世界はもう一度君の為に

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第十六話:親交と信頼を

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「おいすぐる、菜箸とってくれ」
「これ~?」
「違うそれ普通の箸だ!そうじゃなくて、もっと長い…」
「千鬼~、調味料とってきたよ」
「早くしろや、もう腹と背中がくっつきそうなんだよ」
「そういうなら手伝えよ花依!ほら真里もボーッとしてねぇで冷蔵庫から肉とってきてくれ」
「…あの…………」

「これ…どういう状況……?」

 机の真ん中に置かれた土鍋。人数分用意された食器類の数々。そして人数分より数倍多めに用意された食材。
 これは、俗に言う鍋パというやつでは…!?
「なんだよ真里、ガチガチに固まっちまって」
「うぉっ、か、花依…いや別に」
「『友達が出来たのも初めてなのにましてや鍋パなんてしたことないからどうしたらいいかわからない』って?そう堅くしなさんな」
「エスパー!?」
 俺が考えてたこと、全部当てられた。なんか…むなしい…。
「そもそも、何のためにこのメンツが集められたんだよ?まさかただただやりたかっただけとか言わないよな…」
「そんなこと言うわけないでしょう私達を何だと思っているんです?」
 後ろの机で、ドンッと食器を置く音がした。その衝撃で他の食器が揺れ、カチャカチャと音を立てる。
「ひぇっ…」
 無刀サン…こわぁい……
「今回の集まりの目的は、お互いの信頼関係を築くことです。相手が得意とするものは何か、苦手とするものは何か、それを知り合って助け合えるようにするために、相手に向き合おうという会ですよ。ほら存分にお互いを分かり合いなさい」
「お、おう…お前のその冷徹な性格はよくわかったよ…」
 そう言って無刀は、自分を呼ぶ弟の声がした台所に小走りで向かって行った。
「ねぇ真里ぉ…あたし何もできないじゃん。つまんなぁい」
 どこか不服そうな声が聞こえた。…その声は座っている俺の腹部よりも下の方から響いている。
 ならば声の持ち主は一人。人んちで堂々と横になってゴロゴロしている、女郎蜘蛛しかいない。
「……じゃあ頼んで少し食わせて貰うか?」
「うー、だってお鍋でしょ?さすがにお鍋をバリバリ噛み砕くのはちょっと…」
「盛大な勘違いしてるなお前……」
 まさか自分の人生のなかで、誰かに鍋の概念を説明することになるとは思わなかった。
 仕方がないので「鍋ってのはな、」とある程度説明を加えると納得してくれたようで、
「ふ~ん…あたしは要らないや。化物は半年周期で食べれれば十分なんだよ」
 と、さらっと重大な情報を呟いてぐでっと身を重力に任せた。

    *   *   *

 鍋がぐつぐつと煮えている。白い湯気が立ち上ぼり、部屋の湿度を勝手に上げてくれていた。
「そろそろいいだろ」
 千鬼がそうボソッと呟いた瞬間――
 争いが始まった。
 ギィィン!
 鍋の上で複数の箸が交錯する。
「おい、どけよ邪魔だ」
「はぁ?どくのはお前だろカス」
「真里とすぐる以外は全員どきなよぉ」
「下らない喧嘩はいいんでどいてもらえます?」
 …誰もが譲る気はないようだ。
「いっそのこと実力行使に出るか…」
「……へぇ?いいじゃん来なよ、私に攻撃は通用しないけどね」
「ふふ、いいよ、すぐるの全力見せつけてあげるから…」
「仕方ないですね、あまりこういうことはしたくないんですが…」
 四人が一斉に戦闘態勢に入ろうとしたとき――
 ゴイィィン!
「いっづぁぁ!?」
 脳天を何かにかちわられた。視界がぶれる。
「こら、肉が食いたいからって喧嘩すんなてめぇら!」
 千鬼だった。
 手に持ってるのは…お玉か、オカンか?
 そのまま机の回りを回りながら全員の頭をゴンゴン叩き、いやすぐるの時だけ他より優しかったぞ…、そのまま空いているスペースに座った。
「ったく…お前らは年の近い兄弟姉妹か!肉は十分あるから、もう喧嘩すんじゃねぇぞ!」
「「「「はぁい…」」」」
 千鬼はこういう風に場をまとめるのが得意だよなぁ…やっぱオカンだ。 
 どうやら両親を早くに亡くした橘兄弟は家事を分担して行っているらしく、千鬼は料理担当らしい。なるほど確かに、鍋をそれぞれの器に盛ってやる動作に慣れを感じる。
「ほら、真里お前の分…って、なにジロジロ見てんだよ」
 やべ、ばれた。
「あぁ、いや…千鬼ってお母さんみたいだよな」
「はっ!?いやおまッ、お前…はぁ!?」
 千鬼は動揺したのか、手に持った菜箸をブンブンと振り回す。お母さんは想定外だったらしい。                                                                 「いやお前、お母さんはないだろ…そもそも俺男だしよ」
「でも母性に溢れてるよな」
「っ~~…あんまからかうなよな……」
 そう言って千鬼は顔を少々赤らめて俯いた。やっぱり千鬼はここで一番の常識人だからな…からかいがいあるんだよなぁ。
 そんなことを思いながら俺は分け与えられた肉を頬張り、さっきの無刀の言葉を思い出した。
『存分にお互いを分かり合いなさい』
  …お互いを分かり合うためか……。
 よく考えたら俺、こいつらのことほとんど知らないのか…。
「………なぁ」
 ここまで来たんだ。
 そう思って、俺は普段人前でほぼ開かない口を開いて――したこともない、雑談をした。

    *   *   *

「…で、そいつ自分の腕私の異能力で水にされてさ、あの焦った顔は一生忘れらんねぇわ~」
「花依お前、ほんと良い性格してるな…」
「なんだよ千鬼、お前だってこの前校内の不良ボコボコにして投げ飛ばしてただろ」
「い、いやあれはっ…風紀委員の仕事だからだよ…」
「千鬼そんなことしてたのかよ、ふっ、ふは、あははははは!」
 皆との雑談は思った以上に楽しく、俺達は鍋を食べ終わった後も時間を忘れて話し続けた。
 約一名自分の声を俺以外にとどけられないやつは寂しそうにしていたが、暫く足元で遊ばせておいたら勝手に寝落ちしていた。食事は要らなくても睡眠はとるんだな…。
 そう、時間を忘れて…… 
 …今何時だ?
 そう思って時計を見ると――
 …………九時?
「時間忘れすぎとるーーー!!」
 いっ、いくらなんでもこんな遅くまでいるなんて迷惑にっ…!
「おっ、おおおおおお邪魔しましたぁぁぁお休みお前ら!」
「あっ、真里まっ……」
 すぐるの制止する声が聞こえたが、俺は聞こえぬ振りをして部屋を出ようとする。
 すると――
「落ち着いてください」
 冷徹な声で、裾を掴んで止められた。
 …無刀だ。
「まだ話は終わってません。なんなら――一番重要な話をこれからするんですから」
 そう言って、俺に席に戻るよう視線で示した。
「なんか最近、ことあるごとに大事な話あるよな…」
「…生徒会っていうおっそろしい組織と戦うんだ、腹くくれ」
「……ぐぅっ…」
 俺は大人しく席に座り、千鬼とすぐるが煎れてくれた食後のお茶を飲みつつ無刀の方に向き直った。
「いいですか?…これから話すのは、生徒会達の情報とそれをもとに決めた作戦です。覚えることが多いのでメモなどをとっても構いませんが…」

「覚えたら焼いて捨てなさい」

 …無刀の声が、より一層冷たく聞こえた。
 無刀は、何処から持ってきたのか、ホワイトボードを引きずってきて、ペンのキャップをキュポンと抜く。
「いいですか、では……」
  
「…………」
 無刀による説明会が終わったところで、千鬼が「了解」とだけ呟き席を立った。キッチンに向かったから、きっと皿を洗うのだろう。
 だが俺は、それを手伝う気にも他の誰かと雑談を続ける気にもなれなかった。
 だって、これは…
「……なぁ、無刀」
「なんです」
「…この作戦、勝率は何パーセントある」
「……ざっと」
 無刀は特に顔色も声色も変えずに言いはなった。
「高くて七パーセント」
「…それでも、これが最善ってことか……」
 やはり、生徒会を敵に回すのは――
「ですが一つだけ確かなのは」
 俺の思考を遮るように、無刀が再び口を開く。
「誰も死にません。絶対に味方の誰も犠牲にならないように――そういう立案をしましたから」
「……!」
 それなら。
 それなら、気が――楽だ。
 始めて無刀が暖かく感じた。
「さて、と。真里さん、あなた人一人抱えられるくらいの腕力はありますか?」
「え?お、おう、まぁ俺も一応男だしな。あるにはあるぞ」
「それは僥倖。では」
 無刀がスッと床を指差した。
 そこには――
「説明が終わった瞬間に寝落ちした女子軍を、二階の客間に用意した布団まで運んであげてください」
 すやすやと眠りにつく、すぐると花依――そして俺にしか見えないけれど、女郎蜘蛛がいた。
「…布団用意してやったのか、準備が良いな」
「まぁこうなることは予測ついてましたので」
「じゃ運ぶのも手伝ってくれよ」
「断ります。私はこの部屋の掃除をするので」
「………」
 やっぱり暖かくなんてねぇぇぇぇぇぇぇぇ!
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