世界はもう一度君の為に

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第二話:再開?

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「むう。さすがにボロボロだな……」
 俺は家の中(もはや家と呼べるのだろうか)に無礼にもずかずかと押し入り、書物などをひっくり返していた。使えそうな物は自宅に持ち帰ってゆっくり読むつもりだ。
「……どんな研究データにも書いてなかった。意を決してできる限りのハッキングもした。……それでも見つからなかったんだ、もうここに賭けるしかねえ」
 俺が欲しいもの。何に変えても欲しいもの。それは――
 異能だ。
 …もっと正確にいえば、能力を手に入れるための方法についての情報。
 それさえあれば、俺も、父さんも、もう二度と蔑まれることなんてない。
 ただ外を歩くだけで憂鬱にならなくていい。望む進路を阻まれたりもしない。
 ……そして何より、母親に気持ち悪い怪物呼ばわりされなくていい。
「…………本当は、異能なんて要らねえけど」
 でもそうする他に何もないから。
 …………駄目だ、嫌なことばかり考えてしまう。
 俺は嫌な気分をかき消すために、再び資料探しに没頭した。

「……よし、こんなもんか」
 いくつかの書物を手に、俺は立ち上がる。あとはこれを家に帰って読み解いて……
「……あれ?」
 俺、どっちからきた?
 ……建物の崩壊が激しいからか、幼少の頃の記憶はもうあてにならない。やべえ、不法侵入プラス迷子ってカッコ悪!!
 いや待て自分。落ち着け。そんなに広い家でもない、少しうろうろすれば出口くらい見えてくるはずだ。
 いざとなったら壁に穴開けて出よう(思考能力の低下)。
「んー、こっち行ってみっか」
 俺は自分の勘に従い、建物内をうろちょろする。
 しばらくして、庭に出た。
「おお、庭!懐かしいな、ここでよく遊んだっけ」
 しばし思い出に浸ろうと、庭におりる。それに、庭に出てしまえば出口などすぐそこだろう。
 随分とボロボロになっているが、仮初めにもたくさん遊んで走り回った庭だ。家の中よりも記憶はしっかりしているから、ボロボロに朽ちたものが何だったかはよくわかる。
「あ、あれは昔から植えてあった柿の木だな?手入れする奴がいねえから枝が伸び放題になってる。うわっ、これ俺が作った金魚の墓か!?残ってたのか……ん?あれは……」
 ……見覚えがあまりなかった。
 見た限りでは祠だろうか。他に劣らず朽ちてはいるが、この中ではきっと一番、もとの形を保っていて………

『待ってたよ』

 なんだかそういってる気がした。
 ……なんだか懐かしいような、それでいて威圧感に押し潰されそうな……。
 だが、少なくとも不快ではない。
「…………帰らないと」
 もう夜も遅い。早く帰らなくては、母はともかく父が心配する。
 俺は祠に背を向けて歩きだした。
 なぜかあの祠が気になって仕方がなかった。

「---真咲?」
 そのか細く弱々しい声に気づかぬまま、真里は敷地内を出ていった。

     *   *   *   

「ただいま」
 ようやく家に着いた。だが「おかえり」の声は聞こえない。……父さんは残業だろうか。
 靴を適当に脱ぎ散らかしてリビングに向かう。
「……ただいま」
 ソファーでスマホをいじっている母親に、無駄だとわかっている上で話しかける。無論、返事は無い。
 ご飯--なんては用意されているはずもない。
 俺は適当に冷蔵庫の中をあさり、つまめるようなものを探す。…ゼリーがあった。もうこれでいい。これ以上冷蔵庫をあさって母親に文句を言われてはたまらない。
 そのまま二階の自室へ向かう。さっき手に入れた資料を読まなければ。
「一体何年前の書物なんだ、これ」
 わかってはいたがずいぶん古い。これは地道に読み解くしかなさそうだ。

 ~二時間後~

「はあ、はあ、づがれだ……」
 なんという重労働だ。いや、まあ俺が自らの意思でやってるんだけど…
 ここまで読み解くのに苦労した資料ははじめてだ。外国の研究機関の専門用語たっぷりの研究書類だってここまで読み解くのに苦労したことはなかったのに……!
 所々が破けていたり擦れていたりするからだろうか。これを読みきった俺は天才ではなかろうか?
「………まだ終わりじゃねえ、これをまとめて、俺なりに考察して、次にするべき行動を考えないと」
 まだ先は長い。……気が遠くなりそうだ。泣きたい。
「……ん?」
 いくつか持ってきた書物の中に、一冊まだ読んでいないものがあった。
「…こんなの、持ってきたっけか」
 うっかり間違えてほかのものと一緒に持ってきてしまったのだろうか。
 中を少し読んだ限りでは、これは誰かの日記だろうか?
「…こういうのに大事なことが書かれてるっていうのは、お約束だよな……」
 俺はその日記のような物を手にとり、再び解読作業に入った。


『力』の発生は明治時代後期である。
 寄生虫――『虫』が大繁殖した時代ともとれる。
 この『虫』は、発生と同時に大繁殖し、そして世界中の人間に寄生してから消えた。
 ――完全に消えた。
 実際、一番最初に『虫』が確認されてから(日本国内にて)三ヶ月もすれば、もう『虫』が確認されることはなくなった。
 どこの国の捜査機関でも見つけることはできず、研究用に捕らえておいたものですら、煙のように消えてしまったという。
 さらに言えば、『虫』によって『千里眼』の力を手に入れた者でも見つけられなかったそうだ。
 もう『虫』の発見は今後絶対に不可能だと考えたほうが良いであろう。
 この『虫』は子供にも遺伝する。
 また、与えられる能力は一人一つであり、本人が望んだものが与えられた――が、それは一番最初の話だ。
 能力者の子供たちは、生まれた時から能力があった――つまり、二世代目からは願わぬ間に能力が与えられたことになる。
 謎は未だに解けぬままだ。少なくとも私達だけでは…。
 もう一つ謎なのは、『虫』に寄生された者は皆色素が薄くなることだ。
 別にそれによって何が困るということでもないが、少なくとも紫外線に弱くなるのは確かであろう。
 そしてそれが、健康にいいわけが無い…というのは、言わずもがな誰もがわかっていたことであろうに。
 それから極めつけに、能力の暴走による殺人事件、傷害事件、建物の崩壊などが頻繁に起きた。
 ここまで来たらもう分かるだろう。
 異能力が世界に行き渡ってから、人口は激減した。
 その上、身を守るために刀や銃などの危険な武器を常に身につけてもよいものとし(今で言うところの銃刀法の撤去である)、異能力が暴走している者を殺しても罪には問われないという無茶苦茶な法律までできてしまった。
 おかげで人は殺し放題。何せ「この人は異能力を暴走させていた」とさえ言えば、たいした捜査もされぬまま無罪放免。場合によっては礼状までもらえる始末だ。
 こんな世界は間違っている。
 だから私は『彼女』に手を貸すことにした。
 …もし私が志半ばで死んでしまってもいいように、ここに情報を記しておく。
 蓮田谷家本家の庭にある祠、そこに一匹の

 (ここからページが破られており解読不可能)

「……ちっ、読んでみても、大して役に立つ情報はねえな」
 期待が大きかった分、喪失感が大きい。俺は誰かの―おそらく俺の先祖の―日記を部屋の隅に投げつけた。
 しかも出てきた情報は、『虫』の発見は諦めるべきという絶望的な情報だけ…
「…でもねえな」
 一つ、気になる一文があった。
『蓮田谷家本家の庭にある祠、そこに一匹の』
 一番いいところでページが破れてしまっているその一文は、俺の興味をひくには十分だった。
 ……一体あの祠には、何が眠っているのだろうか。
「おもしれえ、明日、もう一度行ってやろうじゃねえか」
 元々あの祠には興味があった。いずれ行こうと思っていたところだ。
 ……決行は、明日の夕方だ。
 そう決めた俺は、ようやくベッドに疲れた体を沈めた。

    *   *   *

「……………………」
 退屈な授業も終わり、俺は再び蓮田谷家本家、俺のじいちゃん家に来ていた。
「………別に?怖くねえし?全然びびってとかねえし?」
 そう、これは武者震いだ、武者震い……
 昨日はテンションがあがっていて大して恐怖を覚えることはなかったが、いざ来てみると……うう…怖くなんかねえ……
 俺は昨日と同じように、門を開けて中に入る。そのまま今度は庭に直行だ。
 俺の背丈の3ぶんの2くらいある祠。これだ。
「……これに、なんかがいるんだよな?」
 祠の窓をコンコンと叩いてみる。
 …………………………………何も起こらない。
「……なんだよ、あの日記かいた奴の戯言だったのか?」
 ……いや、あの日記には『一匹の』とあった。
 つまりこの祠にいたものは生き物だったんだ。なら---
「もう死んじまってるよな」
 ……………無駄足だったか。
 でも俺的には、この祠はそんなんで終わらねえような気が--
 そう思ってもう少し祠をいじっていると--
 どこからともなく、声が聞こえた。

「真咲ーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!」

 元気で、明るい、幼い少女の声。真咲とは俺のことだろうか?いや俺の名前は真里なんだが……
 そこまで考えた瞬間。
「うぐっふう!!」
 衝撃。
 俺の上に誰かが乗っかってる。いや抱きついてる?その衝撃に耐えられず、後ろに倒れてしまった。
 状況から考えて俺の上に乗ってるのはさっき聞こえた声の持ち主だろうか。いやでも、俺の前から抱きついて来たんだよな?
 俺の前には祠があるから、抱きつく直前まで気づかれないようにするには祠から出てくるしかないんだけれど---
「……!!?」
 そこまで考えて、俺は飛び起きた。
 まさか-----

「真咲、久しぶり!!」

 そう言って、俺の上に乗っかっている少女は笑った。
 その少女は和装で、きれいな銀髪赤目の持ち主で、何より目を引いたのは---

 少女の背中から生えた、六本の蜘蛛の足だった。
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