傷跡、全部無くして貰ったから」
私の腕に煙草が押し当てられた形跡なんて、私の首筋に鋏が食い込んだ形跡なんて、もうどこにもなくなっていた。
▽ ▲ ▽ ▲ ▽
「あのね」
そんな風に切り出したあやめさんの視線は明らかに私の首筋に向かっていた。あからさまに隠すわけにもいかず、ただふいと視線をそらした。
「その傷跡──」
後ろめたい。どこか、後ろめたい。
『その傷──何?』
決して、私が責められるわけではないとわかっているけれど──
「消しちゃう?」
あやめさんはさらりとそう言った。
け……消す…………?
あの世では何ができて何ができないんだ…。
「施術は簡単よ、痛くもないし時間もかからない。カスミちゃんが気になる部分に限らず、全部無くすことだってできちゃうわ」
うふふ、と得意げにあやめさんは微笑んだ。
対する私は期待に目を輝かせる。そんな申し出、ありがたいに決まっていた。傷跡を消せるなら、もう無理に長袖とタイツを着なくて良いし、髪型だって自由自在。周りの目を気にしなくても良くなる。
「お、おねがいしま──」
言いかけたところでふと口を閉じた。
あやめさんは言った。魂とは記憶の塊と同義だ、と。治療の際は、魂の記憶を書き換えて身体を形成するのだ、と。
じゃあこの傷跡がなくなったら──
私には一体、何が残る?
「…カスミちゃん、さっきアタシは、記憶を上書きする…って言ったわよね。でもそれは、脳の海馬に蓄えられた記憶を塗り替えるって意味じゃないわ。あくまで身体の方に刻まれた記憶を書き換えるの」
言うなれば身体に刻み込まれた記憶、髪の毛の一本から一つの細胞、それらに刻まれた記憶を書き換えてしまうということらしい。
たとえ意思を基準に形成されているとしても、あくまで魂とは、意思の塊ではなく、記憶の塊──なのだから。
夜狐だって、骨折を治したからその怪我の記憶がすっぽり抜け落ちた…という訳でもないだろう。
でも。
時間は誰にでも平等だ。生者にも、死者にも。
時が経つにつれて記憶は薄ぼんやりともやがかかっていき、やがて思いだせなくなって、次第にどうでも良くなる。
思いだすきっかけがないと、どうにもならない。
私にとって傷跡は、父と母に対する記憶のとっかかりだ。
だから。
恨めしい気持ちがなくなった今。
傷跡がなくなれば、私は──
いずれ彼らのことも──
「……」
覚えておいて得をするような記憶でないことはわかっている。さっさと忘れてしまった方が身のためなんじゃないかという意識も、ある。そして、なんだかんだで忘れられるような記憶でないことも、わかってはいる。
でも夜狐は、『自分の名前』を言わなかった。
本当に忘れたんだとすれば──私もいつかは、「真田」の苗字を忘れる。
たとえば私がもう、自身の黒髪の姿を思いだせないのと同じように。
「…カスミちゃん?」
「………」
この終わりの見えない自己問答を無理やりにでも終わらせるべく、私は深く考えることをやめようと思った。でも、最後に、悪あがきとして、あやめさんに一つ質問を投げかけた。
「傷跡を消したら、私は、どうなりますか」
言ってから気づく、こんなこと、聞かれたとして困ることしかできないだろう。あやめさんは私の過去も何も知らないのに。つい、夜狐がなんでも見透かしてくるから、見透かしてくれるから、いつの間にか絆されていたのかもしれない。
訂正しようと慌てて顔を上げた途端、あやめさんが先に口を開いた。
「そうねぇ…」
哲学的な答えがくるかと思って、少し身構える。
「お洒落ができるわ」
それだけ──と、あやめさんは笑った。
それだけとは言っても乙女にとっては重要なところよねと付け加えて、例えば──と羽海さんの綺麗な肌を褒め称える言葉が羅列された。
それを半分聞き流しながら、一つ深いため息をつく。
…さっきから私は、なにを偉そうに要らぬ心配ばかりしているんだ。
「あやめさん」
何も変わらないさ。
生前とて、良くも悪くも何も変わらなかったのだから。
「お願いします」
そう言って頭を下げると、彼は二つ返事で、任せてちょうだいと笑った。
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