世界はもう一度君の為に

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第八話:橘兄弟

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「すごい、すごーーい!!ここが学校ってところなんだね!」
 きゃっきゃっとはしゃぎ飛び回る女郎蜘蛛の横で、俺はげんなりとしながらのそのそと歩いていた。
「おい、女郎蜘蛛…いくら見えないとは言ってももっとこう……控えめに生きられねえのかお前は……?」
 前回のあらすじ!俺は狂いに狂ったこいつを見て、俺自信も狂った覚悟を固めた!以上!
 そして、その後だ。
 あんなおっそろしい契約をしただけでもよっぽど体力を削られるというのに、あの後の女郎蜘蛛のくっっっっそ長え話といったら!
 しかもその大半はどうでもよかった。要約すると、「あたしにはやりたいことが沢山あるの、だからそれ全部やるの手伝ってね!」だった。あほか。
 さっきまでの狂気はどこに行ったんだ?って感じだったなあ。はっはっは。
 で、その中のほぼ唯一と言っても過言ではない真面目な話の中の一つに、こんな物があった。
『学校に行きたい』
 最初はこいつのわがままかと思って聞き流そうとしたのだが、こればっかりはちゃんと真面目だった。
 どうやら、女郎蜘蛛の見立てでは俺が単独で動くと、たとえ女郎蜘蛛がサポートしてくれるとしても絶対と言っていいほど死ぬらしい。傷つく。
 だから、これから俺達がするべきことは――
 仲間集め、だ。
 よって俺達はまず、俺が通うこの学校「白南風しらはえ高等学校」で仲間を探すことにしたのだが――
「無理だよなそりゃ、わかってた」
 そもそも俺、はちゃめちゃに嫌われてんだよなあ。声かけて無視されるだけなら、まだ良い方ってレベルで嫌われてんだよなあ。
「ああ~…穴があったら瞬速で潜りてえ…」
「ほらっ、真里たって!今までは全っ然話聞いてすらもらえなかったけど、次こそはきっと!理解ある人が現れるからっ!!」
「勘弁してくれ…もうやめたい…真里のライフはもうゼロよ………」
 座り込んだ俺の腕をぐいぐいと女郎蜘蛛が引っ張ってくる。他の人に女郎蜘蛛は見えないから、端から見たら俺が一人で座って腕だけぐいぐい上に突き出してる状態?は?これ以上嫌われ者になったらもう俺泣くけど?
 仕方がないのでちゃんと立つ。周りから変な目で見られたくない。
 …もう手遅れ?知ったことか。
「真里、次いくぞー!」
「わかった。わかったから頼む…あともう少しだけ休ませて………心を……」

 その様子を、木陰で見ていた生徒が一人いた。
「…あれは…」

「……………?」
 
 大波乱が幕を開ける。

    *   *   *

『女郎蜘蛛とおぼしき者を連れている生徒を発見。』

『名前は蓮田谷真里。二年五組。例の無能力者の生徒である。』

『この度の生徒会会議で、この蓮田谷真里なる者を―――』

『殺処分することと決定した。』

「………」

『了解。』


 秋特有の鱗雲が、日差しを優しく遮っている。
 生暖かい風が髪を優しくなびかせる。
 そんなどこか物悲しい雰囲気の秋の放課後――
 俺は学校の敷地内のベンチで燃え尽きていた。
「真里、何してんの?」
「何をしてるように見える?」
「座ってるように見える」
「ならばそれが答えだ。頼む、しばらく一人にさせてくれ…」
 あの後、女郎蜘蛛に無理矢理引っ張られて勧誘作業に戻らされ、メンタルブレイクへの道をまっすぐに進んだ俺は予想通りメンタルがブレイクした。
「……普通に考えたら、俺の言ってること滅茶苦茶おかしいもんな…」
『一緒に世界壊しませんか?』
 警察に通報されなかっただけ良かったと思おう。そうしよう。
 どこの宗教団体だと思われたんだろう?皆俺にどんな感情を抱いたんだろう?今、俺についてどんな噂が流れてるんだろう…
「あぁぁぁぁ」
「どうしたの、情けない猿みたいな声出して」
「うあぁぁぁぁ」
 もう嫌だ。マジでもう嫌だ。
「なあ女郎蜘蛛、もう勧誘やめようぜ?俺、頑張って死なねえようにするからよお…」 
「だめ。死ぬ。真里は死ぬ」
「そんな断言するほどか?だって、がありゃあ俺だって、異能力者とまともな勝負が出来ると思うんだが」
 俺は背中に背負っていた、例のバットを取り出した。危険すぎるので、逆に持ち歩いて常に管理することにしたのだ。
「それがあっても死ぬ人は死ぬよ。雑魚相手なら楽勝かもしれないけど、真里にはすごく強い人とも戦って欲しいから…」
「鬼なの?女郎蜘蛛が戦えば良くない?」
「一人で戦うのきつい。大勢を一気に相手にすることもあるかもしれないし、あたし真里を庇いながらっていうのはちょっと…」
 ……俺、一応男なんだけど…。
 幼女(見た目)に守られる男子高校生っていうのは…メンタルブレイク案件では……?
「でもよお、これ絶対仲間なんて見つかんなくねえか?だってこんな馬鹿げた計画に賛成するやつとか…自分で言うのもなんだが頭がおかしいとしか…」
「んー、でも確かにこの学校の中だけじゃ厳しいかもしれないね。でもあたしはもっとこの学校を探検したいからあと二週間くらいはここで…」
「無理無理無理無理!!!!俺死んじゃう!自殺しちゃう!だからやめよおおおおお!?!?」
 その時、周りからのチクチクとした痛い視線に気づいた。あ、そうだった、女郎蜘蛛と話してると周りからは「一人で話してる人」に見られるんだった。
「ふっ、残念だったな!今の俺にもう失うものなど、何も――ないわけでは、ねえわ…」
 ああぁぁぁぁぁぁ!!
 俺は声を落として、周りに聞こえないように囁く。
「とりあえずもう今日は帰ろうぜ?ほら、もう生徒も大概帰っちまったし…」
「『ぶかつ』っていうのに行ってる子は?」
「あ!?あぁー…そいつらは今全国大会だかコンクールだかに向けて青春をいそしんでんだよ、だから今日はもう駄目だっ!おしまいッ!!」
 
「……あいつか」
「うん、そうだね。…覚悟は出来ているかい?」
「………あぁ、勿論だ」
 
「ほら女郎蜘蛛、ほんとにもう帰るぞ。俺見たいテレビある」
「『てれび』?知ってる!!箱の中で人が歌ったり面白いことしたりするやつだ!」
 よし、釣れた。これで今日は逃げれる。
 俺は荷物を背負い直して、正門に向かって歩き出した。
 今日は確か「びびったグランプリ」をやるんだよな。録画は一応してるが出来ればさっさと帰ってリアタイしてえし…電車間に合うかな――
 ふと、横を向いた。
 それと女郎蜘蛛が叫んだのが――ほぼ同時だったと思う。

「真里、危ない!」
「え――――」
 
 目の前にあったのは、刃だった。
 刃渡りの大きい、それはまた高そうな、でも持ち歩きが大変そうな刀――ああ、こういうのは大刀って言うんだっけ―――
 は?
 目の前。今この瞬間にも動いてる。俺の方に向かって突き出されてるように…って――
 俺、死ぬ?
 
「…だから言ったのに……」
 女郎蜘蛛の呆れたような声が聞こえた。
 …え、俺死んだ…?
 いや、落ち着け。ちゃんと触覚がある。視界も開けているし、音だってちゃんと聞こえる。
 ただ一つおかしいのは、俺の視界は青い空一色だということ。
「……突き飛ばされた、のか?」
 女郎蜘蛛が直前で俺を突き飛ばして庇ってくれたのか…。あ、ああ危ねえ……
 俺は体を起こして、俺の前に立つ女郎蜘蛛を見上げた。
「悪い、女郎蜘蛛ありが……」
「お礼を言うのは後にした方が良いんじゃないかな」
 …それもそうだ。
 さっき俺に斬りかかってきたやつが――
 まだそこにいる。
「…妙な避け方だったなァてめェ……兄貴の言うとおり、?女郎蜘蛛ってやつがよォ」
 どこか口調がヤンキーっぽい。…なんてことを言ってる場合ではない。
 そいつはゆらりと俺の方を向いた。
 一つ目を引いたのは、右耳につけられた白い鈴のピアス。
「見えない相手というのはやりづらいですね。…しかし、存在する限りは戦えます」
 俺の後ろから声がした。どこか目の前のヤンキーっぽい奴に似ている声だ。でもこちらはもっと穏やかで、紳士的に思える。
 ――俺の背中が、ぞくりとした寒気を覚える。
 本能が、今すぐこの場から逃げ出せと叫んでいる。
 俺はその感覚に従うように、体の軸をねじってその反動で素早く自分の位置をずらした。
 ドスッ。
 俺が今さっきまでいた場所に、日本刀が刺さっている。
 それも、威力が普通の刀のそれではない。コンクリートの地面がえぐれ、亀裂が入っている。どう考えても日本刀で作れる威力ではない。
 ――まずい、前後を挟まれた!
「真里、こっち!」
 女郎蜘蛛が叫ぶ。それと同時に俺の首がきゅっと締まった。フードを引っ張られたのか!?
「ぐえぇ、おいお前苦しいっ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
 そのまま少女とは思えない力で引っ張られ、少なくとも前後挟み撃ちの状況からは脱した。
 俺を襲った二人の刺客と、対面で向き合う形になる。
 ……よく似た二人だった。後の方に襲ってきた日本刀の男は、左耳に黒い鈴のピアスをつけている。
 …似ているというよりは……対照的、と言うか――

「おい、また変な軌道で避けたぞあいつ。兄貴、やれるか」
「ああ、大丈夫だ――見た限りでは、どうやらの方は戦い慣れしてないようだし」

 パール色の髪に、女郎蜘蛛より少し濃い色味の赤い瞳。
 ……腕についた「風紀委員」の腕章――
「………!!」
 思い出した。こいつら風紀委員の委員長と副委員長の――
……!」
 兄、橘無刀むとうと弟、橘千鬼せんき
 両親を早くに亡くし、今は道場を二人で経営していると聞いている。…つまり、それだけの……道場を経営出来るだけの実力者。
 兄の無刀は、生徒会にスカウトされたこともあるという。
 そんな奴らが、なんで俺を襲った?
「先程の無礼をお詫びします。いくら何でも急すぎましたよね…貴方は、蓮田谷真里さんでよろしいですか?」
 黒い鈴のピアスの方――無刀が、俺に話しかけてくる。日本刀を鞘にゆっくりとしまいつつ。
 何が目的なんだ?
 沈黙を肯定と見なしたのか、無刀はにこりと笑って懐から一枚の紙を取り出した。
「蓮田谷真里さん、今回の生徒会会議で、私達風紀委員に一つの命令が下されたんですよ。それは――」
 その紙を、ぴらりと俺に見せつけるように突き出した。
 
「貴方の殺処分の遂行です」

『二年五組、蓮田谷真里なるものを、本日殺処分することとする。』
 ――紙には確かにそう書かれていた。
 …待ってくれ頼む。思考が追い付かない。
 というか、さっき――
『見えない相手というのはやりづらいですね――』
『そこにいるんだな?女郎蜘蛛ってやつがよォ――』
 まさか。
 まさか、女郎蜘蛛の存在がばれたのか?
 いや、女郎蜘蛛は能力者には見えないはず――つまりこの学校の中では、女郎蜘蛛を見ることの出来る人間はいない。
 そもそも、女郎蜘蛛と手を組んでいるからと言って襲撃する理由にはならない。
 そんな俺の当惑を感じ取ったのか、無刀が説明を始めた。
「…実は我々にも、貴方の連れているという『女郎蜘蛛』のなんたるかはわからないのです。しかしこれは生徒会の決定ですので…命令は意味を考える前にまず実行に移さなければなりません。恐らくですが女郎蜘蛛が少なくとも生徒会にとってあまりにも危険な存在か何かなのでしょうね」
 それは否定できない。
「だから――」
 無刀が、刀の持ち手に手をかけた。
「許してくださいね」
 その声には、憐憫も申し訳なさも一切含まれていなかった。ただ、そういう台本が用意されていたから読んだというような、無機質感がそこにはあった。
「「学園の風紀を乱すものは」」
 対照的な二人は、声をそろえて言い放つ。

「「我々風紀委員が処分する」」


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