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- 26章 -
- それは白く輝く -
しおりを挟む「別に絶対俺を連れてけって言ってる訳じゃないけどっ…でも嘘は駄目でしょっ?…ちゃんと、せめて家族にはちゃんと言ってってよっ」
「…そうですね。心配おかけしてすいません」
「もう止めてよ? こんなことっ」
「えぇ、2度としません」
「約束だよ? 絶対だからねっ!」
「はい、絶対です」
いつも一緒にいる事の多い2人と一緒だといえば家族も安心できるかと思ったのだけれど、それは偶然によって全く逆の意味になってしまった。
再度謝罪すると安積の手を取り立ち上がらせ濡れた手袋で目をふく姿にハンカチでもと思ったのだけれど、なにかに気がついた安積がその手を掴み取り驚きと不安の入り交じった表情を自分へと向けた。
『よく気づきますね…』
安積がなにを言いたいのかは直ぐに分かった。けれどそれは安積が心配するような事ではない。
「お直し、出したんですよ」
「…お直し?」
「はい。そんな高価な物ではないのでそろそろ“綺麗” にしないとって思ってて。良いタイミングかなぁと」
「…そっか。良かった。そうだよね、メンテナンスしないとだよね」
「えぇ」
ホッとしたような表情を浮かべつつも指輪のはまっていない手を掴むその手は離れることなく、もう片方の手が覆い被さりじんわりと優しい暖かさに包まれる。
「…大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
心配そうに見上げる目に出来る限りの笑みを返し、感謝の意を込め包み込まれていない方の手を安積の手の上に重ねるとそっと両手を離した。
そして墓石に向き直り積もった雪を払うと、“お昼時過ぎちゃいましたね” と誰ともなく呟き線香へと火をつけ供えつける。
「そんなに心配しないでください。今日ここに来たのはなにかあったからではなく、本当にこう…ただ話したいことがあって。色々とたくさん、あったので、うっかり長話になってしまっただけなんです」
「色々?」
「…えぇ。でも後ろ向きな話ではなくて、もっと前向きな感じで。学校でこんな事があったとか、こんな嬉しい事があったとか…昨日の事とか、僕でももう1度ー…」
「もう1度?」
「いえ、なんでもないです。これは、楓との秘密と言うことで」
「…そっか」
もう1度
誰かを大切だと思っても良いと思える様になれた事。
もう1度
誰かを心から好きになれた事。
それは叶える事は出来なかったけれど
間違いだってたくさん起こして
酷いことをしてしまったのにも関わらず
大切な人達が同じように大切にしてくれて
自分達の予定を擲ってまで
こんな所まで駆けつけてくれる。
なにも変わらずに側にいてくれる。
そんな奇跡が、自分を支えてくれている。
だから、もう大丈夫。
彼等が居てくれたから
彼等が居てくれるから
ちゃんと自分の足で歩いていける。
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