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黒砂糖デニーロ

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第四章

第四十一話 勇ある者たち

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 地上七〇階の窓の外から現れた彼女には、さすがのヴィルさんも虚を衝かれたようである。横薙ぎの一撃をかろうじて受け止め、その勢いのまま後方へ距離をとった。
「すまんレン。遅れた」
「いや、ベストタイミングだよ」
 僕を庇うように立ち、背中越しにアオイが言う。外を見ると、ガルス軍のヘリがホバリングをしている。
 大佐は約束をしっかり守ってくれたようだ。
 ちなみにこの高さで躊躇いなく飛び出していったアオイにパイロットは驚き、唖然としていた。
「……君か」
「話は聞いていた」
 アオイが耳のレシーバーを指先で叩きながらヴィルさんに言う。
「君もボクを阻むつもりか……それで?君がボクを斬るなんて、本当にできるのかい?」
 アオイに向けられたその問いかけは、二つの意味を含んでいた。
 一つは、地下施設で見せつけられたアオイとの実力差。
 そして、憧れの存在であるヴィルさんに刃を向けられるのか。
 事実、地下でのアオイの敗北の原因はこの二点に尽きる。
 その問に、アオイは言葉ではなく刃を持って返した。
 足裏に展開した粒子を強く踏み込み、文字通り爆発的加速でヴィルさんに斬りかかる。右から左へ真一文字に叩きつけられる剣には欠片ほどの迷いもなかった。
 しかし相手は腐ってもクラス:マスター。片手で軌道を逸らすと同時に、もう片方の腕が振り下ろされていた。
 奇しくもそれはあの時――地下でアオイを斬った時と全く同じ軌跡であった。
[ベルカ]を砕き、アオイを斬った剣はしかし、新たな聖剣が真正面から受け止めた。
 驚く、というよりは軽く感心するように「ほぅ?」と口にするヴィルさん。
「お前はもう、故郷で私達を救ってくれたヴィルじゃない。お前は……倒すべき敵だ」
 鍔迫り合う刃を挟んで、アオイはヴィルさんを睨みながら言い放った。
「なるほど。覚悟だけはできているということか。もっとも、覚悟だけではどうしようもないがな!」
 言葉と共に彼の左手が霞む。躊躇いなく首を狩る軌道の斬撃を、アオイは飛び退って回避した。
 ヴィルさんはアオイを追うことなく、ただ右腕の剣先を突き出す。すると突如、その刀身が左右に割れ、スパークを帯びると同時に、超高速で弾丸を発射した!
 あれはフェイク3が使用していた聖剣と同じギミックだ。
 そうだ。ヴィルさんの聖剣[イーター]は、物の特性を取り込み再現する。旧ガルスでケイン君らを連れ去る際、共にフェイクたちの聖剣も回収していった。おそらく[イーター]に取り込んだのだろう。
 アオイは勘だけで横っ飛びに躱す。弾丸は背後にあった重厚なキャビネットを木っ端微塵に、壁を深く穿った。
 背後からの衝撃波によろめくアオイに、ヴィルさんは滑るような動作で間合いを詰めてくる。迎撃のために繰り出された素早い連撃を左腕の剣で難なく弾くと、元の形態に戻った右腕の剣が脳天からたたき落とされる。紙一重、寝かせた剣をかかげて受け止めたアオイだったが、その衝撃で上体が大きく沈む。速いだけでなく、重い。常人なら肩が砕けるような重い一撃は、それが片手で繰り出されたことが信じられなかった。
 その実力は、旧ガルスで対峙したフェイクリーダーを遥かに凌駕していた。さすがはクラス:マスターの勇者。これまで出会った勇者とは強さの次元が違うことをまざまざと知らしめていた。
 それに驚いている暇はない。衝撃に痺る手を無視し、受け止めた剣を押し返すと素早く側面に回りこみ、横薙ぎの斬撃を放つ。が、あらかじめ知っていたかのごとく腕が翻り、アオイの剣を受け止める。ほぼ同じタイミングでフックの軌道で放たれた甲剣の突きが側頭部を狙う。
 これもまた類まれなる反射神経で身を反らせたアオイ。剣先が掠めた前髪の数本が、チッ!っという音と共に弾ける。
 だが、その次に来る攻撃には対応できなかった。跳ね上げられた左足の爪先が、避けた体勢のアオイの横っ面をまともにヒット。その衝撃音から察するに、首の骨が折れてもおかしくない程の凄まじい衝撃が確実にアオイの脳を揺さぶる。遠のきそうになる意思を気合だけで繋ぎ止め、ヴィルさんの間合いから緊急退避する。
 ヴィルさんはさらに追撃をかけようと足を踏み出すも、その上体ががくっと落ちる。視線を落とすと、彼の右足が服の上から深々と切り裂かれていた。蹴りを食らう瞬間、アオイもまた剣を繰り出していたのだ。粒子を纏ったその斬撃は強靭な勇者の肉体も難なく切り裂き、その深さは骨にまで達していた。
「ふむ。やはり君は他の勇者どもとは違うな。一筋縄にはいかないようだ」
 それでもヴィルさんは余裕の見える口調でそう呟く。口内の血を吐き出しながらアオイは無言でヴィルさんを見据える。
「なら、もう少し本気を出そうか」
 そう言ったヴィルさんの姿の周囲で何かの爆ぜるような音がする。と、次の瞬間、ヴィルさんはアオイの目の前に立っていた。
 驚きに一瞬硬直するアオイの左右から交差する軌道で首を狩りに来る双刃。獣の如き反射神経で大きく飛び退ってこれを躱すが、左右の首筋からはつっと血が垂れる。危うく、あと一瞬遅れていれば、アオイの首は断ち切られていた。
(何がおきた……?)
 まるでコマ落としの映像の如く、ヴィルさんは一瞬で移動した。足を負傷している人の、いや、そもそも人間の動きじゃない。
 これがヴィルさんの能力なのだろうか。しかし、頭の隅で生じた違和感が、その結論に疑問符を投げかけてくる。
 正体不明の現象に直感的な危機を感じたアオイは、粒子加速で翻弄するヒットアンドアウェイの作戦に出る。右に左に、さらには壁や柱も足場にした立体的な動きでヴィルさんを撹乱し、隙を見ては間合いを詰め、刃を送り込む。
 それを最小限の動きで躱すのはさすがだが、一方で反撃はすべて空振りに終わり、アオイには届かない。
 そうして六度目の攻撃の後、それは起こった。
 フックで繰り出された刃を、横に大きく飛んで回避するアオイ。しかし、繰り出したヴィルさんの指先から、何かが射出された。それはアオイが着地するタイミングを狙いすまして猛スピードで空を走り、彼女の胴に巻き付く。それが何かを確認する間もなく、アオイは瞬く間にヴィルさんへと引き寄せられていく。
 そしてその先で腕を持ち上げ待ち構えるヴィルさん。間合いに入ると同時に必殺の一撃を振り下ろした。
 辛くも頭上で受け止めるも、それを見越して左の切っ先が目の前へ突き出されていた。
 アオイは背骨が軋むほど上半身を傾かせ、首を直角に近い角度まで曲げて切っ先から逃れようとする。それでも刃はアオイの首筋を深々と抉って行った。
 剣を横薙ぎに払いながらヴィルさんを牽制し、その隙に後ろ飛びで間合いを大きく取る。着地と同時に、ぶしゃっ!という水音を立て、盛大に吹き出した血が床へと飛び散る。出血の量を見るに、どうやら動脈を切り裂いたようで、抑えた手の間から時折血が噴出す。
 だがそれもすぐに収まる。常人であれば致命傷のこの一撃も、[ベルカ]の時同様に〈L粒子〉が瞬時に傷口を塞いでくれる。戦闘に支障はない。
 もっとも、当のアオイの表情は動揺に揺れていた。そしてそれは僕も同じだ。
 ヴィルさんの指から放たれた螺旋の鎖。
 それは紛うことなくケイン君の〈ヘリカル・バインド〉だった。
「どういうことだ、レン。あれは確かケインの能力だったはずだぞ」
「僕にもわからないよ」
 過去、勇者が複数のDEEPを有した例はない。無論、応用して派生させたりすることは可能だが、今ヴィルさんが見せたのは明らかに別々の系統の能力だ。
「そういえば、君たちは知らないんだったな。ボクの本当の能力は、対象の肉片を食すことで特徴や能力を自分の物にできるというもの。名は、〈イーター〉」
「なんだって……そんな能力が存在するのか!?」
 自身の聖剣と同じ名を冠するその能力――〈イーター〉がヴィルさんの言う通りなら、数多あるDEEPの能力の中でも他に類を見ない特殊なものだ。
 その説明を聞いて、僕はようやく先ほど感じた違和感の正体を知る。
 先ほどヴィルさんが見せた能力は、失踪した勇者の一人、ロバート・ロドリゲスの能力〈axis〉に違いない。ラーキンさんから預かった失踪者のデータは事前にひと通り目を通し、頭に入れてあった僕は、記憶の片隅でそれを覚えていた。
「実を言うと、この能力は今まではほとんど役に立たなかったんだ。使い方ができると知ったのはマーレに与してからだが、皮肉なものだ。同族に刃を向けるようになってから真価を発揮するなんてね」
 その言うヴィルさんの表情はなんら痛痒を感じているようには見えない。
 その態度に激昂したアオイは、ヴィルさんの言葉を最後まで待たず、粒子加速による超高速で斬りかかる。
 しかし、粒子が輝きを失うとともに急激にスピードが落ちていく。
 この現象を目にするのは、これで四度目だ。
「また粒子を無効にっ!?」
「そうだ。これは旧ガルスで君やケイン君を苦しめたフェイク2の能力だ。あいにく対となった聖剣がないから効果範囲は限られるが、君の能力を封じるくらいは容易い」
 アオイが悔しげに唸りながらヴィルさんを睨む。能力・実力共にアオイを大きく上回るヴィルさんに、粒子の加護無しに抗することは難しい。
 アオイ一人なら。
「大丈夫だ、アオイ」
 展開したキーボードを叩きながら、僕は告げた。
 直後、アオイの周囲に粒子の煌きが蘇った。アオイも、そしてヴィルさんまでもが驚愕の表情を作る。
「何をした?」
「あなた、いやフェイク2の能力は、元は捕らえられた勇者バリスタ・シェンブリーの能力〈ヴァニシャ〉。傍から見ればあたかも能力の封印、無効化したかに見えますが、実際には非実体エネルギーをベクトル変換によって相殺するもの。本来は上級種魔属の特殊攻撃に抗する純粋な防御型の能力です」
「それがわかった所で、君などにどうにか出来るものじゃない!」
「いいえ、簡単なことです。相殺しているのなら、その干渉に合わせたフィールドを形成すればいいだけです。この剣にはそれが可能なんです。アオイの聖剣にはね」
 確かに〈ヴァニシャ〉は多くの勇者にとっては恐ろしい能力だと言える。しかし、〈L粒子〉が僕のコントロール下にある限り、脅威ではない。
「なるほど。その剣、ただの急造品というわけではないというわけか。もっとも、数ある能力の内の一つを潰しただけのこと。君らにはどうにもならんよ」
 ヴィルさんの口調は余裕を湛えていた。当然だろう。今のヴィルさんと戦うということは、無数の聖剣持ち勇者を一度に相手にするに等しい。
「望むところです」
 呟かれたその言葉に、ヴィルさんは怪訝な表情になる。
 僕は自信満々の笑みを浮かべ、意気を昂らせてキーボードに指を走らせる。
「なら僕はその全てに対応させてみせます」
「君が?君なんかに何ができるという?あの時と変わらず、彼女の背中に隠れているだけの弱い君が」
「できるさ。レンができるって言うならな。レンは世界で一番、頼りになる男だ!」
 そんな言葉と共に、アオイは飛び出していく。その背には、揺るぎなき信頼を見て取れた。
 何としても、それに応えなければならない。
 勇者の能力を取り込んだのはマーレと与した後ということは、それは失踪した勇者たちの能力にほかならない。幸い僕の手元にはラーキンさんから預かった失踪者のパーソナルデータが有る。能力は全て把握している。
 そして、僕には一〇〇以上の聖剣のがある。
(対応は十分可能だ!)
 アオイを正面に見据えるヴィルさんの周囲に小さな破裂音と共に紫電が爆ぜる。先程見せた能力、任意の座標に自身を転移する能力である〈axis〉の前兆だ。
 僕のキーボードのエンターキーを押す。すると、聖剣はアオイの手元で光を放つ。次の瞬間には、幅広の広いミドルソードに変わる。
「アオイ。粒子を剣に送って」
 指示されアオイがその通りにすると、刀身に刻まれたスリットから、変換された粒子が静かに散布される。
 そして眼の前から一瞬にして霞のように姿を消すヴィルさん。しかし、再び姿を表したのはアオイの目の前ではない。彼は元いた位置と一ミリも微動だにしていなかった。
〈axis〉は能力行使の際に、移動先座標に電磁的なフィールドが発生するという特徴がある。おそらくそれが座標指定のマーキングなのだろう。ならばそのフィールドに干渉し、マーキングを乱してしまえば転移先を定められず、能力は発動できない――という僕の推測は正しかった。
 僅かに目を見開くヴィルさん。自身に起きたことが理解できない様子。
 しかしそれで動じないのは、さすがはクラス:マスター。切り替えた様子で、再びアオイと相対する。
 と、今度は空気に溶けるようにその姿が消えた。
〈axis〉ではない。今度はヴィルさんは姿を見せない。
「なんだ!?」
「フェイク3の〈ニクス〉だ!気を付けて!」
 僕は叫びながらプログラムを展開する。ギンは研ぎ澄まされた感覚でフェイク3を撃退したそうだが、アオイにそんなスキルはない。仮にあったとしても、相手は擬似勇者などではなくクラス:マスターのヴィルさんだ。どのみち通用するかは疑わしい。
 一つだけ確かなことは、彼はそこにいる。存在ごと消えてなくなったわけじゃない。
 僕がキーボードを操作すると、今度は身幅の厚い曲刀へと聖剣は変化。刀身は帯電するようにスパークを弾かせている。
「すぐに反応が出る。アオイは構えていて」
 僕がそう言った直後、アオイの右側面から破裂するようなけたたましい音が無数の閃光をともなって響く。
 今度はアオイを中心とした半径数メートル範囲に粒子を展開。粒子には接触すると小爆発を起こす設定を施していた。
 爆発と言っても光と音で軽く怯ませる程度のものでダメージはほぼ皆無だが、そこにいる何者か――すなわちヴィルさんの存在を知らせてくれた。
 身構えていたアオイの反応は早い。音が発せられると同時に身を旋回させ、音の方向目掛けて刃を送り込んでいた。
 何も無い空間から飛び散る鮮血。
 直後、能力を解除し、真一文字に胸を切り裂かれた姿のヴィルさんが現れる。
 舌打ちとともに後方に飛び退き、痛みよりも不可解さを訝しむように眉根を寄せたヴィルさんは、次いで僕の方を睨んだ。
「ありえない……この短時間でこうも対応するなど」
「報われない聖剣鍛冶師スミス・デザイナーの悲哀が成せる業です」
 皮肉と多少の自虐を込めて返す。
 僕のコンピュータにはこれまで考案したものの、製作にまでたどり着けなかった一〇〇以上の聖剣の設計図がある。
 物質化できる〈L粒子〉の特性を利用し、設計図を読み込ませることでそれらを瞬時に成型マテリアライズできる。
 つまり、今のアオイもまた、数多の聖剣を携えているに等しい。
(まさかこんな形で日の目を見ることになるとは思っていなかったけどね)
 僕は適宜、能力に対抗できる機能を持った聖剣を選択すればいい。無論、悠長に選んでいる時間はなく、瞬時の判断が求められるわけだが、そこは設計者にして聖剣鍛冶師スミス・デザイナー。考えるよりも先に指先がすでに実行に移している。
「そうか……つくづく厄介だ、君は!」
 その叫びに応じてアオイの前方の床が音を上げて爆砕し、細かな瓦礫が散弾となって彼女の全身を打つ。
 周囲には粉砕された床の破片と、なぜか水飛沫が飛び散っていた。
「これは……〈リキッドワーク〉か!」
 液体を操作するその能力は記憶に新しい。元は勇者アーネストの能力であり、フェイクリーダーが行使してアオイを苦しめたDEEP。
 水源はこのフロアの直下にある給水タンクに違いない。不意をついて必殺の一撃を狙った……ようには思えない。
 今の攻撃は床を破壊することにほとんどのエネルギーを使ってしまっている。瓦礫や水流によるアオイへのダメージは皆無に等しい。そして給水タンクに〈リキッドワーク〉で扱えるほどの水量はもう残ってはいない。
 恐らく彼の目的は、目眩まし。
 舞い上がる粉塵を突き破り、怯んだアオイの首に巻き付く螺旋の鎖。凄まじい力で宙へと引っ張られたアオイの胴に、さらにもう一対の螺旋の鎖が巻き付く。
 〈ヘリカル・バインド〉だ。予想通り、外からの風で掻き消えた粉塵の向こうには両手の指から鎖を放つヴィルさんの姿が。
「そのままその首、体から引き抜く!」
 ギリギリと締め上げられる。ブラインすら拘束せしめたその張力は、アオイの体を上下に引き裂いて余りある。
 無論、すでに対策は用意してある。
「鎖を斬って!」
 声に従い、アオイが逆手に握った剣を首の鎖に叩きつける。聖剣に付加された〈L粒子〉のエネルギーが〈ヘリカル・バインド〉を構成する潜在力の位相を乱し、鎖は弾けるように千切れ飛んだ。
 ヴィルさんは胴の方の鎖が断ち切られるよりも早く、アオイを自分の元へと引き寄せていた。すぐに鎖を断ち切るが、引き寄せられる慣性はそうすぐには衰えない。すさまじい速度でヴィルさんが目の前に迫る。
 ならばいっそとアオイは抗うことなく、むしろ勢いを加速させた。一陣の風となり、剣を大きく引いて突きの構えを見せる。
 ヴィルさんの口の端が薄く笑みの形を作り、そしておもむろに、左の手のひらを正面に翳した。
 一見、無意味な仕草に見えるが、掌の前面の空間が歪むのを見るに至り、僕はそれが何かを知る。
 それはフェイク1が行使していたという能力〈インビジブル・ボア〉。不可視のエネルギーを射出する、その威力たるや、一撃でケイン君から腕を奪ったほどだ。
 すでにアオイのスピードでは避けることも、防ぐことも叶わない。絶妙のタイミング。
「そのまま行って!力の中心を狙うんだ!」
 空間の歪みが収束し、勇者の肉体をも引き裂く破壊力が打ち出される。〈インビジブル・ボア〉のエネルギーは回転しながら前方に射出される特徴を持つ。イメージとしては掘削ドリルに近い。
 真っ向から挑み、突き出される切っ先。アオイの剣が不可視のエネルギーを切り裂いて突き進む。剣の形態は、無数の螺旋が刻まれた長剣。先端を頂点にした円錐状に粒子が展開している。それは〈インビジブル・ボア〉のエネルギーと同じ方向に回転している。
 結果、集約された〈インビジブル・ボア〉のエネルギーは拡散され消失する。
 ヴィルさんの面からは余裕の表情は消え、驚愕に硬直していた。
 目に見えぬエネルギーの流れに髪をかき乱されながら、裂帛の気合とともに突き進むアオイ。ついに切っ先はヴィルさんの掌を捉えた。
 掌の中心から突き入れられた切っ先はアオイの突進に合わせ、手首から中心線を切り裂く。
 ヴィルさんは苦痛に呻きながら床を蹴り、後ろへと後退る。同時に、右手の切っ先をアオイへと向ける。刀身は鈍色の鋭い切っ先の円柱。その円柱は大砲の如き爆音を轟かせて射出される。
 それは旧ガルスでアオイを穿ったパイルバンカーだ。
 顔面目掛け一直線に突き進む鉄杭を、アオイは首を傾けて辛くも躱す。こめかみを抉られ、奔騰する鮮血も無視し、アオイはさらに足を踏み込む。
 不屈の闘志で迫り来るアオイに、ヴィルさんは反射的に五指を開いて掌を翳す。空間が歪み、再び〈インビジブル・ボア〉が発射体勢に入る。
 だが、二発目は僕が対策を講じるまでもなかった。
 再度射出される激槍。しかしその直前、ぐんっと身を伏せるように低くしたアオイはそれを頭上にやり過ごす。〈インビジブル・ボア〉はただ空を圧し潰して突き抜けていく。
 その隙に、アオイは高速で駆け抜け懐に飛び込む。
“こういう使い方ができると知ったのはマーレに与してから”――彼はそう言った。
 失踪した勇者は一三人。内、能力覚醒者は五人。そこにケイン君の〈ヘリカル・バインド〉加えれば能力は六つ。
 彼の言が本当なら、もはや新たな能力はないはずだ。
 すでに基本形態に戻った剣を、アオイは真下から斬り上げる。音すら置き去りにして空を逆上っていく神速の白刃は、ヴィルさんの右腕を肘から切り飛ばした!
 ヴィルさんの目の前を過り、回転しながら真上へと飛ぶ右腕。腕に装着された[イーター]は所有者の反応が途切れたことで刀身が先端からぼろぼろと消滅していく。
「ぐぁぁぁぁ!」
 痛みと衝撃に、腕を押さえながら大きく後ろへとよろめくヴィルさんは、血走った目でアオイを睨みつける。彼が戦いの中で初めて見せた狼狽の表情であった。
「今だ!」
「ああ!」
 アオイは粒子の尾を引き、死角となった右側面へと回り込みながらとどめの一撃を放つべく剣を振り上げて一気に迫る――
 その瞬間、ヴィルさんの右脇を何かがよぎった。それが何かを確認する前に、は物凄い勢いでアオイの脇腹を貫いた。
 大砲でも食らったかのような激しい衝撃に吹き飛ばされ、フロア中心に立つ柱に背から激突する。あまりの衝撃に柱には亀裂が疾走り、漆喰がぱらぱらと舞い落ちる。
 たまらず膝をついてその場で俯き、咳と一緒に込み上げてくる血を吐き出した。
「千載一遇のチャンス、とでも思ったか?」
 一変して余裕を取り戻したような、ヴィルさんの声。だがその声は同一人物とは思えない程の低重音に変わっていた。立ち上がりながら視線を向けたアオイは、ヴィルさんの姿に釘付けとなる。それは僕も同様だった。
 ヴィルさんだったはずのは、不気味に首を傾けていた。
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