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第十七話:特訓
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とうとう本格的に対生徒会の準備が始まった。
無刀の見立てでは、生徒会が俺を殺すために動き出すまでの猶予はあと――三日。
なぜこれだけの猶予が空いたかというと…無刀曰く、
『風紀委員はいわば殺し屋。元から生徒を暴力等で制圧する権限を持ち、命令さえ下れば生徒を殺す権利もある。だが生徒会には生徒を殺す権限は無く、理事長許可が必要となるため多少時間がかかる可能性がある』
とのことだった。
これだけ聞くと、生徒会より風紀委員の方が権限が強いかのように聞こえるが…
それは大きな間違いだった。
風紀委員――それは、無刀のように冷徹無慈悲な連中ばかりではない。
生徒を殺す依頼が舞い込んだとき、はいわかりましたと殺せる人員はやはり数少ないようだ。
だから、死んだことになっている生徒は一定数存在する、と。
そうやって逃がされる生徒が圧倒的に多いとわかっているから、風紀委員にはそんな権限が持たされているのだ。
だが生徒会は違う。
殺すと言ったら殺す。
だから理事長許可が必要なのだ。
――そんなわけで、三日間俺達に準備の時間が設けられた訳だが…
「ぎゃーーーーーー!!!」
俺は何故無刀の衝撃波に翻弄されているのだろうか…?
「真里さん遅い!そんな速さではすぐやられますよ!間合いにも入れないとはどういうことですか!」
「んなこと言ったって無刀おめぇっ…ちょっとは手加減しろよ!間合いに入ったら死ぬ気がする!!」
「手加減なんてしてたら特訓が間に合わないんですよ!」
無刀が二本の竹刀を振った。――衝撃波の合図だ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺が避ける方向を予測し、絡め取るように二カ所に衝撃波が発生する。俺はそれを命からがら避けた。
「真里さん、何度言ったらわかるんです!貴方は無駄な筋肉を使いすぎなんですよ!そうなると体力の消耗も早くなりますし、その場に適した動きが出来なくなる!避けるときだろうが攻撃するときだろうが、その際使う筋肉は最小限と心得なさい!」
「だ、だからっ……まだ訓練始めて半日だぜ!?学校も休んで…そんなんですぐ身につくわけ」
「ごちゃごちゃ言わない」
「はい」
逆らえるわけがない。
でもこんなの続けてたら、vs生徒会の前にくたばる……
その時、部屋の扉が開いて、誰かが入ってきた。その人物は床に転げ落ちている俺を一瞥して、口を開く。
「おい兄貴、ちょっとやり過ぎじゃねぇの?…こんなんじゃ、生徒会と戦う前に真里が再起不能になっちまうだろ」
せっ…千鬼~~~!
ありがたすぎて涙が出て来た。
この冷酷な人間にこんないい弟がいて、本当によかった…
「む…千鬼がいうなら、そうなのかな…。仕方ない、暫く休憩として千鬼に教えて貰いなさい」
そう言うと、無刀はふいっとそっぽを向き、部屋を出て行ってしまった。
無刀から解放されたのは良いが、休憩として千鬼に教えて貰うってなんだ。俺に体を休める暇はないのか…。
「…ったく、兄貴はスパルタだからな…真里、大丈夫か?」
「あ、あぁ、なんとかな…だが俺が弱いのは紛れもない事実だ、だからビシバシしごいてもらわねぇと…」
俺は差し出された手を掴み、立ち上がる。
「…頑張るのは良いことだが、それで体壊しちまったら本末転倒だろ?まァ、お前がそうしてェってんなら……五分休憩したら、始めるぞ」
一つ頷いて、水を飲もうと水筒を手に取った。屈んだ時に額からポタポタと汗が落ち、頭が優しく締め付けられるようにぼぉっとし、視界が眩む。吐く息がやけに熱い。
体の酷使のしすぎか…。
腰を下ろし、木の香りがする壁にもたれかかると自分の体が鉛のように感じられた。
ふと、部屋全体に目をやる。
昔ながらの木材使用の壁と床、木の色は濃い赤みがかった茶色。他に特に形容すべきものも無い殺風景な部屋――ここは、橘家の道場の一室である。
始め敷地に入ってきたときは驚いた…まさか最初に訪問したのが道場で、隣のバカでかい建物があいつらの住んでいる家だなんて。
『え…お前ら両親いないんだろ?金ないとか勝手に思ってたんだけど』
『うちは父さんが資産家だったからな。遺産は山のようにあったし、これだけの道場を作る出費はたいして痛くもねェよ』
『ですがその遺産に頼ってばかりなのは腹が立つのでね…せめて自分達で生活費は稼ごうと話し合ったんです』
…ほんと、立派だよなぁ。
俺も頑張らなくては。
水を一気に飲み干し、床に水筒を叩きつける反動で立ち上がる。足下に置いていたバットを乱暴に掴んだ。
「もういいのか?真里。疲れてるならもう少し…」
部屋の隅にいて刀の手入れをしていた千鬼が振り返った。
俺はバットを突き出し、堂々とした態度で言う。
「大丈夫だ!バシバシしごいてくれよ千鬼…俺はお前らに追い付くぞ!!」
「…フン、良い覚悟だ…あ、それと」
千鬼は床に置いてあった竹刀を一本掴むと、俺に手渡してきた。
「これは特訓だ、真里。その殺傷能力が高ぇバットじゃなくて、竹刀を使うぞ」
「あ…」
無刀のせいで感覚が狂っていた。
いやそもそもさっき無刀は竹刀で、俺は真剣同様のバット……あいつよく考えたら頭おかしいよな…
俺は竹刀を受け取り、千鬼に目配せをして訓練の開始を促した。バットは壁際に優しく置いて、しっかりカバーもしたから安全面はバッチリだ。
「さて、俺の訓練ではまず、お前に基礎を叩き込もうと思う」
そういうと千鬼は、まず俺の竹刀の構え方を口頭で直した。それだけでも随分直すところがあったし、随分竹刀が手に馴染んだ。
「基礎がなってないまま応用――つまり戦闘に入るのはあまりにも危険すぎる、だがやっぱり時間がない。だから、同時進行することにしたんだ」
同時進行…、応用と基礎を、同時に。
「兄貴が応用、俺が基礎。そうして交互に間をあけず教えていくことで定着も早くなるだろう。…かなり無茶な提案ではあるがな」
千鬼は唐突に竹刀を振りかざしたかと思うと、俺に向かって突っ込んできた。突然のことに驚いたものの、無刀との訓練を思い出し応戦する。
が――
「……っ!?」
竹刀は見事に俺の防御をかいくぐり、または跳ね飛ばし、俺の頭ギリギリのところを通り抜けて壁にその身を突き立てた。
あまりのことに呆然としていると、千鬼がふっと笑って「悪い悪い」と竹刀を下げた。
「今の動き、お前は防げなかったな。どうだ?どういうふうに見えた?」
「どういうも何も…強いて言うなら、俺の現位置からじゃかなり遠い技だと思った」
まだ何もかも荒削りの俺には、絶対できない動きだと。
だが、千鬼の返答に俺は驚愕する。
「さっきの動き、全部基礎の動きなんだぜ」
そう言って千鬼は――竹刀を肩にのせ、得意げに笑って見せた。
「なっ……ほ、ほんとか!?」
「あぁ、とは言っても一つ一つの動きを見ればの話だ。その細かい動きを組み合わせて戦いに活かす形にするところが応用になる」
つまり無刀の分担になる、と。
「兄貴はあんまり教えるの上手くねェからな、そーいうこと口で言ってくれねェんだよ…だが、こうやって俺が教えてやっから」
俺はさっき、無刀に言われたことを思い出した。そこはもっとこうしたほうがいい、ここはこっちの方がいい――
どうしてその方がいいのか、俺にはわからなかった。
が。
「そうか…構えがこうなるから、あの時の動きはこっちの方が…」
千鬼に言われて初めて気づいた。基本がこうなっているから、あの時の動きは理にかなっていなかったのだと。
千鬼がそんな俺を見て、安心したようにふっと笑った。
「…ほら、よくわかったろ?兄貴の言ってたことの意味が」
「あぁ、確かにこれなら定着も早そうだな」
「だろ?よし、じゃあ始めるぞ!」
そうして俺達の訓練が始まった。
千鬼の基礎的な特訓にプラスされた無刀のハードな応用。休む間もなく交互に繰り返される特訓は、確実に俺の実力をあげていったように思う。
開始から二日もすれば、無刀の攻撃を避けつつ自ら攻撃に出ることができるようになった。勿論その全てを躱しさばかれてしまうのだが、それでもこれは進歩と言えよう。
そして、最後――三日目の夜。
「真里、最初と比べたら随分良くなったんじゃないか?」
決戦前夜ということで早めに特訓が終わったのだが、一人自主練を繰り返していた俺に千鬼が話しかけてきた。
「そうか?まぁ俺もあれだけ頑張ったからな!成果が出てるなら嬉しい限りだぜ!」
そこでふと、俺は手を止めた。
「…そういや、女子群は何してんだ?確か向こうは向こうで特訓するって言ってたけどよ…」
「あ?あぁ、あの二人は…特訓って言うよりはなんて言うか…まぁ、あいつらなりに頑張ってたみたいだぞ」
千鬼は少し言葉を濁した。
「?ふぅん…」
真里達が特訓を始めた一日目のこと。
花依とすぐるはとあるカフェに対面で座っていた。
「……………………」
「……………………」
数十分間続く沈黙。
耐えかねたのか、花依がため息をついて話し出した。
「すぐる、仲良くなろうぜ?こういう戦いは、チームのメンバー同士わかり合ってたほうがいいんだ」
「ふん!」
すぐるはふいっとそっぽを向いて、注文していたいちごパフェを頬張った。…話しかけるな、の意図だ。
「…ったく、鍋パでも私だけはきっちり警戒しやがってよ…」
花依が大きなため息と共に、全体重を椅子に預けた。
花依とすぐるにとって一番優先されるべき対生徒会への準備。それは――
仲良くなることだった。
花依の第一印象がすぐるにとって最悪だったため、すぐるは常に彼女を警戒しているし、敵視している。
そんなギクシャクな関係では、折角の作戦が崩れてしまう危険性がある。
故に鍋パーティーで親睦を深め信頼度を築こうとしたのに、このざまであった。
「……なぁ、すぐる」
「……」
もっもっとパフェを頬張り続けるすぐるに、花依は口を開いた。
当然だが無視。だが花依はそれすら無視して話しつづける。
「おもしろいとこ連れてってやるよ」
「…?」
最後の一口を食べ終えたすぐるが――興味があるというように、顔を上げた。
「すっ…すごーーーい!!」
すぐるがきゃっきゃとはしゃぐ。あちこちを飛び回り、あれはなんだこれはなんだと絶え間なく質問の雨を浴びせてくる。
「落ち着きなって、なんだすぐるゲーセン来たことなかったのか」
「うん、すぐるあんまり外に出るの好きじゃなかったし…でもなにこれ!すっごく楽しそう!」
すぐるが目を輝かせて周囲を見回す。
「…よし!遊ぶか!すぐる、何がやりたい!?」
「きゃーーーー!すぐる、あのおっきい太鼓やりたーーーい!」
時刻はすっかり夕方。ゲーセンで遊び尽くした二人は、UFOキャッチャーでとった大きなぬいぐるみを一つずつ抱えてベンチに座っていた。
「はー…遊んだな!すぐる、満足か?」
「うん!とっても楽しかった!…でも……」
そう言うとすぐるは俯いてもじもじしながら言った。
「あ、明日も、遊びたい…かも」
花依は少し驚いたように目を見開いたが、すぐにぱっと弾けるような笑顔を見せた。
「よっし!明日は太鼓の超人フルコンボ目指すぞ!」
「うん!ゾンビ打つゲームも、エキストラモード突入しようね!」
――二人はこの調子で三日間を過ごした。
その成果が出るか否か。
そして――戦いの幕開け。
「…………」
バットをじっと見つめ、ピクリとも動かない。そんな俺を、女郎蜘蛛が横目で見つめている。
バットはいつもと変わらない姿でそこにあった。無造作に。無機質に。
「………よし」
手を伸ばしてバットの持ち手をつかむ。いつもと同じようにそれを背中に背負って、通学カバンを持って、ドアノブに手を掛ける。いつも通り。
いつもと違うのは――
「…大丈夫?」
女郎蜘蛛が少し心配そうにこちらを見つめている。
「汗、すごいよ」
「……あ」
言われて初めて気づいた。掌やら首筋やらがぐっしょりと濡れていて、肌の表面温度が下がっていくのを感じる。
落ち着け。
大丈夫、大丈夫だ――
「真里」
女郎蜘蛛の声が、再び俺を現実へ引き戻した。
ドアノブに掛けたまま固まっていた俺の手に、彼女の手が重ねられた。
「きっと大丈夫。あたしも、いるから。あたしも皆もいるから――」
女郎蜘蛛は瞳を閉じた。そしてそのまま口角をあげて「大丈夫」と繰り返した。
「……あぁ、大丈夫だ」
この三日間、女郎蜘蛛はというと――
自分がもといた祠、つまり俺の先祖の家にずっといた。
祠の上にちょんと座って、そのままずっと。
いくら化物とはいえ、怖いのだろう。自分の身ではなく、俺の願いを――誰も死なせないという無茶な願いを、叶えられるかどうかが。
「…いくぞ」
そうして俺はようやくドアノブを捻った。
「おはようございます真里さん」
「よぉ真里。体調は大丈夫か?」
校門前で橘兄弟に会った。というか、風紀委員は毎朝校門前にいるから必ず会うんだが…
「あぁ、この通りぴんぴんしてるぜ」
「それはそれは…結構なことです。ではまた」
俺はその二人の前を通りすぎる。
その直前――
「油断しないでくださいね」
無刀が、ぼそっと呟いた。
「いいか?格ゲーは相手のスキルをよく理解してだな…」
「ふんふん」
そのあと、なにやら仲睦まじく話しているすぐると花依を見つけた。
「二人とも、おはよう」
「あっ、真里!おはよう!」
「おー、おはー」
二人は今日から争いが始まるとは思えない雰囲気で返してくる。
そのテンションにもはや安心した俺は、話の邪魔はすまいとそのまま二人の横を抜けようとした、その時――
「あぁ、真里」
花依に呼び止められて振り向くと…静かな殺気を振り撒いている二人がいた。
「「常に回りに気をつけてね」」
俺は静かに頷いて、再び歩きだした。
教室に向かうため歩いていると、人気のない廊下についた。時間帯の問題だろうが、さすがに少し危険を感じる。
「…真里。あたしも警戒はするけど……」
「わかってる。俺も油断はしない」
幸いこの廊下はそんなに長くないし、もうすぐ教室だ。耳を澄ませば、すでに登校している生徒が騒いでいる声が聞こえる。
そんなことを思いながら曲がり角を曲がると――なにかにぶつかった。なにやら濃い緑色の布が視界に入る。
「うわっ!」
「おっと…すみません、こちらの不注意で」
どうやら人と衝突してしまったようだ。しかも気を張ってたから随分大きい声が出てしまった…恥ずかしい。
「失礼しますね」
ぶつかった人は一礼して、身にまとった軍服…のマント?だろうか…を翻し去っていった。
俺みたいな無能力者に謝るなんて…良くできた人だな。
そう思ったのもつかの間。
……軍服を纏った高身の――目元に傷のある――
「…真里、今の」
女郎蜘蛛は既に小刀を手に取っていた。俺も慌てて後ろを振り返る。
…奴はまだ悠々と歩いていた。
――今なら、後ろから――!
「やめておいた方がいいですよ」
こちらの行動を見透かしたかのような発言に、体がひきつる。
「一人だと思いました?…敵に接触するのですから、一人な訳ないでしょう」
その言葉を合図に、三人の人影が姿を現した。
そいつらは――
生徒会会計、軍服の男――雨城業。
生徒会書記、女子とは思えない高身の鎌使い――穂高イノリ。
生徒会副会長、男装の槍使いで社長令嬢――百合園美寧。
生徒会会長――左目を仮面で隠した、霧影怜人。
「………ッ!」
いきなり全員お出ましかよ…!くそッ、いけるか…!?
「ご安心を。私たちは今貴方に手を下す気はありません」
俺の動揺を静めるように副会長――百合園美寧が言った。…彼女は生徒会のなかで一番まともだと無刀から聞いている。この言葉は一応信用してもよさそうだ。
「そうそう、こんなすぐに獲物を殺しちゃったら面白くないしぃ~」
続いて、ポニーテールを揺らしながら穂高イノリが口を開いた。…随分余裕そうだ。
「こらイノリさん、物騒ですよ…まあ、何にせよ、今ぼくたちに貴方を処分する気がないのは本当ですから」
優しそうな声で雨城業は言った。そして――
「よせお前ら」
場が凍るような、威圧を含んだ声。
それは――
「今はなどではない。これからも、だ。何故なら――」
「貴様など、俺達生徒会が直接手を出すまでもない。俺達は刺客を送るのみだ」
肌がピリッと震えた。
これが、会長――
「…その刺客が失敗するって可能性は考えなかったのか、会長さん?」
すでに俺達に背を向け、去ろうとしている会長に勇気を振り絞って言った。
会長は立ち止まり、ぐりんと首だけ振り替えって答える。
「あいつが失敗したことなど一度もない。…だが、もし、万が一そんなことがあれば――その時は前言を撤回しよう。全力で潰しにいく」
そこまで言うと、会長は前に向き直り歩きだした。
「せいぜい辞世の句でも詠んでおくんだな」
それに続いて他の生徒会メンバーも去っていく。イノリだけが一度チラッと振り返って「ごめんね~」と手を振ってきた。
「……真里、ぶつかったときなにもされてない?」
「…あぁ、それは大丈夫だ……」
…正直、まだ心臓がバクバク鳴っている。
一目見てわかった、俺一人ではどうにもならない相手だと。
そんな奴らが信頼し、送り込んでくる刺客――
一体、どんな――?
* * *
あまりにも落ち着かない今日の学校生活が終わった。だがここからが本番と言っても過言ではない。
部活などで残っている生徒も多かれど、生徒数は減っているのだから襲うには都合がいいだろう。
まずは橘兄弟や女子二人組と合流しねぇと――
そう思っていた矢先。
「真里ッ!!」
千鬼の声が聞こえた。あぁこれで探す手間が省けた――と思ったのもつかの間。
千鬼はひどく息を切らして、焦った様子で俺に詰め寄ってきた。
その切羽詰まった様子にただ事じゃないと感じた俺は、とにかく呼吸が落ち着くように千鬼の背中をさすった。
そして、彼の言葉に――俺は目を見開く。
「無刀が…いなく、なった?」
無刀の見立てでは、生徒会が俺を殺すために動き出すまでの猶予はあと――三日。
なぜこれだけの猶予が空いたかというと…無刀曰く、
『風紀委員はいわば殺し屋。元から生徒を暴力等で制圧する権限を持ち、命令さえ下れば生徒を殺す権利もある。だが生徒会には生徒を殺す権限は無く、理事長許可が必要となるため多少時間がかかる可能性がある』
とのことだった。
これだけ聞くと、生徒会より風紀委員の方が権限が強いかのように聞こえるが…
それは大きな間違いだった。
風紀委員――それは、無刀のように冷徹無慈悲な連中ばかりではない。
生徒を殺す依頼が舞い込んだとき、はいわかりましたと殺せる人員はやはり数少ないようだ。
だから、死んだことになっている生徒は一定数存在する、と。
そうやって逃がされる生徒が圧倒的に多いとわかっているから、風紀委員にはそんな権限が持たされているのだ。
だが生徒会は違う。
殺すと言ったら殺す。
だから理事長許可が必要なのだ。
――そんなわけで、三日間俺達に準備の時間が設けられた訳だが…
「ぎゃーーーーーー!!!」
俺は何故無刀の衝撃波に翻弄されているのだろうか…?
「真里さん遅い!そんな速さではすぐやられますよ!間合いにも入れないとはどういうことですか!」
「んなこと言ったって無刀おめぇっ…ちょっとは手加減しろよ!間合いに入ったら死ぬ気がする!!」
「手加減なんてしてたら特訓が間に合わないんですよ!」
無刀が二本の竹刀を振った。――衝撃波の合図だ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺が避ける方向を予測し、絡め取るように二カ所に衝撃波が発生する。俺はそれを命からがら避けた。
「真里さん、何度言ったらわかるんです!貴方は無駄な筋肉を使いすぎなんですよ!そうなると体力の消耗も早くなりますし、その場に適した動きが出来なくなる!避けるときだろうが攻撃するときだろうが、その際使う筋肉は最小限と心得なさい!」
「だ、だからっ……まだ訓練始めて半日だぜ!?学校も休んで…そんなんですぐ身につくわけ」
「ごちゃごちゃ言わない」
「はい」
逆らえるわけがない。
でもこんなの続けてたら、vs生徒会の前にくたばる……
その時、部屋の扉が開いて、誰かが入ってきた。その人物は床に転げ落ちている俺を一瞥して、口を開く。
「おい兄貴、ちょっとやり過ぎじゃねぇの?…こんなんじゃ、生徒会と戦う前に真里が再起不能になっちまうだろ」
せっ…千鬼~~~!
ありがたすぎて涙が出て来た。
この冷酷な人間にこんないい弟がいて、本当によかった…
「む…千鬼がいうなら、そうなのかな…。仕方ない、暫く休憩として千鬼に教えて貰いなさい」
そう言うと、無刀はふいっとそっぽを向き、部屋を出て行ってしまった。
無刀から解放されたのは良いが、休憩として千鬼に教えて貰うってなんだ。俺に体を休める暇はないのか…。
「…ったく、兄貴はスパルタだからな…真里、大丈夫か?」
「あ、あぁ、なんとかな…だが俺が弱いのは紛れもない事実だ、だからビシバシしごいてもらわねぇと…」
俺は差し出された手を掴み、立ち上がる。
「…頑張るのは良いことだが、それで体壊しちまったら本末転倒だろ?まァ、お前がそうしてェってんなら……五分休憩したら、始めるぞ」
一つ頷いて、水を飲もうと水筒を手に取った。屈んだ時に額からポタポタと汗が落ち、頭が優しく締め付けられるようにぼぉっとし、視界が眩む。吐く息がやけに熱い。
体の酷使のしすぎか…。
腰を下ろし、木の香りがする壁にもたれかかると自分の体が鉛のように感じられた。
ふと、部屋全体に目をやる。
昔ながらの木材使用の壁と床、木の色は濃い赤みがかった茶色。他に特に形容すべきものも無い殺風景な部屋――ここは、橘家の道場の一室である。
始め敷地に入ってきたときは驚いた…まさか最初に訪問したのが道場で、隣のバカでかい建物があいつらの住んでいる家だなんて。
『え…お前ら両親いないんだろ?金ないとか勝手に思ってたんだけど』
『うちは父さんが資産家だったからな。遺産は山のようにあったし、これだけの道場を作る出費はたいして痛くもねェよ』
『ですがその遺産に頼ってばかりなのは腹が立つのでね…せめて自分達で生活費は稼ごうと話し合ったんです』
…ほんと、立派だよなぁ。
俺も頑張らなくては。
水を一気に飲み干し、床に水筒を叩きつける反動で立ち上がる。足下に置いていたバットを乱暴に掴んだ。
「もういいのか?真里。疲れてるならもう少し…」
部屋の隅にいて刀の手入れをしていた千鬼が振り返った。
俺はバットを突き出し、堂々とした態度で言う。
「大丈夫だ!バシバシしごいてくれよ千鬼…俺はお前らに追い付くぞ!!」
「…フン、良い覚悟だ…あ、それと」
千鬼は床に置いてあった竹刀を一本掴むと、俺に手渡してきた。
「これは特訓だ、真里。その殺傷能力が高ぇバットじゃなくて、竹刀を使うぞ」
「あ…」
無刀のせいで感覚が狂っていた。
いやそもそもさっき無刀は竹刀で、俺は真剣同様のバット……あいつよく考えたら頭おかしいよな…
俺は竹刀を受け取り、千鬼に目配せをして訓練の開始を促した。バットは壁際に優しく置いて、しっかりカバーもしたから安全面はバッチリだ。
「さて、俺の訓練ではまず、お前に基礎を叩き込もうと思う」
そういうと千鬼は、まず俺の竹刀の構え方を口頭で直した。それだけでも随分直すところがあったし、随分竹刀が手に馴染んだ。
「基礎がなってないまま応用――つまり戦闘に入るのはあまりにも危険すぎる、だがやっぱり時間がない。だから、同時進行することにしたんだ」
同時進行…、応用と基礎を、同時に。
「兄貴が応用、俺が基礎。そうして交互に間をあけず教えていくことで定着も早くなるだろう。…かなり無茶な提案ではあるがな」
千鬼は唐突に竹刀を振りかざしたかと思うと、俺に向かって突っ込んできた。突然のことに驚いたものの、無刀との訓練を思い出し応戦する。
が――
「……っ!?」
竹刀は見事に俺の防御をかいくぐり、または跳ね飛ばし、俺の頭ギリギリのところを通り抜けて壁にその身を突き立てた。
あまりのことに呆然としていると、千鬼がふっと笑って「悪い悪い」と竹刀を下げた。
「今の動き、お前は防げなかったな。どうだ?どういうふうに見えた?」
「どういうも何も…強いて言うなら、俺の現位置からじゃかなり遠い技だと思った」
まだ何もかも荒削りの俺には、絶対できない動きだと。
だが、千鬼の返答に俺は驚愕する。
「さっきの動き、全部基礎の動きなんだぜ」
そう言って千鬼は――竹刀を肩にのせ、得意げに笑って見せた。
「なっ……ほ、ほんとか!?」
「あぁ、とは言っても一つ一つの動きを見ればの話だ。その細かい動きを組み合わせて戦いに活かす形にするところが応用になる」
つまり無刀の分担になる、と。
「兄貴はあんまり教えるの上手くねェからな、そーいうこと口で言ってくれねェんだよ…だが、こうやって俺が教えてやっから」
俺はさっき、無刀に言われたことを思い出した。そこはもっとこうしたほうがいい、ここはこっちの方がいい――
どうしてその方がいいのか、俺にはわからなかった。
が。
「そうか…構えがこうなるから、あの時の動きはこっちの方が…」
千鬼に言われて初めて気づいた。基本がこうなっているから、あの時の動きは理にかなっていなかったのだと。
千鬼がそんな俺を見て、安心したようにふっと笑った。
「…ほら、よくわかったろ?兄貴の言ってたことの意味が」
「あぁ、確かにこれなら定着も早そうだな」
「だろ?よし、じゃあ始めるぞ!」
そうして俺達の訓練が始まった。
千鬼の基礎的な特訓にプラスされた無刀のハードな応用。休む間もなく交互に繰り返される特訓は、確実に俺の実力をあげていったように思う。
開始から二日もすれば、無刀の攻撃を避けつつ自ら攻撃に出ることができるようになった。勿論その全てを躱しさばかれてしまうのだが、それでもこれは進歩と言えよう。
そして、最後――三日目の夜。
「真里、最初と比べたら随分良くなったんじゃないか?」
決戦前夜ということで早めに特訓が終わったのだが、一人自主練を繰り返していた俺に千鬼が話しかけてきた。
「そうか?まぁ俺もあれだけ頑張ったからな!成果が出てるなら嬉しい限りだぜ!」
そこでふと、俺は手を止めた。
「…そういや、女子群は何してんだ?確か向こうは向こうで特訓するって言ってたけどよ…」
「あ?あぁ、あの二人は…特訓って言うよりはなんて言うか…まぁ、あいつらなりに頑張ってたみたいだぞ」
千鬼は少し言葉を濁した。
「?ふぅん…」
真里達が特訓を始めた一日目のこと。
花依とすぐるはとあるカフェに対面で座っていた。
「……………………」
「……………………」
数十分間続く沈黙。
耐えかねたのか、花依がため息をついて話し出した。
「すぐる、仲良くなろうぜ?こういう戦いは、チームのメンバー同士わかり合ってたほうがいいんだ」
「ふん!」
すぐるはふいっとそっぽを向いて、注文していたいちごパフェを頬張った。…話しかけるな、の意図だ。
「…ったく、鍋パでも私だけはきっちり警戒しやがってよ…」
花依が大きなため息と共に、全体重を椅子に預けた。
花依とすぐるにとって一番優先されるべき対生徒会への準備。それは――
仲良くなることだった。
花依の第一印象がすぐるにとって最悪だったため、すぐるは常に彼女を警戒しているし、敵視している。
そんなギクシャクな関係では、折角の作戦が崩れてしまう危険性がある。
故に鍋パーティーで親睦を深め信頼度を築こうとしたのに、このざまであった。
「……なぁ、すぐる」
「……」
もっもっとパフェを頬張り続けるすぐるに、花依は口を開いた。
当然だが無視。だが花依はそれすら無視して話しつづける。
「おもしろいとこ連れてってやるよ」
「…?」
最後の一口を食べ終えたすぐるが――興味があるというように、顔を上げた。
「すっ…すごーーーい!!」
すぐるがきゃっきゃとはしゃぐ。あちこちを飛び回り、あれはなんだこれはなんだと絶え間なく質問の雨を浴びせてくる。
「落ち着きなって、なんだすぐるゲーセン来たことなかったのか」
「うん、すぐるあんまり外に出るの好きじゃなかったし…でもなにこれ!すっごく楽しそう!」
すぐるが目を輝かせて周囲を見回す。
「…よし!遊ぶか!すぐる、何がやりたい!?」
「きゃーーーー!すぐる、あのおっきい太鼓やりたーーーい!」
時刻はすっかり夕方。ゲーセンで遊び尽くした二人は、UFOキャッチャーでとった大きなぬいぐるみを一つずつ抱えてベンチに座っていた。
「はー…遊んだな!すぐる、満足か?」
「うん!とっても楽しかった!…でも……」
そう言うとすぐるは俯いてもじもじしながら言った。
「あ、明日も、遊びたい…かも」
花依は少し驚いたように目を見開いたが、すぐにぱっと弾けるような笑顔を見せた。
「よっし!明日は太鼓の超人フルコンボ目指すぞ!」
「うん!ゾンビ打つゲームも、エキストラモード突入しようね!」
――二人はこの調子で三日間を過ごした。
その成果が出るか否か。
そして――戦いの幕開け。
「…………」
バットをじっと見つめ、ピクリとも動かない。そんな俺を、女郎蜘蛛が横目で見つめている。
バットはいつもと変わらない姿でそこにあった。無造作に。無機質に。
「………よし」
手を伸ばしてバットの持ち手をつかむ。いつもと同じようにそれを背中に背負って、通学カバンを持って、ドアノブに手を掛ける。いつも通り。
いつもと違うのは――
「…大丈夫?」
女郎蜘蛛が少し心配そうにこちらを見つめている。
「汗、すごいよ」
「……あ」
言われて初めて気づいた。掌やら首筋やらがぐっしょりと濡れていて、肌の表面温度が下がっていくのを感じる。
落ち着け。
大丈夫、大丈夫だ――
「真里」
女郎蜘蛛の声が、再び俺を現実へ引き戻した。
ドアノブに掛けたまま固まっていた俺の手に、彼女の手が重ねられた。
「きっと大丈夫。あたしも、いるから。あたしも皆もいるから――」
女郎蜘蛛は瞳を閉じた。そしてそのまま口角をあげて「大丈夫」と繰り返した。
「……あぁ、大丈夫だ」
この三日間、女郎蜘蛛はというと――
自分がもといた祠、つまり俺の先祖の家にずっといた。
祠の上にちょんと座って、そのままずっと。
いくら化物とはいえ、怖いのだろう。自分の身ではなく、俺の願いを――誰も死なせないという無茶な願いを、叶えられるかどうかが。
「…いくぞ」
そうして俺はようやくドアノブを捻った。
「おはようございます真里さん」
「よぉ真里。体調は大丈夫か?」
校門前で橘兄弟に会った。というか、風紀委員は毎朝校門前にいるから必ず会うんだが…
「あぁ、この通りぴんぴんしてるぜ」
「それはそれは…結構なことです。ではまた」
俺はその二人の前を通りすぎる。
その直前――
「油断しないでくださいね」
無刀が、ぼそっと呟いた。
「いいか?格ゲーは相手のスキルをよく理解してだな…」
「ふんふん」
そのあと、なにやら仲睦まじく話しているすぐると花依を見つけた。
「二人とも、おはよう」
「あっ、真里!おはよう!」
「おー、おはー」
二人は今日から争いが始まるとは思えない雰囲気で返してくる。
そのテンションにもはや安心した俺は、話の邪魔はすまいとそのまま二人の横を抜けようとした、その時――
「あぁ、真里」
花依に呼び止められて振り向くと…静かな殺気を振り撒いている二人がいた。
「「常に回りに気をつけてね」」
俺は静かに頷いて、再び歩きだした。
教室に向かうため歩いていると、人気のない廊下についた。時間帯の問題だろうが、さすがに少し危険を感じる。
「…真里。あたしも警戒はするけど……」
「わかってる。俺も油断はしない」
幸いこの廊下はそんなに長くないし、もうすぐ教室だ。耳を澄ませば、すでに登校している生徒が騒いでいる声が聞こえる。
そんなことを思いながら曲がり角を曲がると――なにかにぶつかった。なにやら濃い緑色の布が視界に入る。
「うわっ!」
「おっと…すみません、こちらの不注意で」
どうやら人と衝突してしまったようだ。しかも気を張ってたから随分大きい声が出てしまった…恥ずかしい。
「失礼しますね」
ぶつかった人は一礼して、身にまとった軍服…のマント?だろうか…を翻し去っていった。
俺みたいな無能力者に謝るなんて…良くできた人だな。
そう思ったのもつかの間。
……軍服を纏った高身の――目元に傷のある――
「…真里、今の」
女郎蜘蛛は既に小刀を手に取っていた。俺も慌てて後ろを振り返る。
…奴はまだ悠々と歩いていた。
――今なら、後ろから――!
「やめておいた方がいいですよ」
こちらの行動を見透かしたかのような発言に、体がひきつる。
「一人だと思いました?…敵に接触するのですから、一人な訳ないでしょう」
その言葉を合図に、三人の人影が姿を現した。
そいつらは――
生徒会会計、軍服の男――雨城業。
生徒会書記、女子とは思えない高身の鎌使い――穂高イノリ。
生徒会副会長、男装の槍使いで社長令嬢――百合園美寧。
生徒会会長――左目を仮面で隠した、霧影怜人。
「………ッ!」
いきなり全員お出ましかよ…!くそッ、いけるか…!?
「ご安心を。私たちは今貴方に手を下す気はありません」
俺の動揺を静めるように副会長――百合園美寧が言った。…彼女は生徒会のなかで一番まともだと無刀から聞いている。この言葉は一応信用してもよさそうだ。
「そうそう、こんなすぐに獲物を殺しちゃったら面白くないしぃ~」
続いて、ポニーテールを揺らしながら穂高イノリが口を開いた。…随分余裕そうだ。
「こらイノリさん、物騒ですよ…まあ、何にせよ、今ぼくたちに貴方を処分する気がないのは本当ですから」
優しそうな声で雨城業は言った。そして――
「よせお前ら」
場が凍るような、威圧を含んだ声。
それは――
「今はなどではない。これからも、だ。何故なら――」
「貴様など、俺達生徒会が直接手を出すまでもない。俺達は刺客を送るのみだ」
肌がピリッと震えた。
これが、会長――
「…その刺客が失敗するって可能性は考えなかったのか、会長さん?」
すでに俺達に背を向け、去ろうとしている会長に勇気を振り絞って言った。
会長は立ち止まり、ぐりんと首だけ振り替えって答える。
「あいつが失敗したことなど一度もない。…だが、もし、万が一そんなことがあれば――その時は前言を撤回しよう。全力で潰しにいく」
そこまで言うと、会長は前に向き直り歩きだした。
「せいぜい辞世の句でも詠んでおくんだな」
それに続いて他の生徒会メンバーも去っていく。イノリだけが一度チラッと振り返って「ごめんね~」と手を振ってきた。
「……真里、ぶつかったときなにもされてない?」
「…あぁ、それは大丈夫だ……」
…正直、まだ心臓がバクバク鳴っている。
一目見てわかった、俺一人ではどうにもならない相手だと。
そんな奴らが信頼し、送り込んでくる刺客――
一体、どんな――?
* * *
あまりにも落ち着かない今日の学校生活が終わった。だがここからが本番と言っても過言ではない。
部活などで残っている生徒も多かれど、生徒数は減っているのだから襲うには都合がいいだろう。
まずは橘兄弟や女子二人組と合流しねぇと――
そう思っていた矢先。
「真里ッ!!」
千鬼の声が聞こえた。あぁこれで探す手間が省けた――と思ったのもつかの間。
千鬼はひどく息を切らして、焦った様子で俺に詰め寄ってきた。
その切羽詰まった様子にただ事じゃないと感じた俺は、とにかく呼吸が落ち着くように千鬼の背中をさすった。
そして、彼の言葉に――俺は目を見開く。
「無刀が…いなく、なった?」
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