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第十五話:開戦の狼煙
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花依はフェンスから身軽に飛び降りて、こちら側にとことこ歩いてきた。
自分に向けられた攻撃を無効化――というよりは水に変えてしまう、そんな能力なのだろう。
「……」
先程からのこの余裕。攻撃がいくら飛んできても全て自分には当たらないからだったのか。
「ねぇ、真里…とか言ったっけ、聞かせてよ。無能力者ってどんな気分?」
首をこてんとかしげて上目遣いで俺に問いかけてくる。
その動作は決して可愛らしくなどはなく、ただただ俺を煽るためだけの腹のたつ動作に過ぎなかった。
「…ああ、最悪の気分だよ。こんなふうに、人の気も知らないで突っかかってくる輩もいるしな」
「へー。あんたにとってはそんなに良くないもんなんだ」
そういうと花依はくるっと踵を返し、再び町を見下ろした。今度は、フェンスには登らず。
「私はあんたが羨ましいよ」
「…は?」
からすの鳴き声がもうすぐ夕暮れ時だと言うことを知らせていた。
今日は一段と風が強い。あんなボロボロな金網では、外れてしまうのではないかと心もとない。
それでも花依は町を見下ろす。
「……異能力なんてない方がいいんだ。こんなもの、なかった方が皆幸せになれたんだ…」
金網ががしゃんと鳴った。花依が蹴ったんだ。
……こいつ、ひょっとして――
異能力を、憎んでいるのか。
だとしたら俺達の最終的な目標に合致する思考の持ち主。
「世界を壊して作り直す。――異能力のない世界に」
不意に女郎蜘蛛が口を開いた。その声は俺にしか聞こえない。
「真里。この人間は――使えるんじゃないかな。生徒会っていうのと戦った後でも」
「……」
確かに、そうだ。
なら、こいつがどうして異能力を憎んでいるのか知らなくては――
だがそれを問う前に花依が口を開いた。
「私は異能力が嫌いだ」
髪をなびかせながら彼女はこちらを振り返る。
――ああ、そうか――異能力が嫌いだから、髪を染めていたのか。
「だから私はあんたに協力する。無能力者って、なかなか会えるもんじゃないからな。だから…」
ぽそりと花依は呟いた。
「あんたには、生きててほしい。生きて、世界の異能力に対する考え方を変えてほしい。だから私が手を貸すよ」
………。
あんたには ?
「…なぁ、一つ聞いてもいいか」
花依は無言の肯定で、俺の発言を促した。
「なんでそんなに…異能力が嫌いなんだ?」
千鬼と無刀が、視線で俺を制止しようとした。…だが、もう遅い。
花依はふっと笑った。でもその笑顔にはどこか――怒りが、含まれている感じがした。
デリカシーのねぇ奴――と呟いて、無理やりあげていたであろう口角をすっと下げて、つい先程まできらきらと輝いていた目は一瞬にして曇った。
それでも尚輝いている胸のペンダントが、いやに皮肉だった。
「…異能力さえなければ、私の親友も両親も死ななかった。それだけだよ」
だから止めたのに、と言うような顔で千鬼は顔を伏せた。
すぐるは、いままでずっと花依を睨んでいた目を床のアスファルトに落とし、何かを考えているような――そんな風に見えた。
「ここは、この廃校は私の親友が飛び降りた場所でね――不安なときとか、新しいことを始めるときはいつもここに来てあいつと同じ景色を眺めることにしてるんだ」
「……そうか」
それ以上は聞かない。これ以上は踏み込んではいけないと、思った。
「なら、よろしくな――花依」
「おうよ」
「交渉成立――ですね。やれやれ、案外あっさりと終わったものですね」
無刀がつまらなそうにぱちぱちと手を叩いて言った。
「あ、案外って…お前は何を期待してたんだよ…」
「いえ、べつに。あわよくば骨の一、二本は折れてくれたら面白かったですね」
「これがサイコパスかぁ~」
武道の心構えとは。
…まぁ今はどうだっていい。また新しく仲間が増えたんだ、喜ばしいことだもんな。
花依とすぐるが仲良くなれるかどうかは…うん…微妙だけど。
もしもの時は腕力がくそつえぇ千鬼がストッパーになってくれるだろ…
「真里。お前今俺に対して失礼なことを考えてなかったか…?」
「ナンノコトヤラ。すぐ人を疑ってかかるのはよくないぜ」
ナンノハナシカナー。オレワカンナイナー。
「……楽しいおしゃべりはこのくらいにして、皆さんが揃っている今のうちに話しておきたいことがあります」
無刀が一歩前に出て、全員の注目を集めようとパンパンと手を叩いた。
先程まで床に散らばった髪の毛をちゃいちゃいして遊んでいた女郎蜘蛛も、すくっと立ち上がって俺の近くによって来た。猫か。
無刀は一つ咳払いをして、続けた。
「今回の、真里さんを生徒会から守りつつ生徒会の暴挙を止める――この作戦で行動を共にする――つまるところの仲間は、ここにいる者だけです」
「なっ」
思わず声が漏れてしまった。
だって、ここにいるのは――女郎蜘蛛含め、六人。
対して生徒会は四人。
人員が足りなすぎる。
確かに強力な力を持っている者が多いし、きっとあいつらは一人で複数人分の戦闘力を持っているであろう。
だが相手はあの生徒会だ。
六人。たったの六人で、しかも相手を殺さずに制圧するだなんて…
俺に、できるのか?
「……人数が足りないのは重々承知しています。ですが…生徒会に歯向かうと言って協力してくれる人間がいたこと自体奇跡ですから……やるしか、ありませんね」
それはそうだ。こんな計画に賛同するのなんて、それこそよっぽどの命知らずだけだろう。
でも――
「はっ、おもしれぇじゃん?最後の最後まで醜く足掻いてやるよ」
「俺にできることなら何でも全力でやる。この学園の風紀を正せるのは、どうやら俺達しかいねぇようだからな」
「ふふふ、すぐるの真里に手を出す奴らなんて…すぐるが木っ端微塵にしちゃうもん!そのためなら、すぐる、たりない人数の分もいーーーっぱい頑張るよ!」
「はいはい、威勢がよろしいことで…。まぁそうですね、あの社会のゴミである会長の高飛車な鼻を地面に擦り付けられるのなら、私が全力を出す理由くらいにはなりそうです」
………。
皆やる気だ。こんな少人数でも――。
でも……
「真里?」
はっとして俯いていた顔をあげた。異常に長い銀髪が視界に写る。
「どうしたの…皆、なんか盛り上がってるけど。真里も意気込みを見せつけちゃえば?」
そう言って女郎蜘蛛はいつもの調子でへらりと笑った。
「……あぁ…」
生返事を返し、俺は皆の顔をもう一度じっくりと見た。
変な汗が頬を伝う。
「…なんで」
なんでそんなに軽いんだよ…。
お前ら全員、死ぬかもしれないんだぞ。
俺がワガママ言ったせいで、お前ら全員命の危機に晒されてるんだぞ。
なぁ。
俺なんかに手を貸したせいでお前らが死んだりしたら――
どう償えというんだ。
心臓の辺りがじわりと痛んだ。無意識のうちに噛み締めていた歯が擦り合わさって、ギリッと音を立てた。
なぁ。
まだ、間に合うだろ。
集められる人数がこれだけ少ないとわかった今――ここで退いたって、誰も責めないから。
俺は責めないから。
だから――
「……お前ら、さ」
気づけば口を開いていた。
皆がなんだなんだとこちらを向く。皆、しっかりと、笑顔だった。
「…やめよう」
怒られるだろうなあ。
お前らはほんとに優しいから。
「……やっぱり俺、怖くなっちった。生徒会と正面から戦うとか…無理だわ。やっぱ一人で、逃げるよ――急にごめん。だからお前らもう、俺に関わらなくていい――」
「ぶふっ」
ん?
言葉を重ねるごとに下に落ちていった視線をもとに戻すと、声を殺して笑い転げている花依がいた。
千鬼はバツが悪そうに苦笑いで頭をかき、無刀は呆れたというようにため息をつき始めた。
すぐるはきょとんとしたまっすぐな目でこっちを見つめていたし、横にいた女郎蜘蛛も同じような顔をしていた。
「…は?おまッ、ちょ……」
「~~~っはははははははは!真里、お前っ…おま……嘘つくのヘタクソすぎんだろーーーーッ!あっはっはっはっはっはっは、はー、ふー~…あはははははは!」
「ちょ、花依っ…笑いすぎだろバカ!そんなに俺変なこと言ったかよ!?」
千鬼がふっと軽く吹き出して言った。
「お前…ほんとに嘘つくの下手なんだな。ふ、ふっ…そもそもタイミングおかしいし…目的が見え見えというか…ふ、くっふ……」
「貴様ああああああああああああ」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ、真里さん…史上最高に下手な嘘でしたね」
「あああああああああああああああああ」
きっ…消えたい……!今すぐこの場から逃げ出したい……!
と、不意にすぐるが口を開いた。
「でも、史上最高に優しい嘘だったね!」
その言葉に、その場の全員が動きを止めた。
数秒の沈黙の後――
「いや、史上最高にアホな嘘だろ」
「あっコラ花依っ」
「うわああああああああああああ」
ああああああああああああああああ!!
そりゃ俺はっ…あんま嘘は得意じゃねぇけど…てか人とあんましゃべってこなかった人生だし…。
「私達を危険な目に遭わせたくなかったんだろ?心配性だな、そう簡単に死んだりしねぇよ」
「…花依の言う通りだな、そもそも危険は元より承知だ。それに、真里。俺は」
千鬼は急に声のトーンを落とした。
「戦況が不利ってだけでコロッと掌を返すような奴は嫌いだ。例えそれが俺達のためだったとしてもな」
……。
「そうですよ真里さん、それに私達は貴方のために戦うのではない。正確に言えば貴方に頼まれたからやってる訳じゃない。自惚れないでください、全ては私自身と千鬼のためです」
「さりげなく俺を巻き込むなよブラコン兄貴」
「うん!すぐるもね、真里のためかもしれないけどすぐるのためにやってるんだよ!すぐるはすぐるのために真里のために動いて…あれ?え?うーんと…まぁいっか!」
やっぱり軽いような気がする…。
でも――
「真里」
女郎蜘蛛だ。俺は視線を女郎蜘蛛に向ける。
「…本当に人を殺したくないんだね。そういうとこ、真咲にそっくり」
ここに来て彼女は…始めて、それらしい顔をした。
百年以上生きた化物、そう言うにふさわしい、全てを知った者の顔を。
「でも仲間を死なせたくないからって嘘をついて戦線から離脱させるのは、ただの自己満足だよ」
「…あぁ」
そうか、ただの――俺のエゴか。
「そうだったみたいだな」
今までそんなこと、したこともなかったししたいとも思えなかったけど。
今回だけは、いいや、俺達が本来の目的を果たすまでは――
「憎くて憎くて仕方なかった異能力者を…信じてみるとするか」
そうだ、よくよく考えてみれば皆俺なんかより強いんだ。
心配されるのは、むしろ俺の方だったよな…はは、それはそれで傷つくぜ。
「…よし、お前ら!」
俺は拳を空に高く突き上げて叫んだ。
「生徒会どもに、この六人で一泡ふかせてやるぞぉ!」
全員が一瞬ぽかんとし、そしてすぐに――弾けるような笑みを浮かべた。
『おぉ!』
開戦の狼煙があがる。
「ていうかなんで貴方が仕切ってるんです。主人公ですか?」
「えっ!?そういう流れだったよね!?違うの!?」
「勝手に主人公ポジとってくなよな~ずりぃぞ~」
「花依、お前主人公ポジやりたかったの…?」
「真里がいつだってこの世界の主人公だよっ♡すぐるが保証するからねっ♡♡」
「この女こわ」
「女郎蜘蛛、聞こえないからってそういうことをぽろぽろ口走るなよ…」
「……で?」
すっかり日が落ち始めて、青かった空は真っ赤に染まっていた。
「何の用だ、無刀――協力の件なら、断ったはずだぞ。命を無駄に散らすほど暇人じゃないんだ」
「わかってるよ。ただ、一つ頼みがあってね」
夕日が差し込んだ教室の中で、その二人は会話を続ける。
「……後方支援。君なら生徒会にもばれることなく実行できるだろう。命を危険に晒すことはないよ」
「…まぁ別にそれぐらいはやってもいいが――」
無刀と話しているもう一人の人物は、ずっとつけていたヘッドフォンを外すとようやく無刀の顔を見た。
「どうした。お前らしくないぞ――自信がないのか?」
「………」
無刀は何も答えず、出口に向かって歩きだした。
「おい、無視を決め込む気か」
「…いいや?別に」
最後に一度だけ振り返って無刀は言った。
「もし私に何かあった時は――君が彼らを…」
「頼んだよ、ハッカー」
その顔は、逆光で見えなかった。
「………やっぱ、あいつらしくねぇーー…まぁ、いいか。あいつの思考はどんなプログラムよりも複雑だし……」
そう言って彼はガタッと立ち上がる。曲がった背中が赤い光に照らされ、妙に不気味に光っていた。
「かったりぃな」
生徒会との戦いに複数の糸が絡んでいることは――既に紛れもない事実となって、真里達に振りかかる。
自分に向けられた攻撃を無効化――というよりは水に変えてしまう、そんな能力なのだろう。
「……」
先程からのこの余裕。攻撃がいくら飛んできても全て自分には当たらないからだったのか。
「ねぇ、真里…とか言ったっけ、聞かせてよ。無能力者ってどんな気分?」
首をこてんとかしげて上目遣いで俺に問いかけてくる。
その動作は決して可愛らしくなどはなく、ただただ俺を煽るためだけの腹のたつ動作に過ぎなかった。
「…ああ、最悪の気分だよ。こんなふうに、人の気も知らないで突っかかってくる輩もいるしな」
「へー。あんたにとってはそんなに良くないもんなんだ」
そういうと花依はくるっと踵を返し、再び町を見下ろした。今度は、フェンスには登らず。
「私はあんたが羨ましいよ」
「…は?」
からすの鳴き声がもうすぐ夕暮れ時だと言うことを知らせていた。
今日は一段と風が強い。あんなボロボロな金網では、外れてしまうのではないかと心もとない。
それでも花依は町を見下ろす。
「……異能力なんてない方がいいんだ。こんなもの、なかった方が皆幸せになれたんだ…」
金網ががしゃんと鳴った。花依が蹴ったんだ。
……こいつ、ひょっとして――
異能力を、憎んでいるのか。
だとしたら俺達の最終的な目標に合致する思考の持ち主。
「世界を壊して作り直す。――異能力のない世界に」
不意に女郎蜘蛛が口を開いた。その声は俺にしか聞こえない。
「真里。この人間は――使えるんじゃないかな。生徒会っていうのと戦った後でも」
「……」
確かに、そうだ。
なら、こいつがどうして異能力を憎んでいるのか知らなくては――
だがそれを問う前に花依が口を開いた。
「私は異能力が嫌いだ」
髪をなびかせながら彼女はこちらを振り返る。
――ああ、そうか――異能力が嫌いだから、髪を染めていたのか。
「だから私はあんたに協力する。無能力者って、なかなか会えるもんじゃないからな。だから…」
ぽそりと花依は呟いた。
「あんたには、生きててほしい。生きて、世界の異能力に対する考え方を変えてほしい。だから私が手を貸すよ」
………。
あんたには ?
「…なぁ、一つ聞いてもいいか」
花依は無言の肯定で、俺の発言を促した。
「なんでそんなに…異能力が嫌いなんだ?」
千鬼と無刀が、視線で俺を制止しようとした。…だが、もう遅い。
花依はふっと笑った。でもその笑顔にはどこか――怒りが、含まれている感じがした。
デリカシーのねぇ奴――と呟いて、無理やりあげていたであろう口角をすっと下げて、つい先程まできらきらと輝いていた目は一瞬にして曇った。
それでも尚輝いている胸のペンダントが、いやに皮肉だった。
「…異能力さえなければ、私の親友も両親も死ななかった。それだけだよ」
だから止めたのに、と言うような顔で千鬼は顔を伏せた。
すぐるは、いままでずっと花依を睨んでいた目を床のアスファルトに落とし、何かを考えているような――そんな風に見えた。
「ここは、この廃校は私の親友が飛び降りた場所でね――不安なときとか、新しいことを始めるときはいつもここに来てあいつと同じ景色を眺めることにしてるんだ」
「……そうか」
それ以上は聞かない。これ以上は踏み込んではいけないと、思った。
「なら、よろしくな――花依」
「おうよ」
「交渉成立――ですね。やれやれ、案外あっさりと終わったものですね」
無刀がつまらなそうにぱちぱちと手を叩いて言った。
「あ、案外って…お前は何を期待してたんだよ…」
「いえ、べつに。あわよくば骨の一、二本は折れてくれたら面白かったですね」
「これがサイコパスかぁ~」
武道の心構えとは。
…まぁ今はどうだっていい。また新しく仲間が増えたんだ、喜ばしいことだもんな。
花依とすぐるが仲良くなれるかどうかは…うん…微妙だけど。
もしもの時は腕力がくそつえぇ千鬼がストッパーになってくれるだろ…
「真里。お前今俺に対して失礼なことを考えてなかったか…?」
「ナンノコトヤラ。すぐ人を疑ってかかるのはよくないぜ」
ナンノハナシカナー。オレワカンナイナー。
「……楽しいおしゃべりはこのくらいにして、皆さんが揃っている今のうちに話しておきたいことがあります」
無刀が一歩前に出て、全員の注目を集めようとパンパンと手を叩いた。
先程まで床に散らばった髪の毛をちゃいちゃいして遊んでいた女郎蜘蛛も、すくっと立ち上がって俺の近くによって来た。猫か。
無刀は一つ咳払いをして、続けた。
「今回の、真里さんを生徒会から守りつつ生徒会の暴挙を止める――この作戦で行動を共にする――つまるところの仲間は、ここにいる者だけです」
「なっ」
思わず声が漏れてしまった。
だって、ここにいるのは――女郎蜘蛛含め、六人。
対して生徒会は四人。
人員が足りなすぎる。
確かに強力な力を持っている者が多いし、きっとあいつらは一人で複数人分の戦闘力を持っているであろう。
だが相手はあの生徒会だ。
六人。たったの六人で、しかも相手を殺さずに制圧するだなんて…
俺に、できるのか?
「……人数が足りないのは重々承知しています。ですが…生徒会に歯向かうと言って協力してくれる人間がいたこと自体奇跡ですから……やるしか、ありませんね」
それはそうだ。こんな計画に賛同するのなんて、それこそよっぽどの命知らずだけだろう。
でも――
「はっ、おもしれぇじゃん?最後の最後まで醜く足掻いてやるよ」
「俺にできることなら何でも全力でやる。この学園の風紀を正せるのは、どうやら俺達しかいねぇようだからな」
「ふふふ、すぐるの真里に手を出す奴らなんて…すぐるが木っ端微塵にしちゃうもん!そのためなら、すぐる、たりない人数の分もいーーーっぱい頑張るよ!」
「はいはい、威勢がよろしいことで…。まぁそうですね、あの社会のゴミである会長の高飛車な鼻を地面に擦り付けられるのなら、私が全力を出す理由くらいにはなりそうです」
………。
皆やる気だ。こんな少人数でも――。
でも……
「真里?」
はっとして俯いていた顔をあげた。異常に長い銀髪が視界に写る。
「どうしたの…皆、なんか盛り上がってるけど。真里も意気込みを見せつけちゃえば?」
そう言って女郎蜘蛛はいつもの調子でへらりと笑った。
「……あぁ…」
生返事を返し、俺は皆の顔をもう一度じっくりと見た。
変な汗が頬を伝う。
「…なんで」
なんでそんなに軽いんだよ…。
お前ら全員、死ぬかもしれないんだぞ。
俺がワガママ言ったせいで、お前ら全員命の危機に晒されてるんだぞ。
なぁ。
俺なんかに手を貸したせいでお前らが死んだりしたら――
どう償えというんだ。
心臓の辺りがじわりと痛んだ。無意識のうちに噛み締めていた歯が擦り合わさって、ギリッと音を立てた。
なぁ。
まだ、間に合うだろ。
集められる人数がこれだけ少ないとわかった今――ここで退いたって、誰も責めないから。
俺は責めないから。
だから――
「……お前ら、さ」
気づけば口を開いていた。
皆がなんだなんだとこちらを向く。皆、しっかりと、笑顔だった。
「…やめよう」
怒られるだろうなあ。
お前らはほんとに優しいから。
「……やっぱり俺、怖くなっちった。生徒会と正面から戦うとか…無理だわ。やっぱ一人で、逃げるよ――急にごめん。だからお前らもう、俺に関わらなくていい――」
「ぶふっ」
ん?
言葉を重ねるごとに下に落ちていった視線をもとに戻すと、声を殺して笑い転げている花依がいた。
千鬼はバツが悪そうに苦笑いで頭をかき、無刀は呆れたというようにため息をつき始めた。
すぐるはきょとんとしたまっすぐな目でこっちを見つめていたし、横にいた女郎蜘蛛も同じような顔をしていた。
「…は?おまッ、ちょ……」
「~~~っはははははははは!真里、お前っ…おま……嘘つくのヘタクソすぎんだろーーーーッ!あっはっはっはっはっはっは、はー、ふー~…あはははははは!」
「ちょ、花依っ…笑いすぎだろバカ!そんなに俺変なこと言ったかよ!?」
千鬼がふっと軽く吹き出して言った。
「お前…ほんとに嘘つくの下手なんだな。ふ、ふっ…そもそもタイミングおかしいし…目的が見え見えというか…ふ、くっふ……」
「貴様ああああああああああああ」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ、真里さん…史上最高に下手な嘘でしたね」
「あああああああああああああああああ」
きっ…消えたい……!今すぐこの場から逃げ出したい……!
と、不意にすぐるが口を開いた。
「でも、史上最高に優しい嘘だったね!」
その言葉に、その場の全員が動きを止めた。
数秒の沈黙の後――
「いや、史上最高にアホな嘘だろ」
「あっコラ花依っ」
「うわああああああああああああ」
ああああああああああああああああ!!
そりゃ俺はっ…あんま嘘は得意じゃねぇけど…てか人とあんましゃべってこなかった人生だし…。
「私達を危険な目に遭わせたくなかったんだろ?心配性だな、そう簡単に死んだりしねぇよ」
「…花依の言う通りだな、そもそも危険は元より承知だ。それに、真里。俺は」
千鬼は急に声のトーンを落とした。
「戦況が不利ってだけでコロッと掌を返すような奴は嫌いだ。例えそれが俺達のためだったとしてもな」
……。
「そうですよ真里さん、それに私達は貴方のために戦うのではない。正確に言えば貴方に頼まれたからやってる訳じゃない。自惚れないでください、全ては私自身と千鬼のためです」
「さりげなく俺を巻き込むなよブラコン兄貴」
「うん!すぐるもね、真里のためかもしれないけどすぐるのためにやってるんだよ!すぐるはすぐるのために真里のために動いて…あれ?え?うーんと…まぁいっか!」
やっぱり軽いような気がする…。
でも――
「真里」
女郎蜘蛛だ。俺は視線を女郎蜘蛛に向ける。
「…本当に人を殺したくないんだね。そういうとこ、真咲にそっくり」
ここに来て彼女は…始めて、それらしい顔をした。
百年以上生きた化物、そう言うにふさわしい、全てを知った者の顔を。
「でも仲間を死なせたくないからって嘘をついて戦線から離脱させるのは、ただの自己満足だよ」
「…あぁ」
そうか、ただの――俺のエゴか。
「そうだったみたいだな」
今までそんなこと、したこともなかったししたいとも思えなかったけど。
今回だけは、いいや、俺達が本来の目的を果たすまでは――
「憎くて憎くて仕方なかった異能力者を…信じてみるとするか」
そうだ、よくよく考えてみれば皆俺なんかより強いんだ。
心配されるのは、むしろ俺の方だったよな…はは、それはそれで傷つくぜ。
「…よし、お前ら!」
俺は拳を空に高く突き上げて叫んだ。
「生徒会どもに、この六人で一泡ふかせてやるぞぉ!」
全員が一瞬ぽかんとし、そしてすぐに――弾けるような笑みを浮かべた。
『おぉ!』
開戦の狼煙があがる。
「ていうかなんで貴方が仕切ってるんです。主人公ですか?」
「えっ!?そういう流れだったよね!?違うの!?」
「勝手に主人公ポジとってくなよな~ずりぃぞ~」
「花依、お前主人公ポジやりたかったの…?」
「真里がいつだってこの世界の主人公だよっ♡すぐるが保証するからねっ♡♡」
「この女こわ」
「女郎蜘蛛、聞こえないからってそういうことをぽろぽろ口走るなよ…」
「……で?」
すっかり日が落ち始めて、青かった空は真っ赤に染まっていた。
「何の用だ、無刀――協力の件なら、断ったはずだぞ。命を無駄に散らすほど暇人じゃないんだ」
「わかってるよ。ただ、一つ頼みがあってね」
夕日が差し込んだ教室の中で、その二人は会話を続ける。
「……後方支援。君なら生徒会にもばれることなく実行できるだろう。命を危険に晒すことはないよ」
「…まぁ別にそれぐらいはやってもいいが――」
無刀と話しているもう一人の人物は、ずっとつけていたヘッドフォンを外すとようやく無刀の顔を見た。
「どうした。お前らしくないぞ――自信がないのか?」
「………」
無刀は何も答えず、出口に向かって歩きだした。
「おい、無視を決め込む気か」
「…いいや?別に」
最後に一度だけ振り返って無刀は言った。
「もし私に何かあった時は――君が彼らを…」
「頼んだよ、ハッカー」
その顔は、逆光で見えなかった。
「………やっぱ、あいつらしくねぇーー…まぁ、いいか。あいつの思考はどんなプログラムよりも複雑だし……」
そう言って彼はガタッと立ち上がる。曲がった背中が赤い光に照らされ、妙に不気味に光っていた。
「かったりぃな」
生徒会との戦いに複数の糸が絡んでいることは――既に紛れもない事実となって、真里達に振りかかる。
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「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
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