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黒砂糖デニーロ

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第一章

第一話 勇者

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 しかしまずい事になった……
 僕――レン・シュミットは内心で呟きながら室内を見回す。
 けっして広くはない備品倉庫らしき部屋の隅々にうずくまるように座る数人の男女。いずれも俯いた表情は絶望の一色だ。
 この高層商業ビルにが現れ、命からがらここに避難してすでに数時間が経過している。扉の外から聞こえた悲鳴はすでに聞こえなくなった。だけどそれは、事態が沈静化したわけではない。その証拠に、扉の向こうから時折、不気味な唸り声や明らかに人間のものではない足音が聞こえてくる。
「助けだと?!そんなもの、来るものか!」
 そんな時、低い怒声が響く。見ると、立ち上がった中年男性と老人が何やら言い合っていた。
「自棄になってはいけない。ここで助けを待っていればいずれ……」
「外をよく見ろ!これを見て、そんなことが言える?!」
 男は怒鳴りながら窓の向こうを指さす。
 高層階から見下ろす都市の全景。このセルヴァン第三衛星都市・ツィルセンは小規模ながら、まだ発展途上国が大半を占めるエルラン大陸においてはかなり先進的な都市である。
 近代的な高層建築が目立つその都市に、今はそこかしこから黒煙が立ち上っている。ところどころで砲火が上がっているのは、セルヴァン国軍や都市に駐留している国家連合機構――通称、国連の多国籍軍が戦闘をしている証だ。
「街はこの有り様だ!どうせ軍や国連たちだって奴らを追い払うので手一杯だ!」
「今は時間がかかっているだけだ。辛抱強く待とう。今ここを出ては危ない」
「助けが来る頃には、俺たちは仲良く奴らの胃袋の中だろうな」
「……」
「助けなんてどんだけ待っても無駄だ。それよりこんなとこさっさと出て自力で――」
「助けは来ます!」そう口走っていたのは、僕だった。上背のある男に上から睨まれ、一瞬竦むが気丈に睨み返す。
「僕が保証します。必ず助けに来てくれると」
「ガギになんの保証ができるってんだ。馬鹿なこと抜かしてんじゃねェぞ」
「ガキでも、少なくともあなたよりは現実的な状況判断ができるつもりです。そもそもここを出たら助かるというのは、一体何を根拠に言ってるんですか?」
「当然だろ。こんなとこでじっとしてたら、すぐにやつらに見つかって――」
「じゃあここから下まで、無事に降りられる具体的な経路があると?」
「そんなの、気配を殺して、静かに非常階段を使えば――」
「ここは二一階ですよ?仮に降りられたとしても、その後はどうするんです?訓練も受けてない一般人がむやみにうろついて助かる状況なのか、窓からよく見てください」
 理詰めで矢継ぎ早に言葉を畳み掛けられ、男はついに返答に窮する。舌打ちをしながら睨みつけるも、それ以上の言葉はなく、すごすごと部屋の隅に座り込んだ。
 とりあえず言い争いが収められ、内心で安堵しながら僕も元の位置に戻る。
 確かに、楽観はできない。いつまでもここが安全だという保証がない以上、できるかぎりの準備はしておかなくちゃいけない。
 僕は左腕に巻いたウェアラブルタイプのコンピュータを起動すると、この施設のマップを呼び出す。さらにそこに様々な要素を入力していく。
「君は随分落ち着いているんだね」
 と、先程の老人は僕の隣に座りながら声をかけてきた。
「彼ではないが、あまり良い状況ではないのは事実だ。何か当てがあるのかい?」
「はい。僕の知る限り、もっとも頼りになる人たちですよ」
 確信を込めた声で、僕ははっきりと言った。
「それはいったいどういう――」
 おじいさんが言いかけたその時、部屋にあった唯一の窓ガラスが勢いよく砕けた。
 入り込んできた外気により部屋中がかき乱される。何事かと、全員が窓を注視する中、それは姿を現す。
 細長い手が窓枠を掴み、覗き込まれる醜い顔。窪んだ眼窩の奥には凶暴な昏い光を宿し、獣ののように前方に伸びた顎には、鋭い歯が並ぶ。
 人間でないのは一目瞭然。
「ま、魔属……!」
 僕は口の中で呟く。
 魔属――千年前より突如姿を現した異形の種。既存の生物とは全く異なる体構造を持ち、とりわけ生命力と凶暴性は人類にとって脅威であり、かつて人類を滅亡の淵にまで追いやった、人類共通の天敵。
 こいつの属名は『シェコブ』。ここエルラン大陸の北方でよく見られる下級種魔属だ。往々にして魔属とは生理的嫌悪を催す外観をしているものであるが、こいつらもその例外ではない。
 痩せ細った体ではあるが、侮ることは厳禁だ。見た目からは想像できない膂力を秘め、一度その長い腕で捕まったが最後、人体程度なら安々と引き千切られてしまう。
 侵入してきたシェコブは、そこにいる人間を品定めするように睥睨すると耳元まで裂けた口から涎が滴らせる。奴らからすれば、僕らは皿に並べられた料理も同然だ。しかも悪いことに、窓の外にはさらにもう一体のシェコブが姿を見せていた。
「クソッ!だから言ったんだ!逃げるぞ!」
 先ほどわめいた男性は、一目散に背を向け、扉を開けようとしていた。
「ダメだ!今開けたら!」
「うるさい!死ぬならお前らだけで――ぐむっ!」
 彼の怒鳴り声が唐突に途切れる。見れば、わずかに開いた隙間から長い腕が伸びていた。
 枯れ枝のようにも見える五指は男性の顔をガッチリと掴み、合間から呻き声が漏れる。必死に剥がそうともがくも、その努力もむなしく、男性の頭部は一握りで容易く握り潰された。
 扉の向こうから現れたのもシェコブだった。
 のっそりと部屋に入ってきたシェコブは指に付着した男の脳片を貪りながら部屋の中に入ってくる。
「挟まれた……!」
 窓からは二体、唯一の出入り口には一体のシェコブ。
 この場にいる全員、男性の無残な死を目に前に思考が停止する。もはや勇気を出して切る抜けるという選択肢はないだろう。完全に恐怖に飲まれ、シェコブの手から逃れようとただただ部屋の中央に身を寄せる。もっとも、狭い室内にあっては気休めにもならない。
 僕はなんとか活路を見出そうと思考を巡らせるも時間切れのようだ。扉側のシェコブが足を踏み出し、次の餌を求め手を伸ばしてきた。
 もはや万事休す。誰もが希望を失ったその時、
「邪魔だ」
 その声は、扉側のシェコブの背後から。
 声に振り向いたシェコブの脇を影が過る。一瞬、無数の打撃音が響いたかと思うとシェコブの体は床に沈んでいた。
 姿すら霞んで見えない速さで僕らの前を横切ったその影は、駆ける勢いのまま窓前のシェコブの頭を踏み越え、今まさに窓から入り込もうとしていたシェコブに激突する。
 口から白濁した血を吐き出しながら、シェコブの身は空中に放り出され落下していった。
 瞬く間に二体の魔属を屠りながらも、息一つ乱すことなくそこに佇んでいたのは、銀髪の青年。大陸の人間に比べると彫りが浅く、さっぱりとした顔立ち。染物の着物に袴姿と異国風の装いから分かる通り、彼は東方の島国"ギ"国の生まれだ。
 その見知った顔に、僕の恐怖は一瞬にして消し飛ぶ。
 と、背を向けた彼に、踏み台にされたシェコブが奇声を上げながら細腕を突き出していた。先ほどまでとは明らかに違う素早い動きは、相手を食われるのを待つ「餌」から害をなす「敵」と認識したからだろう。後ろを向いた状態で躱せる速さではなかった。
 普通の人間であれば。
 果たして、指が掴んだのは何もない空間。そしてその目に写ったのは、二対の尖鋭。
 突き入れられたそれは眼孔から侵入し、そのまま頭部を貫通した。
 彼は旋回しながらその腕をギリギリで躱すと、それとすれ違いに両手に握った木刀を突き出していたのだ。
 両手に携えた大小二対の木刀。化け物相手には心許ないように見えるが、彼が握れば真剣に勝る武器となる。
 頭部を貫かれても尚死なないシェコブは、四本の腕をめちゃくちゃに振り回して暴れる。長い腕は部屋中を暴れ回り、かなりの重量のある棚などが倒れ、備品が周囲に散乱する。
 乱れる鞭の乱舞をかいくぐり、後ろに回り込んだ彼は交差する斬撃をシェコブ背中に叩きつけた。
 一体どれほどの威力がそこに込められていたのだろうか。骨と筋肉繊維が軋む音を響かせ、体をエビ反りを超えて逆くの字に下りながらそのまま崩れ落ちる。
 ほんの一刹那のうちに三体のシェコブが葬られた。
 未だ現実の実感がわかないその場の全員が、それを成した彼に視線を向けていた。
 眉目秀麗な顔立ちからは想像できない、二本の木刀から繰り出される剣技の鋭さは若くして達人の域に達している。
 絶低絶命のピンチを救ってくれた、この頼もしい友人の名を呼ぶ。
「ギン!」
「待たせたな。怪我はないか?」
「危なかったけどね。ギンこそ無事でよかった。よくここがわかったね?」
「この近辺で人の気配があったのはここだけだからな」
事も無げに言ってのけるが、それが容易いことではないことは僕でもわかる。
「さすがだね……って、あれ?クロウは一緒じゃないの?」
「ああ。途中まではな。だが『お前より先にレンを助け出す!今日のヒーローインタビューはいただきだ!フハハハハ』などと言って、どこぞに消えた。後は知らん」
「ははは……それはクロウらしいね。結局ギンに先越されてるあたりも含めて」
 呆れ顔で言うギンに、僕は苦笑いを浮かべる。
「して。これからどうする?」
「ここはもう安全じゃない。下に向かおう。ここの地下は非常用シェルターになってる」
 黙って頷く。残った人々からも異論は出ず、僕の意見に同意してくれる。
 僕らだけで外を出歩けば、シェコブ一体と遭遇しただけで全滅だ。でもギンがいてくれれば百人力。
 とは言え、ギン以外に戦える人間はいない。特におじいさんは足腰が弱いようで、いざとなったら自力で逃げることも難しいだろう。戦闘は最低限になるよう、できるだけ魔属は迂回するルートを取る。無論、降りた先の状況はわからないからエレベーターも使わない。
 僕は先ほど用意していたマップをディスプレイに表示。魔属のデータや行動パターンを考慮し、最適な避難ルートがすでに導き出されている。それに沿って階下を目指す。

 階を下り、フロア同士をつなぐ空中廊下に差し掛かっったところで問題が起きる。
 ビルとビル同士を繋ぐこの空中廊下は一面ガラス張りで、こんな状況でなければ都市やその向こうに並ぶ美しい山脈を楽しむことができた。
 通路の向こうには全面を塞ぐほどの巨体を持つ魔属が行く手を遮っていた。
 そいつは『ジュシェコバ』。シェコブの変異体の一種だ。腕も足も一対ずつ増え、より異形さを際立たせている。サイズはシェコブの倍近くあり、シェコブとは違って肉厚だ。その強靭な巨体はちょっとやそっとのダメージは通さないだろうと予想される。
「下がっていろ。こいつは少し厄介そうだ」
 ギンは気丈に木刀を構えると、ジュシェコバが甲高い遠吠えをした。すると奴の背後の通路から数体のシェコブが現れ、ギンは忌々しげに舌打ちをする。
 一体でも抜かれれば、後方の僕たちに抗うすべはない。
 ジュシェコバは足を踏み出し、ギンに向かって突進してくる。覚悟を決め、ギンが迎え討つ――その直前。
 頭上に影が差し、僕は視線を上げる。
 そして、はっきりと見た。
 向こう側のビルの上階から飛び出してきた、真っ赤なスポーツカーを。
 空中でスピンしながら飛んできたそれは、天井のガラスを突き破ってジュシェコバの巨体に激突。押し出されたジュシェコバはそのままガラス窓をぶち破り、車とともに空中に投げ出される。地上に落下したジュシェコバは、爆発炎上するスポーツカーと運命を共にした。
 僕らが唖然としていると今度は騒々しい音と共に、目の前に一人の巨漢が通路に降り立った。
「よっ、レン」
 まるで馴染みの店に来た常連のごとく場違いな軽い口調でそう僕に呼びかけた。厳つい顔立ちとは対照的な、人懐っこい笑みを浮かべる。
 袖を捲り上げた黒のレザージャケットから露出した筋骨隆々の腕。下に着ているシャツはぴっちりと張り付き、その下にある鍛えあげられた筋肉を隠そうともせず、いや、むしろ誇示しようとしていた。
 その恵まれた体躯は亜人民族であるタグル族の特徴でもあったが、とりわけ彼の場合、体を鍛え続けた賜物でもある。
 筋肉の申し子を自称する彼の名はクロゥヤムング・ベ・ラルスク。名前が長すぎるのでクロウの愛称で呼ばれている、僕の幼馴染にして親友だ。
「危ないとこだったな。でも、オレ様が来たからにはもう安心だ」
「く、クロウ!?っていうことは、今のもクロウが?」
 問いかけると、クロウはよくぞ聞いてくれたとばかりに満面の笑みを浮かべると大きく頷く。
「おうよ。ちょうど都合よく展示されたからな。ちょいとブン投げてやった」
 僕が感心するとでも思っているのか、胸を張って自慢気な口調のクロウ。
「いやいやいや、だめだよ!気軽に車なんか投げちゃ」
「いやよぉ。試しにバンパー持ったら、「お?いけんじゃね?」って感じでよ。んで投げてみたら、まー思ったより飛ぶ飛ぶ」
 何がそんなにおかしいのか「がっはっは」と豪快に笑う。反省の色はほぼゼロだ。
「いや、笑い事じゃないから!危ないでしょ!そもそも、なんで車なんて投げたのさ。投げるにしたってもっと他にあったでしょ」
 車の下敷きになるような事は無かったものの、まかり間違えば怪我人が出てもおかしくない。だというのに、この親友はふてくされたように口を尖らせながら、耳を疑うようなことを口走った。
「だってよぉ……ギンの野郎、オレ様より先にレンを助け出してんじゃんかよ。ここはいっちょ、オレ様もインパクトある斬新な登場をして奴以上に存在感をアピールしようと」
「斬新を通り越して意味不明だよ!」
 僕が反射的に声を上げても、ばつが悪そうにソッポを向いて頭をかく姿は、母親に叱られる子供そのものだ。
 見て分かるように、クロウは少々頭が悪い。なのに行動力だけは人並み以上にあるので、こういう訳のわからない行動をしてよく僕らを驚かせる。
 と、笑っていたクロウは視線を後方に向ける。見据える先にいるのはシェコブの群れ。
「まぁ、そういうわけだ。ここから先はオレ様の力でこいつらを皆殺しにして、大いに目立つつもりだ」
 凶暴(と少々の打算的)な眼光を瞳の奥に宿らせ、周囲を取り囲んだ魔属を睥睨する。全身を包む鎧のような筋肉は二メートルを超える巨躯と相まって見る者に威圧感を与える。
 その視線に何かを刺激されたのか、シェコブたちは不快な声を上げながら一斉に飛びかかってくる。
「ハハッ!そうこなくっちゃな!」
 好戦的な笑みを浮かべながら叫ぶクロウは一直線に駆け、背中に背負ったチェーンソーを引き抜く。チェーンソーといっても、それは伐木用の物と比べ刀身、基部共に規格外に大きい。それは、戦闘用にカスタムされたチェーンソーである。
 エンジンの爆音を響かせながら、まさに強襲という言葉が相応しい勢いでシェコブへと迫るクロウ。狙いもろくに定めず力任せにチェーンソーを横薙ぎにする。戦闘に特化したチェーンソーはシェコブの肉と内臓を粉々に粉砕にしながら易々と食い破り、あっという間に反対側へと突き抜けて胴体を両断した。
 血や臓物、骨、体液、肉片といった肉体を構成していたあらゆる物がめちゃくちゃに飛散し、床や窓にへばりつく光景は大変スプラッタだ。
 人間離れした怪力とチェーンソーを用いたクロウの戦い方は、豪快そのもの。返り血を全身に浴びて尚笑いながら迫りくるクロウの姿は、どっちが魔属なのかわからなくなる。
 チェーンソーをかいくぐり、死にものぐるいで伸ばされた指先がクロウに迫る。恐ろしいまで膂力を秘めた指先はしかし、
「あぁ?何オレ様の筋肉をタダで触ろうとしてんだ!?」
 あろうことか、それを素手で受け、逆に握り潰していた。
「お触りは禁止です、お客様ァ!」
 わけの分からに事を叫びながら、そのシェコブを片手で投げ飛ばす。ガラスをぶち破り、哀れ、シェコブは遥か真下に転落していった。
 素手で魔属とまともにやりあえる人間を、僕はクロウくらいしか知らない。
「確かにクロウの独壇場だね」
「どうでもいい。危なっかしくて近寄りたくない」
 その後も、獣のような雄叫びを上げながら大立ち回りを演じ、その場の魔属を瞬く間に一掃してしまった。
 こうして加わったクロウを先頭にして階下を目指す。もはや多少の魔属は問題にならず、なぎ払いながら前進していく。倉庫にいた時は絶望していた表情の生存者たちだったが、今は階を下るに連れ希望を取り戻しつつあった。
 だが、ようやくロビーまで辿り着いた時、その表情は再び絶望に上塗りされる。
 三階までをぶち抜いた吹き抜けを有する広大なロビーのフロアには、床を埋め尽くさんばかりのシェコブの大群。
 そしてフロア中央に居座るのは、二体の醜い巨人。
 属名は『ドゥン・リィザ』。三階まで届く頭頂高は、爛れた肉塊に頭と手足が生えていると言ったほうが正しい容貌で、体のあちこちから生えている細長い体毛のようなものが、一層醜さを掻き立てる。
 頭部は無数の眼球が散りばめられ、潰れたような平たい。歯肉が剥き出しの牙の間からは人の腕や足が挟まっているのが見える。
 どうやら食事を終えたばかりのようだが、それでもまだ腹は満たされていないのか、食い残しはないかと忙しなく眼球を動かしており、僕らは慌てて身を伏せて隠れる。
「シェルターはもう目の前だっていうのに、ここまで来て……!」
 僕は悔しさに唸る。シェルターの位置を示す赤色灯が確認できるが、そこにたどり着くには、下まで降りた上に群れを横切るよりほか無い。
 だが、問題はそれとはまた別にある。
「レン。奴はもしかして?」
「ああ。あいつは中級だよ」
 中級――中級種魔属。これに部類する魔属は、下級種とは大きく違う点を持つ。
「目的の場所まであと少しなんだ。中級だろうが押し通ってやらァ!!」
「ちょっ!待ってクロウ!」
 僕の制止も聞かず、クロウは飛び出すと回廊を駆けドゥン・リィザへと迫る。ドゥン・リィザがクロウの存在に気付いた時、彼はすでに跳躍し頭上でチェーンソーを振りかぶっていた。
 雄叫びを上げながら腕力と落下の勢いを乗せたチェーンソーを振り下ろす。頭から入った回転刃は、そのまま中心線をなぞるように体を切り開いて行き、股下から抜ける。
 真下にいたシェコブを踏み潰しながら着地したクロウの上から紫色の血が大量に降り注ぎ、大理石張りの床を染め上げる。
 そのクロウを影が覆う。
 クロウはとっさに身を投げた瞬間、それまでいた床が粉々に砕かれる。頭上から振り下ろされた拳は、床に大穴を穿っていた。
 振り返りながら仰ぎ見たクロウは舌打ちする。
 視線の先にいるのは、拳を振り下ろした体勢のドゥン・リィザ。つい今し方、体を切り裂かれたはずのドゥン・リィザが、何事もなかったかのように動いていた。
 すでに出血もなく、傷口は肉が盛り上がりながら急速に回復していく。まるで自然治癒を早送りで見ているような光景だが、これは紛れもない現実の光景だ。
 これこそが、中級以上の魔属の最大の特性。
 すなわち、“不死”である。
 異常とも言える再生力により、通常の生物なら致命傷となる傷を負っても蘇ってしまう。中級以上の魔属は実質的に不死も同然である。
 魔属が人類の脅威とされている、一番の要因はこれである。
 クロウは諦めず、さらに攻撃を加えようとするもシェコブが群れで襲いかかり、これを相手にしながら頭上から振り下ろされる拳を避けるので手一杯になる。
「あの馬鹿、考えもなしに!」
 悪態をつきながらも、クロウをフォローするためギンも同じように飛び出していく。卓越した健脚と剣技でもってシェコブを次々と打ち倒すものの、ドゥン・リィザにダメージを与えられないのはギンも同様だ。
 せめて地下に逃げるための隙を作り出したいが、その活路は一向に見出だせない。
 そうしているうちに一体のドゥン・リィザが苛立ったように雄叫びを上げ、両腕を横に広げて振り回す。それだけで回廊は粉々に砕かれ、生じた亀裂は瞬く間に僕らのいる足場まで走った。
「まずい!早くそこの非常階段に!」
 僕は扉を指さし、生存者たちの背中を押しながら叫ぶ。だが、おじいさんの歩みは遅々として進まない。そうしているうちに、すでに足場は崩れかけている。
 迷っている暇はなかった。
 僕にできたことは、体当たりでおじいさんを突き飛ばすことだけだった。おじいさんが前のめりに扉の向こうに転がるのを確認し、安堵した僕は体が浮く感覚を覚える。
 床が、完全に崩れ落ちた。
 空中に投げ出された僕は必死に手足をばたつかせるが、その手が掴むものはない。落下する先には大量のシェコブが手を上に伸ばして待ち構えている。
 自分の死を覚悟し、目を固く瞑った。
 しかし、突如首を支点として激しい加重がかかり、「ぐぇ」っと変な声を吐き出してしまう。
 何事が起きたのかと目を開けると、そこには僕が最もよく知る美しい横顔が。
 短く切りそろえられた栗毛の横髪の向こうに覗く、小さいながらも整った顔立ちは贔屓目なしでも美しい。それでいて活発さや芯の強さを感じさせるのは、その大きな目のせいだろう。キリッとした吊り目は彼女の凛とした性格が表出している。双眸の奥に見える碧色の瞳は彼女の性格同様に曇り一つもなく、磨き抜かれた宝石のようであった。
 僕の首根っこを掴み、小柄な体型からは想像できないほどの力で跳躍していく彼女は、絶妙な体重移動で難を逃れた回廊の一部にふわりと着地。背中のお下げ髪が僅かに揺れる。
 床に転がった僕は、改めて彼女を見る。
 清潔感のある白のブラウスの上に紺のジャケットを羽織り、下はチェックのミニスカート。清楚ではあるけど、年頃の女の子にしてはいささか飾り気に欠ける。「買いに行ったり選んだりするのがめんどい」というのだから、まことに女の子らしくない。
 飾り気の無い装いに、腰に下げた無骨な剣が一際存在感を放っていた。箱型の機器が取り付けられ刀身の根本部分が厚みを増している特殊な剣だ。
 と、その彼女が特徴的な目を、今はさらにきりりと吊り上げてこちらを睨んでいることに気付く。不機嫌そうに見えるのは、きっと気のせいではない。
「や、やぁアオイ」
 僕はその少女――アオイに恐る恐る声をかけると、彼女は腰に手を当てながら僕の鼻先に指を突き出す。もっとも、小柄であるため威圧感よりも小動物のような可愛さが先立ってしまうが。
「このバカレン!何、私のいないところで勝手にピンチになってるんだ!」
「えぇぇ。僕もなろうとしてなったわけじゃないんだけど……」
「それもこれも、勝手に私から離れるからこんなことになるんだぞ!反省しろ!」
「いや、勝手も何も、「お前の買い物はつまらん!」とか言ってアイス屋さんから出ようとしなかったのはアオイじゃない」
「うっさい!むしろそこは、お前が私のアイスに付き合うべきだろ。だいたいなんだ、いつも機械の部品ばっか買い漁って。お前は金属が主食の宇宙人か!」
「えぇぇぇ……」
 時に彼女は理不尽で、意味不明だ。
「でも、無事でよかった」
 怒りに言葉をまくし立てたアオイは、ひと通り言いたいことを言い切った後、ふっと怒りの表情を和らげる。彼女が見せたその表情は、本来の彼女の持つ優しいものだった。
「いや、まだ現在進行形で危険なんですけどね」と出かかった言葉は、後から飛び出した叫びに掻き消える。
「アオイ後ろ!」
 とっさに僕は叫ぶ。アオイの背後には今まさに拳を振り下ろさんとするドゥン・リィザが。
 瞬間、青白い光が視界を埋めた。
 それは一瞬の出来事で、視界が戻った時、ドゥン・リィザの手首が高々と宙に舞っっていた。
 ドゥン・リィザは、何が起こったか理解できないといった様子で腕の先を見つめる。
 自分の腕が無くなっっていることも理解できなければ、叩き潰すはずだった相手の姿が忽然と消えていることも理解できなかっただろう。
 そして、理解できないまま、絶命した。
 手首が床に落ちるよりも先に、腰より上がスライドして床へとずり落ちた。体をチェーンソーで二つに開かれても死ななかったドゥン・リィザが、粉塵と臓物を盛大に舞い上がらせて倒れ伏せる。動き出す様子もなく、完全に絶命していた。
 ドゥン・リィザを挟んだ向かいの回廊には、一瞬前まで眼前にいたアオイの姿があった。その手には、光を纏う剣が握られている。
 ――確かに、魔属は人間の手では殺せない。
 だが、彼女は特別だ。
 上半身を失い、続いて倒れるドゥン・リィザの下半身を飛び越え、再び僕の目の前に舞い降りたアオイ。纏う雰囲気は一変し、眼光は鋭いものになっていた。
「それで、どうするレン?」
「ここにはまだ生存者がいる。なんとか安全を確保したい」
「了解だ」
 短い返事とともに、アオイはドゥン・リィザが待ち構える階下に飛び出して行く。
 同時に、アオイはわずかに目を細め、額あたりに意識を集中する。
 すると、彼女の体の周囲に青白い光の粒子が発生する。
 まるで青く発光する雪のようなその粒子は彼女の体を包むように集結すると眩い光を発する。
 刹那の発光が収まると、武骨な白銀の鎧が彼女の身を包んでいた。
 胸から腰にかけて、美しい白銀色の鎧が覆い、スカート状のアーマーが腰より下に伸びる。また、剣を握る腕には肘までを覆うほどの大型のガントレットが装着され、つま先から膝にかけてもレッグアーマーが覆う。
 時代錯誤な出で立ちは、まるで物語の中から飛び出した騎士のようであった。
 これは魔法でも手品でもない。彼女の能力なのだ。
〈L粒子〉――輝くラスターの意を持つこの粒子は、アオイの持つ“潜在力”が生み出している。粒子そのものは何ら力を持たないが、彼女の持つ聖剣[ベルカ]に内蔵されたマテリアル・ドライブによって様々なものに変質・変化する。この鎧は〈L粒子〉が物質変換されたものだ。
 小柄な彼女には不釣合な重々しい装備だが、アオイは普段と変わらぬ身軽な動きで着地するとクロウ、ギンと並ぶ。
「大方の雑魚は潰した。あとはあのデカブツだけだ」
 短く述べるギン。見れば確かに、あれほどいたシェコブが、今はそのほとんどが床に沈み、動いている個体はごくわずかだ。
「はん!今頃ノコノコ来やがってこのチビ助」
「なんだお前か。新種の魔属だと思って斬るところだった」
「十年来の友人に対して酷い言いようだなオイ!?」
 一方、軽口を叩きあうクロウとアオイ。緊張感も何もあったもんじゃない。
「オレ様はこれから、一〇〇年先まで語り継がれる活躍をすんだ!邪魔すんなバーカ!」
 捨て台詞を残して一人突撃していくクロウは、騒々しい足音を立てて助走をつけると、チェーンソーを振りかぶりながらドゥン・リィザに飛びかかっていく。
 しかし、空を切る音がしたかと思うと、クロウの身は真横に吹っ飛び、崩れた瓦礫の中に突っ込んだ。
「ドゥン・リィザのそれは体毛じゃなくて触手だなんだ!とても素早いから気を付けて!」
「そうか!次からそういう大事な事は叩かれる前に言ってくれ、親友!」
 瓦礫を押し退けながら抗議の声を上げるクロウ。あの触手の一撃は全身がバラバラになってもおかしくないのに、割と平気そうなのはクロウ。さすが筋肉の申し子、じゃなくて、屈強さを誇るタグル族の末裔だ。
 ドゥン・リィザは、先程までは垂れていた触手を、今は鎌首をもたげさせ、一つ一つがうねうねと妖しく蠢かせる。一定距離内に入ったものはいつでも迎撃する構えだ。
 おそらくは、天敵の存在を感じ取っての動きだろう。
 一見するど愚鈍そうにも見えるドゥン・リィザだが、素早い無数の触手がその隙を補っている。巨体のパワーと精密かつ俊敏な触手。二種の攻撃を併せ持つのがドゥン・リィザが難敵である由縁だ。
 先程は不意を突いたから触手の反応前に仕留められたが、もうその手は通用しないだろう。
「これじゃ近づけないな……」
 僕は何か利用できる物はないかと周囲に視線を巡らす。と、ある物に目が留まる。
「ギン!上のやつを落とせるかい?」
 僕は叫びながら天井を指さす。ドゥン・リィザのほぼ直上には、典雅な巨大シャンデリアが吊るされていた。
 一瞬の迷いもなく「やってみよう」と短く答えると、素早く階段を駆け上っていく。さらにメンテナンス用の足場を踏み台に大きく跳躍し、シャンデリアへと飛びついた。
 華やかなガラス細工で組まれたシャンデリアは足場が悪い。しかも真下には暴れ狂うドゥン・リィザが。
 だがギンは微塵も臆した様子を見せず、腰に差した木刀に手を置くと静かに息を吐きながら構える。
 そして、彼の腕が一瞬霞む。すると次の瞬間には鎖は見事に断ち切られていた。
 彼が握っているのは紛うこと無き木刀のはずで、鎖を斬るなんてできようはずもない。しかし、彼の剣術の腕は不可能すら可能として見せる。
 ギンが素早く飛び退くと、シャンデリアはゆっくりと落下し、その真下にいたドゥン・リィザに直撃。盛大に砕け散り、巨体を揺らがした。
 無論、それで致命傷には成り得ない。濁った目をぎろりと回廊に着地したギンへと向けると、彼を叩き潰さんと腕を伸ばす。
 ギンはドゥン・リィザの拳を横っ飛びで避ける。続け様に繰り出される触手を、舞い上がる瓦礫を足場にしながらひらりひらりと躱し、翻弄した。その重さを感じさせない軽快な動きは曲芸に近い。
「クロウ!」
「っしゃァ!」
 注意がギンへと向けられた隙にドゥン・リィザの足元にまで迫ったクロウは、気合と共にチェーンソーをドゥン・リィザの足首目掛けて叩きつける。チェーンソーは血飛沫を激しく飛ばしながら肉体深くまで食い込んでいく。巨体を支える足を半ばまで切り裂かれた時、初めて巨体が大きく傾いた。
 確かに、人間に魔属を殺すことはできないが、傷つけることはできる。相手が二足歩行であるなら、体重のかかる片足を潰せば体勢を崩す。たとえ一瞬であろうと、隙を作ることができる。
 彼女には、それで十分だった。
「今だアオイ!」
 ぐっと剣を横に構える。
 同時に、彼女の周囲に光の粒がぱっと舞い散る。そのうちの半分ほどが、瞬く間に剣の刀身を覆うように張り付いた。
 剣は幻想的な光を湛え、まるでお伽話に出てくる伝説の剣のように見えた。変質した〈L粒子〉が、刀身を覆っているのだ。
 彼女は光を全身に纏うと、一気に駆ける。一足で爆発的な加速を見せたその速さは、目では追えないほどに速い。舞い上がる光の残滓だけが、かろうじて彼女の軌跡を示していた。
 アオイの存在に気付いたドゥン・リィザは、全ての触手をアオイの迎撃に向けた。雨のように打ち下ろされる触手だが、すでに遅い。トップスピードに乗ったアオイを捉えることはできず、触手はアオイの背を掠め、床を穿つだけだった。
 ドゥン・リィザの足元まで辿り着いたアオイは床を強く蹴り、ドゥン・リィザの眼前まで跳躍。姿勢を崩し、触手を躱されたドゥン・リィザに、彼女を迎え撃つすべは残されていなかった。
 最後に発したのは怒りの咆哮か、絶望の悲鳴か。
 フロア全体を揺るがすほどの大音声も、アオイの剣筋を鈍らすには至らなかった。
 光刃は瞬きの間に、ドゥン・リィザの首を鮮やかに一刀両断した。
 巨体は崩れるように横向きに傾き、そこにあった回廊を破壊しながらついに寄りかかるようにして倒れた。
 静かに着地したアオイは一息吐くと、剣を鞘に納める。
「さすがだね。ご苦労さま、アオイ」
 僕はアオイへと駆け寄る。アオイがこくりと小さく頷くと、それに合わせてトレードマークのお下げ髪が揺れた。
 と、その向こうには非常階段からこちらの様子を伺う人々が。どうやらみんな無事のようで何よりだ。
「先ほどはありがとう。怪我はないかい?」
 そう言いながら歩み寄ってきたのは、さっきのおじいさんだ。
「ええ。彼女のお陰で傷ひとつありませんよ。あ、彼女はアオイ。さっき話した、もっとも頼りになる友人です」
「お嬢さんはその、もしかして……」
 その出立と、何より魔属相手に見せた獅子奮迅の活躍から、彼女の正体を思い当たったのだろう。おじいさんは疑問を口にする。
「はい。彼女は"勇者"です」
 僕は堂々とした口調でそう告げた。
「と言っても、まだ見習いですけど」
「そういう事は言わなくていい」
 アオイが脇腹を小突いた。

――約千年前。
 繁栄を謳歌していた人類の前に、初めてその異形の姿が確認される。
 突如として現われたその異形の群れは、残忍な牙を人類に向けた。後に魔属と呼称されることになるその生物は、それまで人類が広げた繁栄を食い尽くすがごとく大地を侵食し、人々を喰い殺し、故郷を蹂躙し、いくつもの国を滅ぼしていった。
 人間を遥かに凌駕する力と圧倒的な物量。なにより、その不死性の前ではいかなる抵抗も無に等しく、人類は滅亡の淵まで追い詰められた。
 有史以来の未曾有の危機から人類を救ったのは、一人の人間であった。
 人並み外れた体術と、異能の能力。そして不死の魔属を滅ぼす力を持ったその勇ましき者は、たった一人で魔属群に挑んだ。
 その姿はまさに一騎当千。魔属群を蹴散らし、瞬く間に人類の領域を取り戻していった。
 人類最大の危機を救ったその者は、後にこう呼ばれるようになる。

『勇者』と――

 そして現代。
 人類と魔属の戦いは未だ続いている。
 時には魔属大戦と呼ばれる、全世界規模の総力戦を経験し、そのたびに人類は存亡の危機に立たされた。
 そうして一時的に抑え込むことはできても、魔属は既存の生物をはるかに超える速度で進化し、まったく新たな種となって度々人類に牙を剥いた。そしてその度に勇者が先頭に立って魔属を打ち倒す。
 この千年の人類の歴史は、魔属との戦いの歴史であるとも言えた。
 いずれ魔属を地上から滅ぼし、殲滅する――それは人類共通の悲願であった。
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